今日は球技大会の日だ。
種目はもちろんバレーボール。
組み合わせは先生対生徒となっている。
大方、鴨志田が自分を誇示する為に仕組んだ行事だろう。
「宮瀬…もう少しで僕たちの番だよ」
隣で体育座りをしている三島が顔を少し青ざめさせながら声をかけてくる。
「分かった、準備するよ」
この行事、バレー部員にとっては地獄だろう。
教師陣に勝てば鴨志田の苛つきが増し、かといって負けでもすれば練習時に罵倒されてシゴキがキツくなる。
だからこの行事は理不尽の一言につきるんだ。
そうこう考えている間に僕達の班の番になり試合が始まる。
僕の班の半分はバレー部員だから、一見強そうに見える。
けどバレー部員は鴨志田を苛つかせるようなことはさせたくないからいい感じに負けようとする。
それに加え、元メダリストなだけあって鴨志田はバレーが凄く上手い。
教師陣は殆ど鴨志田のワンマンプレーになってるけどそれでも普通に強い。
この二つの理由から生徒側はまず勝てない。
「それでは教師対クラスD2チーム目を始めてください」
審判のバレー部員が試合を始める。
正直、勝敗とかどうでもいいしほどよく楽しもう。
---
「そーれっ」
鴨志田のスパイクが決まる、元メダリストだけあってかなり早い。
現在の得点は20対17。
少しだけ教師陣が勝っている状況だ。
思ったより白熱しているので結構楽しい。
「サーブくるよー!」
鴨志田の高速サーブを三島が他のバレー部員の方にレシーブする。
ボールがゆっくりと落ち、バレー部員がトスする。
そこそこ運動神経が良い奴にトスが行くと教師陣に向けてアタックする。
「おおっと!」
教師の1人が何とかレシーブする。
「鴨志田先生おねがいします!」
別の教師が鴨志田に向けて緩めのトスをする。
少し位置が悪いけど鴨志田はお構いなしにアタックを打った。
「それっ!」
打ち出されたバレーボールは三島の方に向かう。
そしてそれと同時に体を動かしてボールに手を伸ばす。
「━━━━━痛!!」
ボールは指に弾かれてコートの外に出る。
教師陣は唖然としてる中、外野の生徒達はおぉ!と騒然としている。
「宮瀬…ありがとう」
「流石に、顔面は痛いだろうから」
鴨志田のスパイクは三島の顔面に向けられていた物だった。
スパイクを打つ直前になって歪んだ笑みを浮かべたから直前で動けた。
流石に、顔面であのスパイクを受けたら怪我どころじゃ済まない可能性もあるだろう。
そんなスパイクを平然と打つ時点で鴨志田は人として終わっている。
「大丈夫か宮瀬?少し見せてみろ」
鴨志田は心配そうにこちらに近づいてくる。
鴨志田に言われて指を見てみると少し赤く腫れていた。
でも指は動かせるから多分突き指だろう…
「先生、突き指したみたいなんで保健室行ってきていいですか?」
「分かった。気をつけて行けよ」
恐らく、内心じゃ僕に対して舌打ちしているだろう。
そんな鴨志田を後にして、僕は中庭を経由して保健室へと向かう。
保健室の先生に指を見てもらい、保冷剤を貰う。
大した怪我じゃないだろうけど一応冷やしておいてと言葉を受け、保健室を後に…出来ずに球技大会の様子(主に鴨志田関連の話)を聞かれ渋々答えることになった。
「ふぅ…やっと終わった」
気づけば20分程過ぎていた。
最近不幸な事が多すぎる気がする…
呪われてるのかな?
