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エリュシオン島には立入禁止区域が幾つかある。
その区域はいずれも小規模な都市が一つ、丸々すっぽり収まる程度の広さだ。
表向きにはルナシア専用鍛錬場とされているが、それは人を近づけない為であり、また近づいてきた場合、始末しても問題がないようにする為の理由であった。
その区域の一つにはアルザマス16とルナシアが名付けたところがある。
そこには地図には記載されず、存在しない都市――閉鎖都市と呼ばれるものが存在した。
エリュシオン島における立入禁止区域内には、アルザマス16と同じような閉鎖都市が存在している。
そして、アルザマス16では主に
オハラだけでなく、世界中の色んなところから集まってきた考古学者とその家族がここに居住している。
研究施設が多く都市内に立ち並んでいるが、それだけではない。
様々な商店からレストラン、果ては遊園地まで考古学者とその家族達がこの都市から出なくても満足かつ快適に生活できるようにあらゆるものが整えられている。
これに加えて多額の給料も支払われるが、一方で外部への移動や連絡は厳しく制限されていた。
ルナシアはアルザマス16のとある研究所を訪れていた。
「解読は順調?」
「ええ、ルナシア。順調よ」
ルナシアの問いかけに、研究チームのリーダーであるニコ・ロビンは微笑んで答えた。
その答えにルナシアは満足げに頷きつつ、視線を向ける。
そこにあったのは赤色のキューブ状の石碑――ロード
魚人島にあったものをネプチューン王の許可を得た上で、ルナシアが持ってきたものだ。
ロード
また現物はないものの、ワノ国とモコモ公国のロード
どちらもおでんの尽力によって、ルナシアは手に入れることに成功していたが、彼に尋ねてもラフテルに何があったかは教えてくれなかった。
しかし、世界の真実があることと、宝の正体を知ると笑ってしまうのは確かなようだ。
「やっぱり4つ揃わないと無理そうよ」
ロビンの言葉にルナシアは渋い顔となって告げる。
「普通の島なら3つ揃えばいけそうだけど……4つってことは空の上だったり、海の中だったりと色々考えられるわね。魚人島とか空島とかいう前例があるし……」
「それはありえるわね」
ルナシアの予想にロビンは溜息を吐いてみせる。
そして、彼女は問いかける。
「それで、最後の一つはいつ取ってくるの?」
「もうちょっとってところかしら……たぶん」
「あなたが霧になって侵入して、書き写してくればいいじゃないのよ」
「難しいわね。リンリンは私の能力を知っているから、侵入した瞬間に見聞色で察知される可能性が高い」
そう答えるルナシアにロビンは問う。
「そんなに同盟が大事?」
「私の信用に関わるからね。何よりもリンリンを傷つけてアマンド達を悲しませたくないし」
「聞いた話によれば、彼女達はビッグ・マムよりもあなたと過ごした時間の方が長いらしいじゃない」
「子供の頃から私といるからね」
ルナシアの言葉にロビンは微笑み、彼女の頬に触れる。
「私もあなたと子供の頃からいるわよ。で、そんなあなたは何人の女を囲えば気が済むのかしら?」
「海賊らしいと思わない? 欲望のままに女を囲うって」
「そういうところで海賊らしさをアピールしないで頂戴」
ロビンにぴしゃりと言われて、ルナシアはしょんぼりと肩を落とす。
そんな彼女を見て、ロビンは変な気持ちになる。
昔はお姉さんだったのに、いつの間にか妹みたい――
ロビンがそんなことを考えていると、ルナシアは口を開く。
「でもでも、リンリンの娘は数年前にきたプリンで最後よ。ところであの子の三つ目、私は可愛いと思うけどあんまり理解されなくて悲しいわ」
