海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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短め。


海軍の立て直し

 ロックス海賊団によるマリージョア襲撃及び数々の悪行はモルガンズによって瞬く間に全世界が知ることとなった。

 新聞記事を読んだ者はその悪行を恐れるよりも先に――喜びがあった。

 

 天竜人の悪行を知らぬ者はいない。

 それこそ子供だって知っている。

 

 海軍の後ろ盾さえなければ、恨みつらみの数々をぶつけたいという者は世界の至るところにいる。

 そんな自分達に代わって、ロックス海賊団はマリージョアを襲い、多数の天竜人を殺害してのけた。

 それから海軍を壊滅に追い込んだことや、インペルダウンやエニエス・ロビーの襲撃は力なき者達にとっては一概に良いとは言えないものだ。

 しかし、そんなものが吹き飛ぶくらいに天竜人達が死んだという事実に対する喜びの方が大きかった。

 

 世界政府はこの事件を受けた為か、天上金を廃止する旨を迅速に決定・公表していた。

 民衆から不満が出るはずもなく、むしろ世界政府に対する支持が強くなった。

 

 一方で海軍による治安維持活動費の調達の為に新たに税金が課されたが、天上金よりも遥かに安く、また常識的な額であった為に誰も文句は言わなかった。

 

 そして、今回もっとも被害を被った海軍はコング元帥が責任を取る形で辞職し、代わりにセンゴクがその後任に就いた。

 しかし、誰がどう見ても貧乏クジを引かされたことが丸分かりだった。

 充分な治療が施され、完全に回復したセンゴクであったが、病院のベッドが早くも恋しくなっていた。

 

 

 

 

「センゴク、おかきを持ってきた」

「ああ、ガープ……すまんな」

 

 差し入れを持ってきたガープにセンゴクは感謝する。

 彼の執務机の上には所狭しと書類が積まれており、どんどん追加で運ばれてくる為に一向に減る気配がない。

 元帥に就いてから、変わらぬ光景だった。

 

 センゴクの視線は書類に釘付けだ。

 幸いであったのは、五老星から予算に関しては心配するなというお墨付きを貰っていること。

 また人事権などもセンゴクに一任され、好きなようにしろと言われていた。

 

 その為にセンゴクはまずゼファーを大将から外し、新たに練兵総監という役職を創設した上で、兵の教育・訓練に関することは全て丸投げした。

 ゼファーも快く承諾し、早くも兵達の育成に奔走している。

 大将にはセンゴク・ゼファーの2人に加え、もう1人いたのだが――彼もまた重傷を負ってしまっている。

 とてもではないが戦力に数えられる状態ではない為、彼もまた大将から外し、回復後にはゼファーと同じく何かしらの役職を創設し、そこに就いてもらうことになる。

 そして空席となった大将にはゼファーの教え子であり、中将達の中では抜きん出た力があるクザン・ボルサリーノ・サカズキが就く。

 

 センゴクは元に戻すよりも、これを機会に海軍の大きな改革を実施することを決断し、五老星もまたそれを承認していた。

 

 

 

 ソファに座ったガープが煎餅を食べる音がセンゴクの執務室に響き渡る。

 

「……わしは人でなしかもしれん」

「急に何を言い出すんだ?」

 

 ぽつりと呟いたガープにセンゴクは思わず書類とのにらめっこをやめ、その視線をガープに向ける。

 

「あの時の戦いで多くの部下が傷つき、あるいは亡くなった……だがな、わしはマリージョアのゴミ共を掃除してくれたことの方が嬉しかった……!」

「……あの時、マリージョアにいなかった天竜人も少数ながらいるからな」

「だがもう世界は変わった。あいつらは誰も手を出せなかったところに手を出して、強引に世界を変えたんじゃ。あんな性根の腐った連中が多少生き残った程度では流れを元に戻すことはできん……!」

 

 ガープの言葉にセンゴクは思わず頷いてしまいそうになるが、ぐっと堪えた。

 そこへガープは更に畳み掛ける。

 

「センゴク、胸を張って堂々と正義を名乗れるんじゃぞ……! 悪を倒し、弱きを助ける……わしらが本当に望んでいた正義を……!」

 

 その言葉を受け、センゴクは体を震わせる。

 色んな思いが今、彼には込み上げてきていた。

 

 今日に至るまで海賊と戦うだけではなく、他にも色々とあった。

 だが、その中でも基本的に胸糞が悪い出来事には天竜人が関わっていた。

 それはガープやゼファー、つるは勿論、他の将官や佐官達とて同じこと。

 

「それにな、センゴク。今、海軍はどうじゃ? 面子は丸潰れ、戦力はガタガタ、敵は笑えるほどに強大……普通なら退職届が人事に殺到しておるじゃろう。人事から泣き言は上がっているか?」

 

 ガープの問いかけにセンゴクは気がついた。

 そういう話は何も聞いていない。

 彼が気づいたことを察してガープは不敵に笑う。

 

「それが答えだ。今回の戦いで多くの仲間が傷つき、また死んだ。それは事実……じゃが、ゴミ共が消えたのもまた事実だろう? ゼファーなんぞルナシアとの戦いを楽しんでいたとクザン達から聞いている」

「……それに加え、彼女からの請求書が届いたときはお前は大爆笑し、ゼファーは料金を支払おうとしていたな?」

「まったくあの悪ガキは海軍を舐め腐っとる……拳骨100発くらいは食らわさにゃ気が済まん!」

 

 ガープはそう言って大きく頷いてみせ、更に言葉を紡ぐ。

 

「ゴミ掃除によって兵達の士気はかつてない程に高まっている……失ったものは多く、悲しみが大きいにも拘らずに……!」

 

 ガープは煎餅を傍らに置いて立ち上がった。

 そして、羽織っていた正義の文字が書かれた白いコートを脱ぎ、その正義の文字を見せつつセンゴクに告げる。

 

「センゴク、正義を背負い直すぞ!」

 

 そう言ってガープはコートを羽織った。

 それを受け、センゴクもまた不敵に笑う。

 

 彼もまた壁に掛けてあった自らのコートを取り、正義の文字をガープに見せつつ告げる。

 

「安心しろ、ガープ。人でなしなのはお前だけじゃない……」

 

 センゴクの言葉にガープは笑みを浮かべる。

 

「多くの海兵が傷つき、また死んだにも拘らず……俺だって嬉しかった……! あいつらが消えた喜びは、それほどまでに大きかったんだ……!」

 

 そう言って彼もまたコートを羽織った。

 そこでセンゴクは苦笑する。

 

「前よりもコートが重い気がするぞ」

「正義は前よりもずっと重くなったからな。わしだって重くてかなわんが、これを捨てることだけはない」

「違いない……おい、ガープ。少し身体を動かすから付き合え。ゼファーも巻き込んで模擬戦をしよう」

「お、それはいいな。お前もわしもヤツも病み上がりで少し鈍っているから、ちょうどいい」

 

 

 そして2人は正義の文字が書かれたコートを揺らしながら、部屋から出ていった。

 

 

 ロックス海賊団に敗北した海軍は多くを失った。

 だが、天竜人という重石が無くなったことで、海軍は真に正義の組織となったと世界の人々が認識した。

 ロジャーの言葉や今回のロックス海賊団がやらかしたことに憧れて海賊になる者は確かに増えたが、それ以上に今回の一件で海兵を志す者が大きく増加したことを海軍はまだ知らない。

 

 

 


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