異世界転移してきた姫騎士を助けたら俺がTSして騎士になった件 作:バソルト
ここまでの現状を単直に言うと、毒を盛られた可能性が濃厚になった。
直接的な可能性は多分あの最初の一撃だろう。止血は済んでいるものの、毒は体内に残ったままだ。
「おかげさまで今は随分とご機嫌な状態だぜ」
意識が朦朧としてる以外も、吐き気がしてきた。
ゲロインは勘弁だ……ってヒロインではないか。俺。
動いたら毒の回りが早くなる様な気がする。
「アーマイゼ」
なぜかその名前を叫ばずにはいられなかった。
本能が、戦闘経験がこれが良策だと導き出した。
その次の瞬間、俺とアラクネとを隔たるように機械的な蟻。アーマイゼが召喚された。
刹那。
俺を包む全身の鎧は、一部重要なところを守る部分以外の鎧はすべて消え去った。
アラクネの雰囲気がガラリと変わる。
それは火を見るよりも明らかで、アラクネはアーマイゼを警戒している。
あれ、今まで俺の時は遊びだったんですか?
全身を被う甲冑は仮面が取り払われ。
胸、腰、肘から手の先、膝から下のみとなっている。
露出した肩はよろしく肌色成分だが生々しい傷跡が残っていた。
「トリカブトの毒……か」
アーマイゼの声は余裕に満ちていた。
どこからそんな余裕が……と、疑問に思ったが実力と経験の差。なのだろう。
「ホレ早く解毒をせぬか……私は、少し昔話でもしている」
どうやってと聞く暇もなく、アーマイゼはアラクネの元へ行ってしまった。
といっても、聞く以前にも口が上手く動かなくなった。
目が回る。視界が暗くなる。
今時分が立っているのか倒れているかも解らない。
あれ……俺死ぬのか?
なんだろう、嫌だな死ぬのは。
一気に毒気が回ったのか、症状が一度に襲ってきた。
良かったよ、アラクネのモンスターを先に倒しておいて。
良い的だよ今の俺は。
毒、毒、毒、解毒をしなくちゃ。
ただ毒を体内から無くせば良いのか?
いや、それだけじゃダメだ。
毒を二度と受け付けないような、そんな感じじゃないと。
そう言えばシルバさんは言ってたな。
この力を手にしたら、人とは違う理で生きていかなきゃいけないって。
それが今か。
理、常識……そうか。
身体に意識を張り巡らせて、毒を感じる。
このどす黒い感じがそうか?
半信半疑だけど、今は藁をもすがる思いだ。
まだ、死にたくないし。
シルバさんに文句も礼も言ってないし。
まだ女を知らないし。
口にそれを集めるイメージを。全身から漉し出すイメージ。同じようなモノを自動で排出するイメージ。
イメージ。
イメージ。
「ゴハッ」
苦い、口がなんかピリピリする。だけど、不思議と体の毒気は無くなった様な気がする。朦朧としてる意識が段々と色付きハッキリしてきた。
現在の状況を確認してみると、今は剣を杖代わりに立っている。床には毒の水溜りが出来ていた。
近くから遠くへ。朦朧としてる意識を再び叩き直し辺りを見る。
きらびやか内装に相応しくない、物騒な音で方向はすぐに解った。
一段階戻ったアラクネの下半身をアーマイゼがもつれ合い、押さえつけている。両者とも蜘蛛の糸が絡まり動きを阻害され思うように動けてはいない様子。見方を変えれば何ともエロい光景だが今回は、そんなことは微塵も考えない。
早く行かなきゃ。
アーマイゼがアラクネと戦ってくれて時間を稼いでくれている。
出来るだけ足音を殺し、殺気を消し、俺はその場を思いっきり蹴った。
「すまない、待たせたアーマイゼ」
アラクネ横っ腹に剣を突き立て、蹴り飛ばすと俺は二人の間に割って入った。
