魔法少女の物語   作:転寝

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透明少女のおはなし


 透明少女。

 誰にも見えない、認知されない孤独な少女。

 家族と呼べる人達に拒絶され、友人も居らず、遂には誰にも認知されなくなった少女。

 これはそんな少女が、本当の仲間を得て少し経った頃の、ちょっとした物語。

 

 

 二葉さなは図書館で本を見ていた。

 今日は学校が休みで、同居人達はそれぞれの用事で外出しており、自分自身も特にやる事は無かったのでなんとはなしに図書館へと足を運んでみた。見たい本がある訳では無いが、暇潰しにはなるしお金も掛からない。だから時折こうして足を運び、適当に本を読んでいる。

 読むジャンルは様々で、絵本や写真集の時もあれば小説の時もある。その時の気分に合わせて読む本を選べるのが図書館のいい所だと思う。

 本棚を一つ一つ見て、何かないものかと探していると、一つの本を見つけた。

 大きさはハードカバーの本位か。可愛らしい装丁が施されているその本のタイトルを見て、さなの脳髄に閃光が迸った…ような錯覚がした。

「こ、これは…!」

 本の背表紙にはでかでかと「こねこのゴロゴロ しなりおぶっく」と書いてあった。

 こねこのゴロゴロというのは、さなが好きな人形劇である。詳しく書けば紙面が尽きてしまうのでここでは割愛するが、さなは兎に角この人形劇が好きだった。

 この本はどうやら脚本集らしい。確かかなりのレア物だった筈である。さなも本屋で随分と探したが、遂に見つける事が出来なかった。

 そんな幻の本が今自分の目の前にある。自然と唾を飲み込み、それを取ろうとした時―

「あーっ!こねこのゴロゴロだー!」

 可愛らしい声が聞こえて、さなは驚き身を竦ませた。いつの間にか隣に小さい女の子が立っていて、キラキラと瞳を輝かせている。女の子の隣には母親らしき女性が居て、「ほんとだ…これ、あいちゃんが欲しかったやつだよね?」と脚本集を珍しげに見ていた。

 あいちゃんと呼ばれた女の子は元気良く頷き、さなより早く本を取り、確りと胸に抱え込んだ。

(あ…)

 落胆の気持ちが胸に広がったが、次に借りればいいと思い直した。本を借りる事は何時でも出来るし、この女の子から本を獲った所で―透明少女であるさなにはやろうと思えばそれが出来る―女の子は悲しむだろうしそれはしたくなかった。

 女の子はとてもゴロゴロが好きらしく、花が咲いた様な笑顔を浮かべている。なんというか、同士だと思う気持ちと女の子の可愛らしい様子に自然と笑みが零れた。

 さなはその場をそっと離れ、再び本棚の間をさまよい始めた。

 

 

 数週間後。

 さなは再び図書館へとやって来た。

 脚本集は返されているだろうかと思いながら館内を歩いていると、例のゴロゴロ好きの女の子…あいちゃんが泣いている所を見つけた。

 女の子はゴロゴロの脚本集を持ってはいたが…それは、泥にまみれてボロボロだった。女の子はポロポロと涙を零し、母親がそれを宥めている様だった。

 会話を聞いてみると、数日前に脚本集を持ったまま転び、しかも雨の日だったので本は泥にまみれ、ぐしゃぐしゃになってしまったとの事で、司書も困り顔だった。

 さなはまた落胆の気持ちを覚えた。それと同時に、僅かな羨望も…自分の母親は、自分を叱ってばかりで宥めてはくれなかったからだ。いや、母親だけではない。父親も、兄弟も、さなを認めなかった。あの家族は自分以外の四人で完成されていた。

 何となく悲しくなり、そっとその場を後にした。

 

 

「二葉さん、ちょっといい?」

 その日の夜、夕食を終えた後にやちよがさなを呼んだ。

「は、はい…なんでしょう…」

 もしかして自分は何かミスをしてしまったのだろうか。さなは萎縮しながらやちよの前に座った。

 やちよは書店の袋を取り出し、中にある包みをさなに渡した。

「これは…?」

「開けてみて」

 やちよに促され、さなはそれを開ける。

「これは…!」

 中から出てきたのは、「こねこのゴロゴロ しなりおぶっく」だった。

「仕事先で立ち寄った本屋で偶然売っていてね。二葉さんにどうかと思って」

「いいんですか…?」

「よかったね、さなちゃん」

 いろはが微笑む。やちよは皆にも言った。

「ちょっとしたプレゼントと思って頂戴。皆にもあるわよ」

 やちよは興味深々の様子のみかづき荘メンバーに次々と本を渡した。

 いろはには料理の本。鶴乃とフェリシアにはデカゴンボールの最新刊、ういには彼女が前から欲しいと言っていた絵本…それぞれに合ったものを選び、買ってきたのだ。

 嬉しさのあまり騒ぐみかづき荘メンバーと共に笑顔になりながら、さなは思う。

 自分の居場所は、やはりここなのだと。

 一緒に笑い、時には叱ってくれ、沢山の思い出を作っていく…そんな仲間は、ここに居たのだと。

 ふと、脳裏に自分と一緒に居てくれたウワサの姿が浮かぶ。

 かつて自分と一緒に居てくれたそのウワサの姿に、さなは微笑んだ。

 

 私はもう、ひとりぼっちじゃないよと。

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