海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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幹事の苦労

 

 

 同窓会計画が動き出したのだが――元ロックス海賊団の面々だけでなく時間差とはいえシャンクスも誘うことになった為、同窓会というよりも宴会に近い。

 

 また言い出しっぺのルナシアは、隠された意図があるとはいえ飲み会の幹事をやるような認識だ。

 

 

 さて、飲み会の幹事が苦労するのは――場所選びだ。

 

 

 ルナシアも例外ではなく、その問題に直面していた。

 とはいえ、参加する連中に要望を聞いたりはしていない為、幾分マシな状況だが――それでも人数が非常に多く、カイドウが暴れても大丈夫というところはかなり限定される。

 

 

 また彼女は素人が判断するよりも、祭り屋であることからイベントに適した会場の選定などに豊富な経験があるフェスタに協力を頼んだ。

 彼とルナシアが話し合い決まった条件はとにかく広いこと、安定した気候であること、新世界にあることの3つ。

 決まってすぐにルナシアは部下や傘下の海賊達を総動員して人海戦術で、片っ端から勢力圏内外にある無人島を調査開始させていた。

 調査結果はルナシアではなくフェスタに回すように、とも彼女は指示を出した。

 そっちのほうが手間が省けるからであり、彼もこれに同意している。

 

 やきもきしながら、ルナシアは同窓会に必要な酒や料理に使う食材、さらに必要な人員の手配に動いていた。

 そして、フェスタが遂に彼女の元へやってきた。

 会場に適した島の情報を纏めた報告書を持って。

 

 

 

「ルナシア様、この島なんていいと思うんだが……どうだ?」

 

 

 ルナシアの執務室にて、フェスタは問いかけながら報告書を彼女へ差し出した。

 それを受け取り、彼女はさっと目を通す。

 

 島の総面積は広く、六皇とその部下達が全員集まってもなお余裕がある。

 気候は安定しており、新世界にある島だ。

 

 うんうんとルナシアは頷きながら、報告を読み進めていくのだが――あるところで目が止まった。

 

「……ねぇ、フェスタ。ここに書いてある報告が間違いじゃないなら……」

「気づいたか?」

「そりゃ気づくわよ……問題はないけども」

 

 ルナシアの言葉にフェスタはにかっと笑ってみせる。

 

「ああ、問題ないさ。海軍のG-1支部にちょっとばかし近いが、六皇とその部下達の大宴会を止められるわけがねぇよ」

 

 そう言ってフェスタは不敵な笑みを浮かべ、更に言葉を続ける。

 

「海軍が手出しできず、しかし放置することもできない。監視くらいはしてくるだろう……連中の悔しそうな面を酒の肴にするのも、中々乙なもんさ」

「ええ、フェスタ。ロックスとロジャーについて、昔を懐かしみながら語るにはもってこいの場所だわ……2人とも、絶対あの世で大爆笑しそう」

「むしろ、俺達も交ぜろって悔し泣きしているだろうよ」

 

 そう言って2人は笑い合う。

 ひとしきり笑ったところで、ルナシアはあることに気が付いた。

 彼女は今回の幹事なので、ご近所に迷惑を掛ける可能性があるならば事前に挨拶をしておかなければと思ったのである。

 飲み会の幹事としてこういう気配りが大事だと彼女は確信を持って、フェスタに尋ねる。

 

「G-1支部と近いところで宴会するなら、ご迷惑をお掛けしますって事前に挨拶をしとかないとダメだと思うのよ。どう?」

 

 その言葉にフェスタは喝采を送り、興奮気味に話し出す。

 

「やっぱりアンタは祭り屋として最高だ! これまでのことといい、今回のことといい、本当に海賊らしくねぇ海賊だ! 何をやるつもりだ!?」

「私としては別に普通の考えだと思うんだけど……ただちょっとマリンフォードに挨拶に行ってこようかなって。どうせ物資や人員の搬入で何かをやるってすぐにバレるだろうし……」

 

 そう言いながら、ルナシアは手を叩く。

 

「待って、G-1から近いってことはマリージョアからも近いのよね。世界政府にも挨拶しとかないと……」

「アンタ、本当に最高だよ……!」

 

 フェスタは感動した。

 何でそんなとんでもないアイディアがポンポン出るんだろうか。

 しかも、それが全部ルナシアなら実現できるというのが余計に凄い。

 全世界の人々を熱狂させることは簡単にできるものではないのに、ルナシアはそれを難なくこなしてしまっていた。

 今回もまたそうなるだろう、とフェスタは確信する。

 

「で、具体的にはどうするんだ?」

「挨拶だけだから、私が菓子折り持ってちょっと行ってくるだけよ。戦いとかそういうのは無しで」

「向こうから襲ってくるんじゃないか?」

「見つからないようにこっそり行くから。表から行くとドッタンバッタン大騒ぎになるし」

 

