異世界転移してきた姫騎士を助けたら俺がTSして騎士になった件 作:バソルト
この世界は、平等ではない。
国、家、性別は生まれた時点でその後どうなるか大体決まる。
決まってしまう。
よく、努力でのし上がる感動秘話なんてテレビ番組がやっている。
一言、言わせてもらおう。
ふざけるな。
そんな人は原石みたいな才能や絶対的な運を持つ人間の話。
持つ者と持たざる者。
世界は残酷なまでに不平等である。
そんなことを考えながら俺。
【
せめて彼女が欲しい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なぁに、ボーッとしている」
鋭く空を切る音の後に、気持ちいほどに軽い音が喫茶店に響く。
後頭部に鈍痛が走り、後ろを振り返る。
「何よ、逮捕するわよ」
そこには警棒を持った幼なじみが立っていた。
この凶暴な女。
悲しいことに俺の幼馴染である。
名前は……
【
父親譲りの正義感と、ビックリするぐらいの行動力を持っている。
千束はその正義感と行動力を生かして、今は警視庁に勤めている。
「銀、また何処かに飛んでいたわね」
おいおい、この女は人の頭を鈍器で殴っておいて何を言ってるんだ。
俺は、もちろん怒った。
怒りのままに暴言を吐きたいところだが、俺は紳士だ。
「痛いじゃないか」
ここは紳士的に。
まずは、自分の仕出かした、おろかな状況を理解して貰おう。
「なぁにカッコつけているの、ダメ人間が服を来て歩いている男が良く言うわ」
「お前、そこまで」
「あれ、紳士的に言うんじゃなかったの」
「なんで俺の考えていることを」
「私は銀の幼なじみなのよ、大方、変なこと考えていたんじゃないの」
この女は何を訳のわからないことを言っているのやら。
まぁ、当たりなんだけど。
「そんなことより、どうした?仕事は」
俺の心の中では、帰ってくださいコールが鳴り響く。
べつに嫌いな訳じゃない。
ただ俺の領域に勝手に土足で踏み入れられるのが嫌なだけだ。
「あぁ、私はパトロールの途中だから」
そんなことを千束は、あっけらかんと言っている。
「パトロールって、刑事じゃないのか」
「そうよ、刑事がパトロールやってちゃ悪いの」
はい、ここに来るのが悪いです。
とは言えない。
「ムムム、なに、その何か言いたげな顔は」
「いいえ、大変だなぁって思ってさ」
俺がそんな事を言うもんだから。
「アハハ、銀にも人を気遣う気持ちが残っていたんだ」
ムム、この女は何て事を。俺にも、そんな気持ちは、まだ残っていますよ。
「それより、銀。目に隈が出来てるけど寝不足なの」
この女。話を早速変えやがった。
何でだろうか。
話がコロコロと変わるのは、こいつの性質的なものなのだろうか。
「あぁ、ここ最近、眠れなくてな」
そう考えるも、俺は例のごとく口には出せないでいる。
「そう、何か悩みごとがあったらこの幼馴染みに任せなさい」
そう言うと、千束は自分の胸をドンと叩いた。
「じゃ、私はパトロールに戻るから。仕事ももう、終わりでしょ?じゃぁね」
そのまま、千束は店を出ていった。
「まったく、嵐の様な奴だな」
そう呟くと、俺はあることに意識を旅立たせる。
寝不足と言えば。
俺は、ここ最近同じ夢を何度も見る。
目の前に一人の女性。
何故だか名前は分かる。
彼女の名前は
【シルヴァーナ・カヴァリエーレ】
通称シルバさんと、俺は勝手に呼んでいる。
別に良いだろう、俺の妄想の産物なんだから。
顔立ちを詳しく言うと、日本人とは違い、キリとした目元に、高い鼻。
髪の色は白……いや、銀色の髪をして、腰まで伸びている。
そのサラサラとした銀色の髪は、風に靡く度キラキラと輝く。
そして気高い胸の山。
その足はスラッと伸びて、スタイルの良さをより一層引き立てている。
凛とした佇まいは、高貴で気品溢れるオーラを発している。
雑誌のグラビアに出てても全く違和感は感じない程の美人だ。
何をするわけでもなく、お互いがお互いの事をただ見ているだけ。
手を触れようと伸ばした瞬間。
無情にも目を覚ましてしまう。
夢は何時もそこで終わってしまう。
さて、仕事も終わった事だし。
そろそろ寝よう。
新しい朝が来た。
