理性蒸発したら全部上手くいった件   作:黒樹

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告白

 

 

 

今日、僕は『New World online』にログインする。

 

一昨日までゲーム禁止令を言い渡されていた理沙はゲーム解禁を言い渡され、もうログインしている。友人の本条楓と休み時間楽しそうに話す姿を見ていると僕も混ざりたくなる。話に入れないと会話もままならないし、今まで興味ないゲームも理沙に釣られてやっていたが最近はファンタジーっぽいのより恋愛シミュレーションに手を出しているから、ノーマークのゲームだった。

 

「それでね、楓が本当に化け物みたいになってて–––」

 

理沙といつものように学校への通学路を歩いた。その合間に如何に楓が化け物であるかを語られ、初心者だよな?と疑問に首を傾げたのは記憶に新しい。

校門を潜り、生徒玄関にあるロッカーに着いた。そこで靴を上履きに履き替えるのだが、ロッカーを開けたところで違和感を覚えた。開いた先には上履きだけではなく、手紙が一枚入っていたのだ。

 

「これって……」

「どうしたの渚?」

「ううん。なんでもない」

 

その時、僕は咄嗟に手紙を鞄に押し込めて隠してしまった。

 

「おっはよー、理沙、渚君!」

 

教室に行くと先に来ていた楓が元気良く手を振る。二人とも朝からはしゃぎ始めたので、僕は自分の机に行くと鞄を掛けてから手紙を取り出して読もうとした。でも、それはできなかった。理沙と楓が僕の机に来たからだ。

 

「ねぇ、渚……さっきの手紙なんだったの?」

 

気づいていたのか理沙は訝しげな視線を向けてくる。バレてしまっては仕方がないので、机に押し込めた手紙を取り出して渋々開封した。女子っぽい淡い色のついた便箋が一枚入っていた。

 

「ラブレターみたい。放課後、中庭に来て欲しいってさ」

 

期待はしていなかったがラブレターだった。

 

「えー!それって……!」

「……それで相手は?」

 

きゃあきゃあ騒ぐ楓と心なしか元気のなさそうに見える理沙、さっきまで元気良かったのにこれまでの数秒に何かあったのか、酷く落ち込んで見える。目が虚で見透かされるような気さえした。

 

「名前は……書いてないみたいだ」

 

封筒にも手紙にも裏返しても名前の一つも書いていない。きっと書き忘れてしまったか、自分の名前を書くのが恥ずかしかったか、或いは誰かが揶揄っているか。

 

「誰なんだろうねー?」

「ねぇ、渚は心当たりある?」

「心当たりがあったら苦労はしないよ」

 

悪戯にしろ、本気にしろ、今何かを言えることはない。全ては放課後だ。

 

 

 

授業の間、僕は考えた。送られてきたラブレターについて。相手は誰なのか、それが本物であった場合どうするか、まぁそれ以前に疑いばかり浮かべているせいで望み薄だが。

教室内では教鞭を取る教師が黒板に何かを書き出し、説明を行なっていて板書する生徒達のペンの音が追随する。僕は窓の外に見える青い空に視線を向けて、授業から少しばかり意識を外す。

 

僕は一日中上の空だった。ラブレターが送られてこなくても一日中上の空だが、今日はいつにも増して理沙の様子が気になる。今日一日元気がないみたいだ。

 

悩んでいるうちに放課後になって僕は鞄の中に教科書類を詰めると席を立つ。

教室から廊下に出て中庭を見るとまだ誰もいなかった。

 

「ねぇ、渚!」

 

中庭を見ていた僕の背後から聴き慣れた声がした。振り返ると理沙がいて、哀愁漂う雰囲気を放つ彼女の姿に僕は目を奪われた。いつにも増して理沙が可愛く見えたから。

 

「……告白、受けるの?」

「さぁ、どうだろうね」

 

僕は押しに弱いからね。気がついたら首を縦に振っているかもしれない。理沙が僕を好きだって言うなら話は別だけど。だから、そんな悲しそうな顔をしないで欲しい。

 

「話はそれだけ?」

「……ま、待ってよ」

「なに?」

「えっと、その……」

「悪いけど、後でいい?」

 

数分待っても理沙が何も言わないから立ち去ろうとしたら、背中が引っかかる感覚がした。振り返れば理沙が僕の制服の裾を掴み、俯いて必死に繋ぎ止めようとする。

 

「……嫌だ。行かないでよ」

「行かないでって……呼ばれてるんだけど?」

 

悪戯にしろ、告白にしろ、行かなければならない。

我儘を言う理沙を諭すようにそう言ったが嫌々と首を横に振る。

今日の理沙は様子がおかしい。

何処かいつもと違う雰囲気、弱々しくて女の子っぽくてドキドキさせられる。

僕は振り解けず、理沙も手を離さない。

 

「……もう嫌なの。渚が他の人と一緒にいるの見るの」

 

微かに理沙の口から漏れた声は震えていた。

 

「私以外の女の子と付き合ってるのも、私以外の女の子を特別扱いするのも、もう嫌だよ……」

 

俯いた理沙の足元に涙が落ちた。吐露された本音が僕の心に染み渡る。理沙がそんなことを思っていただなんて、僕は思いもしていなかったから凄く嬉しかった。

 

「泣いてるの理沙?」

 

ごめんちょっと嬉しくてにやけてるかもしれない。

今は俯いたままでいてくれると嬉しい。

 

「泣いて悪い!?」

「え、なんで怒ってんの?」

「ここまで言ってわかんないの!」

「……」

 

もし、僕の勘違いでなければ……理沙は僕のことが好きってことになる。それは嬉しい。

 

「理沙、先に帰っててよ」

「っ!」

 

