魔法少女の物語   作:転寝

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以前書いたものの再掲です。
マギレコキャラで書ければ良かったのですがバレンタインのログインイベントが素晴らしかったのでそれで満足してしまいました。

オリジナルキャラクターの説明
吹綿秕
咲の友人。ある事件によって彼女と決別する事になる。


甘くて、ちょっぴり苦い思い出

 2月14日、バレンタインデー。

 琴音咲はみかづき荘へと向かっていた。制服の上にコートを着て、手には紙袋を提げている。愛用のワイヤレスイヤホンからは軽快な音楽が流れており、それに合わせるように咲の足取りは軽いものだった。

 何故彼女がみかづき荘へと向かっているのか―始まりは1週間前、友人である環いろはから提案されたある事がきっかけだった。

 

 

「バレンタイン?」

「うん、2月14日、バレンタインデーにみかづき荘でチョコの交換会をするんだけど、咲ちゃんもどうかなって」

「わたしも一緒でいいの?」

「勿論!」

 いろはが微笑む。二人のやり取りを近くで聞いていた水波レナもそれに同意した。

「レナ達も行くから、咲も来れば?チョコレート貰い放題よ?」

 それは…確かに魅力的かもしれない。

 何より、こういったイベントに誘ってくれるだけでも嬉しかった。

「うん!わたしも行きたいな」

「良かった…!じゃあ…」

 それから時間やら何やらを指定され、バレンタインデーのチョコレート交換会へと参加する事になったのである。

 

 

 あまり知られていないが、琴音咲は料理が割と出来る方だ。

 昔から母親と祖母に教わりながら色々なものを作っていたし、前の町に居た頃は小説家志望の青年に料理やらお菓子を作って持って行ったりもしていた。だから自身はある。

 で、バレンタインデーに向けて色々と試行錯誤した結果無事にチョコレートを完成させる事が出来た。八分音符の形に型どられた可愛らしいチョコレートである。

(皆喜んでくれるかな…)

 きっと喜んでくれるだろう。だけどもし口に合わなかったらどうしよう…大きな期待とほんの少しの不安を抱きながら、当日を迎えた。

 

 

 みかづき荘まではまだ少し距離がある。時間に余裕を持たせて来たから遅刻する事は無いと思うが、それでも自然と早足になってしまう。

(バレンタインかぁ…)

 友達とバレンタインを楽しむなんて、何時ぶりだろうか。

 小説家志望の青年はバレンタインデーが近付いてくると何故か町から姿を消すのでチョコレートは渡せなかったし魔法少女になるきっかけとなった出来事が起きてから友人をあまり作らないようにしていたのでそういった事にも縁が無かった。

 では、魔法少女になる前はどうだっただろう?

 友達と一緒にバレンタインデーを楽しむ自分の姿があったのではないだろうか?

 そう考えた時、一つの光景が浮かんだ。

 

『咲…アンタってこういうの作るの上手いんだ』

『お母さんとおばあちゃんに教えてもらってたから。秕ちゃんも練習すれば上手くなるよ』

『そう…偶にはそういった事も良いかもね』

 

「秕ちゃん…」

 咲が傷付けた友人。

 咲の心に残る疵。

 吹綿秕(ふきわたしいな)と、バレンタインデーを過ごしていた時もあったのだ。

 あれは確か…中学一年生の冬だった。二人の関係が崩れる前の事だ。

 いつの間にか、咲は過去を追想していた。

 

 

 その日、咲が所属する冬天中学校吹奏楽部には浮ついた雰囲気が漂っていた。

 この吹奏楽部には女子が多い…というか女子しか居ないので、バレンタインデーにはいつもこうなるらしい。あちこちでチョコレートの交換が行われていて、顧問も今日は何も言わない。練習はそっちのけで皆浮ついていた。

 咲もチョコレートを貰ってはいたが、クラスの友人と自分のパートのメンバーにあげる分しか作っていなかったので多く貰ってもチョコレートを渡すことは出来なかった。

(もっと多く作ればよかった…)