 見聞色の覇気なら霧化したルナシアの接近にも気付けるだろうが、事前に襲撃があることを知っているか、あるいはその兆候がなければ常時発動させているものでもない。

 敵がいるかどうかも分からないのに、ずっと見聞色を発動させておく、というのは無理な話だ。

 

「そりゃそうだろうな……まあ、そっちはアンタが好きにやってくれ。この島を会場に選ぶという形でいいか?」

「ええ、いいわよ。宴会島とでも仮に名付けておきましょうか……それともイエーイ海軍見ている島とかにする?」

「アンタ、ネーミングセンスは壊滅的なんだな」

「冗談よ、冗談。宴会島でよろしく」

「分かった。それじゃ早速取り掛かるから……招待状の方は?」

「正式にはまだ送っていないけど、既にリンリンのところは水面下で調整中よ。他の連中もすぐに取り掛かるわ」

「任せたぜ……テゾーロと一緒に最高のショーを見せてやるから、楽しみにしておけよ」

 

 フェスタは自信満々に告げて、ルナシアの執務室から足早に出ていった。

 それを見送り、彼女は万国(トットランド)に帰省しているアマンド達に思いを馳せる。

 昨日、アマンドから電伝虫によって嬉しい報告が入った。

 

 

 同窓会にママはかなり乗り気で兄弟姉妹達の参加も確実。

 だが、ママからは甘いお菓子をたくさん用意してくれと言われた――

 

 

 リンリン以外は正直どうとでもなるとルナシアは予想している。

 ニューゲートもシキもカイドウも、そしてシャンクスも美味い酒が飲めるならば快諾するだろう。

 

「マリンフォードはセンゴクでいいとして、マリージョアへの挨拶は五老星にすればいいのかしら……? ステューシーに聞いてみよう」

 

 ルナシアは早速、ステューシーのところへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 ルナシアの屋敷にステューシーの執務室はあった。

 元々はそうではなかったのだが、バッキンと同じ状態となったステューシーは裏切る心配もないとルナシアが判断した為、カリファと同じく秘書として扱き使っていた。

 

 執務室で書類仕事をしていたステューシーは、ルナシアの突然の来訪と発言に目を丸くして、思わず問い返した。

 

「挨拶をする為だけにマリージョアの五老星に会い行くの? 嘘でしょ? っていうか、バカじゃないの?」

「バカって酷くない……? だって、挨拶は大事でしょ? ワノ国で読んだ古の書物にも書かれていた気がするような、しないような今日この頃」

 

 何だか歯切れの悪いルナシアにジト目でステューシーは告げる。

 

「……書かれていなかったのね」

「まあそうなんだけど……ダメかしら?」

 

 小首を傾げて問いかけてくるルナシアに、ステューシーはつくづく思う。

 

 下僕になった後の方が、苦労が大きいんだけど――!

 

 CP0ということでCP9のカリファよりは色々と詳しいが為に起きた悲劇だ。

 他にも潜入していたCP0達は女ならばステューシーと同じようになり、男は既に魚の餌になっている。

 

 勿論、定期的な報告を欠かしておらず、政府側にステューシー達がルナシアに寝返った――正確には無理矢理下僕にされたのだが――ことは知られていない。

 なおステューシー個人としては政府や組織を裏切ったが、結果的に不老になれたので良かったかも、と思っていたりもする。

 もう化粧品や色んな美容グッズに大金を費やさなくて済む、というのは得難い解放感だった。

 ちなみに給料はCP0時代と比較して5倍に上がったので大満足だ。

 

 とはいえ、元の所属先に迷惑を掛けるのはさすがに忍びない。

 

「元CP0として、あなたの身が危険だからとかそういうのじゃなくて……単純に政府の通常業務に迷惑だからやめてもらっていいかしら?」

「そこを何とか……」

 

 両手を合わせて頭を下げるルナシアにステューシーは軽く溜息を吐く。

 

「本当にあなたって海賊らしくないわね……ま、御主人様の頼みなら何とかしてあげるわ……ただし、電伝虫で話をするだけよ」

「さすがはステューシーだわ! 凄い! 最高! この美人スパイ!」

「ふふん、当たり前よ……って、何だかこの子といると調子が狂うわね……」

「いいじゃない。褒めるところは素直に褒めていきたいの。それじゃ、頼んだわ」

 

 そう言ってルナシアは機嫌良く部屋から出ていった。

 

 それを見送ったステューシーは再度、溜息を吐く。

 そして彼女は五老星とルナシアが電伝虫にて会話できるよう検討を始めるのだった


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