希望の朝だ。って考えたのは小学生までだった気がする。
今の俺の朝は、椋鳥の囀りで目を覚ます。
文にすると優雅に聞こえるが実際は違う。
屋根を引っ掻く爪の音と雛鳥が織りなす鳴き声の騒音。
お陰で俺は、いつも決まった時間に目を覚ます。
現状、目覚まし時計は購入から一度もその役目を果たしていなかったりする。
時間に縛られない人いや、鳥は無意識の内に、規則的な生活を送るのかもしれない。
「おっはよう、銀、起きてる」
無作法に。
そして突然に、ノックもせずに俺の部屋の扉を勝手に開けた幼馴染み。
まぁ、何時もの事だ。
「千束、いくら幼馴染みとはいえ、ノックもせずに男の部屋に入るとはど……」
「起きてるならよし、私は仕事に行ってくる」
俺が話している途中にも拘らず千束はそう言うと、扉を閉めた。
「慣れって怖いな」
俺はそう言うと、寝ぼけながらパンツとシャツの姿から、ウェイトレスの服を着た。
住居が職場だが、万が一の事を考えて起きたらすぐに職場の制服を着るようにしている。
まぁ、学生時代からの習慣だ。
最後に、鏡で酷い寝癖などを直し、身なりを整えて俺は一階の喫茶店に降りる。
新しい朝が来た。
希望の朝だ。って考えたのは小学生までだった気がする。
今の俺の朝は、椋鳥の囀りで目を覚ます。
文にすると優雅に聞こえるが実際は違う。
屋根を引っ掻く爪の音と雛鳥が織りなす鳴き声の騒音。
お陰で俺は、いつも決まった時間に目を覚ます。
現状、目覚まし時計は購入から一度もその役目を果たしていなかったりする。
時間に縛られない人いや、鳥は無意識の内に、規則的な生活を送るのかもしれない。
「おっはよう、銀、起きてる」
無作法に。
そして突然に、ノックもせずに俺の部屋の扉を勝手に開けた幼馴染み。
まぁ、何時もの事だ。
「千束、いくら幼馴染みとはいえ、ノックもせずに男の部屋に入るとはど……」
「起きてるならよし、私は仕事に行ってくる」
俺が話している途中にも拘らず千束はそう言うと扉を閉めた。
「慣れって怖いな」
俺はそう言うと、寝ぼけながらパンツとシャツの姿から、ウェイトレスの服を着た。
住居が職場だが、万が一の事を考えて起きたらすぐに職場の制服を着るようにしている。
まぁ、学生時代からの習慣だ。
最後に、鏡で酷い寝癖などを直し、身なりを整えて俺は一階の喫茶店に降りる。
一階に降りると喫茶店のマスターでもある、おやっさんが外を掃いていた。
何時もの朝、何時もの光景。
俺はそれを横目に、二人分のコーヒーを煎れた。
朝の爽やかな風にコーヒーの薫りが、なんとも言えない幸せな気持ちにしてくれる。
「おう、銀、起きたか」
静かにドアを開け、おやっさんが外掃除から帰ってきた。
おやっさんと言っているがおやっさんは、おやっさんという名前ではない。
名前は【
「おはようございます。コーヒー、出来てますよ」
俺はそう言いながら、コーヒーとおにぎりをを出した。
「おやっさん、やっぱり……コーヒーとおにぎりは合わないと思うんですが」
「バカ野郎、そんなことを気にしているから定職に就けないんだよ」
そうだった、俺は改めて認識したよ。
喫茶店のウエイトレスはあくまでも次の仕事までの繋ぎだと言うことを。
「ところで銀。今日から休日なのになんでウェイターの格好をしているんだ」
それを聞いた瞬間、俺はカレンダーを見た。
赤い丸が、6つ並んでいる。
「癖です」
俺はそう言うと、そそくさと二階に戻ろうとした時、おやっさんに呼び止められた。
「おーい暇なら、千束に弁当を届けてくれ」
そう言いながら、弁当箱を投げてきた。
「おっと、って軽っ」
「中身は悪いが作ってくれ、これから豆を探しに旅にに行ってくる」
そう言ったおやっさん。
大きなリュックサックを背負い店を出て行ってしまった。
何時もの事だ。慌てる必要はない。
たまに、ふらっと旅に出たかと思うと最高に旨いコーヒー豆を見つけてくるのだから。
その豆のを目当てにするお客が大勢いるお陰で店の経営は成り立っている。
何時も閑古鳥が大合唱しているこんな喫茶店でも三人が暮らして行けるのだ。
世の中どうにかしているぜ。
「さてと」
俺はそう言うと、キッチンでせっせと弁当を作る。
おやっさんの言葉を無視しろって?
