異世界転移してきた姫騎士を助けたら俺がTSして騎士になった件 作:バソルト
久しぶりのメイド服で若干の興奮を覚える。
することもなく、やることもなく。
ただただ、外に出掛けたい一心でメイド服を着てみました。
といっても、日が陰った外は気温がグングンと下降して。
もう、急降下爆撃並みに外に出る気は消え去りました。
はい、消え去りました。
あんだけ言っていたのに。
シルバさんが帰ってきた気配も無く、時間は中途半端に余っている。
メイド服の上に革ジャンを羽織ってみたけど、異様な不釣り合いさがある。
しかも、前が閉まらなく無駄に谷間を強調してると来たものだ。
しかし俺は脱がない。
だって、谷間が強調しているから。
おっぱいに関しては妥協したくないからだ。
「ひゃっ」
バイブレーションが小刻みに震え、突如異音がなる。
ここに来て、俺の携帯が初めて鳴った。
頑丈だけが取り柄の行き遅れ二つ折り携帯。
電話が鳴るのは千束かおやっさんのみ。
それは、この二人は家族のようなものと俺は考えるため違う。
幼なじみの千束に関しては母ちゃんと同じようなものと考えているからノーカンだ。
前置きが長かったが、そんな俺の携帯が鳴ったのだ。
ワクワクしながら画面を覗き込むと、そこには“変態”と出ていた。
あぁ、悪友
“柊智也”からだ。
バイブが鳴り、テーブルの上を見た目甲虫のように震え蠢く携帯。
俺は一瞬取ろうと手を出すが、ピタリと止めた。
待てよ……只今、女体化中。
声は高く女性的な物である。
はい、無理。
まぁ良いや……トモだし。
それに、修行期間連絡を寄越さなかった奴にあまり構う道理はない。
いや、へそ曲げてる訳では無いんだけどな。
数秒の脳内会議を閉じると、俺は携帯を開く。
“PWR”と書いてあるボタンを押して電源を切るためだ。
『もしもし銀お兄ちゃん』
え?
『携帯の電源切れちゃって、お兄ちゃんの携帯を借りたんだけど』
え?え?
『繋がってるよね……もう、聞いてるの銀お兄ちゃん』
しまった、設定ミスった。
開いたら電話に出る仕様にしたのを忘れていたっ。
ヤバイ……ヤバイよこれ。
さぁて、どうしよう。
乳母車から棺桶まで淑女に対しては、それ相応の礼を尽くそうと心がけている俺だが。
この状況はどうしようか。
トモなら考える間もなく、速攻切るのだが相手は天子ちゃん。
俺の領分がそれを許さない。
切るボタンに掛かる押す手を止めるのだ。
『ねぇ寝ているの銀お兄ちゃん?』
ふぉふ、可愛い声だなこんちくしょう。
だめだ、理性よりも本能が……
「いやおきてるぞ」
……しまった、出ちゃった。
どどっ、どうしよう。
絶対声高いって。
無理して低く声を出せば良かったものの、ナチュラルに普通に高い声で出ちゃったよ。
暫しの沈黙。
そりゃぁ、そうだろうと思いながら。返答を待つ。
気温が低いのに変な汗が出る。
心臓の鼓動がバクバクと早くなり、携帯に充てている耳が熱くなる。
早く、早く何かいってくれよ。天子ちゃん。
『良かった、起こしちゃったかとおもったよ』
ふぃぃっ、何となってるのか……これは。
多少の違和感は感じるが、至って何時もの天子ちゃんの声色だ。
「う、うん」
こうなったら、足が出ないように出す声は出来るだけ短く。
今更遅いが、出来るだけ出す声を低く。
声帯、変えられないのかな。
と思うがそれは残念ながら出来ない。
無理繰りなんとか声帯を広げて、低い声を出す。
「どうしたの?こんな夜遅く」
我ながら完璧かな。
自分でも惚れ惚れするぐらい、声を低く出せているような気がするぞ。
『う、うん突然でビックリしないでね』
俺はもう、天子ちゃんが電話をかけてくれたことにビックリだよ。
しかし前置きが妙に物々しい気がするな……気のせいか受話器越しに風の音が聞こえる。
まぁ、考えてもなにも始まらないか。
『お願いだから今夜は出掛けないで』
「……え?」
「どうしてだい」
本当にどうしてだ、天子ちゃんよ。
君知ってるもしかして。
いや、それはないと信じたいよ実際。
『それは……』
言葉につまっている。
沈黙は一番の攻撃方法だって、昔誰かが言っていた気がする。
今実際にやられて、その効力が否応なしに分かってしまう。
『……そう、お告げがあったの』
「お告げ?」
思わず声を低く出すことを忘れ、頓珍漢な答えに首をかしげる。
『そう、銀お兄ちゃんが刺される夢を見たのいま』
ふむ、寺生まれならあり得るかもしれない。
いや、信じられないと大多数の人は言うかもしれないけれど。
実際なめちゃいかんよ、寺生まれは。
「なら……買い物は止めるか」
財布(勇気)と篭(剣)を持ち、コート(鎧)を纏って行くんだから間違いはない。
ヴィアンテフちゃん(バイク)にも乗ってくんだから、間違いはない。
けど、天子ちゃんの手前。
行かないと言っちゃったけど。
俺は行くよショッピング(戦場)に。
何の因果か解らないけど。
その時のノリで、動いちゃったけど。
だけど……受けた恩はキッチリと返す。
自分勝手な自己満足かもしれないけれど。
もう後悔なんて、したく無い。
自分だけの不幸なら未だ良いけど、誰かの不幸は見たくない。
それが女の子なら尚更だ。
電話を切ると、俺は動き出す。
携帯をメイド服のポケットにツッコミ、ライダージャケットを羽織る。
無駄に開いた谷間から、寒風が吹き込むがそれは直ぐに無くなった。
「時間だ……銀」
店を出ると、最初に会ったとき着ていた軍服を着たシルバさんが立っていた。
その瞳は真っ直ぐに俺を捉え、決して目を離そうとはせず。
まるで、定めをしているようだ。
「あぁ、準備万端だ」
月は雲に隠れ、俺の心境を写しているかのようだ。
心配ないとは言えない。
これから、命の奪い合いをするのだから。
ヴィアンテフに跨がり、エンジンを付ける。
グォンと一鳴りしたエンジン音から。
“準備はできたか?”
