海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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色々な反応と世界で一番胃に穴が空きそうな人

 世界経済新聞による大スクープは世界各地に大きな波紋を呼んだ。

 当時のことを覚えている市民達は恐怖し、その脅威を知らぬ者達へ伝える一方、海賊のルーキー達はそのメンバーに目が飛び出す程に驚いた。

 

 ルナシアを船長とし、そのメンバーは白ひげ・"ビッグ・マム"・カイドウという実力者達が名を揃え、そしておそらくは金獅子もメンバーに加わる。

 これに驚かない者は皆無に等しかった。

 

 何よりもたった5人で懸賞金総額が100億を軽く超え、200億に迫るという事実に戦慄すると共に興奮した。

 

 この5人がいったいどんなことをやらかすのだろうか、世界政府と海軍を倒すときがきたのだろうか、色々な憶測が飛び交う。

 

 そして、この新聞を読んで昔のことを思い出して苦笑いしてしまう男がいた。

 

 

 

 

「……あの頃は私も若かった」

 

 レイリーは新聞を読みながら、そう呟いてしまう。

 ここまでとんでもない存在になるとは予想もつかなかった。

 

「最後に勝つのは私だ、か……」

 

 ルナシアが昔に言った言葉だが、それはあながち間違いではないかもしれない。

 

「しかし、大物感が欲しいとは昔に思ったが……今じゃ充分過ぎる程にあるな」

 

 記事からはルナシアが白ひげ達を従えて、船長として君臨しているようにしか読み取れない。

 

 様々な事業から彼女は民衆の味方みたいに世間からは思われているが、実際にはどんな海賊よりも恐ろしかったというオチだった。

 しかし、それは彼女にとってプラスに働くとレイリーは思う。

 

 白ひげ達ですらもルナシアには従っているということは、彼女の傘下に入れば海賊の恐怖に怯えずに済むという明確なメッセージになる。

 

 また治安維持をしてくれるだけの海軍とは違って、ルナシアの場合は経済的な発展という大きなおまけがついてくる。

 

 うまくやっているものだとレイリーは感心してしまう。

 

「うちの元見習い達は……どう思っているかな?」

 

 どこかの海にいるだろうシャンクスとバギーに彼は思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ロックス海賊団か……」

 

 シャンクスは新聞を読んで、その名を口に出した。

 彼はロジャーやレイリーから度々その海賊団や、一時期船に乗っていたらしいルナシアのことも聞かされていた。

 これらは彼やバギーがロジャー海賊団の見習いになる前の話だ。

 

 ルナシアは強くなりに来たらしいが、ちょろちょろ船から抜け出していた。

 腕っ節の強さが大事だからと試す為に白ひげと戦わせたら、隠蔽していた能力を披露して白ひげを追い詰めた。

 その後、三度のメシとおやつ、風呂と睡眠以外は常に戦いっぱなしでおよそ1年その生活を続けて覇気や立ち回りなどを鍛えた後に船を降りた――

 

 色んな意味でムチャクチャである。

 

 

「会ってみてぇな……」

 

 純粋な興味からシャンクスはそう思う。

 今はまだ届かない領域だが、いつか必ずと彼は決意した。

 

 

 

 

「ロックス海賊団か……!」

 

 一方、シャンクスと同じロジャー海賊団の見習いであったバギーは恐れ慄いていた。

 

 ルナシアが白ひげ達を従えて、1つの船で活動をする――?

 

「もしも出会っちまったら……虫みたいに殺される!」

 

 数十億ベリーの賞金首、それこそ1人でも世界をどうこうできそうな連中が徒党を組むのである。

 世界政府と海軍を相手に戦争を仕掛ける可能性が高く、標的としてルナシアが宣言した島々に住む者達は誰であろうと生きた心地がしないだろう。

 

「……ん? もしかして慌てて逃げ出す連中を襲えば一儲けできる……?」

 

 いやいや待てよ、とバギーは考える。

 同じことを考えるのは他の奴らも同じで獲物の取り合いが起きる上、もしもロックス海賊団と鉢合わせしてしまったら最悪だ。

 

「予定通り、東の海に行くぞ……もしも途中でロックスと出会ったら土下座するしかない」

 

 万が一ロックス海賊団と出会ってしまっても、頭を下げてルナシア様の傘下にしてくださいと言えば入れてくれる可能性はある。

 ルナシアが海賊達を傘下に引き入れているのは有名であり、彼女の傘下に入った海賊に約束されているのは豊かな暮らしと収入だ。

 特に幹部ともなるとそこらの貴族よりもいい暮らしができるという。

 