その時のアーマイゼは何処か哀愁漂う顔をしたような気がした。
「排出だけではなく、浄化したか」
なにを言ってるか意味はわからないが、取りあえず毒を消したこと事態は把握済みだったみたいだ。
毒は消え去って体も軽い。
身体に釣られて心まで軽く、羽の生えたようだ。
「準備は良いか、騎士よ」
アラクネが横に並び、俺に問いかける。
「あぁ。アーマイゼ、慢心も逃げ腰ももうないさ」
どこか浮わついてたのかもしれない。
どこか他のモンスターと一緒で何とかなると思っていたのかもしれない。
何度、何度も。
何度、同じ間違いを繰り返したのだろうか。
その度心も体も傷付き、ボロボロになったけど認めたくないから、改める事はなかった。
シルバさんの忠告。
姿形に惑わされて、ここまで狡猾だとは思わず。
更に予想だにしない実力。
魔女の名は伊達じゃなく、実際に対峙してみないとこれは判らなかった。
「カヴァリエーレ内藤銀、シルヴァーナ・カヴァリエーレがためいざ参る」
俺は、アーマイゼを置き去りアラクネの元へ地面を踏み抜き走り出した。
両手に握るものは、なにも剣だけではない。
重量を目算して自分が持ち上げられるかどうかを考える。再び魔女としての姿になったアラクネ。剣は腹に刺さったままだ。
剣を取り戻さんと、腕を伸ばし勢いを殺さずに突き進む。
端から止まるつもりはない。
アラクネはそれに気づいてか、太く雄々しい針を顔面目掛け突き立てる。
「なぁっ」
本当の狙いは剣での突撃でもなく。
剣を取り戻すと見せかけ、突進を囮にした変則巴投げによる投げ技。
突き進む勢いのまま、その場を跳躍。
カタパルトのように空中を進む身体の下を針の尖端が進む。
そのままアラクネの胸ぐらを掴み、勢いに任せ半回転。
俺と上下が逆転し、背筋と腕力に任せ無理矢理投げ飛ばした。
再現は無理だろう。
技の駆け引きから生まれた偶然の産物だから。
音からして天井に叩きつけられたのだろう。
今だ回る視界を正し、唖然とするアーマイゼを見る。
シルバさんと同じドヤ顔で。
体から抜けた剣が床に刺さっていた。
抜けてしまった。
という表現の方があの勢いでは正しいのだろう。
剣を引き抜き、切っ先を項垂れるアラクネへ向ける。
警戒心を高く。
どんな攻撃、奇襲にも対応できるように。
剣のように強く、鋭く気を張る。
「固有・・・結界」
呟くようにアラクネは口ずさんだ。
それは普通なら聴き逃してしまう程に小さな声。
「リュディア」
その名前を紡ぐアラクネを中心に。
世界が波打ち、姿を変えた。
東の空は星が散りばめられた夕闇色。
西の空は赤々と燃えるような夕焼け色。
大地は石柱が連なり、決闘場やステージを連想させる光景。
圧巻であるその光景は、室内に居たことを一瞬忘れる程。
そう、俺は室内に居た筈だ。
なのに何故だ、俺がここに居る理由がわからない。
何が起こった
ここは何処だ。
豪華なダンスホールも崩れた床も、そして逃げ道も何もない。
完全に閉鎖された空間。
目前に黒い影が飛来する。
「まさか、シルヴァーナの闘いでのダメージが少なかった……いや、そんな筈は」
アーマイゼが俺を守るように、立ちふさがった。
「いえ、彼女は十分私にダメージを与えたわ」
「ならば何故」
「それ以上に私が強かった……ただそれだけの事よ」
「くっ」
くっ……じゃねぇよ、なに口喧嘩で負けてんだよ。
「じゃぁ、俺からも一つ良いか」
「何かしら」
「ブラのサイズはいくつだ」
少し考えるような素振りを見せたアラクネ。
「Fよ」
胸を強調するように、腕を組んで見せつけてきた。
F……Fだと!?
