異世界転移してきた姫騎士を助けたら俺がTSして騎士になった件   作:バソルト

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~4糸~ (4/6)

 

 

いや、まぁ確かに俺が戦うから二人だけってのは正しいかもしれない。

 

だけど……。

 

 

「俺一人ってどういうことだよ」

 

 

虚しさに叫ぶ声は、静かな洋館に響き渡る。中は別にあばら屋みたくボロボロではない。

外観が小奇麗だったため別段驚くそれほどかなかった。

 

普段だったら良い雰囲気を出す廊下昭明の淡い光は、今はただただ不気味である。これで昭明を落とされたら、声を我慢出来そうにもなく発狂して悲鳴を上げてしまいそうだ。

 

こういうときは歌でも歌って気分を紛らせるのが一番なんだが。

この姿で歌うのは初めてだ。

 

最後に歌ったのは……そうだ、シルバさんと出会う直前だったな。

 

 

「お化けの歌か……やめとくか」

 

 

逃げ場が無い廊下。なんか出るにしても心臓に悪い。

自分で自分を追い込むなんてしたくないからな。

 

歩む早さは牛歩のごとく。

一応敵の本拠地だし、何が出てくるか分からないし。こわいし。

 

よし歌おう、歌えば気持ちが紛れるし。

歌は人の作り出した素晴らしい発明だって、だれかが言ってた。

 

歌いは愛の歌があり。

爪弾く歌は魂の調べを奏でる。

 

よし、歌おう。

出来るだけ明るい歌を。

 

歌はそうだな……アレにしようか。

 

 

「真夜中の鏡に自分を映したら~♪」

 

 

正直言うと、ただ歌いたかっただけなのかもしれない。

 

 

「辛味噌~♪」

 

 

歌いながら横の大きなドアが勢い良く解き放たれ。

またゆっくりと閉じられて行く。一瞬の出来事で、何が起こったのか理解できなかった。

でも一瞬だけど、黒いドレスを着た人影が見えた。

あれって、アラクネだよな。

 

気配も一緒だし。

 

 

「……コホン」

 

 

ドアの向こうから咳払い。

再びドアが勢い良く開かれると、やはり黒いドレスを着た人影が。

腕を組み、まるでこちらを見下ろすようにソイツは立っていた。

 

 俺はゆっくりと、舞踏場へと足を踏み入れる。

 さっきの事を無かったことにするように黙って。

 

 

「良く着たわね……カヴァリエーレの騎士よ」

 

 

そんなアラクネも気を使ってくれているのか分からないが、何も気にしないように話を進める。

 

 

「さぁ、ドレスを纏い仮面をつけなさい」

 

 

その高級そうなドレスを振り舞い、俺に手を差し出してきた。

差し出される手からは何も出されている様子はなく。警戒された先制攻撃はなかった。

逆を言うと、その気はなかったが虚を付いてしまった形になった俺の歌。こいつ本当は良い奴なんじゃないかと思う。

 

 

「どうしたの、さっきの歌の元気はどうしたのかしらね」

 

「ち、ちげぇやい」

 

 

そして俺が、次の言葉をいおうとしたその瞬間。

目の前に六角形の青白い膜が、何かを防いだ。

 

 

「え?」

 

 

呆気に取られているのを他所に、次の攻撃は始まっていた。

未だ出続ける膜は、アラクネの手の動きと共に引っ張られ。俺の前から取り払われた。

 

 

「んなっ?」

 

 

そう、戦いは既に始まっていたのである。空中を浮遊したシールドはそのまま霧散し。

そのまま見上げた天井には、アラクネの子とも言われる眷属がひしめき合って張り付いていた。

 

 

「あらあら、長々隙だらけと思ったら意外ね」

 

 

その光景を目撃した瞬間。

全身に寒イボが逆立つ。

 

なんだよ……これ。

 

アラクネの気配に隠れて、これほどの数が屋敷に居るなんて思ってもみなかった。

 

 

