海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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微グロあり。


色んな人達が苦労する話

『君だから我々は時間を取った』

 

 電伝虫越しに聞こえてくる五老星の誰かの声に、ルナシアは意外とお爺ちゃんなのねと思ってしまう。

 

『何の用だ?』

 

 また別の声に変わった。

 ルナシアは横でステューシーがハラハラしているのが見えた。

 

 そして、ルナシアは五老星に対して告げる。

 

「今度、マリージョアの近く……正確に言えば、G-1支部からちょっと近いところで、六皇集めて宴会するのよ。迷惑掛けちゃうかもしれないから、その挨拶に」

 

 ステューシーは目眩がして倒れそうになったが、それを慌ててカリファが支える。

 

『……それだけ、かね?』

 

 信じられないといった声の五老星の誰か。

 おそらく他の4人であっても同じだろう。

 しかし、ルナシアはついでにこれも言ってしまおう、と考えて実行に移す。

 

「あ、それと……いつも世界の秩序を守ってくれて、本当にありがとうございます。あなた方のおかげで、私は安全・安心に好き勝手できます。これからもどうぞ体調には十分気をつけて、長生きしてください」

 

 この礼儀正しい発言により、ステューシーを支えていたカリファも倒れた。

 倒れる音が聞こえたのか、部屋の外で待機していたお菊が中に入ってきて、2人が倒れているのを発見した彼は慌てて医療チームを呼びに行く。

 

『……それは、どうもありがとう。君が仕掛けてこないおかげで、世界は今のところ安定している』

「お互いにこれからもお仕事を頑張りましょう。あ、最後にバギーの懸賞金、まだ新しいのは出ていないけど、この前にあったこともしっかり反映して決めてください」

『分かった……こちらも最後に一つ、頼むからもうマリージョアには来ないでくれ。以上だ』

 

 そして、通話が切れると同時に医療チームが部屋に到着した。

 

 

 事の発端はルナシアがステューシーの頑張りによって、電伝虫にて五老星との会談をすることになったことにある。

 そして会談当日、変なことを言ったら止めようとステューシーと念の為にカリファも同席していたのだが――ルナシアの発言が予想の斜め上過ぎて、止めることすらできなかったというのが真相であった。

 

 なお、彼女はこの会談が行われる2週間前、欲を出してリンリンが戻ってくる前に万国(トットランド)のホールケーキ城に行ってロード歴史の本文(ポーネグリフ)を写真撮影してこようと考えた。

 

 しかし念の為、帰路の途中であったアマンドに電伝虫で連絡し、確認してみたところ、カタクリとクラッカーが来ていなかったことが判明する。

 

 リンリンはどうやらルナシアがブラッディプリンセスに乗っていなかったことを警戒したのか、ホールケーキ城の留守番としてカタクリとクラッカーを置いていたようだ。

 クラッカーはともかく、カタクリはリンリンの次に厄介であり、気づかれる可能性がある。

 

 故にルナシアは動けなかった。

 

 

 

 何はともあれ、彼女は五老星への挨拶も済ませたことで宴会前の大きな仕事は片付いた。

 しかし、ルナシアを待ち受けていたのは幹部達や傘下の海賊達への謝罪である。

 それが済んだら自分と特に親しい者達である――アマンドをはじめとした面々への個人的なお詫びである。

 

 個人的なお詫びに関しては金銭が掛からない範囲で何でもすると、ルナシアが彼女達に伝えてあった。

 

 金銭が掛からない範囲で、という条件がある理由はバギーの目の前にいた自身の海賊団所属の者達全員に10億を支払ったことにより、ルナシアの懐事情がかなり寂しいことになっている為だ。

 

 へそくり――予備費ではなくてルナシア個人の――も含めて、全部すっからかんになってしまっており、見事なまでに素寒貧であった。

 

 

 ルナシアから何でもする、と言われたアマンド達は大変喜んだ。

 彼女達にとってはルナシアが何かをしてくれるなら嬉しいものだった。

 

