台詞と地の文の間を一行開けて見やすいようにしてみました。なんかスッカスカになった気がする…。
それは、まだ病院にいた頃の出来事…。
環ういは困っていた。
自分の両隣にいる二人の少女が睨み合っていて、どうにも止められそうにないからだ。
「だーかーらー、偶像だって言ってるでしょー!」
「伝説を信じないなんて無粋だよ灯花。いると信じる事に意味があるんだ」
にゃーという声を上げる里見灯花に対し、落ち着いた口調で柊ねむが宥めるように言う。
ある意味お決まりのパターンと言えるような出来事ではあるのだが、その仲裁をするういはいつも困り果てている。喧嘩するほど仲がいいという諺の通り実際二人は仲がいいのだが、一日に数回はこうやって言い争いをするのだからたまったものではない。
「ちょっと、ふたりとも…」
「だって誰も見た事がないんでしょー?だったらいないって言ってもおかしくないじゃん!」
「それは悪魔の証明だよ。『いない』事を証明するなんて誰も出来ない。それこそ不可能だ」
「なにうぉー!?」
今回だって、些細な事からこんな言い争いになった。
今日は七月七日、七夕だがその事に関して、「織姫と彦星は果たして本当に存在していたのか」というよく分からない議論が勃発し、こんな事になってしまっている。
灯花とねむはまだ小学生でありながら常人を超えた才能を持ち、よく難しい議論(喧嘩ともいう)をしているのだが今回は小学生並の低レベルな言い争いと化している。何故こうなったのか、ういには分からないしおそらく言い争っている二人もよく分かっていないだろう。
…とにかくこのままでは埒が明かない。なのでういは強硬手段に出る事にした。
「ふたりとも、もうやめてー!」
ういは両手に持ったクッションを二人に投げる。それはぼふっという音を立てて二人の顔に当たり、それでようやく言い争いは収まるのだった。
…これもまた、いつものパターンである。
*
それから暫くして、ういの姉である環いろはが病室に入ってきた。
すると今までムスッとして黙り込んでいた灯花とねむがいろはに駆け寄る。
「お姉様ー!聞いて聞いて!ねむがね…」
「灯花が伝説を貶すような事を言うのが悪いんだ」
「えっと…何があったの…?」
いろはが助けを求める様にういを見る。
ういは苦笑しながら、事情を説明した。
「…うーん。私にはなんとも言えないなぁ…」
ういの説明と双方の言い分を聞いたいろはは困ったようにそう言った。
「確かに灯花ちゃんの言う通り、織姫様と彦星様がいたのかどうかは分からないし、伝説に示されてるだけだから確かめる術もない」
灯花がふんぞり返る。然しいろはは続けて言った。
「…でも、ねむちゃんの言う通り、伝説を丸ごと否定するのも違う気がする。七夕で短冊を書くのは単なる形式上のものだけじゃないと思うし」
どっちも正しくて、どっちも間違ってるんじゃないかな―そういろはは微笑んだ。
「そんな事より、短冊持ってきたからみんなで書かない?」
いろはは鞄から短冊を三枚取り出し、ういとねむ、そして膨れ面をしている灯花に渡した。
「わたくしは書かなーい。そんな物に書く事で願いが叶うなら苦労しないしー」
「灯花…」
「灯花ちゃん…」
ねむとういにじとりとした目で見つめられ、灯花は益々むっとした顔になる。天才故に(またはお嬢様という気質故に)他人の言う事を聞かない事が多い灯花だが、なんだかんだ言ってこの二人には弱いのだ。灯花自身もそれを分かっているから簡単に引き下がろうとはしない。
だが徐々に弱った様な顔になり、やがて呟くように言った。
「…もー!書けばいいんでしょ!」
「灯花ちゃん…!」
ういの顔がぱあっと華やぐ。ねむも満足げな表情をしていた。それを見たいろはは笑顔で人数分のペンを取り出すのだった。
「…じゃあ、書こうか!」
*
書き終わった後は各々で笹に飾る事にした。病院のロビーに笹があるのをいろはが見ていて、そこには既にたくさんの短冊が飾られている。
「ねむは何書いたのー?」
「秘密だよ。灯花は?」
「わたくしもひみつー!ういは?」
「えっと…えへへ…」
ういは笑って誤魔化す。相当恥ずかしい事を書いたのかもしれない。
「お姉ちゃんは?」
「私はね…最初は『三人の病気が治りますように』って書いたんだけど途中で変えたんだ」
いろはは飾り付け終わった短冊を示す。
そこに書かれた文字を見て、三人は驚き、そして笑顔になった。
「なんだ…」
「わたし達、同じ事を書いてたんだ…!」
「…えっ、皆同じ?」
「そーだよー!」
三人は短冊を飾る。
いろはも含め、四人が書いた短冊には同じ言葉が書かれていた。
声を揃えて、書かれた言葉を言う。
『みんなで、ずっと仲良くいられますように』
灯花とねむを書くの、めっちゃ難しい…。