異世界転移してきた姫騎士を助けたら俺がTSして騎士になった件   作:バソルト

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~半月~

 

 

 

フワリと浮かぶ浮遊感。

まさか悪運が強いと思っていたが、ここまでとは。何か巨大な手に護られて、地面との衝突は免れた。

 

たが、少しぶつけた所が痛い。

 

その手は、俺を優しく地上に下ろすと声が聞こえた。

 

 

 

「暴れろ、乱れ童子」

 

 

「■■■■■■■ッ」

 

 

 

その言葉に応呼するかのように、すぐ近くで唸り声。

その声は地面を震わし、地面を蹴ったのか更に辺りを揺らした。

 

 

 

「大丈夫か」

 

 

 

この声聞いたことがある声だ。

俺の数少ない男友達、いや悪友の声を間違える筈はない。

 

いつになく頭の回転が早くなり、この声が誰の者なのか直ぐに分かった。

 

 

 

「よぉ、トモなんだ。こんな所で」

 

 

 

またくもって、こんな地獄に何をしに来たのやら。

 

 

 

 

「それはこっちの台詞だ、銀お前明日まで寝ている筈じゃ」

 

「知るか、目覚めに一発走っていたらこんな所に出くわしちまったんだよ」

 

「まぁ良い」

 

「良いって何だよ」

 

「胸が痛かったり、何か変な所は無いか」

 

「いや、ここ何日かの記憶がない位しかない」

 

「なら大丈夫だな」

 

「おい」

 

 

 

結構重大な事をスルーしゃがった。

いや、聞きたい事は一杯ある。

 

だが先ずは、この状況である。

 

一目見たその巨体は、人である事を形以外否定した姿であった。

 

10メートル余裕で越える巨体、そして甲冑。

刃こぼれの酷い刀は、虫の化物を斬るというよりは叩き潰していた。

 

 

その戦い方は正に、名に違わぬ狂戦士。

言葉と言われる発音ではなく、唸り声を上げて辺りの敵を蹴散らして行く。

 

 

「トモ、一体何がどうなっているんだ」

 

「これは“モンスター”“怪”あるいは“モノノケ”呼び方は沢山あるが一言で言えば敵だ」

 

 

なんだろう、神社生まれってこんな厄介な事をしなくちゃいけないのか。

 

 

「みれば敵だとわかる」

 

 

「これは知性の低い虫の怪が、偶然に蠱毒の様な状態に陥ったものだな」

 

「よし、わからん」

 

 

全くもって解らん。

いきなり電波全開で言われてもこっちはチンプンカンプンである。

 

 

「ようは最後の一匹になるまで殺し合っているってことだ」

 

 

おいおい、待てよ待てよ。

 

 

「これは俺達も入ってるのか」

 

 

スッゴク嫌な予感がする。

 

 

「あぁ、そうとも言えるし言えない」

 

「え?」

 

「銀は無理だ出れない」

 

「やっぱり?」

 

 

しまった、心の声がそのまま出ちまった。

そしてトモは付け加える様に言う。

 

 

「すまない、銀をこういう事に巻き込まないようにするのが、俺の使命なのに」

 

 

何を勝手なことを言っているんだ。

 

使命とか、俺の知らない所で勝手に背負い込まれても困る。

 

ましてや自分の命だ、人様においそれと預けるのは間違っている。

 

それは紳士として、恥ずべき行為。

騎士としては、掟を破る罪だ。

 

ん? 騎士としては?

いやいや、俺まで電波が移ったか。

 

そんな風に考えているから。

 

ただ俺は、愛想笑いをトモに向けることしか出来なかった。

 

 

「待ってくれよ、まだまだこの手の修行はチョッとばかし先だが何とかするからよ」

 

 

俺を背中に回し、トモは暴れ狂う乱れ童子を睨み付ける。

 

蠱毒の怪しは、大分数が減っているせいか終りがもう直ぐに思えた。

 

しかし、それは間違いだと言うことに直ぐ様気付く事になる。

 

 

「■■■■ギ■■■ッ」

 

 

明らかな異変。

それを感じたのか、予想したのかトモは一枚の札を取り出した。

 