 なお、アマンドやスムージーはルナシアから10億ベリーを貰っているのだが、ルナシアが2人にも個人的なお詫びをしたいと言った為、2人にもお詫びをすることになった。

 

 そして、誰からお詫びをしていくかというと、やはりアマンドであった。

 彼女がルナシアに求めたこと、それは――ルナシアを一番痛く苦しい速度で殺すことだ。

 とはいえ、勢力圏内で不死身ネタを披露し過ぎて陳腐化しているルナシアを、アマンドが輪切りにしようが三枚におろそうが、もはや誰も気にしなかった。

 

 

 

 

 自らの寝室にて抜身で刀を片手に持ち、アマンドはルナシアを前にして立つ。

 しかし、ルナシアに動じた様子はなく告げる。

 

「あなたの指っていつ見ても白魚のような指ね」

「ふふ、ありがとう」

 

 アマンドは微笑みながら、刀の切っ先をルナシアの胸へ突きつけた。

 そして、ゆっくりと突き刺していく。

 

 痛みに歪むルナシアの顔を見て、アマンドはうっとりとしてしまう。

 

 強敵以外は、なるべくゆっくりと一番痛く苦しい速度で殺す――

 

 いつの間にか、そんな拘りを持つようになったアマンド。

 だが、これは多くの者には理解されないと自分でも分かっていた。

 

 しかし、これを理解した上で、全て受け止めてくれているのがルナシアだ。

 

 アマンドにとって、愛する者をゆっくりと一番痛く苦しい速度で殺すというのはルナシア以外では絶対にできないからこそ、特別なことだった。

 

 もっとも、2人にとってこういうことをするのは別に珍しいことでもない。

 だが、これには非常に大きな問題が一つあった。

 

 

 

 

「殺るのはいいんですけど……部屋の掃除をする拙者のことも、偶には思い出してください」

「ごめんなさい」

「……すまない」

 

 お菊は悲しげな顔で告げた。

 そんな彼に頭を下げるルナシアとアマンド。

 

 アマンドの部屋はルナシアをたっぷりと何回も殺した為に――殺すだけに留まらず、そのまま性的なアレコレにも発展したが――部屋中が大惨事になっていた。

 どこもかしこも血で染まり、後片付けに慣れているお菊でも骨が折れる大仕事だ。

 しかも今回はいつもよりも多く殺したらしく、より酷いことになっていた。

 

「たぶんこれ、どうやっても血が落ちないので、内装全部交換ですよ……臭いも凄いですし……というか、まずは徹底的な消毒が必要ですね……」

 

 どんよりとした表情で告げるお菊に、ルナシアとアマンドは再度、謝罪するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バギーは本拠地としている島で、新しい手配書を見ながら途方に暮れていた。

 その横ではモージやカバジといった彼の部下達が大喜びし、宴会に突入しているが、バギーはとてもそんな気分ではなかった。

 

 彼に掛けられた新たな懸賞金の額は25億4649万ベリー。

 もとの2000万ベリーから実に120倍以上の上がりっぷりだ。

 

 更には新しくトリックスターという異名までつけられてしまい、千両道化と合わせて異名が2つになったが――バギーは何も嬉しくなかった。

 

 7番目の海の皇帝が誕生したが、経歴などから考えれば相応しいとか何とか色々と新聞が書いており、世間は見事につられてしまっている。

 

「だいたい、何だよ……4649万ベリーって。4649でヨロシクか? 何をヨロシクするんだよ」

 

 政府や海軍が彼に頼んでいるのは一つしかない。

 

 あのルナシア相手に一歩も退かず、叱った上に電伝虫越しとはいえ謝罪をさせたのだ。

 それもアマンドをはじめとしたルナシアの部下達や白ひげ達、大将達の前で。

 

 駄目押しにルナシアが直接五老星にお願いしていたこともあり、今回の金額に決定されていた。

 

 ルナシアの抑止力となってくれ――

 よろしく頼む――

 

 バギーにはそういう裏事情や込められた切実な願いは分からなかった。

 とりあえず、彼は自分が世間的には7番目の皇帝になっていることだけは分かっていた。

 

 偉大なる航路、行かなきゃダメか?

