理性蒸発したら全部上手くいった件   作:黒樹

4 / 8
中途半端に割り切る主人公。


アストルフォとメイド服

『New World online』

 

それは今流行りのVRMMOゲームのタイトルの一つである。

サービス開始から二ヶ月足らず、まだ一階層しか公開されていない文字通りプレイヤーと共に成長するゲームである。

新しい世界、とは名ばかりではなく、今買えば文字通り世界が開かれていく様を見ることができ、古参プレイヤーとの差も今なら僅かばかりで始められる魅力がある。

 

そして、プレイヤーの選択肢は未知数。

 

一人で冒険するもよし、仲間と冒険するもよし、物を作るのも、現実とは違う自分を演じるのも自由。

代表的なのはメイプルと呼ばれるファンクラブすら出来上がっているプレイヤーなのだが、攻略や掲示板を見る限り、まぁあれは例外だ。

運営泣かせのプレイヤーはともかく、順次公開予定の世界を誰よりも先に攻略できる魅力がある。

 

『まだ誰も見ぬ世界へ!』『新しい世界の扉を拓こう!』と、パッケージにも書かれている通り、そういった魅力もあるだろう。

 

だが、それには例外もある。

 

 

 

「……いやさすがに僕もこれは未経験だよ」

 

いわばこれは初ログイン時の基本設定。アバターの設定のみを完了し、残りの設定を完了するべく通された最初の街の噴水に写るローズピンクの髪の少女と見間違う美少年を見て、僕は嘆息した。

 

確かに『New World online』は新しい世界の扉を開拓することをキャッチコピーにしていたかもしれない。商業戦略というやつだ、人の目を惹き買わせるためにはそういう売り文句も必要だろう。だけどその言葉の裏にこんな意図があっただろうか、いやない。

僕は確かにゲームで女性アバターを作ることもある。どっちかと言えばカッコイイキャラより可愛いキャラの方が好きだ。好きで作る。が、それは画面の向こうで愛でるため。決して自分がなるためではない。

 

VRMMOとは電脳世界にダイブして電子の肉体を自ら操る、いわばナカノヒトとなるゲームだ。

 

それはつまり、愛でるべき対象のアバターに自分がなるわけである。

それもオトコノコ。男の娘と呼ばれるキャラだった。

更に詳しく言えば、某作品の『アストルフォ』と呼ばれる英霊である。

僕の姿はまさしくそれだった。

 

道理で皆がチラチラ僕のことを見るわけだ。ログインした時に感じた視線の正体に納得すると同時、理沙は何を思って僕にこんな格好をさせたがるのか理解に苦しむ。

 

最初は抵抗もあったけど。『新しい世界の扉を開こう』を体験させられた僕は、そこで開き直ることにした。

 

「……いやもうこの際だから可愛い格好とかしてみるのも面白いかも」

 

夜須加渚は新しい世界の扉を開いた。

 

「よぉーし、そうと決まればまずは初期装備をどうにかしないと」

 

演じるは『アストルフォ』ただ一人。

ただまぁプレイスタイルはあくまで自分。

魔法も使いたいし、武器も多種多様。

 

ライダー。キャスター。アーチャー。セイバー。ランサー。アサシン。バーサーカー。どれをやってもいい。

 

でもまずは合流予定の理沙と楓を待たなければいけない。理沙はもうログインしている。それは一緒の部屋にいるから確認済みだ。噴水の淵に座って待っていると、知っている声がその名を呼ぶ。

 

「おーい、アストルフォ!」

「……」

「彼女が呼んでるのになーに無視してるのかなっ!」

「わぁっ!?」

 

つい呼ばれ慣れていなくて無反応でいると前から理沙が突っ込んで来た。その勢いで僕は噴水に落ちてずぶ濡れになった。

 

「ごめん、つい呼ばれ慣れてなくて」

「あはは、ごめーん。でも、ちょっと傷ついた」

 

そういえばそうだった、と理沙は謝った。

ゲーム内で本名はマナー違反だ。時と場合によるが。

助け起こして貰いながら、噴水を出る。

理沙の隣には黒の鎧に薔薇の刻印をした装備の強そうな楓がいた。

 

「一応、訊くけど二人のプレイヤーネームは?」

「いつも通りサリーだよ」

「私はメイプルだよ」

 

……うん、知ってた。だと思ったよ。

 

薄々は気づいていた。最初、メイプルというプレイヤーが他人事のように感じられていたけれど、掲示板にサリーというプレイヤーの友達がいると書き込まれた時点で妙な確信があった。そのまさかだ。

 

「ボクはアストルフォ。彼女に呼ばれて召喚に応じ馳せ参じました、という体で行くから」

「おぉー、やる気だねー」

「っていうか、アバターなんでアストルフォなの?」

「だって、普通にカッコいいアバター作ったら渚モテるじゃん」

「え、そんな理由?」

「そんな理由って……忘れたの?去年、VRゲームで女の子に告白されたこと。リアルで会ってくださいって」

 

