海賊らしからぬ海賊   作:やがみ0821

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ワノ国にて

 鎖国をしているワノ国に入国するには地理的な問題もあって困難だ。 

 しかし、ロックスが敢えてルナシアに任せた理由は彼女の持つ非常に便利な能力にあった。

 

 

「やっぱりこの世界では空を飛べるって非常に便利だと思う」

 

 ルナシアは背中から蝙蝠のような翼を生やして空を飛んでいた。

 10億ベリー分の金の延べ棒が詰まった巨大なトランクを5つと手荷物が入ったトランクを1つ両手に持っていた。

 

 この飛行能力はロックスとルナシアしか知らない吸血鬼としての能力の一つだ。

 他にも色々と能力があるが、それらの全てはルナシア本人を除けばロックスしか知らない。

 不死身以外の能力があることはロックスとの訓練で分かったことで、こういったものは口外しない・第三者の目があるところでは緊急時を除いて使用しないと2人の間で取り決めていた。

 

 今回も船からわざわざ小舟に乗り換えて、船が水平線から完全に見えなくなるまで待った上で飛行能力を使用するという徹底ぶりだ。

 

 そんなこんなでルナシアはワノ国の森の中へ降り立ち、空から見えていた最寄りの城下町らしきところへ向かった。

 看板によれば九里とかいうらしく、その町並みに彼女は懐かしさを感じる。

 

 ワノ国は日本的な感じであったのだ。

 とはいえ、それは江戸時代あたりのものであるが――それでも日本的なものは随所にあった。

 

「めっちゃうまい……」

「そうだろう! ここの団子は一押しだ」

 

 ルナシアはその見た目からジロジロと見られたが、いきなりナンパをしてきた歌舞伎役者みたいな姿をした輩に案内され、茶屋の団子を奢ってもらっていた。

 

「あなたの名前は? 私はルナシア」

「俺は光月おでん。九里の大名だ」

 

 ルナシアは胡散臭いものを見るような目をした後、異人ということでジロジロ見ている通行人達へ視線を向ける。

 

「本当に大名なの?」

 

 問いに通行人達は首を縦に振る。

 ルナシアは内心で高笑いをしてしまう。

 このチャンスを逃がすわけにはいかない。

 

「おでん様とでも呼んだほうがいい?」

「いや、構わない。好きに呼んでくれ」

「じゃあ、おでん。実は私、刀が欲しくて……あと色々な事情で光月家と仲良くしたいのよ」

 

 その言葉におでんは何かがあると察して、告げる。

 

「場所を変えよう。城で話したい」

「ええ、よろしく頼むわ」

 

 

 

 おでんの提案でルナシアは九里の城へと案内された。

 彼女は日本的な城に感動し、ついついあれこれとおでんに尋ねてしまう。

 すると彼も色々と話をしてくれた。

 

 そんなこんなで城内で寄り道をしまくって、ようやく目的の部屋についたときには2人ともすっかり意気投合してしまった。

 

 

「黒炭って知っている?」

「聞いたことはあるな」

「黒炭ひぐらしっていうのがいるんだけど、ロックス海賊団っていうところから何かを得て逃げたのよ」

 

 おでんは首を傾げる。

 

「それがどうして光月家と繋がるんだ?」

「私もよく分からないんだけど、黒炭は昔、権力闘争で光月家に敗れたらしいのよ。だから、その黒炭ひぐらしが御家再興の為に反乱を起こすかもっていう忠告ね」

 

 ふむ、とおでんは腕を組んだ。

 

「俺には難しいことは分からん。だが、手を出してくるならぶっ飛ばす」

「でも、あなたって搦め手に弱そうな感じがする。あっさり足元掬われそう」

「そんなことはねぇぞ!? 罠ごと破壊すればいいからな!」

「そういうところよ。忠告はしたから、偉い人達を集めて対策とかしたほうがいいんじゃない?」

 

 おでんはルナシアの言葉に素直に頷いた。

 

「かたじけない」

 

 そう言って深く頭を下げるおでんにルナシアは感動してしまう。

 

 時代劇で見たやつだ――!

 

 彼女が感動している中で、おでんは頭を上げて問いかける。

 

「ところで色々な事情と言ったが、その事情とは?」

「実は私、ロックス海賊団っていうところで副船長をしているのよ。で、件の黒炭ひぐらしは私達の情報を海軍に売りつけたのよ」

 

 おでんはその話に思わず身を乗り出す。

 

「そいつは許せねぇな。落とし前をつける必要がある」

 

 彼はこういうことに関しては状況の飲み込みが速かった。

 ルナシアは告げる。

 

「といっても、ただ見つけ出して殺すんじゃ駄目。親族を目の前で殺すってのも足りない……」

 

 そこで一度言葉を切って、ルナシアは彼に提案する。

 

「ひぐらしがワノ国にやってきて、黒炭家の再興を図るなら光月家にとっても脅威。だから私は光月家に協力してひぐらしの企みを潰した上で奴を始末したい」

 

 そう告げて、彼女は数秒の間を置いて更に告げる。

 

