宴会島におけるどんちゃん騒ぎは夜通し続き、翌日の昼頃になってようやく解散となった。
後片付けも夕方までには終わり、宴会のために雇われていた者達も各自撤収していく。
そして、ルナシアに雇われていたチョッパーはドラム王国へ、サンジはバラティエに戻っていった。
一方で、ブルックは昔と比べて変わった世界を見て回りたいと旅に出て、ゾロは偉大なる航路の前半へ修行に赴いた。
彼らが1つの海賊旗の下に集うかどうか、定かではなかった。
さて今回、1つの島に皇帝達や冥王までもが集って酒を飲み交わすというだけでも、世界がひっくり返る程の衝撃があった。
だが、ルナシアによってここにさらなる一撃が加えられた。
それは火拳のエースがロジャーの息子であり、その上、彼女の傘下にいるということだ。
知っていたのは全世界でもほんの一握り。
しかし、今回のことで一瞬にして世界に広まった。
その最大の原因であるのはモルガンズであったのは言うまでもない。
また彼は記事に使うため、写真を大量に撮った。
数多くの写真の中から、彼が一面を飾るに相応しいと選んだものは7人の皇帝達と冥王、エースが並んでいるものだ。
全員酔っ払っていたこともあってか、誰もが笑顔であった。
他にも色んな写真をモルガンズはレンズに収めており、それらを全て使った。
シキとルナシアが漫才をやっているところや、暴れそうになったカイドウを全員でしばいているところ、あるいはエースが白ひげ・金獅子・冥王の3人からロジャーについて教えられているところ、リンリンがブルックを欲しがって冥王に止められているところなどなど――
どれもこれも色んな意味で凄まじい写真ばかりであり、モルガンズは印刷料が高くなってしまうことを承知で、写真を全てカラーで印刷した。
さすがに新聞の値段を上げたものの、それでも飛ぶように売れて、発行部数及び販売部数は過去最高を記録したのは言うまでもなかった。
光月おでんは1人、自室にて酒を呑んでいた。
おでんもまたロジャーを知る人物であるが、彼は驚くべきことに宴会には参加せず、ワノ国にいた。
そのとき彼は突然立ち上がって、息を思いっきり吸い込んだ。
そして――
「やっぱり俺も行きたかったぁ!」
城中に響き渡る程のデカイ声で叫んだ。
しかし、これは毎日1回は必ずある発作のような扱いになっていた為、もはや誰も気にしていない。
むしろ、うるさいと苦情がくる始末だ。
10年程前、彼はスキヤキより将軍の位を譲られ、自身は九里大名の地位を長男のモモの助へ譲っていた。
これに伴っておでんは昔から地道に進めていた開国の為の準備を加速。
開国は秒読み段階であり、最後の調整という段階で降って湧いたのが今回の宴会だ。
とはいえ、おでんもさすがに今の状況で国を離れるのはマズイという判断があった。
最後の詰めを誤ると碌でもないことになるかもしれないからだ。
故に彼は我慢した。
ルナシアから誘われたが、開国の為と断って。
代わりに彼女は映像電伝虫によって宴会の様子を中継してくれた為、宴会で何があったかはおでんも目撃していた。
開国したらエースをうちに招いて、色々と話をしたいものだ――
おでんはそう思いながら、うんうんと頷くのだった。
「海賊達の宴会が閉幕……」
カヤは新聞を読んで呟いた。
クラハドールがキャプテン・クロであり、自分の命を狙っていたという一件は彼女の心を大いに傷つけたものの、仲が良いとある少年との会話によって癒やされている。
何気なく時計を見て、その少年――ウソップが来る頃だと思ったとき、執事のメリーから来客を告げられた。
来客とは勿論、ウソップであった。
彼はいつもの調子でカヤに大げさに嘘の冒険譚を語ってみせ、彼女はそれに笑ってしまう。
いつもの光景であったが、先程読んでいた新聞の記事についてカヤは尋ねてみることにした。
「ウソップさんは海賊達の宴会があったことについて、ご存知ですか?」
「海賊達の宴会?」
はて、と首を傾げるウソップ。
彼は新聞を取っていなかった為に知らなかった。
その様子を見て、カヤはメリーに新聞を持ってきてもらい、それをウソップへ渡した。
ウソップは新聞を隅から隅まで読み、目を輝かせた。
そして、彼は告げる。
「俺も勇敢なる海の戦士に……!」
「……いずれ、ウソップさんも旅立ちますか?」
しかし、カヤの問いかけにウソップは何も言えなくなってしまう。
