異世界転移してきた姫騎士を助けたら俺がTSして騎士になった件 作:バソルト
~Gin Said~
エンジン音を全身で感じ女体化の力か、多少の寒暖差は緩和されている。
この季節のバイクは着るものを間違えると確実に寒すぎて、まともに運転なんて出来ない。
今着ているメイド服が極端な例といっても過言ではない。
夏でも厳しいものがあるぞ……この排気量のバイクだと。
風の気化熱とかまぁ、色々とめんどくさい理由はあるけれど。最初に言った通りミニスカメイド服で冬のバイク走行は馬鹿な行動です。はい。
この姿じゃなきゃ絶対。
絶対。絶対しないよ。
あの洋館まで後四、五分と行ったところ。
驚きのバランスで俺の後ろに座るシルバさんは腕を組み、背筋を伸ばして座っていた。
正直言って怖いです……シルバさんが。
乗ったときからずっと黙ったままで、話すことなんて無い。
あぁもう、今になって緊張してきたよ。
開発計画が立っては消えの繰り返しで今だ何も作られてないただっ広い土地。その土地を突っ切るように信号の無い真っ直ぐな道が走っていた。あの時は、歩いて帰ろうとしていたっけ。
もう少ししたら森が見える筈。
森へ入れば、奴らのテリトリー。
逃げ道はおろか、引き返すことの出来ない道……いや戦場だ。
森の入り口にバイクを止めると、ヘルメットをミラーの所に掛ける。
“置かんでくれんか……耳がくすぐったいぞ”
「あ、ごめん」
どうやら耳が弱いらしい。何でだろう、口元が緩んでしまうや。
下品かもしれないけど……フフッ、興奮しちゃうや。
そんなことを考えると、頭に鈍痛が。
「痛った」
涙目になりながら、後ろを振り替えると警棒を持ったシルバさんが睨んでいた。
「すいません」
それはもう条件反射のように、自然と振り返った瞬間声が出た。と言うか、なんでシルバさんがこの警棒を持っているんだ?
千束のだぞそれ。
「まったく、千束に借りてきて正解だったな」
パンパンと手に叩きつけながら、シルバさんはそう呟く。いつの間にそこまで仲良くなってるんだよあの二人は。
俺もいい加減首が痛くなってきた。
バイクから降りようにも、シルバさんが退いてくれない限りは降りれないのだが。
「あの、シルバさん……降りてくれなきゃ俺が」
「ん? あぁ、まだ降りんで良いぞ」
え? ん? まだ……
何だろう嫌な予感がする。その嫌な予感というものは外れて欲しいのが切実な願い。
たが悲しいかな、良く当たってしまうのが俺の要らない能力だ。
「このまま突っ込み活路を開くぞ」
ビシッと深い森の闇に警棒を突きだし、シルバさんはキリッとした顔でそう叫ぶ。
「はぁぁぁっ!?」
当たっちゃったよ嫌な予感。
何だよもう、いくらヴェイヤンティフたんでもこの中を。
“出来るぞ、我が主よ”
俺の思考を読み取るように、グォンと一鳴りして反論した。
「そうだ、こう見えてもヴェイヤンティフは百戦錬磨の猛者であるぞ」
反論の仕方は子供みたいだが、その声には確かな重みが感じられる。というか敵の本拠地の目の前で叫ぶのは如何なものだろうか。
なんか森の暗闇から、赤い八つの光の固まり達がコッチを睨んでいるような気がする。
それはあまりにも唐突に、予想と反した出来事に俺の身は一気に震え上がる。
「むっ、危ないぞ銀」
シルバさんがそう言うと、俺の頭をグイッと左にずらす。
思わず転倒しそうになるのを、長い足で踏ん張りなんとか耐える。
いや便利だねこの長い足って。
なんて考えると、不意に鋭い風が頬をかすった。
「え?」
その次の瞬間耳にしたのは、森の闇から聞こえる断末魔のような呻き声だった。
「えぇぇぇぇっ!?」
本日二回目の絶叫を皮切りに、闇の中から巨大な蜘蛛のモンスターが溢れ出る。
「さて銀よ、協力者も来たことだし行くか」
そう言いながら、手に持った警棒をしまう。
優雅に言っているけど、コッチは心の準備が……って。
そんな気持ちを無視するかのように、開戦の法螺貝の如く。ヴェイヤンティフたんのエンジンの雄叫びが俺を急かすように上る。
