「一体何がっ……!?貴様は何者なんだ!」
力が漲る。
体の傷は回復しているのか痛くも痒くもない。
それに戦うための武器もある。
左手に小型の盾、右手にはやや長めの剣。
不思議と重さは無く、これなら不自由なく振るえるだろう。
「僕は僕さ。さぁ、覚悟はいいかい?」
絶望的な状況だと思っていたけど、今なら切り抜けられる気がする。
「ふざけるな!死ね!!!」
驚きから落ち着いたマーラがさっきと同じ呪文を唱える。
また体が燃え上がるが、今度は対策できる。
「夜のオーロラ」
身を包んでいる炎が弾け飛ぶ。
「何だと!?」
驚きを隠せないマーラが何度か同じ事をしてくるが、炎は全て弾け飛んで消える。
やがて、撃てなくなったのかマーラが息を切らして叫ぶ。
「轢き潰してくれる!!」
体を前に傾けて突っ込んでくる。
先程よりも速い。
避けることは難しいだろう。
「それはどうかな?」
左手の盾を構える。
足に力を込めて、カウンターを決められる様に体勢を整える。
「ぐっ……」
物凄い衝撃が全身に伝わる。
吹き飛ばされそうになるけど、盾の角度を斜めにずらして奴の軌道を変えた。
「馬鹿なっ!!?」
僕が加えた力によってさらに加速するマーラ。
当然、減速なんてする暇もなく透明な壁に大激突した。
「ぐぁっ……」
ダメージが大きかったのか、その場に倒れてダウンする。
その隙は決着をつけるのには十分すぎる物だ。
右手の剣を振り上げて、力一杯振り下ろす。
剣は抵抗も無くマーラの体を切り裂き、両断した。
「はぁっ!!」
「ぐぁっ……、馬鹿、な」
「ごめんね。でも僕は……今、死ぬわけにはいかないからさ」
マーラの体が墨の様に黒く染まり周りに霧散していく。
それと同時に、周りの張り詰めた雰囲気が元に戻る。
どうやらマーラを倒した事で普通の空間に戻ったようだ。
「よかった……」
剣を腰に着いている鞘に入れる。
盾は……腕に引っ付いているからこのままでいいか。
小さめの盾で助かった。
これなら邪魔になることもない。
「さてと……奥には何があるかな?」
マーラは何かを守る様に警戒していた。
ということは、この奥に何らかの仕掛けがあるはず。
「っとと……」
歩き出そうとした瞬間、体から力が抜けて転びそうになる。
「なんだよ……これ」
体が異常に重い。
息もあがってきて、立っているのも辛くなる。
何がどうなっているんだ。
「うっ……」
足の力が抜け、倒れ込んでしまった。
壁がひんやりしていて気持ちいい。
景色もぼんやりと霞んできた。
今、この状態で敵に襲われたら終わる。
「く、そ……」
剣を杖代わりにして何とか立ち上がる。
フラつきながら、必死に奥へと足を運ぶ。
「……あった」
宝箱……と、ボタンがひとつ設置されている。
きっとあのボタンでエレベーターを再起動できる。
そうでないと困る。
ボタンを押す。
それと同時に、エレベーターの方向からガチャリと何かが解除される音が鳴った。
「よし……」
隣の宝箱が気になるけど、今は宝箱に時間を割く余裕がない。
惜しいけど早く脱出しないと……
エレベーターに乗り込み、起動させる。
「……」
疲れがさらに強くなり、力が抜けていく。
エレベーターが、来た時と変わっていないはずなのにゆっくりと動いている様な気がしてきた。
体が何度かふらつくけど、堪え続ける。
しばらく経って……ようやく戻ってこれた。
「はぁ……はぁっ………」
強烈な眠気が襲ってくる。
今倒れたら間違いなく意識が飛ぶ。
「うっ……」
やっぱり、限界だ。
膝から崩れ落ち、そのまま倒れてしまう。
眠い。
瞼に重りがつけられたみたいにどんどん下がっていく。
「く……そ」
………
…………
……………
「起きろ(なさい)」
はっ……!?
ここは、ベルベットルーム?
さっきまで鴨志田のパレスにいたはずなのに。
それに格好も囚人服に戻ってる。
「まず、ペルソナの覚醒を祝福しよう」
イゴールが不気味な笑みを浮かべながら拍手してくれた。
それに合わせてジュスティーヌとカロリーヌも拍手している。
「ペルソナ……?」
「左様、ペルソナはお前の心が生み出した叛逆の力。異世界で生き残る為の唯一の力だ」
「良くやったな、囚人!」
「初めてのパレスにしては上出来です。囚人」
「あ、ありがとう……?」
褒められてるから、悪い事じゃないんだろう。
自分より小さい子に褒められるのもむず痒い感覚だ。
「えっと……たしかそのパレスで倒れたはずなんだけど」
「さぁ、何でだろうな?」
何故か不敵に笑うカロリーヌ。
もしかして夢だった……?
いや、ジュスティーヌ達の様子を見る限り違うだろう。
それに体も節々が痛いし。
「まさか、運んできてくれた……とか?」
「不正解だ!」
「えぇ……」
つまりどう言う事なんだ?
「……今の貴方はただの精神体にすぎません。故にパレスで倒れても、肉体に戻るだけです」
あっ……そうか、なるほど。
僕は本来家で寝ているはずだ。
そしてベルベットルームは夢に近い場所。
つまり、肉体はベッドで、精神だけこの場所に来ているという事になる。
「まぁ貴様はベルベットルームに縛られているからここに戻るわけだがな!」
「縛られている?」
「貴方と囚人の因果が複雑に絡み合った結果、貴方も囚われの身と言う事です」
「そっか」
僕は巻き込まれただけだけなのに何だか酷い状況になっている気がする……。
「……さて、時間の様だ。お前の心に恥じぬよう、運命に抗うといい」
「精々醜く足掻く事だな!」
イゴールが指を鳴らすと、景色がぐにゃりと歪む。
「──はフェアでなければいけないな」
全てが真っ黒になる直前、イゴールの掠れた声が少しだけ聞こえた。
お久しぶりです。
戦闘描写はよく分からないのであんまり突っ込まないでもらえると幸いです。
ちなみに夜のオーロラですが、仕様が本作独自のものに変わっているのでお伝えします。
本来の夜のオーロラは一属性以外全反射ですが、本作の夜のオーロラは直近で受けた二属性までの攻撃の無効とその反対に属する攻撃の弱体化となります。
分かりやすく説明すると、火炎属性と物理属性の攻撃を受けた場合、夜のオーロラ使用時にその属性の攻撃が無効となり、対となる氷結属性と銃撃属性の攻撃が弱点となります。
例外として万能属性は常時半減となります。
それではまた次回