 当然ながら彼女の命令や方針に拘束されるものの、それを補ってあまりあるほどに魅力的で――

 

「あれ、ルナシアの傘下になればいいんじゃね……? いやいや、俺は世界の財宝を独り占めしたい……!」

 

 でもルナシアのところにいると、そういう情報も簡単に手に入りそう――

 

 バギーの脳裏にはそんな思いが過ぎるが、命の危険があるからダメだと思い直そうとして失敗した。

 ルナシアの傘下にある海賊を襲うことは彼女に喧嘩を売ることに繋がっている。

 

 そんな馬鹿はどこにいるか?

 いや、いない――!

 

「……鍛えて仲間を集めて、東の海でほどほどに稼いだところで傘下に入ろう」

 

 そっちの方が心象は良いだろう、とバギーは確信した。

 

 

 

 

 

 

「ルナシアのヤツ……どうして俺を誘わねぇんだ!?」

 

 ワノ国は九里にて、おでんは叫んだ。

 ロジャー達とともに世界の果てを見たおでんは九里で大名としての務めをスキヤキや康イエがびっくりするくらい立派に果たしていた。

 しかし、ルナシアの交易船から届けられた世界経済新聞を読んで、血が騒いでしまった。

 

「笑い事じゃないぞ、トキ! この祭り、俺も参加を……」

「近々、産まれる子をその腕で抱いて欲しいと思って」

 

 おでんは目が飛び出る程に驚き、わなわなと震えながら問いかける。

 

「3人目が……?」

「ええ。驚いた?」

 

 おでんは感無量とばかりに雄叫びを上げ、その叫びは九里中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 世界のあちこちで様々な反応がある中、マリンフォードのとある執務室ではセンゴク大将がやつれて死にそうな顔をしていた。

 彼はコング元帥から今回の一件への対処を一任されていた為だ。

 

「元帥め、全部こっちに押し付けおって……」

 

 早速昔と同じように同期の連中を集めて、対策チームを立ち上げたまでは良かったのだが――ルナシアのやり方が頭を悩ませた。

 

「ぶわっはっは! あの時の子供が、まさかここまで成長するとはな!」

「ガープ! 笑い事じゃないぞ!」

 

 ソファに座って煎餅を食べているガープをセンゴクは怒鳴りつけた。

 

「明確に牙を剥いてきた以上、やるしかない!」

「そうじゃな。やるしかない……だが、全てを守るだけの戦力は無い! いっそのこと全戦力を集めてマリンフォードでドンと構えている方がいいじゃろう」

「お前の言いたいことは分かる……しかし、これは海軍の面子にも関わることだ。攻撃目標を事前に教えられているのに警備を強化しないなんぞ……」

「大将は考えることが多くて大変じゃなぁ」

「お前が昇進を断り続けているから、私が余計に苦労しているんだ!」

「それもそうじゃったな!」

 

 笑うガープにセンゴクは怒りに震える。

 そんな彼にガープは真面目な顔で尋ねる。

 

「で……実際どうだ? どのくらい集められる?」

「ゴッドバレーの時よりは下回るな。あちこちで海賊共が暴れまわっている……それにルナシア達はあくまで個人参加と新聞にはあったが、傘下の連中が動き出す可能性は高い」

「頭の回る敵というのは恐ろしいものだな。おそらく、これは狙って作り出した状況だぞ?」

 

 ガープの問いにセンゴクは頷く。

 

「30を超える敵の攻撃目標はどれもこれも実際に襲われたら、大きく影響が出るところばかりだ」

「そうじゃろうな。ところでインペルダウンはどうなっている(・・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 分かっていながら尋ねてくるガープにセンゴクは渋い顔をして答える。 

 

「死体の処理や清掃・消毒は既に終わって、新しい職員達が業務に就いている……あれは誰がやったと思う?」

「さぁな。映像電伝虫の記録によると内部にも霧があったのは間違いない。あそこにいた者達は突如として全身から血が吹き出し干からびて死亡……まるで吸血鬼に襲われたみたいじゃな」

「霧が吸血をしたとでも? そんな馬鹿なことはないだろう」

 

 センゴクの問いにガープは肩を竦める。

 