えぇぃ、女は度胸だ。
俺はアクセル吹かすと胸ポケットに忍ばせたボールペンを取り出した。自動でヴェイヤンティフたんが走ってくれるから、俺は自由に両手が使える。
ボールペンを剣に変えると、一直線に突っ込んで行く。
単純にして明快。作戦など端から無いように、蜘蛛の巣へと俺たちは突き進む。
“罠だな、迂回するぞ”
頭に直接話しかけてきたのも束の間。
ヴェイヤンティフたんは車体を寝かせるように、その場から直角に曲がって見せた。
バランスが難しいとかは言ってられない状況なのだが、生憎シルバさんの体の運動神経は知っての通りだ。
「うぉぉっ」
メーターを見ている暇はないが、森の木々を縫う様に走るにしては早すぎる。
襲いかかる蜘蛛のモンスターは、細身の剣でも前回と違って勢いがあるためか。
斬れ味が鋭いためか。
多分どっちもだろう、簡単に蜘蛛のモンスターを切り裂いて行く。
何度も言うが、この剣の用途は突き刺すのが主だ。
無理な体制で曲がったのに、シルバさんは動かなかった。
ここまで来ると、剣をくわえて必死に捕まっていた俺が何だかバカみたいだ。
バックミラーから覗くシルバさんの堂々たる姿。俺がモンスターをバッタバッタ斬り倒し、エネルギーを段々と回復させるからなのだろうか。口元がニヤリと笑い、犬歯が見えるような気がする。
大きく迂回しつつも、確実にアラクネの住まう館に近づいてきてはいる。
「■■■■■■■■ッ」
新たに聞こえる咆哮。
「げっ何だこの声、新しい敵かよ」
ビビったりはしてない。
ビビった訳ではない。
ただ警戒心を張り詰めたのが、体に現れただけだ。視界に写った昇る白煙は、さっきの声の主によるものなのだろうか。
手薄になって行く蜘蛛のモンスターたちの包囲網を掻い潜りながら考える。
「ふむ、罠ごと潰して来たようだな」
爆音が以外にも最初だけだったヴェイヤンティフたん。
そのおかげか、シルバさんがそう背後で呟くのを俺は聞き逃さなかった。
「なんだ味方ってことか」
その問いに関して、シルバさんは実にあっけらかんと。
「あぁ……そうだ」
とだけ言った。
正直協力者ってシルバさんの姉妹とかだろう。
まぁ、あんな可愛い子だからな。
俺に会わせたく……なんだろう、自分で考えて悲しくなってきた。
そろそろ館に程近い場所まで来る頃だ。
なんだか口が乾いてきたよ。
緊張するからかな。
出来れば……出来れば、労せず話し合いとか痛くない方向で折り合いが付いて欲しいものだ。
と、俺は蜘蛛のモンスターを切り裂いた時。それが無理だと悟った。
斬られた蜘蛛のモンスターは、どこぞの2号ライダーばりに光の帯となり俺の体に溶けて行く。
なんだか、胸が苦しい。
あぁ、大きいからな。
と考えたが後ろから、ただならぬ殺気を感じたので終いにした。戦ってる最中にそりゃねぇよシルバさん。
エネルギーが俺に回ってきているからか、胸の空洞が塞がっているような気がする。
それにしても、なんだろうかこの例えも言えない感覚は。戦って、勝ってその命の全てを我が物とする。そんな感じなのかな、この言い表し様のない感覚は。
喜怒哀楽。
どの感情に当てはまるかは、解らない。
もしかしたら、全ての感情が合わさったような。そんな感覚なのだろうか。
その感覚に混じって、館の方角からただならぬ憎悪に似た悪意。
それが、俺の体にまとわり付くように向けられるのがわかる。
「明らかに此方に気付いておるのに、攻め手が変わらぬか」
館の門が見え始めたのに対して、蜘蛛の数は増える所か変わらない。シルバさんの思考ももっともだが、声に出すのはどうかと思う。
だけど、このまま止まるシルバさんのではないと言うことは、3日の付き合いだが何となく分かる。
止まることを知らないヴェイヤンティフたん。良く良く考えたら、俺が運転している訳ではないから当たり前だ。
館の門が見えてきた。
ツタが絡みつき、闇夜で見えなかったが表札が見えた。
きっと、この館の主はもう……。