作り忘れた千束が悪いって?
その2つは間違ってもやってはいけない。
おやっさんは、嘘をつく人間が大嫌いだ。
まぁ、嘘自体はついても大丈夫らしい。
だが、約束を破ってそれを隠そうとする嘘だから怒りの導火線に火か付くことは間違えないだろう。
それに、あの無作法な幼馴染みは後で何をするか分からない。
じゃあ、その幼なじみが作れよと思ったそこの君。考えがカレーの星の王子様よりも甘い。
とりあえず言っておく、彼女はカレーしか作れない。
と言うより、三度の飯がカレーでも良いと言うぐらい無類のカレー好きだ。
ずっと前だが、試しに半月近くカレーを出し続けた事があった。
最初は直ぐに飽きるだろうとたかをくくっていた。
だが驚く無かれ、それを毎回目を輝かせて食べていた。
食べることが好きなのだから、作るのも得意だ。
今だから言えるが、千束の特製スパイスで作るカレーは悔しいが絶品だ。
「まったく」
そんなことを考えているうちに、弁当が出来た。
俺はそれを、丁寧に包む。
「さてと、行きますか」
中身は勿論カレーではない。
俺もそこまで道を踏み外してはいない筈だ。
店の戸締まりを全部終えた。
俺はバイクのエンジンを掛け、弁当をバイクの収納スペースに積むと。
「おい、お前、この辺で怪しい奴を見なかったか」
不意に脇から、女性に話しかけられた。
俺は驚いた。
かなり驚いた。
話しかけてきた女性は酷く口調が悪い。
目はギラギラと鋭く、今にも襲いかかってきそうだ。
それに驚くこと無かれ、髪は腰まで伸び、髪は白……いや、銀色の髪をしている。
首からは青い石が埋め込まれたペンダントをしている。
胸は……残念。
もう少し、がんばりましょう。
A~Bといったところだろう。
俺はこれ以上まともに胸以外、顔を見ることが出来なかった。
それはもちろん前半は欲望で、後半は恐怖でだ。
そんな恐怖と、葛藤する中でも女性のボディチェックを怠らない。
日々の鍛錬から培われる俺の素晴らしいスキルだ。
「す、すいません。知りません」
少し余裕に見えたかもしれないが、怖い人は怖い。
怖い人には取りあえず謝っておくに限る。
俺がこれまでの人生で培ってきたもう一つのスキルだ。
俺は逃げるようにバイクを走らせ、逃走した。
「どっかで見たことのある顔だったな………気のせいか」
俺はその時、この出会いがあんな災難をもたらすだなんて思わなかった。
バイクを走らせること数分。
俺は千束の勤め先である警視庁に着いた。
今さら思うが。
あの千束が、警察の職に就けるなんて、この国の採用基準はどうにかしている。
「どうも、千束さんにお届け物です」
最初の方はキチンと処理してくれていた受付の人。
「銀君、またかい」
通う日数が一月の間に日数が二桁を突破したとき。
その頃にはもう、かなりフレンドリーになっていった。
「またですよ」
人付き合いは苦手な方だ、会話もこの程度しか続かない。
「今回もよろしくね」
俺はそう聞くと、袋に包まれた物を受付の人に渡す。
その後、コッソリお金をもらった。
「いつも悪いね、この味を知ると止められないよ」
なにやら会話だけだと、怪しい取引をしているみたいだが、ただ俺は挽いたコーヒーを渡しただけだ。
お金も公衆の真ん前で、堂々とするのもお互い気が引けるからだ。
俺は、入館証を受け取ると千束の元へ向かった。
毎回だがこの時だけは少し憂鬱だ。
なぜ、憂鬱な気分になるか。
暫くすれば、理由は分かる。
「おーい、向刑事。旦那が来たぞ」
一人のおじさん刑事が茶化すよ言った。
俺がここに来たくない理由の一つだ。
正直、鬱陶しい。
「違う」
俺は一応、否定をする。
「またまた、同居しているくせに」
おじさん刑事は間髪入れずに続けて言った。
間違っていない。
間違っていのが余計腹立しい。
俺はそのまま押し黙ってしまう。
『ゴッ』と鈍い音。
千束が灰皿でおじさん刑事を叩いた。
「千束ちゃ……向刑事。それは傷害罪じゃ……」
同僚の女刑事がそう言いお腹を擦りながら事の次第を見守る。
「事故よ。じ、こ」
