あれから数日、特に変化もなく時間が過ぎていった。
授業を受けて、モルガナを愛でて、ルブランでコーヒーを飲んで、モルガナを愛でて、屋上の植物を見て、モルガナを愛でたりする生活を送っている。
時々、雨宮にトリックスターの事を聞こうとしたけど鴨志田に対抗するのに忙しいのか中々時間をとってもらえない。
何しているのか気になってたまに雨宮達を尾行したけど、いつの間にか消えたりする事がほとんどだった。
「謎が多いなぁ…」
「ニャー?」
「何でもないよ」
よしよしと膝に乗っているモルガナの頭を撫でる。
実はついさっき、雨宮からモルガナを預かって欲しいと言われて預かっている。
ふぅ…モルガナ可愛い
小一時間程モルガナを愛でていると、雨宮が戻ってきた。
「預かってくれてありがとう」
「どういたしまして。僕としても役得だったから」
モルガナを持ち上げて雨宮へと渡す。
名残惜しいけど、ちゃんと飼い主に返さないとね。
「それじゃあ、また明日」
「うん、またね」
雨宮を見送った後、携帯から着信音が鳴り響く。
電話の相手は美化委員長だ。
「はい、もしもし」
『あっ、宮瀬くん。今時間あるかな?』
「ありますよ」
今日は野菜関連かな?そろそろ収穫時期だったはずだし。
『よかったぁ〜!じゃあ野菜の収穫を手伝ってくれる?』
「丁度学校にいるんで今から行きますよ」
『分かった!じゃあ待ってるね』
通話が切れる。
一々着替えるのも面倒だから制服のまま行こうかな。
「今日は遅くなりそうだな…」
野菜の収穫を手伝ってた言われたけど、いつもの流れだと収穫→野菜と洗浄→記録→美化委員長の家でお礼のお茶会という感じになる。
4、5時間くらい拘束されることになるけど今まで断った事はない。
なんというか…あの人の頼みは断りづらい。
喜怒哀楽が結構顔と雰囲気に出やすい人だから断った時に物凄く申し訳ない気持ちが湧いてくるんだよね……
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「今日はありがとう。私1人じゃもっと時間かかってたよ〜」
「今日は結構量が多かったですもんね」
あれから時間が過ぎて、今は美化委員長とのお茶を楽しんでいる。
だけど……
「………」
「………」
会話がまっっっったく続かない。
幾らなんでもおかしいと思えるレベルには続かない。
例えば『今日は大変でしたね』と言うと『うん…そうだね…』と言われてそこで会話が終わる。
委員長が淹れてくれたこのコーヒーは凄く美味しい。
だけど女の子と2人同じ空間で無言というのが辛い…
それにこの人の住んでる部屋凄く広いからさらに気まずい……
「………毎回思うんですけど、こんな時間帯までお邪魔してていいんですか?」
「全然大丈夫だよ!お父さんもたまにしか帰ってこないし、お手伝いさんも昼間しかいないから」
「そうですか…」
「……ずっと居てくれたらいいのに」
「…?何か言いました?」
「えっ?う、ううん、なんでもない!それよりお代わりはどう?」
「あっ、いただきます」
お代わりをもらってコーヒーをすする。
同じ豆でもルブランのマスターとはまた違った味わいがして美味しい。
今度連れて行ってみようかな。
なんだか、委員長とマスターって相性がいい気がするし。
「ふぅ……そういえば委員長って3年でしたよね?」
「うん、そうだよ」
「進路ってもう決まってる感じですか?」
「………うん」
委員長の顔が曇る。
まるで行きたくない所に行くような…そんな気がする。
これ以上は藪蛇かな…
「そうですか…何かあったら連絡くださいね」
「うん……ごめんね、君に頼ってばっかりで」
「頼られたって思う程大した事なんてしてませんよ。野菜の件も趣味の延長みたいな感じですし」
「それだけじゃないんだけどなぁ……」
「え?他に何かありましたっけ?」
「それは…秘密かな」
「えぇ……」
野菜関連以外で頼られた記憶がない……
委員長も言う気は無さそうだし…気にするだけ無駄か。
「さて、そろそろお開きにしましょう」
委員長に言われて携帯の時計を見ると、いつのまにか8時を過ぎている。
今日もまた長居してしまった……
一緒に居るのが嫌というわけじゃないけど、終わる時間が時間だしなぁ。
もし委員長の両親に出くわしたらとんでもない誤解を与えそうで困る。
「すいません…また長居しちゃったみたいです」
「ううん、全然問題ないよ!」
「いやいや、問題大有りだと思うんですけど……」
「ううん、全然問題ないよ!」
「ほら、ご両親とかに見られたら変な誤解をされ」
「ううん、全然問題ないよ!」
あっ駄目だこれ、はいしか答えられない選択肢だ。
というか変な誤解が起こっても問題ないの……???
