海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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動き出した計画

 ロックス海賊団同窓会が具体的な計画として決まったことで、ルナシアは動き出す。

 まず、彼女は海賊団の財布係であるバッキンにお伺いを立てることになった。

 

「バッキン! ロックス海賊団の同窓会やるから、お金出して!」

「何よ、部屋に入ってくるなり……同窓会だって?」

 

 バッキンは目を丸くしつつも、問い返す。

 ルナシアは大きく頷いてみせるが、バッキンは言葉通りには受け取らなかった。

 

「で、裏の意図は? ただの同窓会じゃないでしょ?」

 

 するとルナシアは怪しげな笑みを浮かべて、告げる。

 

「同窓会という名目で、私も含めた強い連中全部と甘いお菓子を餌にして、リンリンを……ビッグ・マム海賊団の船長とその船員達を万国(トットランド)から釣り出す……!」

 

 バッキンはその説明で意味を察した。

 

「要するに、ビッグ・マムとその部下達が万国(トットランド)にいない隙に、別働隊が最後のロード歴史の本文(ポーネグリフ)を書き写すなり写真を撮るなりしてくるのね?」

「私が言うのも何だけど、今のいい加減な説明でよく分かったわね」

「どんだけ長い付き合いだと思っているのよ。アンタの考えそうなことくらいお見通し……それはそうと、同窓会っていうのは面白そうね」

 

 バッキンは素早く引き出しから書類の束を取り出して確認する。

 

「予備費、ヤミヤミの実とかいうのにアンタが300億使っているけど……それ以外は全く手を付けていないから、そろそろ使ってもいいくらいだわ」

「そういや予備費って今どのくらい貯まったの?」

「数百億あるわよ。アンタが使った分は差っ引いて計算した状態で」

「……何年貯めたっけ?」

「最低でも20年くらいは予備費を貯め続けているわね」

「基本的に余ったお金を予備費に回しているのよね?」

「そうよ。必要なところに全部お金を回して、アンタの小遣いに割り振って、それでも残ったお金を貯金している」

「どのくらい使っていい?」

 

 問いかけるルナシアにバッキンはやれやれと溜息を吐いてみせる。

 そして、彼女は告げる。

 

「アンタね、ロックス海賊団の同窓会っていうなら、ビッグ・マムだけじゃなくて白ひげとか金獅子とかカイドウとかも呼ぶんでしょ?」

「ええ。何なら時間差をつけて、赤髪を呼んでロジャーのことを皆で語る会も開いていいかなって……」

「船長だけじゃなくて、部下達も招くつもりなら尚更……舐められたら終わりよ」

 

 バッキンはそこで言葉を切り、ルナシアの瞳を真っ直ぐに見つめて告げる。

 

「予算を気にするんじゃないわよ。請求書は私に寄越しなさい。全部払ってやるわ」

「バッキンならそう言ってくれると思っていたわ。歴史上、もっとも豪華で壮大で、最高の宴会にしたいのよ。他の連中の度肝を抜いてやりたい」

「思う存分やるといいわ。フェスタもこの前、祭りが終わって今はちょうど手が空いているから巻き込みなさい」

「ええ、そうするわ。ありがとう、バッキン」

 

 そう言って頭を下げるルナシアにバッキンは気にするな、と言わんばかりに手をひらひらと振った。

 

 

 

 バッキンのアドバイスに基づいて、ルナシアはフェスタの屋敷へ向かう。

 彼女が屋敷に到着したとき、彼は庭で安楽椅子に座りながら酒を呑んでいるところだった。

 直近の仕事が終わり、ゆっくり休んでいるのだろう。

 ルナシアが近づいていくと程なくして彼も気がついた。

 陽気な顔の彼は酒瓶を高く掲げてみせる。

 

「おー、ルナシア様。あんたも飲むかい?」

 

 そう言って酒を勧めてくる彼にルナシアは告げる。

 

「フェスタ、今度ロックス海賊団時代の同窓会兼ロジャーを語る会ってことで六皇とその部下達を集めて大宴会をやるのよ」

 

 ルナシアの言葉にフェスタは耳を疑い、もう酔いが回ったかなと思って首を傾げる。

 

「すまねぇ、ルナシア様。どうやら酔っ払っているようだ……もう一回言ってくれ」

「六皇とその部下達を全員集めて、大宴会を開くわ」

 

 聞き間違いとかではなかったことにフェスタは目を丸くして問いかける。

 

「……嘘だろ?」

「嘘じゃないわよ。だから、あなたには余興とかを全て任せたい」

 

 フェスタは安楽椅子から立ち上がった。

 彼は目をギラギラと輝かせながら、問いかける。

 

「予算は?」

「無制限。歴史上もっとも豪華で壮大で、最高の宴会にしたい。請求書は全部バッキンへ回して」

「分かった! 呑んでる場合じゃねぇ……! 俺が最高の祭りを見せてやる……!」

「あ、どうせならテゾーロと組んでみてもいいかもね」

「ああ……アイツと組むなら、面白いことになりそうだ……!」

「それじゃ私から彼に後で連絡をしておくわ」

「頼んだ……! こうしちゃいられねぇ!」

 

