海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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儲け話

「めちゃくちゃキツかったけど、どうにか乗り越えられてよかった」

 

 ルナシアは深く溜息をする。

 ここは、ロックスが顔役をしているハチノスとかいう海賊島だ。

 

 あのロックスが小娘を連れて帰ってきたということでちょっとした騒ぎになったが、大した問題ではない。

 しばらく島で自由にしろ、とロックスに言われているので自由にしている。

 ルナシアにとってこの3年は濃密過ぎたが、やっていることは3つだけだった。

 座学と戦闘訓練、ロックスを狙ってくる海賊や賞金稼ぎの相手。

 それだけであるが、ロックスはうまいメシをたらふく食わせてくれたのでそこだけは救いであった。

 

 また、吸血鬼になったからといって成長が止まったわけではなかったのも幸運だった。

 どうやら一定の年齢まで成長したら止まるタイプかもしれないと彼女は予想している。

 見た目から年齢はたぶん10代後半くらいなんじゃないか、と思っているものの正確には分からない。

 

「自由にしろ、自由か……」

 

 ハチノスは幾つかの例外を除いて基本的には何をやってもいいという無法地帯だ。

 殺しも盗みもOKなので、何でもやり放題であったが、商売のしやすい場所でもあるらしく、色んな店がある。

 海賊が気まぐれでやっている店もあるが数は少なく、商人が開いている店の方が多いそうだ。

 取り扱っている商品も様々で、危ない薬から武器まで幅広い。

 この島でやってはいけない例外の一つが商人達には手を出すな、というものであり、どんな海賊もこの島にいる商人からは普通にカネを支払って商品を購入している。

 

「……よし、鍛えよう」

 

 特に思いつかなかったので、これまでの生活ですっかり日課となってしまったことをルナシアはやることにした。

 幸いにも相手には事欠かない。

 なにせここは海賊島、乱暴な連中しかいないのだ。

 

 ルナシアはハチノスの大広場に看板を立てる。

 挑戦者募集、求む強者というシンプルな文言だ。

 

 暇をしている海賊達は早速に集まって、ルナシアをニヤニヤと笑う。

 明らかに侮っていることが分かるので、彼女は挑戦者と受け取った。

 

「かかってこい、相手になってやる」

 

 ルナシアの一言で海賊達は一斉に得物を手に持って、襲いかかる。

 ロックスが連れてきた小娘、ロックスへの憂さ晴らしに使ってやろうと考えて。

 しかし、これが彼らにとって悲劇の幕開けであった。

 

 

 

 

 ロックスがその騒ぎを聞きつけて、面白そうだと見に来たのはルナシアが看板を立ててから1時間後のことだ。

 大広場に到着した彼は予想通りの光景に爆笑してしまう。

 

 数多の倒れ伏した海賊達。

 その中央に佇むのはその身に数多の刃を受けてもなお倒れない、真っ赤に染まったルナシアの姿。

 

「また随分と派手にやったな」

「流石に無傷ってわけにはいかなかったから、要修行というところだと思う」

「確かにな」

 

 ハチノスを根城にするような海賊達が弱いわけがない。

 倒れている海賊達の中にも腕に自信があるヤツは大勢いた。

 しかし、誰もルナシアには敵わなかった。

 

 悪魔の実の能力も然ることながら本人の努力も大きく、ロックスは大満足だ。

 彼にとっては最高の拾い物であり、これからの儲け話に必要なピースは1つ揃ったことを確信する。

 

「2ヶ月後に海賊団の旗揚げをするぞ、副船長(・・・)

 

 ロックスの言葉にルナシアは嬉しくなり、笑顔で答える。

 

「了解、船長(・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして2ヶ月後、ロックスは大広場に海賊達を集めて儲け話を披露する。

 この儲け話、ルナシアも内容までは知らされていない為、大方どっかの財宝でも狙いに行くのだろうと予想していたのだが――

 

「俺は世界の王になる! 俺が王になった暁には欲しいものをついてきた奴にくれてやる! 富も権力も何でもだ!」

 

 世界征服みたいなことを言い出したロックスにルナシアは冷たい視線を向ける。

 しかし、彼女の視線に気づいていないフリをしながら、彼は言葉を続けて海賊達を熱狂させる。

 こういう手腕も見習いたいところであるが、内容がアレである。

 

「色んな意味で大丈夫なの?」

「当たり前だ! 俺には考えがある……!」

 

 ルナシアの問いに自信満々で答えるロックス。

 まあ乗りかかった船だし、と彼女はそれ以上の追及をやめた。

 

 そんなこんなでロックス海賊団は結成されて無事に船出したのだが、ルナシアにとっては見知った顔が集まったことに驚いた。

 

 

 エドワード・ニューゲート、シキ――いずれもロックスと戦ったことがある面々だ。

 そして、勿論ルナシアとも。

 他にも戦ったことはないが、名の知られているシャーロット・リンリンという大物がいる。

 

 正直寝首を掻きにきているような予感がする上、船内で何をやっても自由だとロックスは宣言した為に絶対に何かをやらかすような気がしてならない。

 ロックスの課したルールは船長命令にだけは従え、船を沈めるようなことはするなという2点だけである。

 彼はイヤラシイことに副船長命令に従えとは言っていないのだ。

 

 自分の力で彼ら3人をはじめとした乗り込んできた大勢の自己主張の強い連中に副船長であることを認めさせろと暗に言っているようなものだった。

 

「いや本当にアレだよね、カイドウは唯一の癒やしだと思う」

「俺が言うのもなんだが……この状況でそんなことを言うか?」

 

 見習いとして乗り込んでいるカイドウは現在、ルナシアの心臓を背後からぶち抜いていた。

 こうやって心臓をぶち抜かれるのは今ではすっかり日課となったことである。

 

 カイドウは強くなることへ貪欲で、ロックスが副船長として船員達に紹介したルナシアを初日に襲うという良い根性をしていた。

 それ以来、彼は見習いとして仕事をしつつもほとんど毎日ルナシアへちょっかいを掛けている。

 

「いやだって、この船で唯一私よりも年下だし、他の連中みたいにギャーギャー言わないし……」

「そりゃまあそうだけどよ……」

 

 カイドウはルナシアの身体から手を引っこ抜きながら、そう答える。

 彼は改めて思う。

 

 こいつ、ある意味で船長よりもやべぇと。

 

 カイドウはこれまで色々と試してみて、ルナシアがどうやっても殺せそうにないと判断している。

 武装色の覇気を纏って攻撃すれば傷を負わせることができるのだが、致命傷が致命傷にならない。

 普通の人間なら100回は死んでいる傷を負っているのにその傷はあっという間に再生してしまう。

 心臓を潰そうが頭を粉砕しようが、それらも含めて元に戻る。

 打つ手がなかった。

 

「そろそろカイドウ以外も仕掛けてきそうだから、先手を打とうかな。船長からは船長命令以外は自由にしろとしか言われてないし……」

「俺は酒飲んで寝る」

「参加しないの?」

「今日、やるわけじゃねぇだろ」

 

 そう言って彼が部屋から出ていくのを見送り、ルナシアはあることを思いついた。

 

 どうせなら夜に戦ってやるか――

 

 吸血鬼である為、昼間よりも夜の方が全体的に能力がパワーアップする。

 しかしルナシアはハチノスに到着してから、夜に戦ったことはなかった。

 

「明日には島につくから、そこで戦おう」

 

 ルナシアのやる気は十分であった。

 

 

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