※内容を大きく変更する為、3月29日分と3月30日分の更新を削除しました。
ご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。
「クイーン、待たせて悪いわね。ちょっと色々とあって」
「いや、構わねぇよ。ルナシアさんにはいつもお世話になっているからな……頭を上げてくれ」
遅れたことに対し、頭を下げるルナシアにクイーンは立ち上がって慌ててそう告げる。
彼の言葉を受けて彼女は頭を上げ、彼の対面にあるソファに座った。
「で、今回は何が欲しいのかしら? これまでの取引で知っていると思うけど、何でも売るわよ? ウチで作っているものならば」
足を組んでそう問いかけるルナシアにクイーンは笑みを深める。
ルナシアの勢力圏や傘下に手を出さないという契約を遵守し、提示された料金を支払うならば彼女は本当に何でも売ってくれる。
戦いに必要な武器や物資は勿論のこと、日常生活に必要な消耗品から食料品、衣料品など色んなものをクイーンはこれまで購入してきた。
しかし、今回は購入ではなく買取だ。
「買取をして欲しい」
「珍しいわね。カイドウが壊したりしなかったの?」
売れそうなものも全部纏めてぶっ壊してしまう、それがカイドウスタイルだ。
酔っ払っていると特に酷いことになる。
クイーンもルナシアの言葉に思わず頷きそうになったが、我慢した。
シラフならまだしもカイドウさんは酔っ払うと見境なく破壊するからなぁ――
そんなことをクイーンは思いつつ、口を開く。
「その場にカイドウさんはいなかったからな……で、買い取って欲しいのは悪魔の実だ」
その単語にルナシアの表情が僅かに変わったのを彼は見た。
最低価格はおよそ1億ベリーだが、実によっては値段は更に吊り上がる。
そして、持ってきた実は値段が上がる可能性が高いとクイーンは予想していた。
彼は期待しながら、どういう実であるかを告げる。
「図鑑によると、ヤミヤミの実というらしい」
「悪魔の実でもっとも凶悪な力を秘めているっていうヤツ? 私の食べた実の方が凶悪じゃないの?」
「ルナシアさんのは凶悪というか……単純にズルいと思う」
クイーン様がルナシアさんにツッコミを入れた――!
すげぇ――!
クイーンの部下達は内心でそう思うが、さすがにこの場面で口には出さない。
「で、クイーン。いくら欲しい?」
「いくらまで出せる?」
ルナシアの問いにクイーンは問い返した。
2人共、図鑑を読んでいることから話が早かった。
ヤミヤミの実による能力には悪魔の力を引き込むという特性がある。
能力者の実体を正確に引き寄せ、触れている相手の能力を封じ込めてしまう。
それはたとえルナシアであっても例外ではないだろう。
クイーンは両手を組み、真剣な顔で告げる。
「余計なお世話かもしれんが、あんたに死んでもらっちゃ困る……それに、これを手に入れる時は白ひげのところと競争みたいな形になったんだぜ?」
少しでも値段を高くしようとクイーンは手に入れるまでの苦労を明かす。
その言葉に軽く頷きつつ、ルナシアは問いかける。
「どこで手に入れたのよ?」
「ルーキー共が同盟を組んで集まっていてな。そこを襲ったら白ひげと鉢合わせした」
「ルーキーの同盟は知っていたけど……本当にカイドウがいなくてよかったわ」
「ああ。カイドウさんに任されて俺が始末しに行ったからな。当然、白ひげとは戦ってない……相互不干渉だった」
ルナシアはクイーンの言葉に軽く頷きつつ、予備費からすぐに出せる金額を頭の中で計算する。
そして、彼女は指を3本立てて見せる。
クイーンはあからさまに溜息を吐いてみせる。
「おいおい、ルナシアさん。冗談は無しだぜ。たった3億じゃ……」
彼の言葉をルナシアは遮るように告げる。
「違うわよ」
ルナシアの言葉にクイーンは内心で喝采を叫んだ。
よっしゃ、さすがはルナシアさんだ!
クイーンはウキウキ気分で問いかける。
「30億か?」
「え? 違うけど……」
「ちょっと待ってくれ! 時間をくれ!」
クイーンは叫んで、部屋の隅へと行き部下達を集めた。
「なぁ、おい……3億でも30億でもねぇってどういうことだ?」
クイーンの問いに部下達は口々に告げる。
「3000万とか300万ですかね?」
「いやでも、あのルナシアさんだろ? 値切ってくるか……?」
「だが、噂によるとルナシアさん個人は金持ちじゃないらしい……」
「こんなに広い屋敷に住んで、あんなにたくさん女の子を囲っているのに?」
ひそひそと丸くなって相談しているクイーン達。
距離がそこまで離れているというわけでもないので、ルナシアには丸聞こえである。
「いや、素直にいくらか聞きなさいよ……」
ジト目で告げるルナシアにクイーンは咳払いをして、問いかける。
「ルナシアさん、いくらで買い取ってくれるんだ? ヤミヤミの実を」
「300億、即金で」
「300億ぅ!? 即金でぇ!?」
クイーンは叫び、彼と部下達は目玉どころか心臓まで飛び出しそうなくらいに仰天した。
「ええ。不満かしら?」
「不満なんてないです! 売ります! 売らせてください!」
「じゃ、すぐに用意させるから。あ、護衛は必要?」
「いや、大丈夫です……おい、お前ら。300億、死んでも守るぞ……!」
クイーンの命令に彼の部下達は緊張した顔つきで何度も頷いた。
「私のへそくりが減っちゃったわ」
正確には万が一のときに長いこと貯めている予備費からの支出であるが、クイーン達にはそんなことは分からない。
彼女の言葉の意味をそのまま受け取るしかなかった彼らは思う。
ルナシアさんだけは色んな意味で敵に回しちゃダメだ――!