確かに告白されもした。だが、それだけだ。

 

「それにこれは罰ゲームだから」

「え、なんの?」

「……キス、妙に慣れてた」

「あ、あはは……」

 

長い期間付き合ってたら関係も発展する。ひとつだけ言わせてもらうなら、僕からは何もしていない。

 

「本当に二人とも付き合ってるんだね」

「えへへー、おかげさまでね」

「おめでとうサリー」

「ありがとうメイプル」

 

あからさまに上機嫌に戻った理沙は僕の腕に抱き着いた。

傍から見たら、女の子同士がいちゃいちゃしているようにも見えるかもしれない。

新たな扉を開く犠牲者が出ないことを祈るばかりだ。

僕も数少ない犠牲者のうちの一人である。

 

「それでこれからどうするの?」

「私は挑戦している迷宮があって、楓と同じユニーク装備狙い」

「私は素材集めだよ」

「へー、ということはユニーク装備なんだ、それ」

 

サリーも初期装備だった。そして、楓はユニーク装備と。

僕もそういうの欲しいんだけどな。でも、まずは初期装備を脱却したい。

 

「んー、取り敢えず、オススメの装備屋とか教えて欲しいかな。何をするにも目標が必要だし」

「じゃあ、まずはイズさんのお店に行ってみる?」

 

イズさんとやらは生産職のプレイヤーらしい。

楓の提案に乗り、僕達はまずはそこを目指すことになった。

 

 

 

「あら、いらっしゃいメイプルちゃん」

 

最初の街のその一角、一軒の店が目的地だった。中には水色の髪の女性プレイヤーが大楯使いの男と談笑している姿があり、楓の入店に気づいた二人は手を挙げて応えた。

 

「なんだ、また新しい友達を連れてきた…の…か?」

 

僕の姿を見て固まる大楯使い。見るからに困惑している。

 

「あらまぁメイプルちゃんとサリーちゃんのお友達?」

 

それに気づいているのかいないのか微笑みを浮かべて対応する女性、僕は左胸に手を当てて騎士っぽく自己紹介をしてみる。

 

「ボクの名前はアストルフォ。よろしく」

 

彼女です、とサリーを紹介するべきか迷ったけど、あまり親しくない相手にいきなりそれを言うのはどうかと思って留まった。

 

「私の名前はイズよ。よろしくアストルフォちゃん」

「俺の名前はクロムだ」

 

二人と握手を交わす、それが終わればクロムは首を傾げる。

 

「……なぁ、失礼なことを聞くがおまえどっちだ?」

「そこはご想像にお任せして」

「男ですよー。私の彼氏です」

 

秘匿しようとしたら、理沙が暴露してしまった。つまらん。

 

「あらまぁそうだったの?でもそれはそれでいいわね」

「こりゃまた掲示板が荒れそうだなぁ……」

 

イズはそれでも気にしないらしい。

クロムは何やら遠いところを見つめている。

 

「それで今日は何の御用かしら?」

「えっと、実は……」

 

此処にきてようやく本題に入れる。楓が僕を紹介しに来た話をした。すると、微笑みを深く濃厚なものに変えた彼女は目を輝かせて、がっしりと僕の手を掴んだ。

 

「ねぇ、実はオススメの装備があるんだけど……」

「お、お金はないよ?」

「いいの。ちょっと着てくれるだけでいいから。ね?」

「まぁ、着るだけなら……」

 

了承した瞬間、イズはアイテムボックスを操作し始めた。素早い指捌きで操作すると虚空から一着のゴシック系メイド服を物体化させ広げて見せる。

 

「……お、おい、イズ?」

 

まさか……。という表情でクロムは慄いた。

 

「着てくれるならただであげるわ。いえ、これから先、優待させてもらうわよ」

「……で、でも、いきなりメイド服は」

「サリーちゃんの分もあるわよ。もちろん、メイプルちゃんのもね」

「契約成立ですね」

 

「え、私も!?」と彼女の悲鳴が訊こえたような気がしたがもう僕とイズの耳には入っていなかった。

改めて、奥で初期装備からメイド服に着替えた僕と理沙が三人の前にお披露目するべく姿を現すと、イズは満足げな表情で頰に手を当ててうっとりと呟いた。

 

「……ふふふ、これから楽しくなりそう」

 

–––此処に契約は成立した。

 

「うぅ、でもちょっと恥ずかしいかなぁ……」

 

だけど、慣れるには時間がかかりそうである。

恥ずかしげに頰を染めている彼女の横で僕はそう呟いた。




これから少しずつ理性(女装への抵抗)が剥がれていく。
イズさんは共犯にできると思った。
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