「くそっ」
始めて俺以上の存在を見た。
いや、愛さんも俺以上の物を持っていた様な気がする。
「なにを悔しがっておる」
瞬間体が更に緊張状態へ。
この声。
このしゃべり方を俺は知っている。
不良のごとくヴィヤンテフの近くで俺を見つめるシルバさん。
それと、新しく気付いたのは巨大な鬼と狐面を被った巫女さん。
後、着物を着た鬼の面を付けた男。
色物戦隊とはこの事で、特に野外で見る巫女服のなんたる背徳感。
しかし、アラクネの顔色は変わっておらず。
シルバさん達がここに来るのも折り込み済みの行為だったのだろう。
「あらあら、困ったわね」
わざとらしい口調でアラクネは、さも困ったかのような仕草をする。
「初めての固有結界内は、さぞ辛いでしょうね」
いや、そんなことはありません。
至って普通です。
そう言いかけたが止めた。
着物を着た二人が崩れ落ち、その場に倒れたからである。
「ふむ、やはりか」
冷静か。
または冷徹か。
シルバさんは目を瞑り、事態を飲み込むように肯定した。
「やはり魔女か」
アーマイゼもそう言うが。
うん、判らない。
初めての俺は至って普通。
健康体で、気分が悪いとかそんなのは一切無いからだ。
「銀も……あれ?」
その時。
始めて俺は、シルバさんのキョトンとした顔を目の当たりにした。
目を丸く、驚きを隠しきれていないその表情。
それは普段のドヤ顔からは想像できないものであった。
「フフッ」
しかしその中で、表情の判断出来ないアーマイゼ以外。
ただ一人、アラクネは不適に笑う。
嫌な気配が石柱からした。
剣を振り払うと金属音が木霊する。
針……なのか。
再びの金属音の後に、銀色の針が地面を転がる音がした。
俺はそれを拾い上げ、先端を見るとほんのり湿っているのが解った。
「また毒か」
俺はその針をアラクネ目掛け投げつけ。
続けざまに剣も投げつけると、同時に再び走り出す。
「行くぞアーマイゼ」
目の前で両手をクロスさせ、手のひらを内側から外側へ向ける。
「変身」
アーマイゼの上空に魔方陣が出現。
俺は地面を蹴り上げそれを潜り抜けると同時に、両手を降り下ろす。
すると今度は別の、金属同士を叩きつけた清んだ音が木霊した。
「カヴァリエーレ、参上」
しかし、アラクネへ殴りかかるが。
それは見えない何かにより軌道をずらされた。
~Silvana Said~ 時は戻り
気がついたら固有結界内に閉じ込められた。
協力者のふたりは、初めての魔女クラスの濃いエネルギー空間に耐えきれず。
その場に崩れ落ちた。
顔は……良かった。
隠れたままだ。
己が心象風景の具現化。
この空間は外界から、完全完璧に隔離された世界。
気配も。
通信も。
この世界に閉じ込められたら、最早アラクネを倒す以外に抜け出る手段はない。
さらに行使する者にもよるが、反則級の効果があり。
故に名前に“固有”がつくのである。
厄介な存在であり、この術を行使するには多大なエネルギーも体力も消費する。
気に食わない。
いくら私でも、あのアラクネを相手に戦ったのだから疲弊が無いに等しいのはおかしい。
まるで、固有結界のエネルギーを取っておいたかのような。
これ事態が目的かのような。
しかし考えていても何も始まらない。
アラクネを倒さない限りは、ここから抜け出す手段はない。
今の私は戦えぬ身。
いや、戦えたとしても悔しい事に足手まといにしかならない。
あの疲弊具合から察するに、あと一押し何かあれば勝てるが。
今のままでは、とても厳しい。
それに何か知らぬが銀はこちらに気づいておらず。
なぜか悔しがっている。
「何を悔しがっておる」
私は、この言葉しかかけてやれぬ。
己の鍛錬の足り無さに、思慮の浅さが。
私自身何よりも悔しい。
真剣な眼差しで銀を見ることしか。
信じて待つことしか出来ない。
不様にも倒れた協力者達よ。
アラクネの説明通り、固有結界は言わば魔女の濃いエネルギーの塊。
初めての者は必ずと言って良いほど、濃度差に耐えきれず気を失い。
最悪死亡する。
「やはりか」
やはりこやつ等は初めてだったか。
しかしこれは困った。
普通の結界はあるが、固有となると話は別だ。
銀そろそろ気を失う頃だ。
その時は中和してやれば目は覚ます。
さてと。
協力者は失神して。
「銀も……あれ?」
無事だ。
手間が省けて喜ぶべき……であろう。
しかし前に銀は固有結界に巻き込まれたのか。
それとも濃いエネルギーをその身に受けるほどの……あぁ。
思い出した。
心臓の代わりに、騎士の力を委譲したときだ。
私悪くない。
よな。
むしろ私のおかげだな。
銀のヤル気がひしひしと伝わる。
その熱量はこちらまで伝わり、ほんのり汗をかくほどだ。
少し見ない間に随分と成長したようだな。
エネルギー放出は烈火のような激しさで体表から揺らめき。
今にも爆発しそうなほどの。
「また毒か」
