予めご了承下さい。
夜空に分厚い雲が掛かっている。
それとは対照的に、街はクリスマス一色。煌びやかなイルミネーションに、サンタクロースの格好をした売り子。クリスマスツリーを見て歓声をあげる子供の脇を、ケーキを購入して家路につくサラリーマンが通りすぎる。
全てが幸せなオーラで満ちていた。
…それが、耐えられなかった。
大通りを避けて、普段は通らない様な道を進む。次第に活気が遠ざかっていき、街灯の灯りがぽつぽつと辺りを照らすだけの単調な風景が目につく様になる。
水波レナは溜息をつき、ポケットから携帯端末とイヤホンを取り出した。憂鬱な気分を、好きな音楽で紛らわせようと思っての行動だった。
イヤホンを携帯端末に接続し、耳に付ける。音楽アプリをタップし、お気に入りの音楽を流そうとして―異変に気付いた。
無音。
賑やかな音楽が、全く聞こえない。
ヤバい…そう思って、慌てて耳からイヤホンを外す。
外見は異常無し。だが恐らく断線しているのだろう。昨日付けた時には異常は無かったのに、こんな時に限って…。
「サイッアク……」
思わず、本音が口をつく。
本当に…なんて日だ。クリスマスだというのに、とことんツイていない。
(…こうなったのも、全部かえでのせいなんだ)
心中で責任転嫁をするレナ。
そもそもこんな気分で一人寂しく歩いているのは、親友である秋野かえでとちょっとしたケンカをしてしまったからだった。
その原因だって大した事じゃない。口に出すのも恥ずかしい程くだらない事が原因で、いつものようにケンカになった。
ケンカと言っても、レナが一方的に刺々しい言葉をぶつけるだけのものだったのだが…今回は、少しやり過ぎた。
もう一人の親友である十咎ももこが宥めるも、レナの勢いは収まらなかった。
それで遂にかえでが怒り、「レナちゃんとは絶交するから!」という言葉と共に走り去ってしまったのだ。
本当は分かっている。自分が彼女を怒らせてしまった事なんて、嫌という程分かっている。なのに自分はその責任をかえでに押し付けている。
本当に…。
(本当に、最悪だ)
レナはいつもそうだ。
誰かを怒らせて、謝れなくて、その結果みんな自分から離れていった。
この性格のせいでクラスでも孤立しているし、苛められている―それは自覚している。
自覚しているのに、性格を直せなかった。
これが水波レナそのものであり、自分の気質なのだと…何処かで諦めていたのかもしれない。
キュゥべえに願い、変身能力を手に入れてからもそれは変わらなかった。
自分は自分のまま、何も変わらなかった。
だけど、そんな自分と一緒に居てくれる仲間が出来た。
かえでとももこは、笑顔でレナを受け入れてくれた。
なのにレナは、二人に対してつっけんどんな態度をとってばかりだった。
…つくづく、自分が嫌になる。
「…………」
やる事は分かっている。
かえでに謝りたい。
だけど…だけど、それが出来ない。
自分の下らないプライドが、それを邪魔するから。
「ハァ…」
「レナ?」
不意に、後ろから声を掛けられた。
びっくりしたレナが振り向くと、ももこがこちらに歩いてくるところだった。
「ももこ…」
「こんな所にいたのか…探したよ」
「…何しに来たのよ」
「何をしにきたって訳じゃないけど…ま、強いて言うならレナを連れ戻しに来た、かな」
ももこはそう言って、心配そうにレナを見る。
「もう大丈夫だよ。かえでは怒ってない…それどころか、酷い事を言っちまったって自分を責めてた」
「…なんで。かえでが自分を責める必要はないのに…」
「そういうヤツだからな…謝った方がいいんじゃないか?」
ももこはレナの性格を良く理解していた。
ここで「かえでに謝れ」と言うのは簡単だ。だがそれを言ってしまうとレナは意固地になり、絶対に謝らない。
だから命令ではなく、提案―選択肢を提示する。レナはこんな性格だが悪人では無い。迷う様な表情を見せながらも、最後は「…わかった」と頷いた。彼女なりに思う所もあったのだろう。
「よし。じゃあ行こうか」
「行くって…何処に?」
「かえでの家だよ。実を言うと、アタシもさっき話してきたんだ」
ももこは「ほら、早く行くぞ」と言うと、大通りの方へと歩き出した。
レナは一瞬だけ躊躇ってから、それに着いて行った。
*
かえでの家に着くと、ももこはインターフォンのスイッチを押した。暫くしてから「はーい」という声がしてドアが開き、かえでが顔を覗かせた。
「ももこちゃん…レナちゃん…」
「度々悪いな。レナがかえでと話したいって言うから…」
「い、言ってない!」
レナはそっぽを向いた。同時に、心中では自分の行動に腹を立てている。
「でもまぁ、かえでも話したい事があるんだろ?」
「うん…」
かえでは外に出てきた。未だにそっぽを向いたままのレナに近付くと、頭を下げる。
「ごめん…私が言い過ぎた」
「…………」
「絶交なんて言って、ごめんなさい…」
かえでの声が少し震える。
それを見たレナは、一瞬だけ泣きそうな顔になった後、
「レナも…ごめん。あんなくだらない事で…言い過ぎた」
いつにも増してしおらしい様子のレナに、かえではびっくりした様な表情を浮かべる。
「レナちゃん…」
「…二度は言わないわよ。でも…本当に悪かったと思ってる」
「ううん、私こそ…ごめんね…」
お互いに気まずい空気が流れる。
それを打ち破ったのは、ももこの言葉だった。
「二人共謝った事だし、これで仲直りしただろ?ならもう忘れてさ、ケーキでも買いに行こう!」
「ケーキ?」
「近くにコンビニがあるし、そこのやつになっちゃうけどね…クリスマスだし、このまま終わらすのは勿体ないんじゃないか?」
「確かに…そうだよね。レナちゃんもそれでいい?」
「ふ、二人が行きたいって言うなら仕方ないわね」
「…レナ、もうちょっと素直になろうよ」
先程までのしおらしい様子は何処へやら、いつも通りのレナにももこが呆れた声でツッコミを入れる。
それを見てかえでが笑い、「それじゃあ、行こっか!」と二人の手を取った。
「おっ、かえでがノリノリだな!」
「ち、ちょっと!引っ張らないでってば!」
もつれ合う様にしながらも、三人は走り出す。
ケンカして、仲直りして、またケンカして、仲直りして…そんな事を繰り返しながら、三人は進んでいく。
いつまでも、どこまでも。
大晦日とかお正月とかは多分書きません。
ネタが思いつかないので…。