黒炭家による策略を阻止したとして、ルナシアはスキヤキより褒美を賜ることになった。
そこでスキヤキ達は驚くことになる。
彼女は交易をして欲しいと頼んできたのだ。
それ以外にも正規ルートでの入国を認めて欲しいとか、ワノ国の空いている土地に屋敷を建てたいとか自分を鍛えて欲しいとかそういうものばかりで、スキヤキが予想していた海賊らしい財宝の要求だとかそういうものは一切無かった。
更にルナシアはワノ国が鎖国している事情を考慮して、開国はしなくてもいいから交易してくれるだけでいい、と頭を下げてみせた。
おでんは開国はしなくても云々というところに不満げな顔を見せたが、すぐにニンマリと笑い、彼もスキヤキ達の説得に回る。
碌でもないことを企んでいるのは丸わかりであった。
しかし、大恩あるとはいえルナシアは海賊である。
それもロックス海賊団は世界政府と海軍へのテロ活動を主としている。
そこらも彼女は要求を出した後に説明したが、おでんが誰よりも早く理解を示し、提案した。
ルナシアにワノ国周辺の海を縄張りにしてもらって、面倒な連中を遮断してもらえばいいだろう――
そのおでんの言葉がきっかけとなり、スキヤキ達はあることを思いつき、ルナシアに提案する。
要求を全て受け入れるが、代わりにワノ国を付け狙う外敵がいた場合、一緒に対処して欲しいというものだ。
海賊に限定していないところがミソであり、世界政府と海軍が敵としてやってきた場合も含まれていることが暗に示されている。
ルナシアとしても世界政府や海軍との敵対は今更のことであったので快諾し、それなら同盟を結ぼうと提案し、スキヤキ達は承諾した。
世間一般的に悪人であるルナシアだが、そんなのは今更である。
札付きのワルであった連中を飼い慣らし、配下とするのはおでんの得意とするところだ。
彼が手綱を握ってくれるなら大丈夫だとスキヤキ達は判断し、決断したというわけであった。
そして、ルナシアはおでんの家臣でもあったので――本人は再び相談役と言い張っている――彼女は刀ができるまでの残りの日々を実務を行いつつ、鍛錬に精を出す。
何分、鍛錬相手には事欠かない。
おでんや錦えもんをはじめとした家臣達、白舞をはじめとした各地の侍達、果てはおでんが仲良くしているという裏社会の連中にルナシアは片っ端から相手をしてもらった。
彼女が身を以て分かったこと、それは侍達やワノ国の裏社会の連中が半端なく強かったこと。
特におでんはロックス海賊団でも実力的に十分やっていけそうであり、ニューゲートあたりと気が合いそうな予感がルナシアにはあった。
とはいえ、口に出せばおでんはそういうことには地獄耳で、連れて行けと言い始める為、絶対に口には出さなかった。
一方、内政面ではルナシアは治水と開墾、そして商業の振興や医学などの学問の発展に尽力する。
彼女は刀が出来上がるまでの残る数ヶ月程度ではほとんど進捗しないと考え、5年単位・10年単位で予算を組み上げ、またおでんと共に康イエら他の大名やスキヤキにも協力を仰いだ。
知識を持った文官が九里には圧倒的に不足しており、ルナシアも前世でその手の専門家というわけではなかった為、それを補う必要があった。
おでんにとって文官は堅苦しい輩ばかりでソリが合わない為、渋い顔であったが、九里の為に我慢した。
もっとも実際に文官達の指揮を執り、各方面との折衝や色んな計画の立案等を行ったのはルナシアだった。
ロックスに交渉の仕方も教えられ、また実際に海賊団の副船長として商人相手に実践したことが有利に働いた。
しかし、それだけではない。
ルナシアは根回しを重視し、どんな相手にも頭を下げることと感謝の言葉を述べることを厭わなかった。
それが良い結果をもたらすことになる。
黒炭家という単語こそ出ていないが、内乱を起こそうとしていた者達がおり、国外からやってきた彼らの情報をルナシアが提供し、光月おでんと共に打ち倒したということは瓦版にて民衆に広く知らされている。
そんなルナシアが誰にでも頭を下げて協力をお願いする――その謙虚な姿勢に民衆は心を打たれた。
