こうなってはほしくないという話です。
…何故、こんなことになってしまったのだろう。
目の前には沢山の人が居て、此方を見上げている。
彼女は群衆より高い場所から、彼等を見ていた。期待に満ち溢れた顔や悲しみに歪められた顔、何にも感じていないような顔まで、さまざまな感情がそれぞれの顔に表れている。自分は彼等の見世物だった。
彼女は後ろ手に縛られ、跪かされている。抵抗しようにも彼女の背後には屈強な兵士が二人もいて、それが無駄に終わる事を予感させた。尤も、抵抗する気なんて無い。仲間は既にこの世には居ないし、自分は自分に与えられた役目を全うしたとも思っているからだ。
「―以上の内容から、魔法少女、環いろはを死刑に処す!」
自分の横で自分の「罪状」を読み上げていた男がそう言った瞬間、後ろにいる兵士のさらに奥から割れんばかりの拍手が響き渡った。それを聴いて心の中が暗く、冷たいものに覆われるのを感じる。
拍手の主―某国の「王」やその側近達に向けて、何か皮肉でも投げかけてやりたかったが、それこそ相手の思う壷だろうと思い、辛うじて自制する。だが怒りは彼女の殻を突き破って溢れ出し、涙となって床に小さな染みを作った。
コイツが…コイツらが、皆を殺したのだ。
20××年。
魔法少女は「呪い」から解放され、日常社会にもその存在が認知された。それで幸せを手に入れたはずの少女達を、某国の王は「魔女狩り」と称して無実の罪を被せて次々に処刑していった。何故彼がそんな事をしたのかは判らない。だが、彼の暴挙によって魔法少女は次第に減少し、遂には数える程しか残らなくなってしまった。そして、今そのうちの一人が処刑されようとしている。自分の死が彼を喜ばせる事を考えると、やりきれなくなる。
遺言などというものは遺せない。処刑が決まったら、直ぐに実行される。
役人の一人が桃色の宝石を持ってきた。それは彼女の命そのものであり、それを砕く事は、「彼女の死」を意味する。
宝石に黒い銃口が突きつけられる。彼女は目を閉じた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
私は、どこで何を間違えたのだろう。
魔法少女の宿命から解放されて、幸せに暮らせると思ったのに。
みんな居なくなって、私もこれから死んでしまう。
何で、報われないんだろう…。
…不意に、頭の中にいろは唄が浮かび上がる。
いろは唄はそれ自体で意味を持つ唄だが、それを七言詩として読み、その最後の文字を繋げて読むとある言葉が浮かび上がる。
「咎無くて死す」…正に、今の自分の状況と同じでは無いか。
「環いろは」は「咎無くて死す」なんて…偶然にしては出来すぎていた。
…もしかしたら、こうなる事は予め定められていたのかもしれない。
やがて、その時が訪れた。
引鉄が引かれ、銃身から飛び出た銃弾が桃色の宝石を木っ端微塵に砕き、それと同時に彼女の意識も世界から断絶した。
…それでおしまい。最期に仲間の魂と逢えるなんてことも無く―環いろはの人生は、そこで終わった。
いろはにほへと
ちりぬるをわか
よたれそつねな
らむうゐのおく
やまけふこえて
あさきゆめみし
ゑひもせす