また……と言うことは、銀は受けたのか。
アラクネの己の呪い。
トリカブトの呪いと言う毒を。
その毒は己を魔女へと変貌させた呪い。
それは浄化されず解毒されず体内に残り、呪うものを永遠の闇の淵へと誘うもの。
しかし、銀は瞬時に浄化してみせた。
不可能を可能にしてみせたのだ。
不可解にして奇妙なこの問題は後回しだ。
喜ばしい事は、アラクネの驚異が一つ取り払われた。
だがしかし、魔女の魔女たる由縁。
銀は真に理解しているだろうか。
銀は真に己の力というものを見つけ出せるだろうか。
私からは教えられない。
剣の名も、そしてその身に纏う黒き鎧の意味も。
無鉄砲に飛びかかる銀は、魔女の固有結界の力の片鱗を味わい。
地面へ飛び込みキスをした。
火花を散らし、石畳の床を滑る。
銀は石柱にぶつかり、それがやっと終わったと思えば。
アラクネはこちらを意に介す事無く、石柱へ追撃の針を擲つ。
針尾には極細の糸。
それはアラクネの黒檀色の腕へと繋がっていた。
動けぬ銀に針が強襲する。
それは、うねり揺めき突き進む。
逃げても追跡する様に。
だかその針はシールドで弾かれた。
銀が名を知らずとも。
それが例え精巧な模倣でも、剣に眠る聖遺物の一つが守ってくれている。
それは母なる力。
それは母なる想い。
これだけで、傷つきはしない。
しかしそう長くは続かないだろう。
ゆっくりと立ち上がる銀の手には、我が剣が。
「銀め」
嬉しい事をしてくれる。
しかし、それ故に危うい。
太刀筋が全く私と異なる銀に、あの剣はさぞ扱いづらいであろう。
願わくば、銀よ。
剣と己と向き合い戦ってくれ。
それが今の私の願い。
それが武人として、主として。
そして一人の友と……いや違うか。
この一押しの有無が勝敗を決するであろう。
~Gin Said~
その瞬間。
何が起きたか理解できず、地面とキスをしながら床を滑っていった。
熱い。
無意味に火花を散らし、決して剣を離さないように握り締め。
石柱へぶつかり、何とか停止。首が痛い。
首を押さえ、立ち上がろうとしたら目の前に青白い光の六角形が。
見るとそれは針。
油断も隙もなく強襲してきた針は、力無く床に落ちて金属音を奏でる。
危ない、危なかった。
シルバさんの剣の力かはわからないけど。
この能力のおかげで何回か命を救われている。
今度こそ立ち上がり、再び走り出そうとした次の瞬間。
落ちた筈の針がアラクネへ戻り、再び俺のもとへ。
それをマトリックスばりのダイナミック回避で逃れた。
だが油断は出来ない。
次回も同じ事が出来る保証など無いのだから。
顔面受身で仮面にヒビが入ったのであろう。
少し動けば、新しい隙間から風が入って上気した顔を優しく冷やす。
いかんいかん、冷静にならなくては。
剣を握り直しアラクネを見据える。
「おいおい、冗談だろ」
どうやら俺を休ませる気はないようで。
東の空の星の瞬きに混じり、針が点在していた。
その先端は全てこちらに尖端を向けており、固定されたようにピクリとも動いていない。
「固定解除、全針掃射」
薄ら笑いを浮かべ、俺に手を振りかざすアラクネ。
迫り来る針。
目を見開き、それら全ての大きさを把握したとき。
その方向。
勢いから、その狙いは俺だけでない事を理解すると、一気に冷や汗やらが吹き出す。
大小様々な針は俺だけではなく、シルバさんまでも狙っていた。
反射的に地面を駆ける。
間に合わない。
間に合わないと、受け継がれた経験が残酷な告知をする。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。
間に合わないなんて嘘だ。
自分の勘に嘘を付き走るが。
シルバさんに迫る針は、もう直ぐ近くまで迫っている。
それはまるでコマ送りの様に流れる光景。
極限まで研ぎ澄まされた感覚が、そう見えさせているのだろうか。
残酷なこの光景。
シルバさんが針に貫かれる様が、見たくなくても捉えられる。
シールドは間に合わない。
展開範囲外の出来事であると、理解してしまう。
ゆっくりと立ち上がるシルバさん。
視界は、シルバさんの胸を貫くのを捉えてしまう。
嫌でも目を背けようとしても、視野はそれを捉えてしまう。
ならばせめて、追撃の針ならば。
第2、第3の針ならばシールドの範囲内に走り込められる。
あの位置はどう考えても急所だ。
わかってしまう絶望。
だが諦めることは俺は出来なかった。
幾層ものシールドを展開。
シルバさんの前まで回り込むと、残りの針を捌く。
それは左方から。
右斜めから。
真上から。
左右から。
大小でも一撃しか防げないシールドは直ぐに砕け散り。
再びシールドを出しても間に合わなく。
剣捌きも間に合わなく。
だけどこれ以上、シルバさんに針で傷を付ける訳にはいかない。
針は肩に、そして足に。
とり漏らした針は容赦無く俺の身体に穴を開ける。