異世界転移してきた姫騎士を助けたら俺がTSして騎士になった件 作:バソルト
フリルの沢山ついたピンクのゴズロリ服は、意外と重い。
いや、重いのは俺の足取りなのかもしれない。
結果捕まった俺は、見ての通りのフリフリプリティーな姿となった。
「むっ、まさかここまで似合うとは」
シルバさんが関心したように言っているけど。
姿が瓜二つと言うことを、このお姫様は忘れているのだろうか。
あぁ、遠回しの自画自賛とは良くいったものだ。
「これからどうしようか」
場所を転々としなければ。
人の目がこんなにも恥ずかしいものだなんて、今まで忘れていたよ。
見られる快感。
生憎だがそんな性癖は持ち合わせていない。
だから……
その……
どうしよう、じっとなんかしてられない。
早くこの場を駆け抜けたい。
「な、なぁ。二人とも」
同時に振り返る二人。
「「どうしたの/なんだ」」
姉妹ですか、こんちくしょう。
息が恐ろしいほどにピッタリだな。
「このフリフリの服は何とかならないのか」
「ふむ、何を言い出すかと思えば」
俺の提案に若干、残念そうな視線を俺に向けたシルバさん。
「ギンのパソコ……」
「ワァーッ!ワァーッ!!ワァーッ!!!」
「そうだよ、検索履歴は消しても実は消えてないんだよ」
「……」
俺にプライバシーはないのだろうか。
「見るのと……着るのじゃ違う」
力尽きる前に何とか放り出した言葉は、何とも弱々しいものだった。
その時突然。
本当に突然に、何処からかベートーベンの運命が鳴り響いた。
「もしもし」
軽く驚いた俺だが。
どうやら千束の電話だったらしく、そのまま話をしている。
「はい……はい」
電話口の雰囲気は、どうやら友人との会話ではないらしい。
千束の顔が段々と、仕事モードに変わっていく。
「解りました、すぐ現場に向かいます」
そう言うと、短い受け答えを終え、携帯をしまう。
「ごめん、二人とも仕事だわ」
片手を上げ、ウインクをしながら謝る千束は、一瞬だがとても悲しげでしかし直ぐに残念そうな顔をした。
「むっ……そうか」
シルバさんも少し残念そうに、返すと。
「じゃぁ、私いくね」
そのまま、手を振りながら去っていってしまった。
「二人きりに……なってしまったな」
そう言って、シルバさんは若干目を潤ませ俺を見る。
「銀……気がつかないのか」
潤んだ瞳で俺を見るシルバさんから。
仄かに薫る女の子独特の臭いに、俺は一瞬だがドキッしてしまう。
押さえろ。
冷静になれ俺。
相手はあの、シルヴァーナ・カヴァリエーレ
もうひとつの世界の俺自身なんだぞ。
シルバさんに欲情する=俺に欲情すると同じことだ。
鎮まれ、鎮まりたまえ荒ぶる獣よ。
お前は獣の前に紳士である筈だ。誰に対しても盛るなんて言語道断だ。
それが例え自分の理想像の女性だとしても。
そうだ、理想像だ。
シルバさんは、俺の理想像とは違うところがあったじゃないか。
胸。
胸だ。
胸を見ろ。
平原のような。
大海原のような。
真っ平らなまな板を。
おおおっ、おちちけ。
荒ぶる獣よ。
胸を見ろ。
シルバさんのまな板を。
貧相な胸を。
……。
………。
うし、落ち着いた。
これまでの事は、僅か0.5秒の思考の世界で起こったことである。
皆さんは、気を付けてほしい。
もし、絶対に欲情してはいけない相手が居たとしよう。
そんなときは、相手の嫌な部分をじっくりと見るのが効果的だぞ。
今は胸だ。私はあのまな板を見ることで理性を保てた。
皆さんは、気を付けよう。
それは時として自分の感情の高ぶりを、相手に知られる場合があることを。
「さっきっから、私の“胸”ばかり見て何を考えておる」
「イエ メッソウモ ゴザイマセン」
どうだ、俺のクールな返し。
惚れるなよ。
しかしな、恥ずかしい。
好奇の目で見られる俺。
当たり前なんだが、恥ずかしい。
このフリルの沢山ついたピンクのゴズロリというのは、メルヘンである。
忘れているかもしれないが、それに加えて銀髪である俺。
どうみてもコスプレです。
ごちそうさまです。
いや、めしあがれかな……何か無駄にエロくない?