乱れ童子の鎧が裂け、中からは虫特有の節足が背中から飛び出てきた。

 

 

「うっ」

 

 

思わず声に出してしまうほど、その姿は醜悪に満ち溢れ。

顔を歪めてしまうほどに、醜かった。

 

虫特有の鳴き声と言うのだろうか、カミキリ虫の威嚇音のような。

キィキィと言う鳴き声。

 

耳が不快感に苛まれる。

そんな声が乱れ童子からした。

 

 

爆札(ばくさつ)

 

 

手に持つ札を乱れ童子に投げつけると、それは顔面に当たり。

爆炎と煙がその醜悪な顔を隠す。

 

 

「やったか」

 

 

それはフラグである。

 

直ぐに夜風で煙が晴れ。

出てきたのは、もっと醜い顔であった。

 

 

「キィキィ」

 

 

脱皮のように、さながら新たな命の誕生のように。

 

幼虫から成虫へ正しく進化しようとしている。

乱れ童子の身体を突き破り出てきたのは一匹の巨大な蟲。

 

名前を付けるのだとしたら“蠱”と言う名前が相応しいだろう。

 

殺られたのだろうか、と思うが違う、と俺の感覚が言う。

 

中から寄生されて食い破られたのだとそう思う。

 

なぜか、そう、思ってしまうのだ。

 

 

「くそっ、でかすぎるだろ」

 

「これってトモのせいで……」

 

「いや違う」

 

 

なにもそこまで必死にならなくても……とは思ったが。

 

そう思いたくなるのは無理はない。

 

これじゃぁ、毒殺というよりは直接潰しにかかった方が早い気がする。

 

本質的には一緒な気がするが。

その巨体は動きが鈍いというのを、主張しているようなものである。

 

 

区画整理用の、赤のカラーコーンと黄色と黒のストライプの棒が目に入った。

 

 

こうなったら。

 

 

おれは棒を掴もうとしたその時だった。

 

 

「待て」

 

 

トモに制止され、事なきを得たが俺はあれで何をしようとしたのか。

 

なんだろう頭が痛い。

 

普通考えれば、人間があんな化物に敵う筈なんか無いんだ。

あんな棒っ切れ一つで何もならない。

 

 

「俺に、もう少し格好を付けさせてくれゃ」

 

 

そんなことを考えると、俺の肩に手を置きトモが優しく語りかけてきた。

 

 

「え?」

 

 

思わず声を漏らす。

身体がピクリと動き、身を震わせた。

 

怖かったのか。

恐怖していたのか。

 

トモの手から、全身に安心感が広がる。

 

あぁ、そうか俺がすべき事はここで待つことなんだな。

 

 

「ここ連日連戦で、出し惜しむ癖が付いちまったのかな」

 

 

トモは二枚の札を取り出した。

 

 

「でも……まぁ、いい加減夜も深くなったし終わらせるか」

 

 

二枚の札はその場で燃え上がり、二つの火の玉に変わる。

 

 

「出でよ、鎧童子」

 

 

二つの火の玉はひとつとなり天昇。

 

 

再び地上に降り立つ。

その姿を見て、俺の胸はときめいた。

 

燃る火憐は炎の色をした火の粉を撒き散らした。

 

かかんだ状態からゆっくりと立ち上がるその様子。

 

大きさは、人と同じ大きさをしていた。

 

 

「行け」

 

 

そのたった一言で忠義を尽くす、手練れた兵士のように。

 

その姿相応しく、見たこと無い格好いい鎧と美しい太刀。

 

だがその顔は、面で隠れて良く分からないが明らかに人ではない。

 

一気に飛び上がると、鎧童子は生まれて間もない蠱の足を一本切り落とした

 

 

「んなぁ」

 

 

目にも止まらぬ早業。

その過程を認識することは出来なかった。

 

 

「ハッ」

 

 

気づいたのか、本能的に目の前の対象物を攻撃しているだけなのか。

 

蠱の鎌のような手は真っ直ぐ俺達の所へ振り落とされる。

 

 

「ふん、遅いぞ天子」

 

 

一閃の流星により、振り落とされる筈の鎌は霧散した。

 

慌てて振り返ると、見えたのは巫女姿の猫耳を生やした天子ちゃん。

 