たぶん……いや、絶対に何を言っても無駄だろう。
あの雰囲気や物言いは、『事故』で強引に纏めるつもりだろう。
「愛刑事も、もう少しで産休なんだから無理はしないでね」
千束は頭を押さえ、目をぱちくりしているおじさん刑事を無視。
お腹の大きな女刑事に優しく話し掛けた。
おじさん刑事がの気持ち。
俺にも痛いほど良く分かるよ。
妙な親近かをを覚えた俺は暫し、妄想に耽ることにした。
だって、暇なんだもの。
良いじゃないか、こんな人間なんだもの。
俺はさっさと、この場から立ち去りたかった。
「そうか、もうすぐなのね」
俺の存在が初めから居なかった様に、刑事達は話している。
仕事しろよ。
心の中で俺はそう呟く。
話の花が咲いてかれこれ約20分。
「あぁ、銀。居たの」
俺の幼馴染みはようやく俺の存在に気付いた。
「弁当、お届けに上がりました」
精一杯。嫌味ったらしく言ったつもりだ。
「あ、ありがとう」
弁当を渡した途端、なぜか顔を赤くする。
「よ、旦那様」
お腹を擦りながら、女性の刑事はいった。
しかし、千束は何もしなかった。
隣で、おじさん刑事が納得いかないような顔を一瞬した。
当たり前だろう。
心中お察しします。
「ほら、今日は手伝っていきなさいよ」
いきなり俺の幼馴染みはとんでもない事を言い出した。
「いや、いや。この格好を見ろよ」
俺はまだ着ているウェイターの格好を見せるように、両手を広げた。
「丁度良いじゃない、銀はただ私達にコーヒーを淹れれば良いの」
そう言いながら俺に右手でビシッと指を指した。
「それに……銀が淹れたコーヒーを飲みたいし」
千束はそういいながら頬を右手で掻いた。
惚れ……る分けはない。
断じてそれはない。
大体わかったぞ。
要は休日をこれから往還しようとしている俺に働けってことだ。
この幼馴染みは俺の事を奴隷としか見ていないようだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「こんちくしょう」
空は夕暮れ。
茜色に染まる空。
俺は恨めしく警視庁のビルを見上げる。
結局、俺はすべての部署の職員にコーヒーを振る舞う事になった。
料金を頂こうとしたら、捕まりそうになった。
なんでも、許可無き営業はいけないらしい。
初めて聞いたぞ。
今回の売り上げは、最初に売った豆代のみ。
ハッキリ言って大赤字だ。
文句を言おうと、千束の所へ行ったら出動したらしく居なかった。
今度、会ったら文句を言ってやる。
出来たら……だけどな。
俺はバイクに跨がりフルフェイスのヘルメットを被る。
駄目だな……気持ちを落ち着かせなければ。
「少し、走っていくか」
俺の脳裏には、お気に入りの景色が浮かぶ。
そこに行くことにした俺は、キーを回し、エンジンを吹かす。
バイク独特のエンジン音が鳴る。
俺はもう一度茜色に染まる空と警視庁の建物を見上げる。
そのままスロットルを回し、その場を後にした。
ヘッドライトが夜道を照らす。
特別使用の、ライトはノーマルよりも明るい。
真っ暗な峠を、俺は颯爽と駆け抜ける。
夜は寒いが、それもまた良く感じる。
この道は普段誰も使わない。
対向車もなければ、停車している車もない。
今まで、何十回とこの道を走ってきたが片手で数えるほどしか遭遇していない。
ここはどうやら出るらしいがそんなのは気にしない。
「俺は今、夜風になっているんだ」
ストレスの貯まった日にはこれに限る。
心底俺はこのバイクを買って良いと思った。
風を切り、俺は今日もこの峠を駆け抜ける。
目的地は誰もいない夜の広場。
夜景が見える言わばデートスポットだった場所。
一回言ったと思ったが、もう一度言う。
この道は出る。
目的地に着いた。
街灯が所々切れている。
幽霊なんて居ないさ。
お化けなんて嘘さ。
心でその二言を何十回も歌い続ける。
さっきは恐怖心より、颯爽感が勝っていたが今は違う。
恐怖心の大勝だ。
颯爽感が白旗を挙げている。
「帰る、帰る、帰る」
帰ります。
だって怖いんだもの。
物音がした後、風が吹いた。