近づくと門はまるで誘い込むようにゆっくりと音をたて開く。
「随分と歓迎されてるじゃないか」
うん、余裕を見せてみたけどやっぱり怖いや。
もう、殺る気がピリピリわかるもん。
「言うようになったではないか」
クスクス笑いながらシルバさんは後ろで呟く。
俺の強がりが分かっていっている事は明白だ。それともこれからの戦いを思い笑っているのか。
だとした、とんだバトルマニアだ。
門を潜ってもモンスターが襲ってくることはなかった。多少の違和感を覚えつつ、俺は館本館の前でヴェイヤンティフたんを止めた。
館前は以外にも整備されており、少し小綺麗であった。
最近積まれたのか、真新しい石畳が綺麗に地面一杯に敷き詰められ、樹木、草花も何処と無く手入れが行き届いているようであった。
「ここからは徒歩だな」
館を見上げるシルバさん。
なるほど大型バイクで乗り込むには狭く、機動性を考えれば徒歩の方が無難か。
やっとバイクから降りてくれた。
俺もヴェイヤンティフたんから降りると、大きく深呼吸して気持ちを落ち着かさせる。
「オイオイ、そんな力むでない」
「いやだって」
「なに、心配するな銀よお主は私の力を振るうものであるぞ」
その後に“そう簡単に死なないさ”と、言うのを俺は聞き流す事にした。
夜風が吹く。
それは冷たい北風だった。
凍るような寒さに、肌がピリピリと痛く感じる。
寒さに多少の耐性が付くのは、どうやらヴェイヤンティフたんに乗っている時だけらしい。
まだ肌がピリピリする。
いい加減寒さにもなれ……。
「だれだ」
肌がピリピリするのは、寒さだけではないことを思い出した。
俺は上を見上げると、正面コテージから覗く影がそこにあった。
「あらあら、随分と野蛮な騎士なのね」
腕を組み、見下ろすのは女性のシルエット。
暗く月が雲に隠れるこの夜では、顔が分からない。
だけど分かる。
本能が告げている。
あいつは強いと。
だったら答えは一つ。そう。
「アラクネよ何故お前はこの世界に留まる」
やはりアラクネ。
モンスターの中でも上位に位置し、魔女の称号を冠する。
おおよそ、そんな風には見えない。
シルバさんの姿に惑わされるなとは、この事だろう。
そんなシルバさんの問いかけを、あざ笑うような笑い声の後。
「フフッ、言ったところで結果は変わらないのでしょうね」
口に手を当てて上品に笑うアラクネ。
その立ち姿には一分の隙もなく。
それでいて、目の前に敵が居ないかのような落ち着きぶり。
ただ立っている。
それだけの出で立ちのみの情報なのに、独特の凄みが受け止められる。
だが、対するシルバさんも負けてはいなかった。
「そうだろうな……主のような狡猾なものの言葉など取るに足りん代物だ」
こわい、怖いよシルバさん。
近くに居るから分かるけど、瞳孔が開きっぱなしだよ。
「狡猾……ねぇ、知略を張り巡らせると言って欲しいわね」
蜘蛛だけに糸を……ってか?
「チィッ」
「すいません」
り、理不尽だ。
シルバさんに睨まれた。
静かに笑うアラクネ。
手を口元に充て、上品に笑っているように見える。
「噂通りみたいね……いいわ招待してあげる、二人だけの仮面舞踏会に」
そういい終えると、館の扉が音を立てゆっくりと開く。
それは怪しく不気味で。
何よりもつけられている明かりが薄暗く、その雰囲気を増長している。
「おい……二人だけって」
なんか嫌なキーワードが耳に入った。
慌てて聞き返そうと、コテージを見上げるとそこには誰もいなかった。
「おい……まじかよ」
上を見上げたまま固まる。
なんだろう、帰っちゃダメか。
ゆっくりとそのまま、視線をシルバさんに向けると。
はい。
ダメですね。
シルバさんに心を見透かされたように見られた。
もう、今日は無言の訴えしか無いや。
力無く握られた剣を再び強く握ると、気持ちを切り替えようと頑張ってみる。
よし……がんばろう。
がんばろう。
がんばろう。
自分に言い聞かせるように。
がんばろう。俺。