ルナシアがクイーンとの取引を終えた頃、海軍本部では海兵達を集めて大規模な勉強会が開かれていた。
今回勉強会の対象者は将校ではなく、曹長以下の階級の者達だ。
勉強会のお題は六皇についてであった。
そして、海軍本部曹長のたしぎもまた同僚達と一緒にこの勉強会へ出席していた。
「それでは時間となったので始めます。まずはもっとも脅威度が低い、赤髪のシャンクスからです」
講師役である将校の話を聞きながら、たしぎは配布されている資料を見ながら、赤髪海賊団について持参したノートに纏めていく。
赤髪海賊団はこちらから手を出さなければ何もしないスタンスのようだ。
襲うのは攻撃してきた海賊のみであり、民間人を襲ったりはしないという。
傘下の海賊団や縄張りというものは今のところ確認されていないとのこと。
たしぎはそれでも捕らえるべき悪であると思いつつ、説明を聞く。
次は白ひげ海賊団となる。
白ひげは個人としての戦闘力は最強クラスであり、海賊団としての戦力も質・量ともに優れている。
また傘下の海賊も多く、本隊と傘下をあわせれば5万人近いと予想されている。
縄張りも六皇の中では2番目に広いが、基本的に白ひげ本人は財宝や略奪などに興味はなく、気ままに航海をしているらしい。
しかし、たしぎは勿論、この場にいる全ての海兵達は20年以上前にあった事件を知っている。
海兵になる際、必ず教えられる為だ。
海軍史上最悪の事件と呼ばれるものの参加者が白ひげであった。
とはいえ、それ以降は大きな事件を起こしておらず、脅威度は低い方であった。
「刀ではないですけど、最上大業物のむら雲切の所有者ですね……」
たしぎが眉間に皺を寄せていると、講師が次の海賊へ話を進めた。
次はビッグ・マム海賊団であった。
こちらもまた海軍史上最悪の事件の参加者であるが、基本的には
幹部クラスには自分の子供達でかためており、特にスイート三将星と呼ばれる3人の息子達――カタクリ・クラッカー・スナック――は非常に強く、注意が必要とのこと。
傘下の海賊団は白ひげ程ではないが、それなりに多い。
ビッグ・マム次第であるが、上位3人と比べると脅威度は低いとされている。
「結束が強そうですね……」
血縁者でかためるというのは有効だとたしぎは思いつつも、それだけの子供を産んだことがちょっと信じられない。
たしぎが疑っていると、次の海賊の説明が開始される。
次は百獣海賊団だ。
カイドウを頂点として、大看板や真打ちなどの幹部達と多数の戦闘員を抱える。
この海賊団の特徴は強さが全てであることだ。
強ければ偉くなって、弱ければ死ぬというシンプルな論理であり、荒くれ者が多い。
積極的に海軍を探して攻撃はしないが、遭遇すれば逃げることなく攻撃してくる。
また兵力の増強に余念がなく、カイドウ本人の性格も好戦的であることから、脅威度は高い。
手のつけられない猛獣みたいな連中だな、とたしぎは思って百獣海賊団という名前は彼らにピッタリだと納得してしまう。
そして、次の海賊団へ話が進んだ。
次は金獅子海賊団であった。
金獅子のシキが率いているが、ここ最近の勢力の広がりや兵力の増強具合は目覚ましい。
これまでの4人と比べて明確な違いは、頻度は少ないものの積極的に海軍を攻撃していることだ。
そして、彼もまた海軍史上最悪の事件の参加者である。
「桜十と木枯し……名刀が悪人の手にあるのは許せません」
たしぎはそう呟いたとき、いよいよ最後の海賊の説明が始まった。
ルナシア海賊団――
世界中で知らぬ者はほどんどいない程、強大かつ巨大な海賊団であり、海賊が国家を持ったと言っても過言ではない。
その勢力圏は全世界に広がり、戦力は数えるのも馬鹿らしい程だ。
本船であるブラッディプリンセス号の船員には億超えの賞金首しかおらず、また傘下の数も白ひげを大きく引き離してトップに立っている。
海賊らしからぬ海賊とは彼女の異名の一つであるが、まさしくそうだとたしぎは思う。
一代で成り上がった独裁者みたいなものであるが、やっていることが民間人にとって有益なことばかりであるのは広く知られている。
その反面、彼女の号令によって白ひげ達が集い、海軍史上最悪の事件が引き起こされたのもまた周知の事実だ。
そして彼女はビッグ・マム、金獅子、カイドウに色々と援助をしているらしい。
金銭的な利益を得る目的だけでなく彼らが暴れれば暴れる程、庇護を求めてあちこちの島が自分の勢力圏に入ってくれる為ではないか、という予想もある。
何よりも厄介なのは海軍が手出しできないことだ。
海賊団として戦力が充実しているのは勿論のこと、ルナシア個人の戦闘力が極めて高く、彼女を潰そうとしたら海軍が甚大な被害を被ってしまう可能性が高い。
その為、民間人にとっては有益であるし、世界の平和と均衡に結果として貢献していることから対立するよりも共存したほうがいいのではないか、という意見が海軍内でも散見される程だ。
これまでの5人はどことなく海賊らしいと思える部分があったが、ルナシアだけは何だか毛色が違う――
それはたしぎだけでなく、聴講している全ての者が感じたことだった。