海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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先手を打った結果

 ロックス海賊団は予定通りに翌朝には島に到着していた。

 島では物資補給という名の略奪を行う予定であり、停泊期間は1日だけだが、略奪後にやればちょうどいいとルナシアは考えた。

 そして彼女は上陸前でありウズウズしている船員達の前でこれみよがしに看板を作ってそれを甲板に立てた。

 

 殺されたい奴は今夜かかってこいbyルナシア――というシンプルな文言に多くの船員達は大いに湧いた。

 しかし、それを冷めた目で見ている者や嘲笑している者も多くいた。

 

 

「馬鹿共が……」

 

 ニューゲートはルナシアを殺して副船長の座を奪おうと湧く連中を見て呟いた。

 それに同意するかのようにシキは笑う。

 

「ジハハハ! おもしれぇと俺は思うぜ」

 

 彼とニューゲート、どちらもこの海賊団結成前にルナシアと戦ったことが幾度もある。

 何をしようが死なない相手に2人共匙を投げるしかなく、最終的にロックスが割って入り、酒盛りになるというのがパターンであった。

 

 一方でルナシアと戦ったことはないが、戦うと危険と判断した者もいる。

 その筆頭はシャーロット・リンリンだ。

 彼女はこれまでに集めた情報で、ルナシアが殺しても死なないという能力者であることを察知していた。

 

「敵にするよりも味方にしたほうが得に決まっている」

 

 リンリンは遠目に騒ぎを見ながら、自分にじゃれつく子供達へと視線を向ける。

 どういうのがルナシアの好みであるか、聞き出す必要があった。

 

 またリンリンのような情報を得ていなかったとしても、あのロックスが副船長に据えているということから何かあると考えた者も多かった。

 そのように考えた者の中にバッキンと名乗る金髪でスタイルが良い女性がいた。

 

 彼女は物凄く悩んでいる。

 ニューゲートやシキといった名の知れた輩を籠絡するか、あるいはルナシアを取るかという2択で。

 前者は言うまでもなく子供目当てであり、後者は未知の可能性だ。

 あのロックスが副船長に据えている少女が只者であるわけがない。

 そして、どちらも選択するというのは悪手だとバッキンは考えている。

 蝙蝠みたいにあっちこっちを行ったり来たりする優柔不断な奴は海賊においては好かれないし、信用もされない。

 

「とりあえず、今夜の結果を見てからにしよう」

 

 メリットとデメリットを考えながらバッキンはそう呟いた。

 

 

 

 島での略奪を行い、いよいよ運命の夜が訪れた。

 ルナシアは島の開けた場所で挑戦者達と対峙する。

 30人くらいが集まっており、各々が武器を持って殺る気満々といった様子だ。

 観戦者達の方が挑戦者よりもやや多く、その中にはロックスも混じっている。

 観戦者の中にはリンリンの子供達もいたが、それを咎める者は誰もいない。

 

「さて、始めましょう。かかってこい、相手になってやる」

 

 にこやかな笑みを浮かべて、ルナシアが告げるとすぐさま彼女はその身を無数の剣でもって貫かれた。

 文字通りの串刺しに攻撃した者達は勝利を確信し、観戦者達は盛り上がる。

 だが、ここからがルナシアの本領発揮であった。

 

 別に避けれなかったわけではないが、避けない方がビビらせることができる。

 訳の分からないモノであった方が恐怖を煽り、動きが鈍るので当たっても問題なさそうな攻撃はとりあえず受けてみるというのがルナシアの戦闘スタイルだ。

 

「あー痛いわね」

 

 呑気にそう言ってみせるルナシアに挑戦者達はカイドウを除いてぎょっとした。

 また観戦者達でも戦ったことがない者は例外なく驚愕する。

 しかし、ここで手を緩めるような挑戦者達ではない。

 彼らはルナシアに苛烈な攻撃を加える。

 切り刻んだり殴りつけたり、銃弾や砲弾を撃ち込んだり――しかし、それらの攻撃を受けても瞬く間に彼女は再生する。

 

 恐怖に駆られて攻撃をし続けるが、ここからルナシアは反撃に転じる。

 とはいえ、観戦者達も多いことから固有の能力を使うことはせず、物理的に殴ったり蹴ったりするだけだ。

 

 ルナシアが攻撃に転じて僅か10分程で挑戦者達はカイドウも含めて誰も動かなくなってしまった。

 頑丈なカイドウはともかくとして、他の連中は瀕死であった。

 

 ニューゲートやシキといった面々にとってはルナシアの動きが前に戦ったときよりも良くなっていることが確認できた程度で大した収穫はない。

 むしろ、不死身性以外のモノを見れなかったことに落胆した程だ。

 それだけでも脅威ではあるのだが、それ以外の吸血鬼ができるとされていることもできる可能性があった。

 