その手には弓が持たれていた。

 

 

「伏せててお兄ちゃん」

 

 

矢もない弓を引き、天子ちゃんは叫ぶ。

 

 

「伏魔の弦」

 

 

弦を空撃ちすると、一本の光の矢が蠱の頭を撃ち抜いた。

 

頭上を一閃の閃光が、屈んだその瞬間に通り過ぎた。

 

それが俺の認識した全て。

 

 

「をなぁ……んだ」

 

 

結局それ以上は、トモに頭を無理矢理押さえつけられ認識する事は出来なかっ

た。

 

正に熟練のコンビの如く矢を放ち、それを避けて見せたのだ。

 

 

「まったく、待ちくたびれたぞ」

 

 

ため息をつきながら、トモは言い放つ。

それに食いつくように、天子ちゃんも言い返した。

 

 

「それを言うならお兄ちゃんだって、銀お兄ちゃんに怖い思いをさせたでしょ」

 

 

なんだろうな、若干論点がズレている様な。

見方が年上の、それも兄と慕ってくれている娘の言葉とは思えない。

 

こんな言葉攻めは千束で馴れているような、最近は特に酷かったような。

そんな気がしてならないのはどうしてだろうか。

 

役目を終えたと言わんばかりに、元サヤに太刀をしまうと火の粉の様に霧に返った。

 

 

その鎧童子と時を同じくして蠱の怪も霧の様に消え去り。

魑魅魍魎の悪しき気配は消え去った。

 

 

「終わった……のか」

 

 

緊張感からの脱力からか。

俺はその場にへたりこむと、大きく息を吐いた。

 

 

「いったい何がどうなってるんだ」

 

 

トモが化け物を出したり。

天子ちゃんが猫耳だあかは分からない事だらけだ。

 

黒猫のコスプレ、キャッホーぃと言う訳にはいかなく。

当然な出来事、それにごくごく当たり前な感情、それは巫女萌え

 

いや、それは俺だけの真理であり常識。

森羅万象を司る、神の如き凄まじきもの。

 

あれ、自分で何言ってるのか分からなくなってきた。

 

要約すれば、猫耳巫女服最高。

トモ爆発しろ。

 

おっと、間違えた。

 

つまりだ、要約ずれば何を勝手に話を進めているんだバカ野郎共と言うことだ。

 

なぜだろうか、今になって無性に腹が立ってきた。

理不尽な理に、そして危険を犯しているのに俺自身が何も出来ない事に対して。

 

むかっ腹を立てたところで、それを止める権利も対応策も見つかる筈もなく。

 

気に入らない、だから止めると言う戯れ言は物語の主人公に許された特権。

 

頭も体も運も、全てに置いてこの気に食わない状況を打破する手段はない。

 

簡潔に言えば、ただの嫉妬心。

 

久しぶりに会ってみた友が、昔とは違う遥か遠い存在になり。

変わらない自分と変わってしまった友、自分で作ってしまっている壁。

 

そんな自分がキライ。

努力が報わない、この残酷な世界。

 

才能も、報われる努力が出来る境遇とかも全部全部全部。

 

だから俺はただ笑って、心の上澄みしか見せることが出来ない。

それがどんなに相手に失礼だとしても。

 

それが、友情と呼べるものの否定だとしてもだ。

 

堪る一方の嫌心を、最大限笑顔に見える顔を作り。

 

 

 

「ありがとう」

 

 

 

と言うことしか出来ない。

 

 

「あぁ、良かったような一時はどうなるかと思ったぜ」

 

 

 

その、友の屈託の無い笑顔に、心がまた痛む。

 

 

 

「臭い臭い、人間は難しく生きすぎニャ」

 

 

 

天子ちゃんの方から声がした。

 

あぁ、猫耳巫女コスはこれにて終了だ。

 

生意気を言う黒猫が喋るのを見て俺は率直にそう思った。

 

 

 

天子ちゃんは、黒猫の首根っこを捕まえた。

 

 

「タマあんたは、勝手に解いて」

 

 

「し、知らないニャ……勝手に解けたんだ

ニャ」

 

 

 

