異世界転移してきた姫騎士を助けたら俺がTSして騎士になった件 作:バソルト
何が起きたか理解出来なかった。
俺の視界の先には、金髪の美少女が赤い槍を携え。
音もなく空間を歪ませるように現れたからだ。
だけども、この美少女には見覚えがある。
ショートカットだが襟足だけ長く、ポニーテールの様に結んでいる。
そう、あの夢と寸分変わらぬ姿で立っていた。
シルバさんの妹。
それを理解した次の瞬間。
シルバさんの柔らかい唇が俺の首元へ吸い付いた。
「ふぁっ」
美味しそうに俺の血を飲む。
段々と力が抜けていくのがわかる。
貧血にならないか少し心配だ。
「ふむ、やはり格別だ」
血を飲み終えたのか、ハンカチで口元を拭きそう呟いた。
「姉上、只今馳せ参じました」
「来たかベルよ、そちらの任もあるというのにすまぬな」
「たった二人の姉妹なのです、頼みを聞くのは当たり前です」
ん? 二人?
この前シルバさんは三姉妹と言っていた様な気がする。
そのシルバさんはと言うと大きくため息をつき。
「またか……姉上をいい加減許さぬか」
「いえ、これはカヴァリエーレ家の決定です、姉上がとやかく言う筋合いはありません。ローザ姉さんは初めから居なかったのですから」
何だろう。
また置いてきぼりを食らっている。
血を抜かれて頭がボーッとしてるから良いけども。
そんな二人は話を続ける。
意識が再び覚醒する中、足元に力が入らなくなり崩れる。
「大丈夫?」
クンクン。
この香りは天子ちゃんの匂い。
ああああっ、いい匂いだよぉぉぉっ……失礼、取り乱しました。
とにかく、とにかくだ。
天子ちゃんに促されるまま俺はその場に座り込む。
「あぁ、問題ない」
とびっきりの笑顔で答えてみる。
たぶんこの表情は曇りに満ちているのだろう。
「ふん、もう一人の姉上はどんなものかと思ってみたら、冴えない顔しているわね」
声のした方向を見ればブルーナちゃんがいた。
腕を組み高圧的な態度でこちらを見ているが、シルバさん程の怖さはない。
むしろ、背伸びした感が否めなく。
それは、本物を知っていてこその勘だろうと思う。
年はたぶん天子ちゃんと一緒ぐらい。
あぁ、高校の制服が似合い……スク水が似合うな確実に。
俺の脳内着せ替えカメラは、あらゆるシチュエーションを無視して対象に効果を発揮できるから最高だ。
「そっちこそ……男の俺に負けるか」
イタズラな小悪魔的笑み……をイメージした目でクスリと笑ってみてやる。
「口の減らない男ね」
「こりやぁどうも、この姿で男扱いしてくれるなんて優しいんだな」
片目を閉じ、ブルーナの方をみる。
無表情で冷ややか。
それか、一目見たときの感想だ。
「ふん」
プイッと別方向を見ると。
紅蓮の槍を地面に突き刺す。
「あぁ」
アラクネはせっかく直した床をまた傷付けられて、ショックを隠しきれない顔をした。
「そこを退け……協力者よ」
シルバさんがそう言うと、槍の切っ先から迸る水の如く。
蒼い光の流動が俺を中心として魔方陣を形成した。
「胸が苦しいやも知れぬが、何とか耐えてくれ」
天子ちゃんがその場から離れると、その光は更に輝きを増した。
「□□□□□□□□」
言葉では言い表せない発音。
ブルーナは目を瞑り、呪文を唱える。
「□□□□□□□□」
二節目に入る。
光は一段と強くなり、目を開けていられないほどだ。
「□□□」
そして最終節。
槍を引き抜く音がすると、突如胸が張り裂けそうな痛みが襲う。
~Teduka Said~
直ぐ様、とんぼ返り。
私は電話に出ると、直ぐに病院へ向かった。
ヘッドライトが夜道を照らす。
暗い道なり。
耳に入ってこない、夜のラジオからは笑い声が。
電話の内容は、愛さんの陣痛だ。
夫は仕事で直ぐに迎えは行けないらしい。
車を持っている私は女性ということもあり、白羽の矢が立った訳だ。
ここにきて、自分以外の陣痛に立ち会うとは思わなかった。