そして、それは彼女を従えているおでんの評判を上げることにも繋がっていく。
そんな中でルナシアは手元に残っていた20億ベリーを個人的な趣味と実益を兼ねた事業に使用することにした。
「孤児院を建てるから土地を頂戴。計画書とかは既に作成してあるから……」
「おうとも。構わねぇぞ! 好きなだけ持っていけ!」
ルナシアの言葉を特に考えることもなく許可を出すおでん。
相変わらず心配になってしまうが、彼女としては好都合だ。
しかし、筋は通しておく必要がある。
「ワノ国中の孤児達を集めて、私の孤児院で教育する。資金は私が持っている金塊を使う。もしもその中で私についてきたいって子がいたら、将来的に私の部下にしたい」
ルナシアの言葉におでんは顎に手を当てる。
「うーむ……お前は将来的にはロックスから独立して、国を持つような海賊になるんだろ? ならまあ、別にいいんじゃねぇか? 同盟国みたいなもんだし」
「……あなただけじゃ不安だからスキヤキ様と康イエ様にも許可を取っておくわ」
「おいコラ、それはどういう意味だ?」
「そのままの意味よ」
「上等だぁ! 表ェ出ろ!」
「あ、仕事があるので」
ルナシアはそう言ってそそくさと逃げた。
仕事と言われてはおでんも追うわけにも行かない。
「そういや最近、菊の丞が妙にルナシアに懐いているな……」
黒炭の一件後、ルナシアから手を出したらしく、最近では菊の丞と一緒に風呂に入ったり寝たりするらしい。
年齢差があることから、仲の良い姉弟にしか見えないが、そんなものではないだろう。
イゾウも察しており、2人の仲を祝福するつもりらしいとおでんは小耳に挟んでいた。
勿論、おでんもそうなったならば当然祝福するし、菊の丞が家臣を抜けてルナシアとの道を歩むならばそれもまた良し。
というよりも、自分も外へ連れて行くよう要求するつもりだ。
ワノ国では大名であるが海でそんな肩書なんぞ意味がない。
ならばいっそのこと、ルナシアの下で海賊をやるのも楽しそうだ――
「何はともあれ、めでてぇめでてぇ……」
そう言って、おでんは笑うのだった。
「ルナシア様、孤児院の件はどうでしたか……?」
ルナシアは自身の部屋へと戻るとそこには菊の丞が待っていた。
「バッチリよ。でもおでんだけだと不安だから、スキヤキ様とか康イエ様にも話を通しておくわ」
すると菊の丞は満面の笑みを浮かべてルナシアへ飛びついた。
そもそも孤児院を作ろうと思ったのは彼女が彼の過去を聞いたことにある。
それなら孤児院を開いて教育して、自分についてくる子達を育成すればいいのではないか、と考えた。
勿論、黙ってやると後々問題となる為、おでんに話したようにスキヤキ達にも同じ話をするつもりだ。
なお菊の丞には最初に説明をしてあり、彼はそれを受け入れている。
「お菊、私はあなたが欲しい」
ルナシアは幼い菊の丞を抱きしめながら、そう耳元で囁く。
その甘い声に抗う術を彼は持たない。
これまで何度もこのように声を掛けられ、彼女の願いに答えることはおでんの家臣を抜けるということに繋がり、心苦しいと思ったことは幾度もある。
しかし、あることに気がついたことで楽になった。
彼女の為に刀を振ると決めたところで、彼女も結局のところおでんの家臣。
どちらにしろトップにいるのはおでんであることに変わりはなく、またルナシアはそもそもワノ国と同盟を結んでいる。
そして彼女はワノ国をとても気に入っており、非常に馴染んでいるのは誰の目にも明らかだ。
ルナシアと共にいたとしても、ワノ国やおでんと敵対するという可能性は皆無に等しかった。
故に自分の心を優先したところで、罰は当たるまいと幼いながらも思っていた。
菊の丞はルナシアの誘いにいつものように答える。
「あなたについて行きます……ずっとお傍に……」
「お菊、ありがとう」
そう言って彼の頭を撫で始めるルナシアであったが、菊の丞はそれが心地良かった。
そこで扉が叩かれる。
ルナシアが問いかければ天狗山飛徹の使いが来ているという。
「ルナシア様、おめでとうございます」
「ええ、ありがとう」
菊の丞にそう返しながら、ルナシアはウキウキ気分で彼を連れて使者へ会いに向かった。