と、心配した様子で聞いてくる。
「心配ないさ、ヴィアンテフたん」
そっと、タンクの部分を撫でながら言う。
自分に言い聞かせるように。
心配ないさ。と。
Teduka Said
気が付けば辺りは暗くなっていた。
貯まってしまった書類の山と格闘すること早数時間。
目が疲れてショボショボするのを、目薬を射して紛らわすと背伸びをして気分を切り替える。
ここは書類整理が主と言っても過言ではない程に、他の部署とその数が倍近く違う。
インドア派ではなかった私の最大の敵がこれであった、が。
そうは感じなくなった今を見れば、馴れとは怖いものであると無駄に感心せざる終えない。
さて、先輩方の書類処理速度のスピードは最早神の域まで達している。
しかも、人の書類仕事は手伝わないという暗黙の掟がここにはあるため辺りは一っ子一人いやしない。
東条さんも珍しく居ない。
「……ふぅ、帰ろう」
本来ならばお茶を飲んで一服したい所であるが今は早く家に帰って、一っ風呂浴びたい気分だ。
戸締まりを確認するとコートを羽織、鍵を取り出す。
駐車場に出れば、寒風が吹き込む冷たさで身が縮こまる。
「あれ」
ふとみると、窓ガラスの所に暗くて良くは分からないが虫が居る。
こんな寒い日に珍しいと思ったけと、そう言えば昼間は暖かかったような気がする。
春と間違えて出てきてしまったのだろう。
「春はもう少し先ですよーっと」
適当なファイルを取り出し蜘蛛を足元から掬う。
一瞬ガラスが傷ついた様に見えたが、それは蜘蛛の吐いた糸による筋であった。
「おやすみなさいっと」
蜘蛛を運び。
近くの茂みに投げやると、ファイルを鞄に戻し車に乗る。
「寒い寒い」
エンジンを付けると、私は静かにエンジンを吹かし発進させた。
ヘッドライトが夜道を照らし、何時も通勤する道を車でひた走る。
エアコンからエンジンの熱を足元から放出し、段々と車を暖かくしてゆく。
ガソリンが勿体ないため、ボタンは押さない。
外気温は氷点下に差し掛かり、社内との温度差がガンガン開いて行く。
ふと、見慣れないバイクが私の車とすれ違う。
「こんな寒い中良くやるわね」
一瞬であったが、人のなりとかは分かった。
「ミニスカートでバイクとか……頭イカレてんじゃないの」
バイクは二人乗っていたが特に運転手の格好は凄かった。
上着はライダージャケットを羽織っていたが、下はフリルの付いたミニスカート。
もう一方は男であろうか、良くは見えなかったがコスプレをしていた。
「なんかのイベントかしらね」
見知らぬ馬鹿の考察をするのは時間の無駄かもしれないが、ナゼがあのシルエットは頭の中に残る。
まぁ、目立っていたから当たり前か。
運転をしながら、私はあの猟奇的な殺人事件について考える。
上からの通達で打ち切られたあの事件、もう犯人は捕まったと言うけれど。
その情報はそれ以外、入っては来ない。
個人情報の扱いが厳しくなった昨今ではあるが、あんな事件を起こしたのだから余罪が無いとも限らない。
事件当時、近くの石碑が破壊された事以外、他に事件は起こってはいない。
大きな事件は本店に持っていかれる世の習わしではあるけど。
私が勤めている所が警視庁であるからそれはない。
「あぁ、もう追求は止めよう」
社会に出てわかったこと。
この世の中、うやむやな出来事で溢れ帰りグレーゾーンばっかりだと言うことだ。