「……はい」
「うん、素直でよろしい」
なんか僕が駄々をこねてる感じになった…おかしい……
いいこいいこと言って今にも頭を撫でそうな雰囲気を出す委員長。
そんな委員長から半歩距離を取って帰り支度を始める。
この人、僕の事を犬か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。
やたら撫でまわそうとしてくるし、距離近いし、偶に選択肢バグるし……
「それじゃあ…帰ります」
「うん、またね!」
名残惜しそうに玄関から見送られながら、帰路につく。
そして…疲れた(主に精神的に)から、家に入るなりベッドにダイブしてそのまま眠りについた。
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ふと気づくと、昔の記憶の中にいた。
昔、通っていた小学校の廊下。
夕陽の光が窓ガラスから差し込んできていて眩しい。
『………』
少し先に女の子が佇んでいる。
見覚えのある、大きな眼鏡を付けた───
その子は僕に気がつくと、ゆっくりと近づいてきた。
『──』
何かを呟いている。
何て言っているんだ。
途中まで来ていた女の子は急に止まってしまう。
そして頬に一筋の涙を流して僕を見つめてくる。
『……………さよなら』
長い沈黙の後、その一言だけを言うと女の子は歩いて遠ざかっていく。
追いかけて、その手を掴まないと───
だけど足は固められたようにピクリとも動かない。
彼女は夕焼けとの光に溶け込んでいく。
待ってくれ……僕は…僕は───!!!!
「「起きろ(なさい)、囚人!!」」
急に場面が変わる。
この前来た牢屋の景色だ。
ドアの前にはカロリーヌとジュスティーヌが立っている。
「呼びかけに反応しないとは生意気だな!囚人!」
「ご、ごめん」
カロリーヌは前回と変わらず厳しい。
刑務所の看守もこんな感じなんだろうか。
「カロリーヌの言う通り、少々気を緩ませ過ぎです、囚人」
「はい…」
ジュスティーヌも前回と同じく冷たい。
しかもこの子度々毒を吐いてくるから怖い。
「ククク…ようこそ我がベルベットルームへ」
椅子に座って待ち構えているイゴール。
不気味だな……何を考えているんだろう。
「ククク…どうやらトリックスターとの邂逅は果たした様だな」
トリックスター…雨宮の事か。
邂逅したって言われても隣の席だし結構前から面識はあったけどね。
……あっ、そういえば雨宮に
モルガナと乱入してきた金髪くんと高巻さんの事に気を取られすぎたなぁ…。
今度改めて聞かないと。
「早速出くわすとは運がいいな囚人!」
席が隣だっただけです。
でも結構自信満々に言ってるから…言わない方がいいかな。
うん、言わない方がいいね。
「ただ、囚人と情報交換はできていないようですね。もっと頑張りなさい、囚人」
ジュスティーヌが釘を刺してくる。
その視線はとても冷たい。
それにしてもこの2人いい感じにバランスを取ってくるよね。
片方が上げたらもう片方が落とすみたいに。
「えっと…今日は何の用事ですか?」
「今宵はトリックスターが抗っている舞台を貴様に体験させる為に呼び出したのだ」
「抗っている舞台…?」
「左様」
ここ数日見ていたけど特に変わったところはなかった。
授業を受けて、モルガナに構って、金髪くんと高巻さんとつるんで…といった様子だった。
てっきり裁判でも始めるつもりなのかと思っていたけど、今のイゴールの言い方でそんな風じゃないことは分かる。
「貴方には人の歪んだ心の世界…
「お前がさっさと異世界に入らないから手伝ってやるんだぞ!!」
カロリーヌが鉄格子を警棒で叩く。
カァーンという甲高い音が部屋中に鳴り響いてうるさい。
耳を押さえつつ、イゴールに視線を戻す。
「パレスとか歪んだ心の世界って言われてもよく分からないんですけど…」
「パレスとは歪んだ欲を持つ人の心中…。お分かりいただけたかな?」
「…人の頭の中に入るってこと?」
「概ねその介錯で構わない」
そんな馬鹿な事があるわけない。
仮にあったとしたら、世界中で大混乱を引き起こすはずだ。
何せ心の中を自由に出入りされるんだから。
まさか、雨宮は鴨志田を洗脳して退学を免れようと……?