とぼとぼと中庭を歩いていると、自販機があるちょっとしたスペースに金髪の生徒と雨宮がいて何か話してた。
「転入早々から不良と絡んでる…」
やっぱり、彼と深く関わるのはやめておこう。
何かあってからじゃ遅いからね。
そんな考え事をしていたら、ピンポンパンポーンとチャイムが鳴る。
《本日の組み合わせは全て終了しました。速やかに準備をして下校してください》
「もうそんな時間か…教室に戻って帰るか」
体育館にいる教師に怪我の状況を伝えて教室に戻って準備をする。
そして帰宅しようとして玄関前に行くと、三島に声をかけられた。
「み、宮瀬!その…大丈夫なのか指」
「ただの突き指だよ。全然大丈夫」
指を開いたり閉じたりするのを見せる。
「そっか…ならよかった。さっきはありがとう」
「どういたしまして。でも、僕がした事なんて微々たる事だよ」
どのみちこれから始まる練習で怪我するのは目に見えてる。
だから僕がした事は単なる自己満足の範囲でしかない。
…はぁ、自分が嫌になる。
何もできない自分が。
「それじゃあ、さよなら。練習頑張って」
「あ、うん…バイバイ」
さて…結構疲れたし、今日はルブランに行こうかな。
心と体を癒すには丁度良い所だし。
そして足を踏みだそうとした時、金髪の生徒が三島に話しかけてきた。
「話、あんだけど」
「さ、坂本!?それにお前まで!?」
坂本と呼ばれた金髪の隣にはなんと雨宮もいた。
三島は怯えていて、こっちに助けを求める視線を投げてきた。
はぁ…折角動こうとしてたのに。
「三島に何か用?」
「話するだけだよ。それが済んだらすぐ消える」
「だってさ三島。じゃあ僕はこれで」
「お、おいちょっと待ってくれよ!せめてここにいてくれ!」
僕はお前の彼女か何かか。
…とはいえ、坂本は見た目が不良に近いから見捨てたら後で文句を言われそうだ。
仕方ない…
「はぁ…分かったよ」
「ありがとう…!」
「それで?用件は何?」
坂本に対して質問する。
色々とめんどくさい話になりそうだからさっさと切り上げよう。
「鴨志田から『指導』されてんだって?体罰じゃなくてか?」
「…違いますよ!」
「何で敬語なんだよ…ま、いいけど」
どうやら坂本はバレー部の黒い噂を聞いているようだ。
何の為に聞いているのかは分からないけど、それで言ってたら鴨志田が好き放題している現実は起こらない。
「球技大会ん時、顔面に向けてアタックされてたよな」
「あれは、俺が下手なだけで…」
それは嘘だ。
球技大会の時でもそうだけど、三島は結構上手い。
チームの動きを把握して的確な所にレシーブしたりトスしたりしている。
だからこそ、鴨志田チームと張り合えてたんだから。
坂本は嘘だと分かっているようで、三島の全身を見た。
「…にしたって、痣多すぎんだろ」
三島はいつ会ってもどこかに痣がある。
青タンとか赤く晴れてたりとかでよく目立つ。
大方、鴨志田が毎日暴力を振るっているんだろう。
「練習なんだよ…!」
しかし、三島は体罰だと断固として認めようとしない。
鴨志田の制裁を恐れているからだ。
バレー部である限り、鴨志田の呪縛からは逃れられない。
「口止め、されてんのか」
「それは…」
「何をしているんだ?」
突然、鴨志田が近づいてきて会話に割り込んできた。
無駄にタイミングの良い奴だ。
「三島、部活の時間だろう?」
「宮瀬に礼だけ言おうとして…」
「そんなくだらない事に時間を使うなら練習しろ」
「はい…すぐに体育館に行きます」
意図的に顔面狙ったスパイクを打つ人間がよく言うよ。
「練習以外じゃ、ヘタクソは治らないぞ」
「話に割り込んで来んじゃねえ!」
鴨志田は坂本を見下す様に目を細める。
というか、早く帰りたい…
コッソリ抜けるのは…無理そうだ。
だって鴨志田にロックオンされたし。
仕方ない…帰るための小細工でもしておこう。
「ふん…今度何か問題を起こせば学校にいられなくなるぞ。それはお前もだ」
「良いスパイクでした」
「チッ》
雨宮を睨みつける鴨志田。
それに対して鴨志田を挑発する雨宮。
「とにかく、さっさと練習に行け。あと宮瀬、お前は体育教官室に来い。呼び出しを無視するのもいい加減にしろよ」
話の矛先がいきなり向いてくる。
やっぱりそうなったか…
だけど対策はしてある。
「あぁ…そうしたいのは山々なんですけど生憎今日は用事があるので帰ります」
「どうせ大した事じゃないだろ。すぐ済むから早くしろ」
鴨志田に急かしてきた時、ズボンのポケットに入っている携帯から着信音が鳴った。
そしてそれに気づいて電話に出た
「すいません、電話に出ますね。もしもし、うん今もう帰るところ。…分かってるって。寄り道しないで帰ります。それじゃあ切るね」
携帯を切る素振りを見せてからズボンに仕舞う。
そして申し訳なさそうにして鴨志田に言う。
「すみません…母から急いで帰れと連絡がきたので帰らせてください」
実際にはそんな連絡来ていない。
鴨志田の目を盗み、携帯のアラームを3分後に設定し、音を着信音にすることで自分に電話がかかったように見せる。
若干演技していた様には聞こえるかもしれないけど、電話を切っている時点でバレようがない。
「……チッ。ならさっさと帰れ!」
いくら鴨志田とはいえ、バレー部でもないのに急ぎの用事がある生徒を引き止めるような事はしない。
だけどバレー部に入っていたら裏で根回しされて拘束されるのは間違い無いだろう。
「それじゃあね三島。…あと雨宮も」
2人に対して小さい声で言ってその場を立ち去る。
三島を置き去りにしてしまう形になってしまったのは申し訳ないと思う…ごめん。
結局、誰だって自分が大事なんだ。
はぁ…いつから僕はこうなってしまったんだろう。
「……ルブランに行こう」
その日は、ルブランのコーヒーを飲んで暗い気分を晴らした。
タイトル迷走してるんで落ち着くまで変わったり変わらなかったりします。