異世界転移してきた姫騎士を助けたら俺がTSして騎士になった件 作:バソルト
振りかかる太く固そうなモノ。このままだと顔に降りかかるのは明白だ。
手に持つ剣も、間合いが近すぎるのも相まってスピードが足りない。
つまり後、瞬きほどの時間で致命傷になるであろう攻撃を食らうと言うことだ。
「くそっ」
残念ながら手詰まりだ。今にして思うが、間合いの取り方が下手すぎた。
目前に迫る腕。
壁みたいな何かがあれば……。
ダメージは避けられないが、幾分か少なく抑えられる。
壁
壁
壁
壁
壁よ!!
衝撃に備えてか、それとも反射からか。
目を瞑る。この後来るのは凄まじき痛み。
辞世の句でも考えておけば良かった。
鈍い音がした。凄まじき痛みのためか、痛みがまだ来ない。
強力な一撃による痛みは後からやって来ると言う。
しかし自然と、身体が舞う感覚も地面に叩き伏せられる感覚もない。
全くの無感覚。
流石に可笑しいと思った俺は、ゆっくりと目を開ける。
するとそこには、信じられない光景が目に飛び込んできた。
~Tizuka Said 結界外~
あいつらが消えた。
銀と昨日うちの部屋に泊まったシルヴァーナなんちゃら、とか言う胡散臭い私と同い年か少し下ぐらいの女の子だ。
何かぶつくさ言っていたけど、何だろう。
もう、ただでさえ頭が混乱する出来事が起こってるって言うのに、次から次へ問題が増えていく。
銀も銀だ、自分の置かれた状況をしっかり理解しているのか心配だ。
あれはいくつになっても変わらない性格、考え方。
そのせいで自分が損していることも知っている筈なのに、どうしても変わろうとはしない。
もうダメ人間がすっかり板について……ハァ、思い返すだけでも頭が痛くなりそうだ。
話は逸れたかもしれないけど、言いたいことがある。
「二人は何処へ消えの?」
失踪事件発生。たしかに二人は私の前を歩いていた筈だ。
二人でまた何かぶつくさ言った後に消えた。
まったく、私は置いてきぼりか……。
これも二人の優しさ?
それもと私がただ邪魔なだけ?
どうしても後者の方が強いと思う私。
だけど今は辺りを見渡し、何処かに手がかりがないか探すしか手はない。
もう何が何だか解らない。
辺りを探しても行き交う人々は、何事もないように歩く。
それは流れゆく川のように。
ただ人は私を避け……
……人は何事もないように行き交う。
私には、何も出来ることはない。何も出来ない。
~Gin said~
「なんだ……これ」
死の瞬間。
人はスローモーションのように景色が見えると言う。周りを囲まれ、逃げる場所はない。
ただ降り下ろされる太い腕を待ち構えるだけとなってしまった。
剣はおろか蹴りや拳の類いは放てたとしても、この近い距離だ。
威力は期待できない。死を悟り、俺はゆっくりと目を閉じたのだが……
「あれっ?」
……何かおかしい。
目の前には六角形の膜のようなもの。
それは、降り下ろされる太い腕に付いていた。
「グヌヌヌッ」
みると、持てる力をすべて出している様子。
だが、しかし。
六角形の膜は一ミリも動いている気配はない。
それどころか、少しずつ押し返しているようにも見える。
「まさ……かな」
体は知っている。頭では理解出来ない、体を纏う鎧はこの仕業を知っている。
勘だが。
「シールド」
口からついて出た言葉。
その言葉がまるで力を持つ魔法のように。
応呼するように六角形の膜は青白い強い輝きを放つ。
「グェッ」
なぜか周りの蜘蛛の人は吹き飛んだ。
それと同時に、六角形の膜は姿を消す。
「まさか……これって」
「シールドだ」
背後からの声。後ろを振り返ると、いままでどこに居たのか解らなかった。
「シルバさん?」
シルバさんが居た。
「見ていなかったのか?夢で私が戦っている姿を」
「まったく」
怪訝そうに言ったシルバさん。だかそれを“まったく知らない”と答えた俺。
間違ってはいない。だって見た夢は悲しげな表情で俺の事を見る“俺自身”なのだから。
もっとも、最近知ったことだがな。
「はぁっ……まったく」
呆れたと言った様子で。
シルバさんは、俺を見ながら深いため息をついた。