「これは風の音、これは風の音、これは風の音」
ベキベキと音がする。
「すいません、あなたの生活区域を脅かしてすいません。全力でここから立ち去りますので、どうかお許しください。今回ばかりは、今回ばかりはお慈悲をお願い致します」
俺は全力で土下座をした。
これでもかってほどに深々と。
このまま行くと土下寝になってしまう。
こままではいけない俺は勢い良く立ち上がり、バイクまで走った。
急いでエンジンを付けようとする。
「おい、お前」
女性の声。
幽霊の大半は、女の幽霊。
俺はそう思っている。
だからこの声は、高い確率で幽霊だ。
「今回の事はどうかご内密にお願いします。ですから仲間を呼ばないで下さい。私みたいな不当な輩からは何もありません。どうか穏便に事を済ましてく下さい。命だけは何卒……」
呪文みたいに今の気持ちを述べる。
早く逃げたいが、こうゆう時に限って、エンジンはつかない。
おやくそくってやつだ。
エンジンがかかった。
俺内心ホッとしたが、それは大きな間違いだった。
「待て、まだ逃げるでない」
肩を捕まれた。
サヨウナラ、俺のフィギア達。
サヨウナラ、俺の人生。
今日は、死ぬには綺麗すぎる夜だ。
「見つけたぞ、わがナイトよ」
「へ?」
内藤?何で俺の名前を知っているんだ?
「人違いじゃ…」
俺はゆっくりと振り返った。
「たしかに、こんな貧相な男がこの世界の私だとは」
やはり女性だった。
しかし、この顔は何処かで見たことあるぞ。
「まぁ夢は夢と、言うことか」
夢と言う言葉に、俺は稲妻に打たれた感覚に襲われた。
「シルバさんか」
今まで鋭い眼光と、高圧的な態度で気付かなかった。
しかし、まじまじと見ると、その顔は夢に何時も出ていたシルバさんだった。
「やっと気付いたか」
服装は軍服。
夢との若干の違いはいいだろう。
なんだろう、夢と全然違う。
詐欺だ。
胸がない。
女性には引かれるかもしれないが、だって夢と違うんだもん。
シルバさんの胸は目測でBと言ったところだろうか。
詐欺だ。
正に夢の悪魔の諸行に違いない。
夢ではD~Eはあったぞ。
正に詐欺。悪魔の諸行。
「残りの命に別れは言ったか」
シルバさんの髪はざわざわと動いて、指はバキバキ鳴らしている。
……うん。
サヨウナラ明日。
どこからか現れたサーベルは俺の首にヒヤリとした感覚を与えた。
その後、シルバさんは俺の綺麗な土下座で許してくれた。
うん、俺の暗黒に染まった人生経験が役立つだなんて世の中どうにかしている。
綺麗な土下座。
または、土下座の最上級である土下寝かで悩んだ。
綺麗な土下座で正解だった。
土下寝の元ネタが、わかる人は少ないだろうと踏んだのが幸をそうしたようだ。
まるでシルバさんは虫を見る目で俺の事を見ている。
「ゾクゾクするね」
たしか某黒と緑の半分こヒーローで、Cのメモリーを持った人の言葉。
使い所を間違えると、ただの変態に成り下がってしまうのが不思議だ。
「……」
無言で踏みつけられました。
ありがとうございます。
シルバさんは満足したのか足を放す。
俺の額がヒリヒリする。
たぶん赤くなってるな。
「もう一度聞く。怪しい奴を見なかったか」
「目の前にいます」
「……」
今度は無言で剣の矛先を喉に向けられました。
これは……サーベルか、どこから出したんだ?
「見てません」
シルバさん以外の怪しい人は。
って付け加えたかったけど、それをしたら絶対剣で喉を切り裂かれる。
解体ショーを始められてしまうだろうから止めたのは言うまでもない。
「ふむ、この世界に私の世界の生物が迷い込んできてしまっただけだんだがな」
いきなりファンタジーな事を言い出した。
「シルバさん?大丈夫ですか」
「ん?何がだ」
笑っている。
目は笑っているけど、何でサーベルを振りかぶってるんですか。
「危なっ」
俺は咄嗟にしゃがんだ。
俺の頭がさっきまで有ったところをサーベルが走り抜ける。
「チィ」
シルバさんは舌打ちをすると、サーベルは抜刀されたままだ。
攻撃の第二波が来るのか?