彼の性格的に自分より強い奴にぶつかっていけるかというとそうではない。
臆病であることは彼自身、よく分かっているのだ。
押し黙ってしまうウソップにカヤは告げる。
「大丈夫です。最初から強い人なんて、どこにもいませんから……前に来た中将さんも凄く強かったですけど、聞いた話では鍛えて強くなったそうですし」
「……ありゃ本当に強かったなぁ」
カヤとウソップの脳裏に蘇るのは、キャプテン・クロが最後の悪足掻きをしたときの光景だ。
海軍本部中将率いる海兵達が来たことを彼はいち早く察知し、また包囲されている為か、逃げられないと悟ったらしい。
クロは抵抗しようとしたのだが、中将によって一撃で倒れてしまった。
そのときに中将が言ったのはたった一言。
弱すぎる――
その言葉を聞いて、偉大なる航路にいる連中はヤバいヤツばかりだとウソップが思ったのは言うまでもない。
「それに私、信じてます」
そして、カヤの言葉と表情にウソップはドキッとしてしまう。
彼女はとても綺麗な笑みを浮かべ、力強く告げる。
「ウソップさんはきっと勇敢なる海の戦士になると……!」
そう言われてしまうとウソップも男だ。
だが、彼は何だか照れくさく感じて、鼻の下を人差し指で軽く擦る。
気を取り直して、彼は自身の胸を軽く叩いて宣言する。
「よぉし! たった今から鍛えて鍛えて鍛えまくるぞ! 勇敢なる海の戦士になる為に!」
とりあえず1年くらい鍛えまくってみよう――
もしかしたら1人で海に出ることになるかもしれないし、少しだけ航海の勉強もしておこう――
彼は心の中でそう思う。
カヤにカッコ悪いところは見せられない、という男心だった。
企みも宴会も無事に終わったルナシアは、息つく間もなくラフテルへの航海に向けて準備を加速させていた。
といっても、ブラッディプリンセスを動かすと面倒くさいことになる為、以前にトムへ依頼して、建造してもらった船を今回は使用する。
この船に使用された材木は、金にあかせてかき集めた宝樹アダムのものだ。
船の性能面では速力・機動性・頑丈性の3つを重視しており、また内装は豪華客船並みだが、武装は最低限に留めている。
武装が最低限である理由は大砲よりも、乗っている連中が直接戦ったほうが遥かに大規模な破壊を引き起こせる為だ。
そして、ヴィクトリー号と名付けられたこの船に乗り組むのは、船長のルナシアと30名程の船員だ。
もっとも、航海士であるナミと考古学者であるロビン、そしてサボとエースは確定している。
エースをルナシアが入れた理由は言うまでもなく、ロジャーが見たものを見せてやりたかったというもので、サボはもしも何かの拍子にエースが暴走しそうになったときの抑え役だ。
エースはロジャーとは性格が違うように見えるが、それでもスペード海賊団の面々によれば仲間を侮辱されたときに、彼は冷静さを失って怒り狂うとのことだ。
そういうところはロジャーそっくりであった。
なお、船員の選抜基準は実力よりも性格が重視された。
もしもラフテルにあったのが古代兵器の類で、それを使って世界を支配してやるという野望を抱かれても困る為だ。
ルナシアは船員の選抜を行いつつも、アマンド達に留守を任せることになる為、彼女達に指示を出し、またしばらく会えないことからなるべく一緒に過ごした。
アマンド達までも離れるのは、勢力圏に何か起こった時に対処が難しくなる為だ。
彼女達は渋ったものの、最終的にルナシアが行く前は勿論、帰ってきた後も何でもするから、という条件で納得してくれた。
そして、宴会が終わってから1ヶ月程が過ぎたときのことだ。
この日、ルナシアは朝ご飯を食べた後からアマンドの私室で彼女の膝の上に座らされ、好き放題されていた。
といっても、それは刀で滅多刺しというようなものではなく、頭を撫でられるなどのかなり穏やかなものだ。
そんなルナシアのところへロビンが訪ねてきた。
彼女は好奇心を抑えきれないような、ワクワクとした顔で告げる。
「ルナシア、解読が終わったわ。そっちの準備が整えばいつでも行けるわよ?」
問いにルナシアはアマンドへ視線をやると、彼女は静かに頷いた。
それを見てルナシアは告げる。
「明日にでも出発するわ。本当に何があるのかしら……楽しみだわ」
ルナシアにとって世界の真実はさておいて、笑ってしまう程の莫大な宝が目的である。
その正体が気にならないわけがなかった。
たぶん次で終わり。