「な、なんだよ俺の夢なんだ。俺がどう感じようと勝手だろう」
そう言う俺に対し「そうなんだがな」というシルバさんはどこか釈然としない様子だ。
その事に少しばかりの違和感を感じたのだが、シルバさんの瞳を見ると俺は直ぐ様、臨戦態勢に入った。
「銀!!」
シルバさんが叫ぶ。
「わかっている」
遅れて、感覚が客の来訪を知らせる。
シルバさんの鋭く光る瞳に映ったのは、怪しく動く影。この“結界”内には俺たちを除いて、蜘蛛の人達しかいない。
そう、怪しく動く影。それは……
「ガガガッ」
シールドによって吹き飛んだ蜘蛛の人だ。
レイピアをつよく握り、蜘蛛の人に切りかかる。
「ギィ」
レイピアは蜘蛛の人の腹に埋もれ、そして……
「ギヤァ」
劣化した血を彷彿とさせる、赤黒くなった液体を切り口から噴出させた。
「はぁっ……」
俺は剣に力を込め更に強く、そして深く刃を蜘蛛の人に埋める。
「……はぁぁっ」
剣は敵である蜘蛛の人を真っ二つに切り裂くと、剣に付いた青い宝石が一瞬光輝く。
切り捨てられた蜘蛛の人は爆発し赤黒い炎を上げた。メラメラと燃える炎は血の色と一緒だった。
「ヨクモォ」
そう、敵は一体ではない。
目前に燃える炎を背にし、俺は剣を声の方向に突きつけた。
「ギィッッ」
蜘蛛の人……いや、人達は同胞を葬られた怒りからか一斉に吠えた。
「いくぞ」
正直言うと怖い。だって、蜘蛛人間がウジャウジャした口を開けて“ギィッッ”だぜ。
多少虫に耐性のある俺でもあれは鳥肌ものだ。正直あれで羽が生えていたら卒倒ものだろう。
「ギィッッ」
また“ギィッッ”って言った。そろそろ泣きたい。
「はぁぁっ」
互いが同時に跳躍し、間合いを一気に詰める。
蜘蛛の人は太い腕を。
俺は剣を振るう。
重い金属音がした。
鋼と鋼がぶつかり合う音だ。
手の痺れは免れなかったが、それは相手も同じだろう。
ぶつかり合うと同時に二人は、つばぜり合いの状態になった。
拳と剣。
読み方は同じになるのだが、いかんせん武器自身の各が違う。
本来ならば剣と拳が均衡することなんて無い。
「ギギギギッッ」
「はぁっ」
だが、拳は剣を弾いた。
人間業ではないのは百も承知だ。
レイピアも、本来ならば多数を相手にするのに向いてはいない。
「シルバさん、大丈夫か」
「問題ない。銀は自分の戦いに集中するがいい」
そう言って、シルバさんは向かってくる蜘蛛の人の攻撃をなんとか避けている。
「堪えてくれ、今すぐにでもいくから」
と、カッコをつけてみたが目の前には三体の蜘蛛の人がいる。
やってみるか?
しかし、使い慣れていない能力に頼るのは些か不安だ。
《お前なら大丈夫だ》
謎の声……いや、この声は鎧に宿る蟻型モンスター“アーマイゼ”だ。
前に聞いたことがある……きがする。
「そうか?アーマイゼ」
《あぁ、何せお前は“………ンダル”の騎士なのだからな》
「え?今なんて」
問いかけようにもこの後、アーマイゼの気配は消えた。
「さっきら何をぶつぶつと独り言を……いくぞ」
そう言って、蜘蛛の人は一斉に襲いかかってきた。
「……やるしかないのか」
やるしかない。
やらなければ……死ぬのは自分だ。
俺は口数も少なく、身を屈め一気に前へ駆け出す。
「来るか」
蜘蛛の人も、変態を組み駆け出す。
互いの得物の間合いに距離を詰めたとき、小さな衝撃波が辺りの街路樹をゆらした。
肌が震える。
剣は一体の蜘蛛の人の拳を受け止めたまま一ミリも動こうとはしない。
左右同時に残りの蜘蛛の人が、俺に向かい拳を振るう。
「残念。シールド!!」
蜘蛛の人が拳を振りかぶる直前、その拳の前にシールドを出現させる。
「グウッ」
案の定、下手に勢いを殺され蜘蛛の人はバランスを崩と
「らぁぁぁっ」
拳と剣の鍔迫り合いから、一気に剣へ力を込め相手を弾き飛ばす。
二、三歩。蜘蛛の人がよろめくと俺は一気に剣を目の前の蜘蛛の人に突きつける。
「スピントナーレ」
胸に突き刺さった剣。
切り口から中心に、衝撃波が蜘蛛の人の胸を突き抜け、波紋のように蜘蛛の人の体が起伏する。
「グッ……ガッ……ッ」