でも、僕は言えない。

だってここで言ってしまえば手紙を送ってくれた人に失礼だろう。

そう思うと今、理沙に好きだと伝えるのは卑怯な気がした。

そんなルールないのに、おかしな話だ。

でも、物事には順序があるだろう。

何故かその信念を曲げてはいけない気がしたんだ。

 

理沙が泣いて走り去る。

僕は後でどう誤解を解こうか考えながら中庭に出た。

 

 

 

「ごめん待ったー?」

 

中庭で三十分待っただろうか。妙に軽い言葉で女子生徒が話しかけてきた。茶髪に制服を着崩すスタイル、世間一般で言うギャルという風貌の女子生徒がベンチに腰掛ける僕の前に立っている。

 

「手紙の主は君?」

「うん。読んでくれた?」

 

読まなきゃここにいない。と、ツッコミを入れたかったが自重する。

 

「それで呼ばれた理由なんだけど……」

「あたしと付き合ってくれない?」

 

僕が長年、理沙に言えない言葉をギャルはなんでもないように言ってのける。

 

「……ごめん。僕、好きな人がいるんだ」

「そう。じゃあ、もう用は済んだから」

 

意外にあっさりしてるんだな。と、思えば校舎の影に複数の人影が見えた。

 

「えー、何それつまんなーい」

「もうちょっと真面目にやりなよユリー」

「……はぁ。あんたあれでわかったでしょ?」

 

そういえば最近、冴えない男子生徒や女子生徒が面白半分で告白されているらしい。告白する人間は罰ゲームで決まるらしく、一種の遊びみたいなものだと当事者たちは言う。目の前のギャルは何かしらの罰ゲームで僕に告白してきたのだろう。僕は痛くも痒くもないが、被害者の心は深く傷つくらしい。

 

本来なら呆れるところだが、僕は笑みを浮かべていた。

 

「……え、何笑ってんの?キモいんだけど」

「いや、なんでもないよ」

 

仲間の元へと戻るギャルを見送ろうとしたところで、僕はどうしてもそのまま帰す気にはなれなかった。気がつけば口をついて出たのは感謝の言葉。

 

「ありがとう」

「……あんた頭おかしくなったの?」

「君のおかげで幼馴染の可愛い一面が見れたから」

「なにそれ?」

「こっちの話だから気にしないで」

 

今度こそ仲間の元へと戻るギャルに背を向けて僕は歩き出す。

 

 

 

 

 

 

靴箱を見た。理沙の靴がなかった。

僕は早足に校門を抜ける。

そして、気がつけば走り出していた。

坂道、歩道橋、商店街、バスと並走して帰路を急ぐ。

もしかしたら理沙に追いつくかも、なんて妄想を抱いた。

信号で立ち止まるのがもどかしくて足踏み。

軽い体を跳ねるように動かす。

気がついたら完走していて、理沙の家の前にいた。

 

ちょっと力が入り過ぎて、インターホンを潰しそうになりながら押す。出て来たのは理沙の母親だった。

 

「あら、渚君いらっしゃい。理沙泣いてたけど喧嘩でもしたの?」

「そんな感じです」

「ダメよー、仲直りしなきゃ」

 

理沙の母親に通してもらって階段を駆け上がった。

理沙の部屋に着いて、ノックもせずに開ける。

ごめん、我慢できなかった。

 

「理沙–––って、暗ッ!?」

 

部屋の中は真っ暗だった。

ベッドの隅で毛布を被って理沙が蹲っている。

 

「ただいま理沙」

「……なにしてんの?」

「なにって言われても……」

 

理沙が呼んだ。今日、一緒にゲームをしようって。

約束を果たしに来たのになんて言い草だ。

そう言ったら枕を投げつけられた。

 

「新しい彼女はどうしたの?」

 

不機嫌そうに理沙が怒鳴る。顔も見たくないと三角座りの膝に顔を埋めている。

 

「あー、あれ?悪戯だったよ」

 

理沙がバッと顔を上げた。少し頰が緩んだがすぐに引き締めて逸らす。

 

「……それで、振られたから私のところに来たの?振った私のところに」

 

そういう認識になっているのか。拗ねていらっしゃる。

 

「元々、受ける気なかったよ。断ったし」

「嘘、わからないって言った」

「そのあと理沙が泣くから気が変わった」

「そんなの後からどうとでも言えるよ」

「そうだね」

「……否定してよ」

 

否定しようにも証明のしようがない。

僕は理沙の隣に座った。

言いたいことがあったはずなのに何から話せばいいのかわからなくなる。

何を言えば信じてくれるだろうか。

 

「……理沙のことずっと好きだった」

「いつから?」

「僕の初恋」

「中学の頃、二人の女と付き合ったのに?」

 

尽く、論破しようとしてくる理沙。

僕は頰を掻いて不貞腐れたように言う。

 

「……理沙が僕のこと異性として見てなかったから」

 

だから、僕は理沙が欠片でも意識してくれたらいいと思って他の女の子の告白を受け入れた。それがダメでも忘れられるかもしれないと思った。他の人を好きになることで誤魔化そうとした。理沙に告白する勇気がなかったから逃げたんだ。

 

「そっか。……じゃあ、渚の作戦は成功だ」

 

僕の手の甲を温もりが包む。重ねられた手に驚いて理沙の方を見ると、不意に迫った理沙の唇が僕の唇に重ねられる。泣いて腫れた目尻が赤くなっていて、頰には涙の跡がついていた。その筋をなぞるように新しく一筋の涙が流れていく。

 

「私も渚のこと好き。中学の頃からずっと」

 

頰を染めて告白してくれる理沙が可愛くて、一度離れた唇を今度は僕から塞いだ。

 




上手く纏まったので本編終了。
次回から、New World online編突入。
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