抗え、人の為に   作:myo-n

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ラヴェンツァさんが倒せないので最終投稿です(大嘘)


劣情に歪みし3話

球技大会から数日経った。

変わったことと言えば、鴨志田がピリついているぐらいだろうか。

理由は分かってる、鴨志田が顧問するバレー部の春季大会が近いからだ。

 

そのせいか、最近三島の生傷が普段の倍になっている気がする。

流石に心配になって大丈夫かと声をかけてみたけど、大丈夫…と弱々しい声で返されてしまった。

 

何とかしたいけど、方法がない。

鴨志田の体罰疑惑は教師も保護者も一緒になって隠蔽している噂もあるから、声をあげても握り潰されるのがオチ。

 

うちのバレー部は毎年全国大会に出ている。

だから親も、学校も、バレー部の実績という甘い蜜を啜りたい奴らばかり。

 

でも僕もそんな社会の歯車の一部。

何かをできるほど偉くもないし、何かを為せる程のリスクも負えない。

……自分に反吐が出そうだ。

 

「…おい!何をよそ見している?」

「すみません…」

「ふんっ、授業は真面目に聞け」

 

考え事から現実へと意識が戻る。

そういえば今は授業中だった。

しかも生徒に非常に厳しい公民の牛丸。

あまりにふざけた事をしていると、チョークをその生徒の額に向けて的確に投げつけてくる。

 

今時そんな事をする…というかできる人がいるのは凄いけど、あれは地味に痛い。

 

でも授業は普通に面白い。

最近の話題から公民の内容に関連した問題を出してくるし、板書も丁寧でノートを取りやすい。

 

あ、また牛丸がこっちを見ている。

よし…授業に集中しよう。

 

---

 

しばらくして授業時間も残りわずかとなった時、外が騒がしくなった。

教室内の他の生徒もそれにつられて外の様子を気にし始める。

 

「どうした!お前らよそ見をするんじゃない!」

 

「中庭にめっちゃ人集まってる?」

「なんかやばそうな雰囲気…」

「あ!屋上に誰かいるぞ!!」

「もしかして飛び降り!?」

「やばいって!」

「あれってバレー部の鈴井さん!?」

 

もう授業そっちのけで騒ぎ始める生徒に対して牛丸は教室に待機するように指示して教室から出て行った。

もちろんそんな指示を聞く状況じゃなかったのでクラスの生徒はほぼ全員すぐに中庭に行った。

 

「……」

 

そんな中、僕は動かない。

動いても意味がないんだ。

中庭に行っても単なる野次馬でしかない。

鈴井さんを僕は知らない。

自分に何とかできるほどの力もない。

僕は…無力だ。

 

《…本…当……そ…か……?》

 

「……っ!?」

 

何か声が聞こえる気がした。

 

ストレスのたまりすぎで幻聴でも聞こえたんだろうか。

でも…それにしてはやけに頭に残る声だった。

 

「僕にどうしろって言うんだよ…」

 

結局、教室から動かずにやり過ごした。

 

---

 

「疲れた」

 

自宅のベッドに倒れ込む。

あの後、屋上に立っていた生徒…鈴井は、本当に飛び降りた。

その結果、骨折数カ所と意識不明の重態。

すぐに病院に搬送されたけど、早々回復はしないレベルらしい。

 

放課後になっても学校中で鈴井の話がされていた。

 

何であんな事をしたのか…それは分かりきっている。

彼女もまた鴨志田の被害者というわけだ。

 

「……腐ってる」

 

間違っているのは誰でもわかる。

今頃学校は何とか揉み消そうとしている最中だろうし。

けど、その間違いを正せる力を持つ者はいない。

 

「…少し寝た方がいいな」

 

思考が負の連鎖になってきている。

これ以上は考えるだけ無駄だ。

軽く睡眠を取って切り替えよう。

 

---

 

目が覚める。

 

「……知らない天井だ」

 

これは夢だろうか。

さっきまで自室で寝ていたのにいつの間にか暗く冷たい牢獄のような部屋になっている。

しかも服も制服から縞縞模様の所謂囚人服に変わっていた。

それになんと足に枷がついている、地味に痛い…

 

立ち上がって周りを見る。

牢獄の外には偉い人が使ってそうな椅子に長い鼻の老人が座っている。

そしてその両隣には片目に眼帯をしている少女2人が立っていた。

 

「ようこそ、我がベルベットルームへ」

 

日常とは明らかに違う光景に考えがついていかない。

数分ほどポカンとしていると、鉄格子の扉がガンッと大きな音を鳴らす。

 

「うわっ!」

 

びっくりして尻もちをつく。

床が固い…

 

「呆けている場合か!」

「開いた口を閉じなさい」

 

「あ、はい…」

 

床から立ち上がり、埃を払う。

そして鼻の長い老人を見て、口を開く。

 

「あの、ここは一体?」

 