「分からん。だが、何となくそういう感じがする。霧が吸血をしたというのはともかくとして、伝承とか伝説だと吸血鬼が霧に変化するのはよくあることだろう」

「ここにきて空想上の生物か?」

「あいにくと、そういう空想上の生物になれるものがこの世には存在しているじゃろう。というか、お前もそうじゃないか」

 

 ガープの言葉にセンゴクはピンときた。

 しかし、と彼は反論する。

 

「ルナシアが食べた悪魔の実は動物(ゾオン)系幻獣種、バットバットの実でモデルはバンパイアだ。だが、異常な再生能力しか彼女には存在しない」

「わしもそれは昔から聞いている。じゃが、その情報はどこから出てきたものだ(・・・・・・・・・・・)?」

 

 そこでセンゴクはハッと気が付き、ガープの顔を見る。

 

「……ロックスの船から逃げ出した者からだ」

「そして、当時のロックス海賊団は仲間殺しが日常茶飯事。誰も彼もが敵である中、能力の全貌を大っぴらにするヤツがどこにいる?」

「だが、それならば何故ゴッドバレーの時に使わなかった?」

「そんなの知らん。だが、その時に使わなかったというのは事実で、それ以後も彼女は再生能力だけしか使っていなかった。もしかしたらどっかで使っていたかもしれんが、海軍の記録にはなかった」

 

 ガープの言葉を引き継ぐようにセンゴクが告げる。

 

「だから、誰もが騙された(・・・・・・・)

「そういうことじゃ。己の力を誇示し、それによって名を挙げるのが当時も今も一般的な海賊だ。ルナシアはそこをうまく突いたんじゃろうな。白ひげも金獅子もビッグ・マムもカイドウも、どこまでできるかはともかく、どんな能力かは知られていた」

「確かにな。奴らは戦場で自らの能力を振るうことに躊躇がなかった。奴らとは戦うごとに色んなものを見せられたが……ルナシアは再生能力だけしかなかった」

 

 そう言ってセンゴクは深く溜息を吐く。

 そんな彼にガープは問いかける。

 

「で、どうする? ルナシアの懸賞金、今まで白ひげ達のように暴れていなかったから、この面子の中では一番低いが……もう上げた方がいいじゃろう」

「お前はどのくらいが適切だと思う?」

「最低でも50億。やらかすことによってはロジャー超えもありうる」

「そこまでか?」

「白ひげ達がルナシアの下にならついてもいい、と思わなければ今回の騒ぎにはならん。そういうことだ」

 

 ガープの言葉にセンゴクは眉間の皺を解しながら問いかける。

 

「懸賞金については政府と協議する。ちなみにだが、お前の考える最悪は?」

「マリンフォードがぶっ壊されることじゃな。どいつもこいつも、昔よりも遥かに強くなったからなぁ……あ、どうせならマリージョアを襲撃してゴミ掃除をしてくれると……」

「ガープ!」

「ぶわっはっは! つい本音が出てしまった!」

 

 笑うガープにセンゴクは何度目になるか分からない溜息を吐く。

 そんな彼にガープは提案する。

 

「中将を数名、各地に警備という形で派遣すれば面目が立つじゃろう。それがギリギリのラインだ」

 

 ガープの言いたいことは分かった。

 センゴクとしてもその意味を察する。

 

 ルナシアが挙げた攻撃目標を実際に襲うかどうかは分からない。

 もしかしたら全く別の場所を襲撃される可能性もあり、自由に動かせる戦力は多い方がいい。

 中将達を攻撃目標とされた島々に警備の為に送り込むことで、もしもロックス海賊団に襲われたとしても増援を要請する時間くらいは稼げる筈だ。

 増援には先陣として最低でもバスターコールと同等の戦力を送り込み、彼らが時間を稼いでいるうちに、集められるだけ集めた戦力を本隊としてぶつける。

 本隊には大将全員の参加やガープを筆頭に大将クラスの中将達全員の参加は必須だろう。

 だが、それだけやっても今のロックス海賊団を倒せるかは予想ができない。

 そしてこちらが受けるだろう被害は想像したくない。

 

「ロックスへの対処が終わらない限り、現場には凄まじい負担を掛けることになるな。ロックス以外の海賊で本部に増援を要請されても出せないぞ……」

「わしが行って速攻で潰してくる。優先的に回してくれ」

「すまん、頼む」

「おう、任せろ」

 

 センゴクの言葉にガープは不敵な笑みを浮かべて答えるのだった。


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