 だが、戦ったことがない者達にとっては不死身性を間近で見ただけでも天地がひっくり返る程の衝撃だ。

 リンリンのように事前に情報を得ていたとしても、やはり驚きしかない。

 

「本当に規格外の化け物だ」

 

 リンリンはそう言いながら、子供達を見る。

 誰かしらをルナシアのところへ送り込むつもりである為、彼女を怖がるような反応をした者は除外するつもりだ。

 

「……情けない」

 

 息子達は全滅だ。

 怖がったり、涙目であったりと散々な状況だ。

 泣き叫んでいないのだけが救いといえば救いだが、子供の頃の恐怖というのは大人になっても残るらしいので期待はできない。

 一方で娘達は半分くらいが残っており、ルナシアをじっと見つめ続けているアマンドは期待できる。

 重要なのはルナシアと友好関係を築くこと、こっちに手出しされないことの2点であるならば何でもいい。

 ルナシアが同性でも愛するというのなら結婚させればいいし、そうでないなら人身御供とすればいいだけだ。

 

 だが、送り込む人数が悩ましいところであり、1人で足りるかどうかリンリンは不安に思う。

 信用を得る為には最低でも数人は送り込み、こちらの誠意を見せる必要があるかもしれない、と彼女は考えていた。

 

 一方でバッキンは早々に決心した。

 彼女は海賊らしく、ニューゲートを籠絡するという堅実な方法よりも、未知の可能性であるルナシアを選んだ。

 

 

 バッキンとリンリン、互いに思惑は異なれどルナシアと友好関係を構築したいという点では一致している。

 2人は早速行動に出たが、先手を取ったのはリンリンであった。

 ルナシアが船へと戻り、後を追ったリンリンは周囲に誰もいないことを確認した上で声を掛けた。

 

 

 

「副船長、ちょっといいかい?」

「別に構わないけど……」

 

 ルナシアの返事にリンリンは笑みを浮かべながら、言葉を紡ぐ。

 

「実は提案があるんだけどさ……うちの子達があんたに興味があるみたいでね」

「私に子守をしろと?」

「そんなことは頼まないよ。ただほら、どうだい? 将来的にうちの子供と結婚とか……」

 

 リンリンの問いにルナシアは狙いが分かった。

 

 あっ、これロックスの授業でやったところだ!

 

 政略結婚を狙ってくる奴なんぞ大量にいる――

 利益も不利益もどっちもあるが、まあ好きにしろ――

 

 基本的に色々と教えてくれていたロックスは最終的な結論として「好きにしろ」だとか「自由にしろ」と言って締める。

 要するにどんなことをしてもいいが自分のケツは自分で拭け、というのが彼の言いたいことらしいとルナシアは察していた。

 

 とはいえ、彼女には問題があった。

 女であるという自覚はあるものの、それでも男と結婚して子供を作るというのは嫌悪感がある。

 

「申し訳ないけど、私は男とそういう関係になるのは生理的に無理で……」

「ああ、それならちょうどいい。一番お前のことが気になっているのは三女のアマンドだから」

 

 あっさりとリンリンは答えた。

 そう言われるとルナシアとしても答えに困るが、海賊らしく欲望を出してみることにした。

 

「1人じゃ満足できないので……」

「構わないよ。ただ条件として、あんたのことを怖がらない子に限定してくれ」

「そっちは何を求めるの?」

「あんたとの関係さ。友好的にやりたいんだよ、おれは」

 

 リンリンとしては殺しても死なない奴――海楼石で封じれば殺せるかもしれないが、悪魔の実の能力を抜きにしても実力は相当であると予想している。

 あのロックスが育てたのだから、油断などできるわけがない。

 

「私としても友好的にやりたいから、それで構わない」

「成立だね。早速アマンドを送り込むから。可愛がってくれ」

「いや、いいの? いくら何でも……」

「別に構いやしないだろ。お前が変態だってことは秘密にしといてやる……何なら、娘が大人になるまではおれがそっちの相手もしてやるよ」

 

 豪快に笑いながら、リンリンは手を振って去っていった。

 何だか予想外のことになったが、ルナシアはアマンドと言われて顔を思い出そうとして――

 

「分からない……やべぇ」

 

 唯一、首が長かったような気がする――という程度しかルナシアはアマンドのことを思い出せなかった。

 

 

 

 

「シャーロット・アマンド……です」

 

 そう言って頭を下げるアマンドにルナシアは思わずガッツポーズしそうになったが、我慢した。

 光源氏計画ができるなんて、とルナシアは思いつつ、アマンドに微笑みながら声を掛ける。

 

「私のことをどう思うの?」

「かっこよくて、綺麗だと思います」

「どんなところが?」

 

 更に問いかけるとアマンドはその白い頬を赤く染める。

 

「返り血に染まりながら、敵を恐怖させて殺していくのが……」

 

 この子、リンリンの娘なだけあって、やべーやつだ――

 

 若干引くルナシア、しかしアマンドはスススと音もなく近寄ってきて、そのまま腕にしがみついた。

 

 助けてロックス――!

