私の別作品である「ある少女の物語」とリンクしています。
未来の行方
―どうやら自分には、××が無いらしい。
*
昔、通っていた小学校でとあるおまじないが流行った。
コップに水と自分の名前を書いた紙を入れ、「みらゆめみてみる」と三回唱えてからそれを飲み干すと、その日の夢で自分の未来の姿を視る事が出来る…そんな、何の信憑性も無いおまじないだ。
ところが、実際にそれを実践してみたところ、本当に自分の未来を視たという子が続出し、ちょっとした騒ぎになった。今思えば滑稽な話だが、当時は皆がそれを信じた。小学生なんてそんなものだ。
当然、少女が在籍していたクラスでもその「おまじない」は流行った。男女の区別なく、皆が熱中していたのである。誰々がこんな未来を視たという話で盛り上がり、誰もそれを馬鹿々々しいと思ってはいなかったのだ。
そんな中で、少女はその「おまじない」を試してはいなかった。流行に乗り遅れたという事では無く、何処かでそれを馬鹿々々しいと思っていたからでも無い。少女は協調性があり、誰にでも優しい性格で、当然クラスメイト達も少女が流行に乗るとばかり思っていたので彼女がそれを試していない事に皆が驚いていた。
「なんでおまじない試さないの?」
ある日、少女の友達がそう訊いてきた。
「ええと…」
少女は答えずに俯いた。自分が抱える不安を友達に打ち明けた所で、笑われるのが関の山だと解っていたからだ。
「怪しいなぁ。何か不安でもあるの?」
友達はしつこく訊いてきた。それが純粋な好奇心からの行動である事を悟り、少女は益々顔を伏せた。
「な、何でもないよ。おまじない今日やろうと思って…」
思わず、そう答えてから少女はハッとなった。
友達はその答えを訊いて「なぁんだ」とつぶやいて立ち去り、少女は自分の答えを呪うように溜息を吐いた。
*
友達に「やる」と言ってしまった以上、おまじないを試すしかない。
その日の夜、少女はおまじないの手順に沿ってコップに水と自分の名前を書いた紙を入れ、「みらゆめみてみる」と三回唱えてからそれを飲み干した。紙が咽喉を通る厭な感覚に耐え、それから歯を磨いて両親におやすみを言い、布団に潜り込む。
眠気はすぐにやって来た。心地よい感覚に身を任せ、そして…。
―少女は、自分が恐れた事が起きた事を知った。
*
翌朝、少女は友達に「どうだった?」と訊かれた。
「えっと…視えたよ。わたしは大人になってピアノを演奏してた」
嘘だ。少女の目は泳ぎ、言葉尻も震えている。然し友達はそれに気付かず、無邪気に「良かったね!」と喜んだ。
少女は愛想笑いで誤魔化しながら、自分が昨夜視たものを思い出した。
―少女が昨日視たものは…いや、
昨夜、少女は真っ白い空間に立っている自分を視た。
彼女は燕尾服を着ていた。背中を向けていたので顔は見えなかったが、それは紛れも無く未来の自分だった。何となく寂しそうな雰囲気を纏っていたのを覚えている。
目の前に佇む未来の自分に少女が声を掛けようとした時、不意に周りの景色が変化した。
宇宙のような、幻想的な景色に少女が目を奪われていると、未来の自分が歩き出した。慌てて付いていこうとするが、どんなに早く走っても彼女には追いつかない。一定の距離を保ったまま、少女は未来の自分を追いかけた。
どれくらい経っただろうか。気がつくと、未来の自分の前にもう一人、誰かが佇んでいた。
髪の長い、女神様のような人が未来の自分に微笑んで、手を差し伸べた。
その瞬間、何故か少女は自分に未来が無い事を悟った。
そしてそれは、少女が恐れていた事だった。
*
…あの夢が何だったのか、彼女には今以て解らない。
だが、「魔法少女」になった今、解った事が一つだけある。
今、自分の前には異形の化け物―魔女がいて、此方に殺意を向けている。
躰が震え、鼓動が速くなる。絶望感を覚えながら、彼女は小さく呟いた。
…わたしには、未来なんて無いのかもしれない…と。