「……何か勘違いをしている様なので言っておきますが、パレスは特に歪んだ思想を持つ人間にしか発現しません。また、囚人にはパレスから人を操るなどと言うことはできません」
「そ、そう……ありがとう」
「……これも勤めですので」
「あ、うん…」
ジュスティーヌが場をリセットするように咳払いをする。
「話を戻しましょうか……囚人が企んでいるのは恐らく対象者のパレス崩壊による良心の叱責、という所でしょうか」
「良心の叱責…?」
「はい、パレスとは所持者の醜い欲望や感情の塊。それが破壊され、消えて無くなると言えば理解できるでしょう」
「………マイナスがプラスになる?」
「はい、個人差はありますがその通りです」
つまり、パレスを消せば対象の悪性も消えて善性だけが残って良い人に変わるって事なんだろう。
でも過去は変わらないから自分の犯した過ちを悔いる事になる…それが良心の叱責って事か。
鴨志田が良い人になるっていうのはあんまり信じられないけど、
「他に質問は?」
「…今の所はないかな。ジュスティーヌさんが説明上手で助かったよ」
「えぇ…どういたしまして」
表情は変わってないけど、声音が少しだけ柔らかくなった。
もしかして…照れてたりするんだろうか。
一方カロリーヌは何故か胸を張ってドヤ顔してる。
いくらなんでも顔と態度に出すぎじゃない…?
「百聞は一見にしかず…そこの光に触れるがいい」
イゴールが指を鳴らすとベッドの上に光の玉が浮かんだ。
言われる通りに光の玉に触れると、輝きが強くなって目が眩む。
「うーん……ここは…」
真っ白になった視界が少しずつ戻っていく。
視力が戻り辺りを見渡すと、ここがベルベットルームではなく学校の門前だという事に気づいた。
だけど目の前に建っているのは普段通っている学校じゃなくて西洋チックな城だ。
「これが……パレス」
鴨志田の歪んだ心の中…
中からは禍々しい空気がヒシヒシと伝わってくる。
足が震える、寒気がする、そして嫌な予感が止まらない。
「………」
一歩が踏み出せない。
恐怖で足がすくんだわけじゃない。
足が、体が、本能が、これ以上関わるのは駄目だと感じているんだ。
戻れなくなるぞ、そう警告しているように。
「……ふぅ…落ち着け…」
深呼吸して落ち着く。
体も力が抜けて、普段通りに動けるようになった。
「どのみち、もう引き返せない所にいるんだ。行くしかない」
そう自分に言い聞かせて、全く未知の世界へと足を踏み入れた。
お久しぶりでした。
すいません、ほんとすみません。
主人公君が異世界ナビに気付いてないのが悪いんです。
あいつ全くスマホ見ないんですよ。
なのでこんなに回りくどくなりました。
元凶は私です、ユルシテ…
感想、文句等、あればぜひお願いします。
誤字があったら優しく指摘してもらえると作者の好感度が上がります。
ではまた次回で