「なあ銀」
っと、また旅に出てた。
「どうした」
「うむ、服も良いがいい加減に馬は買わぬのか」
「馬って、公道走れ……それ以前にお金がないよ」
ショッピングモールを宛もなくゆっくり歩きながら、ガクッと項垂れる。
「なんと……馬すらもまともに買えんとは」
「シルバさんとは違うんだよ」
大きなお世話だこんちくしょう。
「だったら私の馬を使うか」
「えっ、シルバさん……バイクもってるの」
「当たり前であろう、私は馬の一つも持たぬ低階級な騎士ではないさ」
「そうか、そうだよな……で、どこ?」
「……家に忘れてきた」
「なん……だと」
少し間はあったよ。
少し間があったからポンって出てくると思ったじゃん。
「家?」
「うむ」
「マイホーム」
自分を指差していうが。
「いや、私の家だ……って、それ以前に銀の家でもなかろう」
「いんや、俺の家でもある。と言う訳で、行ってらっしゃい」
そう言って手を振り見送ろうとしたが……
「残念ながら任の途中は帰れないのだよ」
……それは、衝撃の事実と共に一蹴された。
「任?」
疑問一杯でシルバさんに返す。
なんだよ“任”って。聞いてないぞ。
いや、それ以前に力を失ったシルバさんの代わりに俺が行くという事もあり得る。
出来れば戦いを出来るだけ回避したい俺な訳だが。
最低限戦わなければいけない訳で。
戦いたくないけど、戦わなければならない。
そんなジレンマがここ最近、もっか悩みの種である。
「おーい、銀よ戻ってこい」
「んおっ」
「また別のことを考えていたのであろう」
「イヤそんな事無いゾ」
「ほんとうか」
疑いの眼差し100%の目で見てくる。
うーん、正解と言ってあげたい。
「そうだ……で、シルバさんの任務って」
「モンスター、【魔女】アラクネの討伐だ」
なにその訳の分からない、強いんだか弱いんだか分からない名前。
【魔女】?
アラクネ?
……なにその神話的な話は?
疑問符……つまりはハテナマークがデカデカと頭の上に現れた。
「場所を移動しよう。話すと長くなる。それに前から言うと、言っていた事もついでだから話そうではないか」
シルバさんがそう言うと、丁度目の前にチェーン展開されているオープンカフェが。
職業柄、コーヒーは自分で作った方が美味しいと自負しているから気は引ける。
だがそんな事も言ってられないだろう。
そんな事を考えている間に、シルバさんは人気の無い席へツカツかと歩いていってしまった。注文してから席に座ることを知らないのだろうか。
悠々と席に座ったシルバさんを見て、俺はジェスチャーでレジの方を指差す。
別の客が自分で、レジからコーヒーと茶菓子を貰って席に着く真っ最中であった。
シルバさんは黙って俺の所へ来た。
注文を終えると、人の少ないオープンテラスのテーブルに対面して座る。
冬将軍が最後の抵抗を続けるそんな季節。冬の終わり頃の午後はまだ寒かった。
その寒さからか、最後の抵抗と称して二人で買った紅茶からは、湯気が立っている。
「それで、銀にはどこまで話したものか……」
そう言って紅茶を一口飲むシルバさん。
「フム、意外と不味くないな」
正直、今は紅茶の感想なんてどうでも良いわけだが、シルバさんが紅茶を好のは何となく分かった。
「シルバさんがこの世界の住人じゃなくて、この世界に居るために俺とシルバさんで騎士の契約をしたのは分かっている」
「そうだ、それに付け加えると今銀、は私の力で命を繋いでいる状態だ」
そう、それは前に復習したところである。問題はこの先だ。
俺とシルバさん。
向き合って座る二人。
今から退屈で難しい話が始まるが、俺のためだ勘弁してほしい。
「さて、私の“任”とは簡単に言うと自分の世界外する仕事、言わば主張のようなものだ」
「それが前に言った【魔女】アラクネの……」
「そうだ。更に付け加えると【魔女】は階級だ」
「階級?」
「ついさっき戦ったであろう、繁殖目寄生型モンスター……」
「眼球複眼人間もとい、蜘蛛の人か」
「なんだそれは?」
「俺が付けた名前だけど?」
「まぁ良い。やつ……奴等はアラクネの【使い魔】だ」
「【使い魔】って……アニメとかでよく見る感じの」
「……まぁ、そうだな。そして【魔女】の総して言える能力は陣地作成、及び【使い魔】による……繁殖」