たしか愛さんはここから遠くはない森の洋館に住んでるとの事。
私しか家の場所は知らないらしい。
「ここね」
蔦で隠れて見えづらいが、屋号の表札が見えた。
車を中に入らせるには忍びないが緊急事態だ。
お誂え向きに、門まで空いている。
車を中まで進めようとしたその時だ。
「えっ」
人位の大きさの何かが、茂みの中を蠢いたのが見えた。
どうやら私は悪運を引き寄せるらしい。
携帯のライト機能を使い、辺りを照らすか光が弱い。
ならばと、フラッシュを炊き照らすが、何も見えなかった。
「千束ちゃん」
声のした方を見た。
「あぁ、愛さん」
そこにはお腹の大きな、愛さんがいた。
「久しぶり……って、そんな悠長な事言ってる場合じゃないよね」
急がなきゃ。急がなきゃ。
ドアを開けて、愛さんを促す。
「まだ陣痛の間隔はまだ先だよ」
その笑みは、何時ものように私の急ぐ気持ちを落ち着かせてくれた。
「あぁ、すいません」
「まだ大丈夫だよ。将来の勉強だと思ってリラックス、リラックス」
陣痛で痛い筈なのに、私を気遣ってくれる愛さん。
まだ経験は無いからどれ程の痛みかは想像できないが。
鼻の穴からスイカを出す痛みらしい。
あれ、出産の痛みだっけ?
と、暗がりのライトの上を拳大の蜘蛛が這っていた。
「しっしっ、あっち行け」
携帯で乱暴に払い除けようとしたその時。
「良いよ、これから出産なのに殺すのは……ね」
愛さんに、たしなめられてしまった。
先ほどの怪しい影の存在を少しの間、忘れていたが今はそれどころではない。
ここから産婦人科まで五分とかからないか、一応は早く付くのに越したことはない。
「旦那さんこれそう?」
「うん、急いで向かうとは言ってくれてるんだけど」
予定日より少し早い陣痛に、世界を飛び回っている旦那さんはさぞかしビックリしただろう。
愛さんは気丈に振る舞っているが、内心とても不安だろうと思う。
言葉端、微かにそんな気持ちが見え隠れする。
いつか……私もこんな時が来るんだろうな。
気持ちを切り替え、後部座席に座らせゆっくりと車を発進させた。
「■■■■■■■■■ッ」
謎の雄叫びを背に、逃げるように。
~Silvana Said~
騎士であり魔術の心得もある、我が妹ベル。
説明を入れるとベルとは愛称で、名前はブルーナである。
真面目すぎ、頑固で融通が効かない私の苦手とする畑の者。
それ故に友と呼べるものも少なく、海賊黒髪がそれと知った日には大層驚いたものだ。
知略を張り巡らし、少ない手で敵を葬るのを得意とし。
戦術と戦略を上手く組み合わせて使う、本当に敵に回すと厄介では済まされない。
先の闘いにおいては幸い、アラクネは戦術家であり戦略家では無いこと。
それがこの闘いに大きなウィークポイントであった事は言うまでもなく。
多少の痼は残るものの見事に銀は闘いに勝利したのである。
さて話はそれたが、我が妹は認めたくないが私に出来ないことを沢山出来る。
心臓の再生……は、言うまでもなく禁術中の禁術。
私の知るところ、心臓の再生はベルしか出来ない。
ベルが準備を始める。
迸る水のようにエネルギーで魔方陣を描く。
私はこれが苦手だ。
過程どうこうの前に、結果が先に出てしまうからだ。
私たちが魔方を使うには過程が大事な作業であり、それに伴った結果が付いてくるからである。
事前準備は大丈夫で、簡略化は駄目。
反復、反芻したものは過程を一瞬で出来る。
それ以外は闘いにはほぼ向かない魔法しか使えず。
銀が前に見ていた、指輪を媒介に魔法を扱う作品があったが良さげな方法だ。
後で帰ったらやってみよう。
指輪に過程を……と考えたが、応用性が少なく専門ではない限り闘いには向かない。
やっぱり止めよう、闘いの中で見いだした方が私向きだ。
魔の力を持つ、その文字の名はルーン。
太古よりその名を冠する失われし系譜の魔法。