剣を引き抜き、血を振り払うように横に振るう。
「プロセグイメント(次)!!」
横に振るわれた剣は、蜘蛛の人の首を切り裂く。
「フィーネ(終りだ)」
直ぐ様逆手に持ち変え、そのまま脇を通すように後ろへ剣を突く。
「グギギッッ……ガッ……ガァッッ」
二つの爆発音がした。
蜘蛛の人は赤黒い炎を上げ、爆発した。
ここで違和感に気付く。
モンスターを倒したというのに、体にモンスターのエネルギーが入ってくる感覚がしない。
敵は三体。
しかし、聞こえてきた爆発音は二つ。
「ギギギギッ」
背後から声がした。
それは人の声ではなく、獣にも近い野蛮な声だ。
「……」
ゆっくりと振り返る。
悪い予感しかしない。
「……ッゥ」
自分の愚かさを今以上に呪ったことはないだろう。首を切られた蜘蛛の人は、刄の入りが浅かったみたいだ。
パックリと開いた傷口に、赤黒い炎から立ち上がる光の粒子が集まって行く。
それは今まで結界内で、倒された蜘蛛の人全てだ。
ここまで来ると笑うことしか出来ない。
光の粒子を全て取り込んだのか、赤黒い炎は火の粉の様な大きさとなって消えた。
そして、光の粒子が全て生き残った蜘蛛の人に集まる。
「マズイ、離れろ銀」
シルバさんの怒号。
その怒号の意味は直ぐに知ることとなった。
「カヴァリエーレ」
数匹の蜘蛛の人が同時に喋ったような声がした。
「なんだぁ、あれ?」
傷口に集まった光の粒子は、蜘蛛の人を繭のように包む。
本来ならば蜘蛛は脱皮して体を成長させる。そんな無駄知識は置いといて、相手はモンスター。
こちらの世界の常識が通用しないのは、百にも億にも承知だ。
「銀、何を呆けている。早く離れろ」
意識が何処かへ旅立っていたその時。
それは、シルバさんの叫ぶような声と同時だった。
繭から何か飛び出し、シルバさんは宙を舞った。
シルバさんの名前を叫ぶと同時に、自分が如何に不真面目だったかを後悔した。
後からでは遅い。
そんな当たり前の事なのに、俺は同じ過ちを繰り返す。
「くそぉぉぉっ」
性が変わり姿も変わり、俺は何かが変わっていた気がしていた。
だが、そんな事はただの思い過ごし。地面に打ち付けられ、力無く転がり行くシルバさんを見たとき。
頭の中が真っ赤に染まっていくような。
ある一つの感情が脳内を支配した。
~Silvana Said~
まったく……私としたことが、とんだへまをしたものだ。
宙を舞い、体が一瞬軽くなった時に私は銀の叫び声を聞いた。
心配するな銀、だからそんなに叫ぶでない。
確かにそう言ったつもりだが、口が動かなかったみたいだ。
「ぐっ」
やっと出せた言葉、は肺から空気が溢れ出した音。硬い地面に叩きつけられ、私の視界はグルグルと回る。
やはり痛いな……前なら受け身を取って直ぐに立ち上がれたものだが。
今は全身に激痛が走り、立とうと言う気力すら起きない。
ふんっ、やはり力は殆ど失ったみたいだ。
まぁ、その代わりの後釜はいるんだな。
~Gin Saida~
視界が真っ赤に染まる感覚。
心は燃えるように熱く。しかし、頭は冷たく清んだ水のごとく冷静だ。
全身のを駆け巡る血管から感じられる血流が感じられる。
頭の天辺から足の爪先まで。
全身を言い様の無い不思議な力が駆け巡る。
手に握る剣はそれに応呼するように、青い宝石が青白く光り輝く。
「シルバさん。俺……今だったら何にも負けない自信があるよ」
なんて、無駄に自信も湧いてくるわけだ。
「何なんだお前」
「俺?俺かい?」
何を変なことを聞くのやら。
俺が誰だなんてもう決まっている事じゃないか。
「俺は騎士。そこにいる姫を守るカヴァリエーレさ」
そう言うと同時に、俺は地面を強く蹴った。
向かうのは蜘蛛の人達の元ではない。
「シルバさん」
そう、シルバさんの元へ。
あんなにボロボロになっているんだ、心配じゃない筈はない。
「大丈夫か、シルバさん」
剣を地面に突き刺し、シルバさんをお姫様だっこする。
服は所々破れ、着ていた服はすっかり汚れていた。
「ば、馬鹿者。私に構わずさっさと奴を倒せ」
だけど、シルバさんは元気だった。
「そんな元気なら、心配は要らないかな」