「それによって私達は落とし前をつけることができて、光月家は反乱の芽を事前に潰せる。私達もあなた達も互いに利益しかないわ」

 

 おでんは重々しく頷きながら告げる。

 

「ただちに父上に相談する」

「ええ。それとひぐらしは見た目は婆さんだったけど、悪魔の実っていう特殊能力が得られる果物があるの。もしかしたら変装にうってつけの能力があるかもしれない……内乱目当てなら権力者とか有力者に化けるのが一番手っ取り早いからね」

「度々の忠告、かたじけない……」

 

 頭を下げるおでんにルナシアは手をひらひらと振ってみせ、彼女は口を開く。

 

「ところで話は変わるんだけど、いいかしら?」

「構わない。刀の件か?」

「ええ、そうよ」

 

 ルナシアは答えながら、巨大なトランクの3つを彼の前へと差し出す。

 そして、彼女がそれを開けるとそこには金の延べ棒が詰め込まれていた。

 

「ここに30億分の金塊があるわ。ワノ国で一番腕の良い鍛冶職人に特注の刀を作って欲しい」

「30億分の金塊!?」

 

 素っ頓狂な声を上げて飛び上がるおでんにルナシアは大爆笑してしまう。

 とはいえ、ルナシアが海賊ならばその出処は誰にでも予想がつく。

 しかし、彼はそんなことは気にしない。

 だが、彼の性格的に受け取れなかった。

 

「お前は重要な情報を伝えてくれた。なら、金なんぞいらん」

 

 義理人情に厚いおでんにとって、光月家の危機どころかワノ国全体の危機に発展しかねない黒炭ひぐらしの情報を伝えに来てくれただけでも千金に値する。

 それとこれとは別の話であったとしても、おでんにとってルナシアは恩人である。

 そんな人物から紹介料を取れるわけもない。

 

 しかし、ルナシアは深く溜息を吐く。

 こういう義理人情に厚い人物というのは彼女個人としても好感が持てるのだが、取引では別だ。

 

「おでん、あなたのそういうところは美点であるのだけど、これは取引なのよ」

 

 ルナシアはそう告げて、一拍の間をおいてから更に言葉を続ける。

 

「代金を支払うことで責任が生じるから、より一層しっかりやらなくちゃならないって心構えになると思う。あとカネは天下の回りもの、つまり民の生活に関わってくるのよ」

「生活?」

 

 首を傾げるおでんにルナシアは告げる。

 

「見たところ、あなたって大金を得てもそこらの悪党みたいに貯め込んで、自分の欲を満たす為だけに使うようなタイプじゃないでしょ?」

「……そ、そうだな!」

 

 過去には遊郭で城のカネを使い込んだ経験がある為、おでんの目が泳いだ。

 

「え、もしかして間違ってた?」

「今は違うぞ!? 昔、子供の頃にちょっと城のカネを使い込んだが貯め込んではない……」

「昔のことならいいんじゃないの。ともあれ、私がこのカネを渡すことであなたは色んなことができる。治水をしたりとか、開墾をしたりとか……」

 

 なるほど、そういう意味であったかとおでんは手を叩く。

 

「治水や開墾の為に民を雇って給金を払えば、それで民達は生活ができる。そういうことを繰り返して、国ってのは豊かになるのよ」

 

 納得して大きく頷くとおでんはルナシアに真剣な表情で告げる。

 

「ルナシア、俺や家臣達はまだまだ勉強不足だ。かといって、堅苦しい連中をよそから招き入れるのも嫌だ」

「あ、何だかすごく嫌な予感がする……」

「どうだ? 俺の家臣にならないか?」

 

 予想通りの言葉にルナシアはまたまた溜息を吐く。

 

「職人に依頼してから刀が出来上がるまでは時間が掛かる。材料集めから何からで最低でも数ヶ月は必要だろう。無論、その期間の給金は支払う」

「ちょっとボスと相談させて」

「構わん」

 

 おでんの許可が出たので彼女は一度部屋から出て、ロックス直通の電伝虫を懐から取り出した。

 

「ロックス、ワノ国でおかしな展開になったんだけど」

『ほう?』

「光月家のおでんという大名に黒炭ひぐらしの件は伝え、関係は築けたわ。それで刀なんだけど……」

『作成に時間が掛かるのか?』

「ええ。最低でも数ヶ月は掛かるんじゃないかって。その間、おでんの家臣にならないかって誘われた」

『構わん、自由にしろ。必要になったら連絡する。俺のビブルカードは持っているな?』

「持っているわ。それなら自由にするから」

 

 電伝虫での通信が切れる。

 ルナシアは意気揚々とおでんの待つ部屋へと戻り、そして告げる。

 

「もしも途中でボスから呼び出しの連絡が来たら、そっちを優先させてもらう。あと家臣というよりも相談役という形にして欲しいわ」

「よし! それじゃ今日からお前は俺の家臣だ!」

「話を聞けバカ殿」

「おうおう、俺はバカ殿だからお前みたいな優秀な奴が必要だ!」

 