 本当に行かないとダメか?

 そっちに拠点を移すの?

 

 超ドハデに嫌なんだが――!?

 

 東の海でルナシアの傘下となって、悠々自適な海賊人生。

 ちょびっとだけ欲を出すなら、財宝を手に入れられればいいな――というのがバギーの偽らざる思いである。

 

 しかし、彼は25億を超える懸賞金を掛けられ、7番目の皇帝とされてしまった。

 

 今、ルナシアの傘下に入ることは――自分の体面とかそういうのが非常にマズイことになるのでは?

 

 バギーは色々と考えつつ、横からカバジが差し出してきた酒を一気に飲み干す。

 

「キャプテン・バギー! 偉大なる航路に行くか!?」

 

 赤ら顔で尋ねてくるモージの言葉。

 

 お前、バカじゃねぇの?

 あんな化け物ばっかりのところに行くの?

 あいつら、1人で国を落とせるような連中だよ?

 六皇とかならバスターコールを1人で跳ね返すようなレベルだよ?

 

 無理無理死ぬ死ぬ俺が死ぬ――!

 

 内心そんなことを思いながらも、バギーは深呼吸をして心を落ち着かせる。

 そして、あることに気がつく。

 

 そうだ、こいつらだってあの時の戦いは見ていた――!

 戦力不足!

 それを理由にしよう!

 

 とはいえ、さすがのバギーもモージ達の心を傷つけるのは忍びない。

 故に彼はなるべく平静を保ちつつ、諭すようにゆっくりと告げる。

 

「お前らだってあの時の戦いは見ただろう? 偉大なる航路っていうのは、国を1人で落とせるような連中ばかりだ……お前らにその実力はあるか?」

 

 バギーの言葉にモージやカバジ達は一気に静まり返った。

 

「無いだろう? それに俺達には他の連中と比べて縄張りも兵力も何もかもが足りねぇんだ。だから無理だ。諦めるしかねぇ……」

 

 そう言ったバギーはモージ達に背を向けた。

 彼の前には誰もいない。

 念の為、見聞色で探ったが、それでもやっぱり誰もいない。

 

 確認したバギーはニンマリと笑った。

 

 これなら分かっただろう、無理なものは無理なんだ。

 命は大事だぞ。

 実力も兵力も何もねぇから……宴会も断るしかねぇよな!

 何で俺があんな化け物共の宴会に参加しなきゃならねぇんだ!

 

 シャンクスの野郎、本当に昔から碌なことをしやがらねぇ――!

 

 

 そのときだった。

 

「キャプテン・バギー……俺達、浮かれてました」

 

 掛けられた声にバギーは自分の思惑通りに事が進んだと確信しつつ、振り返った。

 するとそこには――見事な土下座を披露するモージ達の姿が。

 

 思わずバギーが呆気に取られていると彼らは口々に告げる。

 

「キャプテン・バギーの強さに甘えて、自分達を鍛えてこなかった!」

「キャプテンは本当なら新世界でも通用する強さなのに、俺達が足を引っ張っている!」

 

「だから、俺達はもっと強くなりてぇ!」

 

 悔しさのあまり、泣きながら叫ぶモージ達に、バギーは目が点になりながらも思う。

 

 ダメだこりゃ――!

 

 そして、彼は暗澹たる気分となりつつも、仕方なく告げる。

 

「偉大なる航路にちょっとだけ入って……地道に修行と兵力増強その他色々をやっていくぞ。ただし、ヤバくなったらルナシアの傘下に入る! それだけは約束してくれ!」

 

 その提案をモージ達が拒むわけがなかった。

 彼らにとって、バギーのルナシアの傘下に入るという部分は自分達の命を守る為に、そう言ってくれているのだと思っている。

 

 なお、バギー本人はというと予防線を張ったことで、非常に気が楽になっていた。

 

 

 こうして、バギー海賊団は偉大なる航路の前半に拠点を移すことになったのだった。

 

 

 

 




活動報告に原作のアマンドに関する妄想予想アリ。

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