何でかは解らない。
元気な筈なのに言い様の無い不安が胸に引っ掛かる。
「来るぞ」
シルバさんが叫ぶ。
その直後、背中に嫌な気配を感じる。
「くっ」
シルバさんを抱えたまま二階へと跳び移る。
雑貨屋の前。
動いたであろう玩具の飛行機は、天井に吊るされたまま、その動きを止めていた。
「大丈夫かシルバさん」
「見ての通りボロボロだ。だが……なに、心配は要らない」
「でも……」
シルバさんはそう言うとニッコリと微笑み。
「そんなに心配するでない、暫くゆっくりすれば、直に治る」
「わかった」
そう言うとシルバさんをゆっくり下ろすと蜘蛛の人達を見据える。
「チョッと行ってくるよ」
「あぁ、早めに帰ってこい」
「了解」
背中越しに二三会話を往復させ、俺はまた蜘蛛の人達の前へ降り立った。
空を見上げる。
セピア色に染まった空は非現実を体現していると言っても過言ではない。
蜘蛛の人達もその大きな体を支える二本の太い足で大地に立ち、呼吸に会わせ体が上下に動いている。
「話は済んだかカヴァリエーレ」
なんとも律儀に待っていてくれたようで、蜘蛛の人達はそう言い終えると丸太のように太い腕を振り上げた。
「あぁ」
その返答を合図に、蜘蛛の人達の腕は俺目掛け降り下ろされた。
「来いっ」
右手を開き直ぐ様閉じた。
地面に突き刺さったレイピアは手に吸い込まれるように手中に収まる。
「シールド」
目の前に六角形の薄い青色の巻くが現れ、蜘蛛の人達の拳を受け止める。
「ぐっ」
しかしそれは、ほんの一瞬の時間稼ぎに過ぎない。
それを解っているのだろう、蜘蛛の人達はお構い無しにその強烈な攻撃でシールドを突き破る。
攻撃が衝撃波となり、風が地面を穿つ。
直接叩いていないのに、地面が変形した。
「な…に…」
蜘蛛の人達は心底驚いた様子だ。
それはそうだ、俺がその場にいなかったからだ。
一瞬の時間。
一瞬の隙。
俺は、体を半回転させレイピアで蜘蛛の人達の胴目掛け剣を振るった。
いわゆる抜き胴と言う技。
だが、それはあくまで牽制に過ぎない。数体の蜘蛛の人が集まった集合体型のモンスター。
外皮は、蜘蛛の人よりも固いのは証明済みだ。
「はぁっ」
背中を思いっきり蹴りつけ、蜘蛛の人達と間合いを空ける。
「ギギッ」
鳴き声なのか言葉なのかは定かではない。
蜘蛛の人達は目を赤く発光させ関節から蒸気を発している。
「なんだ貴様……なぜ、急に」
蜘蛛の人達が何を指しているのかは分からない。
俺の動き?
それとも心のあり方?
まぁ、たぶんどちらもだろうと予想はできる。怒りか定かではないが、興奮している蜘蛛の人達。
さっきまで、心ここに有らずだった俺が急にやる気を起こしたんだ。
そりゃぁ、当たり前か。
勝てると踏んでいた相手の力が急に跳ね上がったのだから……
剣を握る手は強く。
剣を振るう手は柔軟で。
剣を掴む心は真っ直ぐに。
ただ一つの信念を。
ただ一つの志を。
ただ一つの己のあり方。
「貴様何をした」
蜘蛛の人達は目を発光させ、間接から蒸気を噴出させている。
「俺かい、なにもしてないさ」
そう、ただ自分に目を背けていただけ。変わり行く自分に、何時しか無意識に蓋をした力。
勝手に決めてしまった己の限界。
「我が身に宿りしは、騎士の力」
「貴様…」
「俺は騎士」
「…コロス」
「そこにいる姫の、カヴァリエーレさ」
剣と爪が交差して高い金属音が鳴り響く。
交差。
手には蜘蛛の人達を切り裂いたたしかな手応え。背後から聞こえるのは、蜘蛛の人達から聞こえる血の雨音。
剣に付いた血を振り払い、俺は静かに剣を元のハンガーへ戻した。
「ふぅっ」
深く溜め息をつくと、体が軽くなったように思える。
見ると、斬り伏せた蜘蛛の人達からは光の帯が俺に吸い込まれていっている。
「勝ったか」
勝利の余韻に浸りながら、辺りを見れば割れた石畳、壊れた街灯。崩れた壁。
やり過ぎたか。
そう思ったその時。
空から硝子が割れるような音がすると同時に、体から光の帯が流れ出た。
「えっ」
呆気に取られている間に光の帯は、どんどんと壊れた箇所へ吸い込まれていった。