 ルナシアは早くも後悔したのだが、ともあれ滅多に無いチャンスだ。

 将来の為にも実務経験を積んでおく必要があった。

 

「じゃあ、九里全体の視察を行いたいわ」

「任せろ。だが、まずは他の家臣達との顔合わせだ。良い奴ばかりだから心配するな」

「あなたの家臣ってだけでそこはかとなく不安しかないわ……色んな意味で」

 

 ルナシアの予感は5分後に見事的中し、彼女は心の中で泣いたのは言うまでもない。

 しかし、イゾウと菊の丞という兄弟は彼女的にセーフであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでルナシアがワノ国九里大名光月おでんの家臣――本人は相談役と言い張っている――になって2週間。

 九里のことを視察したり資料を読んだりで時間が過ぎてしまったが、ようやく彼女は当初の目的である刀鍛冶の職人に特注品を作ってもらうべく、おでんと共に編笠村へ赴いた。

 気難しい性格であるが、腕は確かだというおでんの言葉にルナシアはワクワクしていたのだが――その職人はルナシアを見るなり、思わず見惚れて鼻の下を伸ばしてしまう。

 

「おっと失敬! わしは天狗山飛徹と申す!」

 

 慌てて取り繕いながら、手近にあった天狗の面で顔を隠しながら挨拶をするものの、色々と台無しである。

 

「おう、今度俺の家臣になったルナシアだ。刀が欲しいから、特注で作ってくれ」

「何と、あのおでん様がこんな別嬪を家臣に!? 実は婚約者では……?」

「ないない、それはない」

 

 ルナシアは即座に否定しつつ、用件を告げる。

 

「おでんが言ったように、刀を作って欲しい」

 

 彼女は真摯な表情で伝えると、飛徹は目を細めつつ、ルナシアに手の平を見せるよう伝える。

 

「刀を使い始めたのは最近だな?」

 

 ずばりと指摘する飛徹にルナシアは素直に頷いた。

 

「それなら特注品を作る意味などない。素人が持ったところで刀に振り回されるだけだ」

「そこらに売っているやつで満足に刀が振るえるなら私も苦労しないんだけどね……ちょっとそこらにある刀を振らせてもらってもいいかしら?」

 

 ルナシアの問いかけに飛徹は頷きながら、そこらにあったなまくら刀を彼女へと渡した。

 

 受け取ったルナシアは刀を正眼に構えた。

 そして、その刀に覇気が込められていく。

 おでんは流桜が使えることに感心し、飛徹はルナシアが特注品を求める理由を察した。

 刀身にはみるみるうちに罅が入っていくが、ルナシアは構わずそのまま振り下ろした。

 同時に刀身が粉々に砕け散ってしまう。

 

「お前の力に耐えられないんだな、並の刀では」

 

 飛徹の言葉にルナシアは頷き、告げる。

 

「おでんには金塊を渡してある。必要な代金は彼から貰ってほしい」

「うむ。ルナシアからは確かに金塊を預かっている。代金としては十分過ぎる量だ。勿論、まだ手を付けていないぞ」

 

 飛徹は溜息を吐く。

 将来、手を付けるとおでんは言っているに等しいのだ。

 

「九里の大名からそう言われたんでは、やらんわけにはいかんな。どういうのが欲しい?」

「私の力に耐えて、全力を出しても壊れたり刃こぼれしない刀……あと海楼石を組み込めないかしら?」

「難しい注文を出す娘だな……海楼石の加工には光月家の協力が必要不可欠だが……?」

 

 そう言いながら、飛徹はおでんへ視線を向けた。

 

「構わんぞ。期間限定とはいえ俺の家臣だ」

 

 あっさりと許可を出すおでんに飛徹は笑みを浮かべつつ、ルナシアに告げる。

 

「刃を海楼石にするのは不可能だ。だが、柄頭や鞘尻に仕込むことはできる」

「そこに仕込んだ上で、全力で殴っても大丈夫な程度に鞘とか柄とかの強度を上げることは可能かしら?」

「可能だ。だが、お前の力に耐える為に鞘も刀も普通のものより重くなる。そこは覚悟しておけ」

「分かったわ。私はこの刀以外に生涯持たないって思えるくらいの最高傑作をお願い」

「そこまで言われたらやらんわけにはいかん。全身全霊を込めて打とう。だが、黒刀になるかどうかはお前次第だ」

 

 そう告げる飛徹にルナシアは力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 そして帰り道、ルナシアはおでんに尋ねる。

 

「黒刀になるってどうやるの? っていうか黒刀って何?」

「知らなかったのか!?」

「知らない! シキは教えてくれなかった!」

「シキって誰だよ!? いいか? 黒刀に成るにはだな……」

 

 おでんの説明にルナシアは理解する。

 要するに武装色の覇気を纏って刀を使いまくれば武装色の覇気が染み付いて、刀の強度が上がるらしい。

 いいことを聞いた、と彼女は満足しながら、自分の刀が出来上がるのが非常に楽しみに思うのであった。

 

 

 

 

 

 


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