 

 ルナシアは心で思ったが、脳裏に浮かんできたロックスがゲラゲラ笑って告げる。

 

 

 自由にしろ――!

 

 

 ルナシアは心の中で叫んだ。

 

 そうだよな、お前はそういうヤツだよな――!

 

 たとえロックスがこの場にやってきても、同じことを言うに違いがなかった。

 ルナシアは覚悟を決める。

 彼女はアマンドの頭へと手を伸ばし、その青い髪を優しく撫でる。

 

「アマンド、今日から私の傍にいなさい」

「はい……!」

 

 いくとこまでいってやるよコンチクショウ――そんなヤケクソ気味なルナシアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、朝食を食べる為に食堂へルナシアが出向くと早速シキが突っかかってきた。

 

「ロリコン副船長様のお出ましだ」

「シキ100万回ぶっ殺すぞ」

「ジハハハ! やれるもんならやってみやがれ!」

 

 シキはからかいながらも気がついた。

 

「ガキはどうしたんだ?」

「まだ寝てる」

 

 ルナシアの返事にシキはドン引きした。

 

「お前……さすがにそれはマズイんじゃねぇか?」

「何を勘違いしたか知らないけれど、好きなものとか嫌いなものとか、そういうことを話していただけよ。エロいことを想像するあなたの頭が変じゃないの?」

「何だとこのクソアマ!」

「文句あるのかクソ野郎!」

 

 シキは刀を抜き、ルナシアはファイティングポーズを取ったところでニューゲートが口を挟む。

 

「お前ら、メシを食うならさっさと食え」

 

 彼の言うことももっともである為、ルナシアは空いている席を探すが――ニューゲートとシキが座っているテーブルしか空いていない。

 というか、彼らの周囲には他の船員達が近づいていない。

 

 ニューゲートとシキが互いに拮抗、僅差でリンリン、将来の見どころ大いにアリのカイドウ――それがルナシアの認識だ。

 彼ら以外にもジョンや王直、銀斧など凄いのはいるが、その中でもこの4人は別格だと彼女は思う。

 しかし、単体でヤバいのはカイドウだろう。

 昨夜の戦いに彼も参加したのだが、頑丈さはピカイチであり、あちこち傷を負っていたが命に別状はなかった。

 

 リンリンの姿は見えないが、彼女はいつも遅くに起きてくるので不思議ではない。

 

 ルナシアはシキとニューゲートのテーブルに座り、ウェイターに注文をする。

 ロックスの良いところはメシの重要性が分かっていることであり、食堂には彼が雇ったコック達とウェイター達が24時間いつでも食事を提供できる体制を整えていることだ。

 

 簡単に言えば色んな料理を作ってくれる上、味も良いのである。

 ロックスからは船長命令としてコック達とウェイター達には手を出すな、丁重に扱えと言い聞かされている。

 

「ところでルナシア。お前はいつも拳だが、武器は使わないのか?」

「もしもお前が刀を扱うっていうなら、この俺が教えてやるよ。ついうっかり切り刻んでしまうかもしれないがな」

 

 ニューゲートとシキに言われて、ルナシアは思う。

 

「刀ってカッコいいので使ってみたい」

「ジハハハ、決まりだな」

 

 ニューゲートは肩を竦めてみせながら口を開く。

 

「そういえばお前、海軍との戦闘では変な船長命令が出るが……あれは何でなんだ?」

 

 彼からすると不思議な話で、追ってきた海軍の軍艦に将官クラス――たとえそれが准将であっても――いるとロックスはルナシアに待機を命令する。

 ルナシアの顔が割れていないかというとそうでもなく、大佐以下の海兵達が相手では特にそういう命令が出ることはなく、殺しに行けと言われる場合もあった。

 彼女の実力が不足しているというわけではない。

 佐官クラスならば、ルナシアは複数人と戦っても圧倒できる為に。

 

「たぶんだけど、戦闘が長引いて不死身であることがバレて対策をされたくないんじゃない? あと海軍の人材枯渇を狙っていると思う」

 

 ルナシアの言葉に納得したかのように2人は頷く。

 そうこうしているうちに彼女が注文した朝食が運ばれてくる。

 朝も昼も夜もがっつり食べるので、でっかい骨付き肉だ。

 

 この世界にきてもっとも感動したことは漫画みたいな骨付き肉が存在したこと。

 それに齧り付いて、満面の笑みを見せる彼女にニューゲートとシキは互いに視線を交わす。

 

 こういうところはとてもではないが、高額な賞金首には見えなかった。

 

 

 

 

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