自重しているアピールをしてくるルナシアに思わずロビンは笑ってしまうが、どうにか言葉を紡ぐ。
「人の好みは千差万別よ」
「世界にプリンの可愛さを分からせる為に、政府と海軍を脅してこようと思うんだけど……」
「何をやるつもりか知らないけど、可哀相だからやめてあげなさい」
その言葉に冗談よ、と笑うルナシアだがロビンは肩を竦めてしまう。
そこでルナシアはロビンに対して笑顔のまま告げる。
「ロビン、研究ばかりだと疲れてしまうから、明日にでもオルビアと一緒に遊びに行ってきなさいよ」
そう言われるとロビンとしても弱い。
オルビアはロビンの補佐役として、研究に加わっている。
ここ最近は研究に関することばかりで、気分転換ができていないのは確かだ。
「そうするわ、ありがとう」
ロビンの言葉にルナシアはにっこりと微笑んだ。
そんな彼女にロビンは問いかける。
「ところでルナシア、話を元に戻すけど……どうやってビッグ・マムのところから?」
「計画は2つあるの。カイドウと海軍。手っ取り早いのはカイドウだけど、被害がちょっとねぇ……」
「どちらにしろ、碌な事になりそうにないわね。ま、あなたが絡むとそうなるのは今更かしら……」
ロビンはそう言って溜息を吐くが、ルナシアはどういう意味よ、と頬を膨らませるのだった。
そしてアルザマス16から帰宅後、ルナシアはどちらの計画を進めるべきか自室で悩みに悩んでいた。
ガープの孫をぶつけることも考えた。
だが、リンリンにぶつけても大丈夫な程度に育つかどうか、そもそも時間が掛かりすぎるんじゃないか、と色々と考えることが多すぎてやめた。
「アマンド達を傷つけない、私の信用を失墜させない……その2つをこなさいといけないのが辛いところよね」
もしかしてこうなる未来をリンリンは見越して、アマンド達を送り込んだのだろうかとルナシアは疑ってしまう。
それくらいに難しいというか面倒な状況だ。
「カイドウをけしかける利点は手っ取り早いことね。あと私が直接出向く理由にも充分だし……でも最悪、
一方で海軍をぶつける場合の最大の問題点は時間が掛かり、うまくやらないとリンリンが倒されてしまうことだ。
海軍側にはリンリンを捕まえない理由がない。
そのチャンスがあればやるだろう。
ルナシアはそう考えつつ、呟く。
「海軍をぶつける最大のメリットは
その面々が出てきて沈まない未来がルナシアには予想できなかった。
どっちにしろ沈むならば、と彼女は決める。
「リンリンにカイドウをぶつけることについて、まずはアマンドに相談してみよう。駄目で元々だし、うまくいけば儲けもの……」
そう言い聞かせつつ、土下座する覚悟でルナシアはアマンドの部屋へ向かうのだった。
一方その頃、エドワード・ニューゲートは自らの船で珍しい客と酒を呑んでいた。
その客が来たのは10分程前で、彼は来るなりニューゲートに向かって酒瓶を放り投げてきた。
それにより戦闘の意志は無いとニューゲートも判断し、酒盛りが始まっていた。
目に見える範囲に彼の息子達はいないが、いつでも飛び出せるように船内に待機している。
互いに無言で呑んでいたが、しびれを切らしてニューゲートは問いかける。
「お前、何でまた俺のところに?」
「いいじゃねぇか、昔のよしみってヤツだ」
問いかける彼にシキは笑って答える。
呆れながらニューゲートは言葉を返す。
「そんなに親しい間柄でもねぇだろ」
「ま、細かいことは気にするな……それよりもクソガキだ」
シキの口から出た単語に、ニューゲートは溜息を吐く。
何を考えているか、簡単に予想できてしまった為に。
「お前……今更アイツと戦争をするつもりか?」
「クソガキに覇権を握らせてなるものか、と言いたいところなんだが……」
そう言って、シキとは頭を掻く。