その魔法の効力は私には計り知れないく。
文字を習得している数によりその力は増大する。
生憎私は、この文字の取得には至ってはいない。
「□・□・□・□」
四音の発音で、魔法陣の四方にルーンが浮かび上がる。
それは自転し、魔法陣を円を描くように銀を中心に公転し始めた。
「姉上、ではお願いします」
「ふむ」
近づき、手をかざすと1つのルーンが掌に収まり、私からエネルギーを持って行く。
銀から貰ったエネルギーのキッチリ四分の一持っていかれ。
それがあと、三回続いた。
「聞こえないと思うが、これから激痛が襲う。気絶したら運ぶのが面倒だから耐えて」
ベルの一節により強い蒼の光が銀の姿を包んだ。
銀の苦痛な呻き声に似た唸りが聞こえてくる。
大丈夫だ、多少ながらエネルギーの使い方も本能で理解している。
大丈夫だ、直接の指導はしていないが鍛えたのだ。
これしきの事で、銀が耐えきれずに死ぬということはないだろう。
目映い光が辺りを蒼く照す。
それはこの世の光が蒼だと錯覚するほどに。
魔女アラクネも耐えきれずか、目を逸らした。
この場にいる全員が。
いや、ただ一人。
たった一人、ベルだけは違うだろう。
この光そのものである、我が妹は私の頼みをどんな思いで遂げているのだろうか。
帰ったら、一度手合わせを理由に聞いてみよう。
決闘とは私達の会話なのだから。
私達はそういう性分の中で生きているのだから。
~Gin said~
目覚めると、そこは知っている天井だった。
茜色の光が窓から差し込み、今の時間が夕方だということを知らせてくれた。
どうやら長い時間寝ていたらしい。
ベットから下り、おぼつかない足取りで洗面所に向かう。
取り敢えずは、歯を磨いて目を覚まそうと鏡を覗いたその時だった。
目の前には冴えない男が歯ブラシを持って立っていた。
俺が右手をあげると左手を上げ。
俺が左手を上げると右手を上る。
あぁ、戻ってる。
何かは解らないけれども。
以外にも俺は落ち着いてこの状況を理解できた。
「まぁ、デジャブだから仕方がない……か」
歯ブラシを口にくわえ、ミントの力で目を覚ます。
あぁ、頭が回らない。
頭が回るって具体的にはどんな風に回ってるんだろう。
ネズミの水車みたくか。
それとも独楽のようにか。
はたまた自転公転の回り方か。
そうすると俺の頭は銀河系、星のように煌めく明日が待ってるぞ。
よし、目が覚めたぞ。
どうやら本格的に寝てしまっていたらしい。
身体の節々がいたいし、頭が痛い。
一日を無駄にしたと言う思いからか、胸がどんよりと重いような気がする。
再びベットへダイブし、大きく背伸びをしながらあくびをする。
強張っていた身体がメキメキと音を立てて、ほぐれていく。
「あー、1日無駄にした」
特にやることは決まっていなかったが、凄く損をした気分だ。
特にやることは無い、なし崩し的に始めたストレッチは入念なものへと変わって行く。
仰向けからうつ伏せへ、服のシワなんかどうでも良くなってきた。
「ふぁっ」
携帯のバイブレーションが鳴り響く。
突然の事にびっくりして、変な声を上げてしまった。
「おぉっ、産まれたか」
携帯のディスプレイに映し出されたのは愛さん、出産の知らせ。
どうりで静かかと思ったら千束は付き添いで出掛けていたらしい。
時間も時間だ。
お見舞いはまた明日ということで。
何せ休みは、まだたっぷり有るからな。
目覚めの一発はコーヒーが一番だ。
喫茶店という好条件のため、毎朝美味しいコーヒーが好きな時に飲める。
自分で作るしかないが、それもまた好きだから苦ではない。
ついでに腹に何か入れよう。
丁度魚とかハムがあったから、適当に焼いて食べよう。
彼女とか居たならばマリネなんてのもアリだけど、一人じゃそんな手間はかけたくない。
千束も帰ってくるだろうからその分も焼いておこう。
冷蔵庫を開けると、そこには食料品が一切無かった。
あれ?
