朝焼けの中、ゴッドバレーは静寂に包まれていた。
島の周囲は海軍の軍艦が取り囲んでおり、蟻一匹這い出る隙間も無い程だ。
それもその筈で、昨日から天竜人の団体客が観光に来ているということもあり、いつも以上の警備体制が敷かれていた。
だが、そんなものは意味などなかった。
なぜならばシキのフワフワの実で船は空から島へ突入したが為に。
瞬く間に警報が鳴らされる中、ルナシアはゾクゾクしていた。
朝日を背に空から奇襲攻撃っていいもんね、と思いながらの武者震い。
程なくしてロックス海賊団は船ごと島内へと降り立つ。
そこからは事前に定められた通りに行動するのだが、ロックスが天竜人を殺害している間、船を護りつつ島内外にいる海軍を攻撃するというがルナシア達の役目だ。
傘下の海賊共もほぼ同時に外海より海軍へ攻撃を開始することになっている。
1人1人相手にするのも面倒くせぇ――そういう意見でルナシア達は一致していたので、戦うまでもない輩にはご退場願うことにした。
その覇気を扱えるのは数百万人に1人とかいう割合であるのだが、ロックス海賊団には扱える者が多くいたのが、即応した島内の海兵達にとって悲劇であった。
攻め寄せる海兵達は発せられる覇王色の覇気にあてられて、一戦も交えることなく倒れていく。
数多の海兵達が倒れ伏して、足の踏み場もない状態になったが、その覇気を受けても平然と歩んでくる者達が存在した。
「やはり使えたか……」
センゴクはそう言いながら、睨みつける。
覇王色の覇気を出しているのは5人。
ニューゲート・シキ・リンリン・カイドウの4人は過去の戦いから使えるのが分かっている。
カイドウが見習いらしいという情報を聞いたときの驚きは今でも記憶に鮮明に残っている。
センゴクにとって腑に落ちたのはルナシアもまた覇王色の覇気を使えることであった。
ロックス海賊団No2である彼女が扱えないわけがない。
一時的にロックスのところから彼女が消えたとき、全力で海軍は捜索にあたったが、手がかりすら掴めなかった。
幸いにも、これまでは将官が出てきたら退いていた彼女が今回は退かない。
戦う意志があるのだろう。
「……あれ? 大将達はロックスに回しているからいないんだろうけど……ガープとつるは?」
センゴクは渋い顔となる。
俺がロックスをぶっ飛ばしてくる――
そんなことを言いながら、止める間もなく待機場所から飛び出していったガープ、彼の抑え役としてつるが後を追っかけたという事情があった。
「ロックスのところへ向かった。念の為におつるさんをつけてな」
「実力はあるんだけど、我の強い部下って使いにくいわよね……」
分かる分かる、とウンウン頷くルナシアにセンゴクもまた察してしまう。
我の強い連中ばかりが集まっているのがロックス海賊団だ。
彼女も副船長という立場であるが故に色々と苦労しているのだろう。
「ジハハハ! 我らが副船長にそんな迷惑を掛ける奴なんていたか?」
「さぁ、おれは知らないねぇ。副船長とは仲良くやっているからさ」
シキとリンリンの言葉にニューゲートが溜息を吐いた。
それによりセンゴクだけでなく、他の将官達も察した。
「何でお前はロックスの副船長なんてやっているんだ……?」
「行く宛が無かったので、まあ色々と……それよりもいいの? こんなに戦力を集めちゃってさ」
ルナシアの問いに揺さぶりか、と身構えるセンゴク。
「私は9ヶ月くらい船にいなかった。どうやらあなた達は消息を掴めなかったみたいだし……教えてあげましょう」
ルナシアは妖艶に微笑みながら、ゆっくりと告げる。
「エニエス・ロビー、マリンフォードなどの政府機関や海軍基地……あなた達、ちょっと平和ボケなんじゃないの?」
「その手には乗らんぞ。別働隊がどうとか言うつもりだろう? あいにくと対処できる戦力は用意してある」
センゴクの答えにルナシアはくすくすと笑い、手をひらひら振ってみせる。
「そうじゃないわ。私が船から降りている間、ちょっとしたプレゼントをあちこちに置いてきたのよ。海賊らしく見つけにくいところにね」