「繁殖だぁ、じゃぁあんなのが何体も増えるって言うのかよ」
「そうだ、更に厄介なのが陣地は他のモンスターを呼び寄せる」
「じゃぁ、ファルコーノは……」
「そうだ、アラクネの陣地に呼び寄せられた可能性が高い。あそこはエネルギーをたんまり溜め込んであるからな」
「【魔女】は陣地形成からの繁殖。それが【魔女】と言われる階級の特性だ」
一気に血の気が引くのを感じた。
だったらなんだ。
「まだあんなのが街んなかを徘徊してたり、増えたりしているのか?」
考えたことがポツリと口からこぼれ落ちる。
「あぁ、まぁそう言う事になると言えるが、何分そうとも言えないともない」
どういう事だ。
同じ言葉が何回も出てきたぞ。
随分とあやふやな。
それ以上に歯切れの悪い返事だ。
「実は例を見ない案件なのだよ、アラクネと呼ばれる【魔女】が私の世界から抜け出したのは」
「なんだよ、新種のモンスターだとでも言うのか?」
「いや、それは違う。確かにアラクネと呼ばれる魔女階級のモンスターは昔から居た。だが抜け出すほど奴は追い込まれては居ない筈だ」
「脱け出すって……」
「この世界に来るモンスターは2種類……一つは前に言った、エネルギーを求めてやって来る」
そう言ってシルバさんは人差し指立てた。
「もう一つは……」
そう言って中指を立てたシルバさんは、鋭い眼差しで俺を見た。
「侵略だ」
剣のように斬れた眼光は事の重大さが手にとるようにわかるようだ。
元来侵略とは恐ろしい意味なのである。
侵略……よその国などに侵入し、略奪等をすること。
侵略される恐怖とは。
普段の生活でヒシヒシとそれを体感している人は、この国には居ないであろう。
それが命に関わることならば、当然である。
誰かに命を狙われるだなんて、一般人にとっては夢物語でしかないのだから。
「侵略……ね」
そんな俺も少し前なら、侵略という荒唐無稽な話を真に受けて居なかっただろう
「こっちには、私が銀の血を吸うように食料が豊富にあるからな」
「んな、俺達は家畜なんかじゃ……それ以前にシルバさんはモンスターなんかじゃ」
「いや銀、半分間違いだ」
「半分?」
「なぜ私達が、モンスターと戦えるか考えなかったか」
「そりゃぁ……アーマイゼと鎧の力で」
「鎧は一応身を守るため、それにただアーマイゼと契約してもそこらのモンスターと変わらんではないか」
「だったらシルバさんは……いや、そんな事」
「察しが良いな。そうだ、察しの通り私は半分モンスターの血を引いている」
「正確には先祖があるモンスターと結ばれた、が正しいか」
「あるモンスターって?」
「それは解らぬ、どの文献を読んでも出て来ぬのだよ」
「でも特徴とかで解らないのか?」
「ふむ、何分我が一族は戦いを好む傾向にあるのでな……先人達は書物をあまり残さなかったのだよ」
「唖然として言葉が浮かばないよ……」
「ふむ、話を戻すぞ」
「おう」
「私の家系は代々モンスターの血が混じっておる。その比率は様々で、まぁそれはどうでも良い話か」
驚いた。
シルバさんにモンスターの血が混じって居ることも驚いた。
でもそれ以上に、こんなにシルバさんが話す人だとは思わなかった。
「なんだ銀、私は元からお喋りなのだぞ」
うっ、心を読まれたか?
シルバさんは……というかこの容姿は、寡黙なイメージしかない印象だ。
夢の中でも、会ったときも。
こんな風に喋るシルバさんは初めて見るのかもしれない。
「というかこのケーキと言うものは美味だな」
どうやらシルバさんの世界には、こういった物がないみたいに感じる。
本当に楽しそうに、話している姿は戦士ではなく女の子のようだ。
「よし、バイク代が浮いたんだ帰りにケーキでも買って帰るか」
「それは真か」
余程気に入ったのだろうか、返しがとても速い。
お礼もかねて、気に入ったケーキを買うのは最低限の礼儀だろう。
「サプライズでやられていたら、卒倒していたかもしれないな」
しまった、その手があったか。
「今のは聞かなかった……ってあぁ、まってよシルバさん」
いつの間にか消えた俺のケーキ。
そして急いで席を立つシルバさん。
もうシルバさんの頭の中には“ケーキ”しかないであろう。
本来の目的は、シルバさんの中から明明後日の方向へ飛んでいってしまった。