3日分位ならあった筈だ。
店で使うもの以外は食料品が全くない。
それどころか店で使うものすら危うい状態だ。
いくら客足の少ない店だからってこれはヤバイ。
仕方がないから買い物に行くか。
取り敢えずは着替えなくては始まらない。
寝ぼけて着たウエイトレスの服は、この時間の買い物には不向きだ。
夕日が沈んだのか茜色から濃紺色へと変化し、空の色もすっかり変わっている。
階段を上がりながら財布と相談し、どれだけ買えるかを吟味する。
「うわっ、少なっ」
思わず声に出してしまう程に、寂しい中身に愕然としてしまった。
記憶が正しければ、まだ余裕があった筈。
その筈だ余計な買い物をしなければ……の話だが。
1日寝ていただけ、なのだからそんなことはあり得ない。
と、取り敢えずは着替えて切り替えよう。
見慣れたドアを開け、部屋を見渡す。
疑い深くなるのは、これまでの事があったからだ。
部屋の明かりを点け、蛍光灯の点滅の後に灯される視界。
「ね、年代毎に並べられてるだと」
それは40周年を迎え、今尚伝説を作り続けるシリーズ物のフィギュア。
それが堂々と年代別に並べられているのだ。
昨日まではバラバラだった筈だ。
どうしてだ、食料と言い夢遊病かなにかか?
そんな事を考えても消えた食材や、なんやかんやは戻ることは無い。
奇跡や魔法でもない限り。
“なくしたもの”
“なくなったもの”
それが戻ることは無いのだから。
取りあえずだ。
取り敢えずは着替えよう。
クローゼットを開けて服を確認する。
よし、流石に変なものは……。
「わぁー、ぱんつとぶらじゃーだ」
それにフリっフリなピンクのロリータ服もだよ。
寒色ばかりのクローゼットの中にひときわ目立つ、暖色系。
いや、それ以前に男の俺が素晴らしき男のロマンを包む物とロリータ服がなぜ。
まさか盗……いや、これはまだ新品同様だ。
「やるとしたら、使い込んだやつを狙う」
それが夢遊状態だとしてもだ。
しかしいよいよをもって解らなくなってきた。
一晩の内に食料品を食い尽くし。
下着ドロボーまで働くなんて、いくらなんでもアグレッシブすぎる。
「もういっそ、時間もカレンダーも間違ってたりし……て」
携帯を開くと確かに3日。
正確には4日経っていた。
明日が明後日の朝には、おやっさんが帰ってくる。
俺は……この期間何をやっていたんだ。
携帯を放り投げ、ブラジャーを手に俺は熟考する。
「結構大きいな」
沸き立つリビドーを胸に秘めながら。
そうはいっても、思い出せないものは思い出せない。
どんなに頭をひねり出そうとも、今の状態では無理なような気がする。
ただそんな気がするだけで、ただ思い出す気が起きないだけだろう。
今回の件はこれまで。
保留としておこう。