ルナシアの言葉の意味をセンゴク達は察し、どよめきが起こる。
傍にいるニューゲート達も驚いた顔でルナシアを見つめる。
「爆弾でも仕掛けてきたのか? どうやって起爆する?」
「電伝虫を使ってアレコレとね。嘘だと思うならやってみせましょうか?」
そう言ってルナシアは懐をまさぐり、電伝虫を1匹取り出した。
それは海賊が持っている筈がない、ゴールデン電伝虫だった。
ただ微妙に色合いが違う気がするが、バスターコール発動用のものではないからだとセンゴクらは判断する。
「バスターコールみたいに、殻にあるボタンをポチッと押すと面白いことになるわ」
その言葉にセンゴクはすぐさま手近な者に命じ、電伝虫にて各地へ爆弾が仕掛けられていることを連絡させる。
センゴクは怒りの表情を浮かべ、ルナシアをきつく睨みつける。
「やってくれたな……!」
「……将官達をそっちへ派遣したほうがいいんじゃない?」
「まずはお前達を倒してからだ。天竜人が集まる時、お前達はここを襲うだろうことは予想がついていたからな……」
センゴクの言葉と共に、集った数多の中将以下の将官達は戦闘態勢を取る。
「じゃあ、押しちゃおう」
ルナシアは躊躇うことなくゴールデン電伝虫の殻にあるボタンをポチっと押した。
するとゴールデン電伝虫のあちこちから噴水のように小さく水が吹き出し、ポンという音と共に扇が出てきた。
扇には『馬鹿め!』と書かれていた。
誰も彼もが呆気に取られてしまい、沈黙が訪れる。
その様子にルナシアは満面の笑みで叫ぶ。
「引っかかったな! バーカバーカ!」
その言葉でようやく誰もがただの嘘であったことを悟った。
怒りに震えるセンゴクら――しかし、その中で1人、大爆笑をしている将官がいた。
一斉に敵味方の視線を独り占めにするが、その将官だけでなく、彼の周囲にいる将官達も笑っていた。
例外なく帽子を目深に被っており、顔が見えない。
そして、彼らはセンゴクが怒鳴りつけるよりも早く、前へと躍り出た。
「面白いガキだな! どうだ? 俺の船にこねぇか?」
そう言いながら彼と彼に従った将官達は帽子を取った。
彼らが誰かは敵も味方も知っている。
「ロジャー海賊団!? いつの間にすり替わった!」
「ロックス達が来る1時間前だぞ。面白い祭りがあるって聞いたんだ、俺も混ぜろよ。とりあえず俺はロックスのところへ行く! ルナシア! 待ってるからな!」
彼は言いたいことを言って、離脱していった。
「うちの船長はいつもああなんだ。諦めてくれ」
そう言いながら、得物を抜くレイリーにルナシアは肩を竦めてみせる。
「うちのロックスと似ているといえば似ているわね……方向性は違うけど自由過ぎるという点で」
「否定できんな」
そんなやり取りを見ながら、ニューゲートが問いかける。
「急展開過ぎてよく分からねぇが……三つ巴ってことでいいのか?」
「そうなるな。だが、まあ後の世ではお前達を倒すべくロジャーが手を組みたいと海軍に願い出たとか都合のいいことを政府も海軍も書くだろう」
レイリーの言葉にシキが笑い、告げる。
「ならば、どちらもぶっ殺せばいいだけだ。逃げれば殺さないでおいてやるぞ、レイリー」
「そいつはできない相談だな、シキ。それにうちの船長はルナシアに興味が出てしまったらしい。ああなると面倒くさいんだ」
「相変わらずムカつく野郎共だ」
シキの言葉を聞きながらルナシアは己の得物を抜刀する。
以前にニューゲートと話したような――ロジャー海賊団が割り込んでくる――展開だとルナシアは思いつつも、背中に背負った夜を抜いた。
黄泉はまだ使わない。
まずは広範囲の破壊に優れる夜でもって、敵を減らす。
「かかってこい! 相手になってやる!」
その叫びと共に彼女は誰よりも早く駆け出した。
「副船長に続け!」
「遅れた奴は俺が殺してやるぞ!」
ニューゲートとシキもまた叫びながら、彼女の後を追い、やや遅れてリンリンらも駆け出したのだった。
なお、一番ウキウキしていたのはカイドウであり、彼にとって強者しかいないこの状況は最高であった。