「まったく、とんだ笑い話だったわ……ちょっと聞いてよ、ロックス」
ルナシアは溜息を吐いて、ロックスの墓へ語りかけた。
ルナシア達は特に何事もなくラフテルへ辿り着き、調査して帰ってきた。
一番の強敵は天候だが、ナミが大活躍であった。
彼女の指示通りに船を進ませれば、どんな大嵐だって乗り越えてしまう程の神業だ。
また、傘下ではない海賊や海軍に見つかったとしても手出しをされず、海王類が襲ってきたら、彼らはその日の食事になったのは言うまでもない。
そんなこんなで、無事に到着したラフテルでルナシア達が見たもの、それは――誰一人例外なく全員が笑ってしまうものだった。
「あんなの、ズルいわよ。笑うに決まっているじゃないの……」
ルナシアは再度、溜息を吐いた。
何があっても絶対驚かない、笑わないという覚悟をしていた彼女ですらダメだった。
彼女はラフテルからの帰還後、念の為に間違っていないか、レイリーとおでんを訪ねて答え合わせをしている。
「レイリーもおでんも私が答えを言った瞬間、してやったりという顔をしたのよ。本当にアレ、ムカついたわ」
そう言って、彼女は懐から土の入った袋を取り出した。
「財宝は何も持って帰ってこれなかったけど、お土産なしだと私が悔しかったので、ラフテルの土とか植物とかそういうものをたくさん持って帰ってきたわ」
誰もラフテルのものだと信じちゃくれないけど、とルナシアは言いながらロックスの墓前に土を供えた。
こんなものはいらねぇ、酒を寄越せという声が聞こえてきそうなので、彼女は彼がよく呑んでいた酒も持ってきていた。
それを墓標にかけながら、語りかける。
「レイリーとおでんにもラフテルの土をぶっかけといた。ロジャーとの大冒険を思い出してくれたと思うので、とても良いことをしたと個人的に思う」
うんうんとルナシアは頷いて、言葉を紡ぐ。
「私はいつになったら、そっちに行くか分からないけど……ま、それまで精々ロジャーと仲良くして頂戴。それじゃ、またね」
ルナシアは微笑んで、踵を返した。
ロジャー達も自分達もまだ早すぎた――
でも何となくだけど、そう遠くないうちに時期は来る。そんな気がする――
ロックスの墓を後にしながら、ルナシアはそう思う。
ただ、彼女の目的は世界の真実を知ることでもラフテルの宝を手に入れることでもない。
ラフテルに何があるかを知ることだった。
知った今となっては、そこまで興味をそそられないというのは確かだ。
とはいえ、分かったことがある。
「ジョイボーイとロジャーが同じ時代に生きていたら、絶対意気投合したと思う。それだけは間違いない」
ルナシアはそう呟いた。
そして、その日の夜のこと。
どこかの船の廊下にルナシアは立っていた。
周囲を見回して確認するも、船はブラッディプリンセスでもヴィクトリーでもない。
自分の部屋のベッドで寝た筈なのに、と思いつつも、彼女はこの船のどこへ行くべきかは何故か分かっていた。
夢なんだろうな、とぼんやりと思いつつ――それでも彼女はお約束のことをやった。
自分の頬を引っ張ってみたが痛みはなく、麻痺しているような感じだ。
そんなことをやりつつも、やがて彼女は船長室に到着する。
静かに扉を開けて中の様子を見てみると、そこにいたのは――予想通りの人物と予想外の人物だった。
1人はロックスで、もう1人はロジャーだ。
2人して机を挟み、いがみ合っている。
「……いや、せめてこういうときくらいは仲良く酒盛りでもしていなさいよ」
ルナシアは呆れた顔でツッコミを入れてしまう。
そこで2人は彼女に気づいて、顔を向けた。
そして彼らは問いかけてくる。
「そんなことよりも、お前は俺みたいに支配を選んだのか?」
「バカ言うな! 俺みたいに自由を選んだに決まっているだろう!」
ギャーギャー言い合う2人にルナシアは笑ってしまう。
夢であることは明らかだ。
「その質問に答える前に、ちょっと言わせて……2人とも、たとえ夢でもまた会えて嬉しいわ。それとロジャー、あなたの息子をラフテルに連れてったわ。めちゃくちゃはしゃいでた」
「これは俺の勝ちだな! ロックス! またお前に勝ったぞ! あとルナシア、息子の面倒を見てくれてありがとうな!」
「何だとこの野郎……! まだルナシアは答えてねぇだろ!」
勝ち誇るロジャーに悔しげなロックス。
その様子にルナシアはくすくすと笑ってしまう。
たとえ夢であり、彼らは自分が創り出したイメージみたいなものであっても、きっと2人が戦うことなく一緒にいたらこんな会話をしそうだな、と思ってしまった。
「おい、ルナシア。いい加減に答えろ。どっちだ? 支配か?」
「いや、自由だろう?」
2人からの問いかけにルナシアは胸を張って答える。
「私はロジャーみたいに自由を愛せないし、かといってロックスみたいに世界を全て支配してやろうっていう気もない」
彼女はそこで一度言葉を切り、そしてゆっくりと告げる。
「あなた達が好きにやったように、私も好きにやらせてもらったわ。あなた達からすれば私は中途半端で、海賊らしくないかもしれないけどね。でも、それが私の答えよ」
そう言って、ルナシアはウィンクしてみせる。
するとロックスとロジャーはその答えを聞いて大いに笑う。
そして、2人の笑顔を見たところで彼女の意識は暗転した。
ルナシアはゆっくりと目を開ける。
寝ぼけ眼を擦りつつもベッド上にて上半身を起こし、周囲を見回す。
間違いなく自分の部屋だ。
昨夜、呑み散らかした酒瓶が転がっているのが見えた。
彼女はベッドから出て、窓から外を眺める。
見慣れた景色であったが良い夢を見たからか、いつもより美しいと思う。
「あの夢こそ、私にとっての
ルナシアはそう呟き、微笑んだ。
彼女の視線の先には朝日に照らされた、青々とした海がどこまでも果てしなく広がっていた。
これにて完結です。
途中で変な方向にいきかけましたが、皆様のおかげで戻ってこれました。
その節は本当にありがとうございました!