「ここはベルベットルーム。破滅を免れる為の更生の場所、とでも考えたまえ」

「破滅?更生?全く身に覚えがないんですが…」

 

鴨志田に目をつけられている以外は至って普通の生活を送っている。

少し進路について悩んでいるけど、破滅を迎えると言われる程の事じゃない。

 

「今はまだ目に見えないが、破滅の時は着実に迫っている」

 

老人は不気味に笑う。

まるで何もかもを見通していて高みの見物をしているような笑みだ。

 

「おっと申し遅れた、私はここの主であるイゴール。それと右がカロリーヌ、左がジュスティーヌだ」

 

「ふんっ、お前も軟弱そうな奴だな」

「…」

 

「えっと…よろしくお願いします」

 

カロリーヌとジュスティーヌは双子なのだろうか。

それにしても2人の格好はコスプレみたいで結構違和感がある。

多分、役職的には看守に近いものだろう。

片方警棒持ってるし。

 

「…それで具体的には何をすればいいんですか?」

 

イゴールは顎に手を当て、こちらを見つめる。

 

「ふむ…そうだな、結論から言えばお前は何もする必要がない」

 

「え…?」

 

「お前はここに迷い込んだ存在、いわば漂流者の様な者。故に更生の対象者ではない」

 

あれだけ結構大層な前振りしておいて僕には何も関係なかったってオチですか……

一瞬でも、何かを期待したのが間違いだった。

 

「ふんっ…ただの漂流者だったか囚人!」

「ベルベットルームに迷い込むのは余程幸運じゃないとできませんよ囚人。いえ…これはある種の不幸でしたか」

 

カロリーヌとジュスティーヌか追い討ちをかけてくる。

 

一体僕が何をしたって言うのさ…

少なくとも真面目に人生を生きてきたと思うんだけどな

 

「あの…じゃあ更生の対象者って誰ですか?」

 

そう尋ねると、イゴールは少しの間沈黙する。

 

「ふむ…トリックスター…囚人……いや、協犯者、そうだ協犯者がふさわしい」

 

何か小声で呟いているようだけど、ここからだと聞き取れない。

とてつもなく怪しい予感しかしない。

早く帰らないと。

 

「あの…迷い込んだだけなら、元の場所に返してもらえませんか?」

 

迷い込んだだけならもうこの場所に来ることもないだろう。

それにこの場所、結構怖いから早く帰りたい。

足枷は重いし、ゴキブリいそうだし、暗いし嫌な所ばっかりだ。

 

だけど僕の願いは打ち砕かれる事になる。

 

「残念だが、それはできない」

 

「え…?」

 

「何故なら、お前は協犯者となるからだ」

 

「協犯者…?僕には何の関係もないんじゃ?」

 

「たしかにお前にとって囚人の更生は関係ない事。だが縁は結ばれた…お前と囚人は近いうちに巡り合わせるだろう。そうなれば破滅はお前にも迫る。故に囚人と協力しこれを打破するのだ」

 

「残念だったな!囚人!」

 

「カロリーヌ、囚人ではなく協犯者です」

 

「なっ!それくらいどちらでもいいだろう!?紛らわしいから囚人で十分だ!」

 

「えっと…巡り合わない可能性とか、拒否権とかは…?」

 

「「ないな(ですね)」」

 

「左様…無論我々もお前に様々な支援を行う。互いとも協力して破滅へと抗うのだ」

 

どうやら破滅からは逃れられないらしい。

全く、僕が住んでるのはSFの世界か何かなのかな…

 

考えている中、不意に目の前が歪む。

気持ち悪さは無いけど、目の前が徐々に暗くなっていく。

 

「ふむ…どうやら今日の所はここまでのようだ」

 

「また来るがいいぞ!囚人!」

「縁ができた以上貴方はまたここに招かれるでしょう。それまでお別れです囚人」

 

僕としてはもう来たくは無いんだけどなぁ…

ここ、薄気味悪くて怖いし…

言ったら多分殴られるんだろうけど。

 

「…あ!ちなみにその囚人さんの名前って何ですか!!」

 

いくら協力して頑張れと言われても、名前が分からないとどうしようもない。

次はいつ来れるか分からないし…聞いておかないと!

 

「よかろう…破滅に抗いし、囚人の名は────」

 

---

 

ジリリリと目覚まし時計が鳴る。

時刻は5時、少し寝るはずがなんと日を超えてしまっていた。

 

「うぅ…寝過ぎて頭が痛い」

 

洗面所に行って顔を洗う。

冷たい水が寝ぼけている頭を目覚めさせる。

 

「それにしても…破滅かぁ…」

 

あの夢?の内容はまだはっきり覚えている。

そして去り際に聞いた、破滅に抗う囚人。

 

その名前は───────

 

「雨宮、蓮……」

 

顔から水滴が、静かに流れ落ちた。

 

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