「俺にカネと武器と物資その他色々なものを支援したり、売ってくれているのはあのガキなんだ……」
「お前、ルナシアに手綱を握られているじゃねぇか」
呆れ顔のニューゲートにシキも苦笑してみせる。
「ああ。随分前になるが、珀鉛を含んだ廃材やらを輸送するのにも扱き使われた」
「やっぱりあれはお前も絡んでいたか。大方、手伝ってくれたら安く売ってやるとでも言われたんだろう?」
「まぁな……とはいえ、ルナシアの勢力圏を潰すだけならできる。島をたくさん浮かせて落としゃいい」
「俺だってアイツの勢力圏を潰すだけならできる。津波と地震を起こせばいいからな」
シキとニューゲートはそう言い合って、互いに溜息を吐いた。
勢力圏――島々は動かないし、それ自体が大きな的である。
潰すことは難しいことではないが、問題はその後だった。
「お前も分かっているだろうが、ルナシアと幹部連中や傘下の海賊共を潰すのが難しい。まあ、島や海水を上から落とし続ければいつかは倒せるかもしれんが……」
シキの言葉にニューゲートは頷いてみせる。
彼だって地震と津波を起こし続ければ勝てないことはないだろう。
だが、それで何が得られるかと言われるとシキもニューゲートも何もない、と答えるしかない。
世界中に広がる勢力圏の島々を全部海に沈めて、ルナシア海賊団を壊滅に追い込んだとしても、費やした労力と時間と費用に見合う報酬がどこにもなかった。
勿論、味方の被害が甚大になるのは言うまでもない。
「本当に厄介で面倒なクソガキになりやがったな」
「ああ……あのガキは昔から毛色が違った」
「当時の覇権争いに参加しなかったのは……こうなることを見越していた為かもしれねぇ」
「それもあるが俺もお前も他の奴らも老いたが、アイツは老いていない。ヤツの強さも勢力も増す一方で、海賊どころか政府や海軍ですらも手出しできない……」
ニューゲートの言葉にシキは深く溜息を吐き、告げる。
「見事にあのガキに出し抜かれたな」
「ああ、ヤツにとってはもう消化試合だ。リンリンの持つロード
「宝目当てのミーハー共は邪魔なだけだ。俺はミーハー共とクソガキ、どっちか選べと言われたらクソガキを選ぶぜ……アイツは海賊らしくない海賊だが、世界をひっくり返すことに躊躇しない。ミーハー共にそんな度胸はない」
そう言い切るシキ。
ニューゲートはそれを肯定しつつも、そういえばと切り出す。
「ルナシア経由の情報だが、あの赤髪が麦わら帽子を預けたヤツがいるらしいぞ」
「あの小僧が? どういう意図で?」
「分からん……だが、名前を聞けば納得するだろう。クソガキも調べたらその名前が出てきて納得できたらしい」
もったいつけるニューゲートに、シキは彼を睨みながら問いかける。
「そいつの名は?」
「モンキー・D・ルフィ。あのガープの孫で、ドラゴンの息子だ」
「ドラゴン? ああ、アイツが支援している革命軍とやらの……あのガキ、本当に色んなところに手を広げているな……」
「圧政を敷いている国を革命軍に倒させ、そこへアイツが支援の手を差し伸べる。民衆はあのルナシアが助けてくれると感謝して、自ら進んで支配下に収まる……単純な話だ。革命軍もルナシアの内政方針なら問題がないのだろう」
「海賊らしくねぇが効果的なやり方だ。心を支配するっていうのは一番難しいからな」
シキの言葉にニューゲートは笑って言う。
「お前は性格的にそういうことはできんだろう」
「お前だってそうだろ。俺もお前も海賊らしいやり方しかできねぇからよ」
シキもまたそう返して笑った。
2人とも理解していた。
ガープの孫で赤髪が麦わら帽子を託すような素質がある奴が出てきたとしても、もうひっくり返せないということを。
「時代はあのクソガキか……」
「ああ。最後に勝ったのはアイツだったな」
シキの言葉にニューゲートはそう答えるのだった。