どうやら、あのネコはタマと言うらしい。

どうでも良いが、良くも悪くも無垢な奴だ。

 

 

「トモ、あれは」

 

 

しかし、良かった。

これで話を反らせる事が出来る。

 

欲を言えば、このまま終わって欲しいものだ。

 

 

 

「ヤツはタマいわゆる妖怪の猫又と呼ばれる種類だな」

 

 

「へぇ、海外の種類でもなのか」

 

 

「お、おぅ鎖国が終わって早100年以上経ったんだ、条件は満たしているからな」

 

 

 

現代妖怪事情も、国際化が進んできているんだな。

なんとなく歴史が学べたような気がする。

 

 

それはそうと、ここの景色は何処かで観たような。

よく来る場所だけど、なんかこう……誰かと共有した場所。

 

 

言葉にすると変だが、これ以外言い回しが思いつかない。

 

 

 

 

深く考えたらドツボに嵌まる質なので、あまり考え無いで置いておく。

 

 

兎に角、あの猫又のお陰で天子ちゃんに猫耳が生えた。

そう、思っておこう。

 

 

それ以外はどう見ても、ただのな訳で今更恐れるに足りない。

 

 

 

「んじゃぁ、食料腐る前に帰るから」

 

 

 

 

俺のバイクは……あった、無傷だった。

 

 

えぇ、無傷だよ。

あれだけの事があったのに、傷1つ付いていないとは。

 

 

 

「いや、帰せないよ」

 

 

 

 

天子ちゃんが俺の袖を掴んで話そうとはしない。

 

暗がりのせいか瞳が潤んで見えるのは、気のせいではないとしておきたい。

 

 

 

 

 

「どうしてだい」

 

「まだ今夜は終わりじゃないからよ」

 

 

 

そう言えば地上から這い出る……いや、産み出ように沢山の蟲達が這い出てきた。

 

 

 

どうやら蠱毒は終わりではないらしい。

 

再び天子ちゃんが猫耳を生やしたところで、俺はそう理解した。

 

 

 

理解したからと言って、俺に何も出来る訳ではなく。

 

トモが乱れ童子と鎧童子を同時に出した時に、緊迫した状況をやっと理解できた。

 

 

乱れ童子が咆哮を上げ暴れまわり。

 

取り零した蠱を斬り伏せるのが鎧童子。

 

 

 

そして、近づく全てを射抜くのは、天子ちゃんの光の矢。

 

 

 

そして俺は沸き上がる絶望の根幹を見つめ、ただ恐怖することしか出来ない。

 

 

物事の根幹。

この湧き出る蟲達の発生源を潰さない限り、これを止める術はない。

 

 

 

 

なぜかそう思い。

これがどういう状況なのかは、解らないのだから。

 

鎧童子は暴れまわり、その刃を血で研ぐかのように。

ボロボロな刀身は、敵を切る毎に時が戻るように真新しく綺麗になってゆく。

 

 

 

「■■■■■■オッ」

 

 

その様は正しく凶戦士であり、バーサーカーそのもの。

蹂躙するその動きは、さらに激しさを増してゆく。

 

 

「ぐっ」

 

 

 

だが、トモの顔色は優れない。

むしろ段々と悪くなっているかのようである。

 

トモのそのなんとも言えない苦悶の表情に気づいたのか、天子ちゃんが心配そうにこちらを見てくる。

 

 

「どうした、トモ」

 

 

たまらず様子をうかがうが、トモは答えず乱れ童子を凝視したまま動かない。

 

 

しかし、この訳の分からない状況の打開は無いのだろうか。

俺の出来ること、それは何だろうか。

 

頑張れば状況の判断ぐらいは出来るであろう。

だが考えても見よう、この謎の状況はいったいどうしたら良いのだろうか。

 

 

明らかに何時もと違う異空間。

これは明らかに俺ではなく、トモや天子ちゃんの方が分があるのではないだろうか。

 

 

 

分別つかない素人が口を出すこと自体、やってはいけない事出はないだろうか。

 

 

 

 

「なぁ、人間よ君は何を臆しているんだい」

 

 

 

 

天子ちゃんから声がした。

それは聞き慣れない、ネコの声。

 

 

 

「タマ……だったか?」

 