「なるほど……その口調に見合わない殺気だと思ったらコイツらを隠すためか」

 

 

今までの総力戦と言わんばかりに。

今まで戦ってきた大小様々な蜘蛛のモンスターが、雁首を揃えている。

 

 

「ふふっ、そういうことかしらでも……もう遅い」

 

 

アラクネの叫び声と共に、蜘蛛のモンスターは一斉に天井から落下してきた。

 

どうしよう。

 

俺一人で生き残れるかな。

降り注ぐモンスターに、ただ身体を任せ剣を構えることしか出来なかった。

 

蜘蛛の子を散らすように……と言う諺があるが、今回のそれは意味が違う。空から散るように降る蜘蛛のモンスターは、それは隙間なく。その何体かは、空中でぶつかり合っている。

 

だったら、この状況で取るべき行動はただ一つ。

 

俺はアラクネに向かい走り出した。

 

間に合うか。

落下するアラクネの眷属はその高度を下げ、迫っている。

 

 

「くすっ」

 

 

アラクネの笑み。

俺はその顔めがけ、大きく剣を振りかぶる。

 

しかし当たりはしない。

虚しく空を斬る剣撃は、勢い良いだけのための布石。

 

勢いの乗った体で、そのまま突撃。

 

体当たりでアラクネを吹き飛ばすと、アラクネの居た場所の上空を見上げる。

 

 

「しゃつ」

 

 

その上空にはアラクネの眷属は居らず、俺を避けるように落下する。

 

床が破壊され、辺りに土埃が舞う。

それは吹き飛んだアラクネの所在を探すため。自分の進行方向をを睨むと、そこには誰も居なかった。

 

所在の確認が出来ないが、俺がここに来た目的は八割方達成された。

 

あわよくばアラクネをあの一撃で倒せたら良かった。

けどそれは、空から大福が降ってくる位の期待。

 

 

「考えたわね……確かに私の居た場所だったら安全ね」

 

 

上空からの声。

正確には天井からの声だ。

 

 

「上か」

 

 

見上げるとそこには、天井に張り付くアラクネの姿が。

逆光で顔は見えない。

 

 

「ちぃっ」

 

 

どうや向こうも一枚上手のようだ。

受け継がれる戦闘経験も。

天井に貼りつく敵を、この状況で追いかけるのは愚策と出ている。

 

 

周りのモンスターは既に此方へ攻撃を仕掛けている。

追いかけたら最後、地上と天上での挟撃を受けることになる。

 

 

「遅いっ」

 

 

アラクネの命令に、静だったアラクネの眷属は一斉に動き出す。

 

思い出せ、やつらの特徴を。

 

大小様々な眷属を前に、俺は高らかに剣を振り上げた。

 

 

 

 

~Silvana Said~

 

 

彼の世界に来てから早、三晩が過ぎる。

 

かねてよりの目的は達成できなかったものの、それ例外の目的は成し遂げた。

 

仕込みに対し、この国の守護を担う者達の協力を仰ぐ事が一番骨の折れる作業であった。

 

しかし、過ぎてみればそれは矢のごとく過ぎ去り。

事が全て終わったときには泡沫の夢のようになるだろう。

 

この世界の私は程々運が良いらしい。この戦の助けとなる客将が銀の知り合いであったのだから。

わが愛馬、ヴェイヤンチーフを撫で私は己の身をその体に預け座る。

 

夜風が吹き、草花を揺らす。

 

騒がしい夜の一時の安らぎを与えるその風は、私の髪にイタズラをしてそのまま去り行く。

気配が二つの私の元へやって来る。

 

柵を跨ぐその者の、身の丈は電柱程の巨体。

この国の甲冑を身に付け頭には二本の角。

 

刃零れの酷い刀は最早斬ることは、ままならないであろう。

 

そしてその者の兜には札が張られていた。

 

 

「よぉ、こっちは片付いたぜ」

 

 

巨人の肩には気配の元。

着物……だったか? 