 フェスタはルナシアへの挨拶もそこそこに屋敷の中へ走っていった。

 すぐに仕事に取り掛かってくれるだろう。

 

「……もういっそのこと、政府と海軍にも伝えてやろうかしら。遅かれ早かれバレるだろうし」

 

 ルナシアはそう呟きながら、以前に聞いていたドフラミンゴからの報告を思い出す。

 彼はあくまで個人的な予想だと前置きしていたので、この機会に真偽を確かめてもいいかもしれないと彼女は思い始める。

 

「ステューシーがドフィの言う通りスパイで、CP0なら話が早い。いっそのこと直接本人に聞いてみましょうか……肌年齢とか色々気にしていたし、不老にしてあげれば喜んでくれる筈」

 

 数年前に入ってきて、優秀であった為にあっという間に幹部となったステューシーだ。

 しかし、ルナシアに対してはビジネス的な態度を崩していない。

 これまでのスパイとは違って、露骨に潜り込もうとせず慎重だ。

 もっともルナシアには必殺の手段がある。

 

 

 とりあえず吸血して不老にしてからお話を聞こう――

 

 

 ルナシアは早速ステューシーのところへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ステューシーが住んでいるのは自らデザインしたという、白を基調とした家であった。

 

 彼女はちょうど電伝虫で報告を終えたところに、ルナシアが接近してくるのを見聞色でもって察知した。

 素早く電伝虫を床下に作った収納スペースに隠し、適当な本を棚から出して机に置く。

 そして紅茶を淹れ始めたところでルナシアが玄関のベルを鳴らした。

 

「あら、ルナシア様。今、紅茶を淹れていたんだけど……どうかしたの?」

 

 ステューシーの言葉にルナシアは満面の笑みを浮かべて、彼女の首筋に噛み付いた。

 突然の事態であったが、噛まれるわけにはいかない。

 ステューシーはすかさず攻撃を加えようとするが――全身を貫くような快感に襲われて、身体に力が入らなくなってしまう。

 

 快感の波は絶え間なく押し寄せ、遂には立てなくなってルナシアへ寄りかかる形になる。

 

「ステューシー、不老にしてあげるから……私に尽くして」

 

 ステューシーは快感に溺れながら、ルナシアのそんな言葉を聞いたのだった。

 

 

 

 

 

 そして30分後、ルナシアはステューシーと共に彼女の淹れた紅茶をソファに座って呑んでいた。

 この間にもステューシーはにこやかな笑みを浮かべながら、色んな事をルナシアに話していた。

 

「私はCP0なのよ。私以外にもこの島に12人、シャングリラ諸島全体だと38人が潜入しているわ。あなたの部下としてだったり、民間人に扮していたり……」

「なるほどねぇ……ステューシーみたいな美人がCP0っていう凄腕のスパイなんて、カッコいいわ」

 

 ルナシアの称賛にステューシーははにかんだ笑みを浮かべる。

 

「元々、私がこの任務に志願したのもあなたの不老を調査したかったからっていう個人的な理由があるのよ。それに政府はあなたがどれだけ生きるか知りたがっているし……」

「私も知りたいわね……吸血鬼の寿命って伝承とか伝説だとないようなもんだし……」

「そうなのよねぇ……まあ、不老不死ではなくても人間より短いってことはないと思うけど」

「私もそう思うわ。ところでステューシー、今度六皇とその部下達を全員集めて大宴会をするのよ」

 

 ルナシアの言葉にステューシーは目をぱちくりとさせる。

 

「えっと、ルナシア様。何て言ったの? もう一回言って」

「六皇とその部下達を全員集めて大宴会をするわ」

「……え、本当?」

「ええ、本当。政府とか……管轄は違うけど、海軍はどう動くと思う?」

「蜂の巣を蹴り倒した感じの大騒動になるわ。あとたぶんセンゴク元帥の胃が悪くなる……」

「センゴクと会ったことがあるの?」

「ええ、何度かね。彼、会う度にあなたの愚痴を言っていたわ。あの悪ガキ、許さんとか色々」

「私からすればあの大仏、許さんって感じだわ……でもまあ、年寄りは労った方がいいから……彼の好物って何?」

「海軍おかきよ」

「じゃあ、今度、胃薬と一緒に送っておくわ」

 

 そう告げるルナシアにステューシーはくすくすと笑う。

 

「敵であるのに優しいのね?」

「ロックスとロジャーを直接知っている数少ない人物だからね。優しくもなるわ」

「私にも教えて欲しいわ。どういう人物だったの? 2人って」

 

 尋ねるステューシーにルナシアは告げる。

 

「ロックスは世界の王になりたかった男で、私の育ての親みたいなもんね。ロジャーは自由過ぎる男だったわ」

 

 ルナシアは彼らを思い出しながら、優しく穏やかに微笑むのだった。

 


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