「そうだニャ」

 

「何がわかるって言うんだ」

 

 

妖怪、それ以前に畜生のこのネコに何がわかるのだろうか。

 

 

「ま、まぁタマも銀お兄ちゃんも落ち着いて」

 

 

不思議な事だが俺は一人と話しているのでは無く、天子ちゃん一人と話している事になる。

だけど天子ちゃんの中には、タマという猫又の妖怪がいて……うん何となくだが理解できる。

 

 

 

不気味だがその気持ちは何となくだが大切に取っておきたい気持ちだ。

 

そうこうしている間にも、トモの様子は悪くなる一方だ。

 

幸いにしてお互い遠距離で、相手と距離を取り戦っているためか。

 

 

幾分かの余裕があるが、あれは多分痩せ我慢だろう。

 

 

「人間は臆病な生き物だ」

 

「たがそれを乗り越えられぬ者はおらぬ……だったかニャ」

 

 

 

なんだ、急に口調が変わったぞ。

多重人格何かかと悩んだが、これは誰かの受け売りだろう。

 

 

こんな偉そうで頭の固そうな喋りが、このネコに出来る筈がない。

 

 

「ふん」

 

 

 

そんなのは限られた人間が出来る特権だ。

俺みたいな奴は……と、言いたかったがこれは飲み込み事にしよう。

 

 

「そんなことより、この根元は何なの」

 

 

 

天子ちゃんが溜まらず弱音を吐く。

それもそうだ、いくら強くっても相手は無限に等しいのだ。

 

限りの有るこちらは十分不利、大元を絶たない事にはどうにもならない。

俺には意味が解らない。

 

 

「分かりやすく説明してくれないか」

 

 

「あぁ」

 

 

その問いかけに、トモは短くこう答えた。

 

 

 

「発生源は、この土地そのもの」

 

 

その言葉に続けて。

 

 

「だから朝の浄化の陽日が差すまでこの増殖は……終わらない」

 

 

「そんな」

 

 

まだ真夜中なんだぞ。

日の出まで、あと何時間あると思ってるんだ。

 

 

「よし、逃げよう」

 

 

ここは戦略的撤退しかない。

三十六計逃げるに如かず……と言うし。

 

 

「ダメだ」

 

 

ここでトモは安っぽい正義感を振りかざす。

だから俺はこの言葉を贈ろう。

 

 

「命あっての物種……じゃないか」

 

 

「そうだが、このまま放置すると手の付けられない状況になる」

 

「なんだそれは」

 

 

 

俺の問いかけにトモは返す。

 

 

「ここは蠱毒の術式と同じだ、放っておくと本当に手の付けられない毒蟲が生まれる」

 

 

 

ここで初めて、トモの額から一筋の汗が流れ落ちた。

 

 

どうやら俺はとんでもない間違いを犯したらしい。

いや、未遂か。

 

 

このまま放っておけば、手の付けられない凶悪な蟲が誕生する。

 

確かにトモはそう言った。

と言うことはこの地道な行為は意味の有るものだ。

 

 

だけど目に見えて解る。

トモと天子ちゃんの疲労は、とっくに限界を迎えていると言うことに。

 

 

暴れまわる乱れ童子。

そいつはパワーこそ有るものの、コントロールが難しく神経を使うものだろう。

 

さっきから乱れ童子が大きく暴れる度に。

ほんの一瞬だが、トモの顔が曇るのが分かったのだから。

 

 

 

対して鎧童子は突発的なスピードは高いものの、パワーは一方に劣り、多数には向かないといった様子。

 

 

天子ちゃんだってそうだ。

自ら出、自身の状態に依存するそのスタイルが今回は裏目に出ている。

 

苦戦の理由。

二人ともひどく疲れ、普段の状態で戦えてないのが根因だ。

 

 

 

だけど二人とも下がろうとはしない。

 

 

 

そのがむしゃらに立ち進む姿を見て、俺の中のうらやましいと言う気持ちは消え去った。

 

それと同時に自分の無力感に押し潰されそうになる。

 

 

 

だって今は、邪魔にならないように小さくなって震えるしか出来ないから。

 

 

その時ざわりと、悪寒が身体を走った。

 