それを着た、二人の男女がこちらを見下ろしていた。

 

 

「そうか……契約は守ろう、今宵はもう良い」

 

 

わざわざ、釘を刺しに来たのだろう。信用の無いものだ。

こやつ等は兄妹らしい。

だからどうしたと言うことはないが、一応はこの世界の私を監視するために銀に近付いてきた、

 

たしかそんな経緯だったかな。

 

 

「今宵は……ね」

 

 

今までだんまりを決めてきた、女の方。

そやつは巨人の肩から飛び降り、私の目の前に立つ。

 

赤と白の色の着物。

手には弓、顔には狐の面に頭からは黒い猫耳が生えていた。

 

胸は……くそっ。

 

 

「あぁ、中で銀がアラクネを倒し治癒に必要な膨大なエネルギーを得て、事が済み次第私は帰るさ」

 

 

そうしたら、もう二度と会うことはあるまい。

 

 

「そう……なら、いいけれど」

 

 

面の奥から私を見る瞳は疑惑の念にと取り付かれ、どう言葉で取り繕うと考えは変わらぬだろう。

表面上は穏やかではあるが、いつ激情の念が溢れ狂うかわからぬ。

 

 

「ここに居る気か、鉢合わせるのは互いのために成らんだろう」

 

「そうね、だけと私はそれ以上にアナタが信用できない」

 

「もうひとつの世界の銀……でもか」

 

「そうよ、同じ銀お兄ちゃんであろうともよ」

 

 

 

~Teduka Said~

 

 

まったく、信用しすぎよ。

家である喫茶店クレパスに帰ると、鍵が空いたまま誰も居なかった。

どうやら鍵だけを絞め忘れたみたいで、それ以外は戸締まりがされていた。

 

 

「まったく。成人式を過ぎたのに相変わらずなんだから」

 

 

うっかりと言うか、なんと言うか……詰めが甘いわね。

 

 

カウンターにバックを置き、裏へ回る。

冷蔵庫を物色するとバットにはマリネが漬かっていた。

 

 

「銀のヤツ……見栄を張ったわね」

 

 

シルヴァーナちゃんが居るからって、変に気を使う必要ないのに。

 

この三日間、突然現れた銀髪の女性。

その子はどこか偉そうで。

ほんと偉そうで、見栄っ張りで多分ヘタレで。

 

偉そうな所以外は銀に何処か似ていた。

 

本人は多分否定するかも知れないけど、何か決めゼリフみたいな事を言うとき。

 

ドヤ顔だ。

 

端から見れば似た者同士。

いや、にわかには信じられないがアレはもう一つの銀の可能性なのだから。

 

まだ、寒さが残るためか身震いをしたかと思えば。

 

不意に携帯電話が鳴る。

 

 

「珍しい……って、まさか」

 

 

ディスプレイに写し出された名前を見て、私は急いで電話に出た。

 

 

~Gin Said~

 

この体の止血能力は大したもので、細かな傷だったら直ぐに塞いでくれる。

おかげで失血の心配は無いが、塞ぎきってない傷は身体中にある。

 

この体はこれまでの戦いの激しさを物語る。

 

ただ不思議と息切れは起こらなかった。

戦う悦びに全身の細胞が歓喜するかのように、疲労の度合いは思った以上に少ない。

 

この姿って小難しい言葉を使うようになるんだな。

 

辺りの蜘蛛の子は大分減らすが、不気味にアラクネは動かない。

 

ただどうする事もなく。

混戦乱戦から多戦へと移行する戦況に、よくぞ鎧を着ずに頑張ったと自分を誉めてやりたい。

 

髪の毛はボサボサ、反り血で身体中汚い橙色でベトベトだ。

 

風呂に入りたい。

最後の蜘蛛の子を剣で貫いたとき、俺はそう思った。

 

大きく息を吐き、不動のアラクネを見上げる。

 

互いに目があった。

 