 後悔しながら腕の中に形成されたチョコレートの山を見て途方に暮れる。まさかここまでとは思っていなかった。

 ふと、周りを見渡してみると和気あいあいとした雰囲気に染まっていない一人の女生徒が目に入った。言うまでもなく吹綿秕である。手に持っているチョコレートは一つだけで、それは咲が渡したものだった。

 秕は咲の視線に気付いて此方に近付いてきた。シニカルな笑みを浮かべて言う。

「アンタ、随分と貰ったみたいじゃないか」

「う、うん…」

 秕ちゃんは、とは訊けなかった。当時から彼女は他の部員とは一線を画す存在であり、周りから妬まれ嫌われていた。それは日常生活でも同じだった。秕は何でも「出来過ぎる」事に加えて一匹狼な性格だったので彼女に近付く人間は殆ど居ない。だから彼女にチョコレートを渡すような人間は居なかったのである―咲以外は。

「気を遣う事は無い。それはアンタが受け取ったものだろう。それを誇示してりゃいいのさ」

「そんな事…」

「まあどうでもいいけどね。それよりこれじゃ練習にならない。なら帰ってもいいよな?」

 既に鞄に手を伸ばしていた秕を何とか制止させていると顧問がやって来て全員に言った。

「全然練習してないな…まあ新人演奏会も終わったばかりだし、今日位は良いか。自主練したい人は残ってやってもいいし交換会が済んだら帰ってもいい。ただ最後まで残った人は施錠してから帰ること」

 途端に全員から歓声が上がった。益々ヒートアップする喧騒の中、秕は鞄を持って音楽室を出た。咲もそれに気付き、慌てて秕の後を追いかけた。

 

 

「秕ちゃん!」

「…なんだよ咲。何か用?」

「えっと…」

 何となく、一人にしてはいけないと感じただけだった。

「こ、これからわたしの家に来ない?」

「なんで」

「えっと…ほら!一緒にバレンタインのチョコレート作ろうよ!」

 秕は冷めた目で咲を見ている。何言ってんだと言わんばかりだ。

「…わ、わたしは…秕ちゃんとチョコレート作りたいな」

「………」

「…………ぁぅ…」

 赤くなって俯く咲に溜息をついて、秕は言った。

「…別にいいけどさ」

 咲の顔が輝いた。秕を引っ張るようにして歩き出す。

「お、おい、そんなに急ぐなって!」

「楽しみだなぁ〜♪」

「コイツ話聞いてないな…」

 

 

 帰りがけにチョコレートの材料を買ってから咲の家でチョコレートを作った。

「こうか?」

「うんうん、そんな感じ!後はね…」

「咲…アンタってこういうの作るの上手いんだ」

「お母さんとおばあちゃんに教えてもらってたから。秕ちゃんも練習すれば上手くなるよ」

「そう…偶にはそういった事も良いかもね」

 秕は咲に教わる内にどんどん上達していき、二人で作ったチョコレートは美味しそうなものに仕上がったのだった。

 

 

「沢山作ったねー!」

「だね」

「じゃあ…食べようか!」

 家には咲と秕の二人しか居なかったので家族の分は残して、二人で食べた。

 口に入れると、甘みと共に…僅かな苦味を感じた。直ぐにそれらは口の中で溶け合い、満足感が生まれた。

 とても、美味しかった。

「美味しいねぇ…」

「…ああ、美味しい」

 暫く無言でチョコレートを食べる。

 そして全て食べ終わった後、秕がポツリと言った。

「……来年も」

「ん?」

「いや、なんでもない」

 秕は顔を背けた。咲はそれを見て微笑んだ。

「…うん、来年も一緒に作ろうね」

「………ああ」

 

 

 だが、これが二人で過ごす最初で最後のバレンタインになってしまったのだった。

 

 

 

 みかづき荘に到着し、チョコレートの交換会が済んだ後、皆で交換したチョコレートを食べた。

 咲が作ったものは皆に好評で、ほっとした。

 

 貰ったチョコレートを一口齧る。

 とても甘い筈なのに…何故かちょっぴり苦かった。

 まるで二人で作った、あのチョコレートのように…。




今後も投稿は不定期です。
需要が無い話ばかり書いているし、そのうちやめる可能性もありますが…とりあえずまだ続けようと思っています。
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