俺がそう思ったがシルバさんは木が生い茂る林を見つめていた。
林の方から複数の足音がした気がする。
誰か助けに来たのか?
何て事はなかった。
「キシャァァァ」
蜘蛛です。
巨大な5mはあろうか巨大な蜘蛛がこちらに向かってきます。って冷静に解説している場合じゃ……
「避けろ」
シルバさんはそう言うと俺を蹴り飛ばす。
シルバさんもその場を避ける。
俺達がさっきまでいた場所を見ると、巨大なクレーターが出来ていた。
「お前はそこで大人しく見ておれ」
シルバさんはそう言うと、剣を鞘に戻した。
「行くぞアーマイゼ」
シルバさんの足元に魔法陣らしき模様が現れた。
驚きはしない。
ただ少し心臓の鼓動が早くなっただけだ。
断じてビビってはいない。
ビビってないからな!
あんな大きな蜘蛛になかんかな。
「相手はただのモンスターか……変身」
魔方陣から黒い生物が現れたシルエットとなった。
「あれは……蟻?」
その生物はやがて人の形となり、シルバさんとシルエットが重なる。
「カヴァリエーレ、変身完了」
金属を叩いた音と共に艶の無い黒い鎧を身に纏ったシルバさんがその場に現れた。
胸は……相変わらずだった。
黒い鎧を身に纏ったシルバさんは正に圧倒的な戦いだった。
上下左右から来る攻撃を難なく避け、サーベルを巨大な蜘蛛に切りつけてゆく。
「見かけによらず固いな……フフッわかっている」
シルバさんは戦いの最中だと言うのに、独り言をいっている。
それと何でだろう、段々と劣勢になってきている。
「チィッ」
最初の勢いはどこに行ったのだろうか、今は避けるので精一杯なようだった。
とうとう、防戦一方となったシルバさん。
このままじゃ危ないと思ったその時だった。
シルバさんが手に持っていたサーベルは遠くの方に弾き飛ばされた。
バランスを崩されたシルバさんは尻餅をついてしまう。
「くそ」
シルバさんを食べようとそのまま巨大な蜘蛛は口を大きく開けた。
危ない。
そう思った時、俺の中で何かが弾ける音がした。
近くに停めてあった俺の愛車は、エンジンがついた状態のままだ。
それに跨がりエンジンを思いっきり吹かした。
巨大な蜘蛛にバイクで体当たりすべく、アクセルを全開に回した。
キュロキュロと音がしタイヤが地面と激しい摩擦を起こす。
速度メーターを見る余裕はないが、かなりのスピードが出ていると思う。
特別製のヘッドライトの眩い光が、蜘蛛の頭部を照らす。
「キシャァァァ」
蜘蛛の目が良いのか解らないが、怯んでいるからたぶん効いたのだろう。
俺はその勢いのまま蜘蛛に体当たりをした。
途端にバランスを崩し、アスファルトと星空が交互に視界に写る。
回転が止まり、蜘蛛を見た。
びくともしていない。
カタカタと足音をたて俺に向かってくる。
胸部に激痛が走った。
どうなっているかは解る。
役目を全うしたバイクはバラバラだ。
もう乗ることは無い。
胸から暖かいものが溢れてくる。
痛みは消えた。
後は死を待つのみ。
俺はゆっくりと目を閉じた。
「何故、大人しくしてなかった」
聞き覚えのある声。
俺は目を開けると、蜘蛛の頭部から腹部に向かいにサーベルが刺さっていた。
「し……ば…さ」
満月を背に、シルバさんは高く飛び上がっていた。
満月をバックにシルバさんは片足をつき出し、高速で落下してくる。
「はぁぁぁ」
蜘蛛は何かに吸い込まれるように月を仰ぎ、シルバさんが落下するのを待ち構える。
片足が突き刺さったサーベルの柄を蹴りだし巨大な蜘蛛を貫く。
俺は薄れゆく意識の中で、爆発をする蜘蛛を見た。
炎が辺りを明るく照らす。
シルバさんは鎧の仮面をとると銀色の髪が露になり、サラサラと風に揺れた。
そこで俺の目の前は真っ暗になった。
ここで死んでも後悔はしない。
最後に女を守れて死ぬのだ、男冥利に尽きるとはこの事だ。
俺は深い闇へと落ちていった。