この気配はどこからだ。

乱れ童子の近くか、それとも……瞬間その悪寒は足元から感知した。

 

 

「避けろぉ」

 

 

トモの襟を強引につかむと、乱暴にぶん投げる。

 

 

そしてヤツは来た。

足元の気配はさらに強い悪寒が走った。

 

それは通常の孵化ではなく、明らかに違う出現方法だ。

 

 

 

それ正しく脱皮。

大地を割り、出現したそれは今までのものより小さく。

形は人形の、ボディーラインは女性的なもの。

 

 

しかしそれは、シルエットの一部分だけ。

背中からは三対の手がまるで鋏の如く、向かい一番に俺を襲う。

 

 

「ぶねぇ」

 

予感はしていたのだ、後はタイミングさえ会えば避けることは容易い。

だが問題は二の手だ。

 

見た目前面は女性の妖怪、その三対の腕はまるで闘うために有るかのように。

 

最上段は鋏のような左右対称のギロチンカッター。

二段目は刈り取るような凶悪な鎌、。

 

そして下段、それは断裁の鋏。

 

 

正に生体兵器。

そのまが禍々しい兵器は何も腕だけには収まらない。

 

背面は強固な甲殻で覆われ。

足は強靭なバッタの様な足、長く延びる尻尾の先には蠍のような明らかに毒針が。

 

 

だが異常な程不釣り合いなその前面の人の女性は、上半身が身体に取り込まれているようだ。

 

 

それは死人のように白い肌をしていた。

顔立ちは勿体無い程整っており、完全にそこだけ浮いている。

 

 

「ははっ、流石にこれ以上は無理だぞ」

 

 

乾いた笑みを浮かべ、尻餅をつくという失態してしまったが許してほしい。

トモを助け、天子ちゃんを救い希望を見いだせたんだ。

 

心残りは有るが後悔のなかで死ぬことは無いのだから。

 

 

 

「うわぁぁぁぁっ」

 

 

 

ここに来て予想外の事態が発生した。

中遠距離を保っておかなければいけない筈の天子ちゃんが、こちらに突撃を開始したのだ。

 

 

「くっ」

 

 

そうこうしている間に、奴のギロチンカッターは振り上げられていた。

 

以外にも呆気なく、人生というものは終わりを迎えるものだと実感する。

 

 

ここに来て思うことは、まさか今日自分が死ぬだなんて。

朝起きた時点で夢にも思わなかった。

 

 

死という運命は、避けることの出来ないものである。

 

 

これだけは世界中、誰だって平等に訪れるもの。

個人差、早い遅いの違いは有るものの我ながら早すぎだと思うのは間違ってはいない。

 

 

奮うギロチンカッターは俺の目前まで迫る。

 

 

駄目だ腰が抜けてたてないや。

 

 

駆けつけてくれる天子ちゃんも間に合うのは厳しいだろう。

 

 

声にも表現できない奇声を発して、蠱の親玉のようなヤツはそんな俺を嘲笑うように。

 

 

「■■■■■■■■■ァァァァッ」

 

 

 

それは巨大な刀であり、太刀であった。

 

そんな、間に合うはずは。

頭にその言葉が何度も往復する。

 

 

乱れ童子の太刀が天子ちゃんの光の矢が、蠱の胴体に突き刺さっていた。

 

 

「キィキャァァァァァッ」

 

 

辺りに響く悲鳴。

奴は血を流し、その場から後退する。

 

 

あぁ、なぜか今大事瞬間を逃したような気が。

 

 

 

俺の前に天子ちゃんとトモが立ち塞がる。

その背中はどこか遠く、そして何処かに行ってしまいそうに思えてしまった。

 

 

 

この事実をどう認識したらいいだろう。

 

完全に俺達は奴の姿、雰囲気にのまれ、失念していたのかもしれない。

今対峙する相手は怪、モノノケの類いで常識の通用する相手では無いのだから。

 

 

うなじに走る激痛。

俺の叫び声で後ろを振り返る、天子ちゃんとトモ。

 

その場で崩れ去る俺が見たものは、絶望の表情に顔を歪める二人と。

 

地面から生え、俺を見下ろす蠍のような毒針であった。

 

 

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