俺は剣を構え直し、アラクネはドレスの裾から黒のような橙色をした黒檀色の昆虫の足を露にした。

 

戦いの前の静けさ。

蜘蛛のモンスターの亡骸から流れ込む光の粒子が俺にエネルギーを出し尽くしたその時。

 

両者は一気にその場を蹴った。

 

一閃の交差。

アラクネの首元目掛け剣を振るうも、何かによってそれは阻まれた。

 

 

「くっ」

 

 

思わず声が漏れる。

革ジャンが裂け肩からの出血。

どうやら初手は向こうに軍配か上がったようだ。

 

 

「随分と手数が増えたじゃないか」

 

 

人形の手を合わせ合計八本もの手足。

黒檀色の昆虫の手足は、まるで絹織物のような光沢が滑らかさを物語る。

 

その姿まるでゲームやおとぎ話に出てくるアラクネそのもの。

それはさながらディスパイダーのような姿で。

 

 

「フフッ、感想はそれだけ……かしら」

 

 

ミシッとアラクネから音がする。

黒いドレスはボロ切れのように破れ、更なる変化がアラクネに現れた。

 

お互いの着地点は地面。

言い訳をさせてもらうと、さっきのは俺が不利な状態の一撃だ。

 

高高度戦闘において、高い位置に立ったものの有利性。

って、何で空戦エネルギーの知識があるんだよ。アラクネは今のところ、俺を弱らせての一撃離脱を主に戦っている。

 

だが今回またアラクネは変化した。

いや、これは俺みたいな変身とか鎧を身に纏う方向では無く。

 

モンスターが真の姿になったものであろう。

 

それはさながら黒檀色の鎧。

意外と爆乳のアラクネは、その身体を巨大な蜘蛛に拘束されているような。

 

そして今まで無手であったアラクネの手には、一本の鋭利な針が手中に収まっている。

 

 

「随分とスッキリしたな」

 

 

特に糸でグルグ巻きにされて、たくし上げらる爆乳が。

そこから拘束される、黒檀色の蜘蛛の足のような装甲が。

 

最高です。視線は常にロックオン状態だ。

それは注意を逸らす罠だ。

胸の深い谷間から目が離せなくなる。

 

 

くそっ、なんという策士。

分かっていても動けない。

 それはさながら蜘蛛の巣のごとく。

 

動けば動くほど、その糸が身体に絡み付くかのように視線を動かすことは出来ない。

する気もない。

 

 

「あら、私だけドレスを着させる気かしら」

 

 

アラクネからの誘い、ここは乗ってやろうじゃないか。二つの意味で。

 

仮面舞踏会への招待に。

まるでUSBメモリーを持ち、首元に挿す仕草をし。

 

 

「マスカレード……なんてね」

 

 

そんな俺の声に反応して。

足元から出てきた青白い魔方陣は、足元から頭の天辺まで一気に駆け上がる。

 

最近は右手方向からがデフォルトらしいが、知った事ではない。

魔方陣の通過と共に俺は、漆黒の鎧を身に纏う騎士へと変身した。

 

 

「カヴァリエーレ、参上」

 

 

しっかりと剣を目の前まで持って行き、背筋を伸ばして両足を揃える。決めるときは決めなくちゃ。

しかし、動いてもアラクネの爆乳が動くことはない。

 

何だろうか。

興奮で呼吸が荒くなってきたぞ。

 

荒い息をしながら、アラクネの谷間を凝視する。

目は多分血走っているのだろう。

 

最初の構えから動かないアラクネと、動けない俺。

毒でも盛られたかと考えるが、いつかは見当がつかない。

 

全身が気だるく、意識が朦朧としてきた。

 

だけど視線は外さない。視界の肌色成分のおかげか。

戦いに赴く高揚感からかは解らないけど、意識は体は何とか繋ぎ止めている状態だ。

 

 

「クスッ、随分と顔色が悪いわね」

 

 

仮面被ってんのに分かるか、と言い返したかったが口は動かなかった。

 

 

 

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