理性蒸発したら全部上手くいった件   作:黒樹

6 / 8
アストルフォ、初期ステータス。
HP/32
MP/25
STR20
VIT0
AGI50
DEX20
INT10

幸運値があってもリアルラックメイプルには負ける。
ただし夜須加渚の幸運値はA +


《黒い影》

 

 

 

深夜二時。もう既にログインしている人は少数……いやだいぶ多いな。見れば周りにはまだ街を彷徨いている冒険者がいる。実は昼より多いんじゃないかというくらい賑わっている。良い子は寝る時間、反面昼と比べて多いのは大人達や高校生や大学生くらいの人でゲーム内もリアルの時間に合わせて夜となっていた。

もっとも夜が実装されるのはだいぶ遅い時間で十時や時には一日中昼間の設定の場合もある。そのまた逆も然りで定期的に周期を変えているそうだ。

 

「どうしようかな……」

 

クエストを受けたい、とは思ったものの肝心のクエスト出現方法が判明していない。経験者は語るが攻略掲示板では一通り見たし、具体的な詳細はなかった。

 

「取り敢えず、街を歩こうかな」

 

まずは聞き込みでもやってみようかと思い、街を散策することにした。

 

「あ……」

 

そして、数分後、適当に歩いていたらイズの店の前。流石に起きてないかと思ったら意外や意外、店の明かりがついているのだ。僕は少しだけ覗いてみようと扉を開ける。

 

「あら、こんばんはアストルフォちゃん」

「どうも。……こんな時間までやってるんだね」

「ふふ、アイテム作るのが楽しくてついね」

 

悪戯っぽく笑ってイズはさっきまで作っていたであろう装備の山を見せる。その中には何やら女物の装備が溢れ返っていたがまさか僕に着せるとか、違うよね?

 

やめておこう、深く考えないことにした。

 

「アストルフォちゃんはこの時間まで何してたの?」

「理沙…サリーとゲームしてて、それで寝ちゃったのでクエストをやりに」

「そう。どんなクエスト?」

「ドッペルゲンガー、っていうらしいんだけど」

「あぁ、クロムが挑戦したってやつね」

 

心当たりがあるらしい、僕は食い気味にカウンターに乗り出した。

 

「それで!」

「防御も攻撃も相手が上で負けたらしいわ」

「どうやって発生させたとかは聞いてないかな?」

「もちろん、覚えてるわよ」

「おぉ!」

 

細かく語ってくれたからね、とイズは困ったように笑んだ。

 

「まず条件は街が夜になっていないといけないの。それで、呪われた懐中時計ってアイテムを街の噴水の前で使えば、砂漠の世界の古い闘技場に転移するって言ってたわよ」

「懐中時計ってどこで手に入るの?」

「夜の時間になると噴水の前で泣いている少女がいるらしいわよ」

「そっか、ありがと!」

「でも……」

 

僕はそれだけ聞くとイズの店を飛び出した。

 

 

 

斯くして、噴水の前。噴水の淵に一人の少女が座っていた。黒い喪服のようなワンピースの少女は啜り泣いており、その場から動こうとせずただそこに佇んでいた。

 

「キミ、どうしたの?」

 

そう問い掛けると少女は顔を上げもせず、握っていた古びた懐中時計をギュッと更に強く握り締めた。その懐中時計には赤黒い汚れが付着しており、嫌な予感がする。

 

「お兄ちゃんが死んじゃったの」

「そ、そっか……」

 

えぇ。もうこれどうしろと?

会話から逃げ出したい気分に駆られる。

だけど少女は逃してくれない。

話を続けるためか、こちらを見上げていた。

 

「あなたは誰?」

「ボクはアストルフォ。聖騎士、かな」

 

確かそんな設定があった気がする。

初期の職業には存在しないけど。

 

「私のお兄ちゃんも聖騎士だったの」

 

啜り泣きながらも少女は続けた。

……偶然だよね?

僕は応答がプレイヤーによって異なるタイプのクエストだと思うことにした。

 

「……お願い聖騎士さん。お兄ちゃんの仇を討って」

 

そして、啜り泣くことをやめた少女はトドメに上目遣い涙目で懇願してきた。表示されるのはクエスト発生のウインドウ。思わず苦心した僕は悪くない。こんな設定を作った運営が悪い。

 

「わかったよ。ボクがキミのお兄さんの仇を討つ」

 

YES、を押してクエストを受注。

クエスト名《黒い影》と書いてドッペルゲンガーと読む。

 

「じゃあ、はい、これ」

「え、いいの?」

 

少女はクエストを受注した途端、懐中時計を渡してきた。

 

「お兄ちゃんのお守り、貸してあげるね」

「そっか。ありがとう」

 

託された懐中時計を僕は開いた。古びた懐中時計は壊れていて秒針は刻むことがない。もう片面が鏡になっていて、そこには赤黒い血の痕がついていて、その向こうに僕が写り……ニヤッと笑った。

 

「わっ!?」

 

その瞬間、見えていた歯車の隙間、鏡から闇が溢れ出し僕は成す術なく包み込まれた。

 

 

 

 

 

 

「……あれ、此処は……」

 

闇に呑まれた。次に目を開けた場所は確かに噴水の前。だけど、その噴水も、周りの景色も酷く様変わりしていて、風化した情景が目に飛び込んできた。街も、人も、廃れた場所。更には石畳が砂を被ってかつての姿などなかったかのような……そして、街の外れには大きな闘技場が見えた。

 

–––世界は滅びていた。

 

見ていると少し悲しい気持ちになる。その気持ちを抑えて僕は歩き出した。

 

「……行かなきゃ」

 

そんな気持ちにさせられる。

攻略掲示板で見たからじゃない。

何かが僕を待っている。

そんな気がして、足を動かした。

 

噴水に背を向けて、砂に覆われた石畳を進み、風化した街の風景を通り過ぎ、ゴーストタウンを出る。街外れにある古びた闘技場は遠目に見ても大きく、近寄れば思いの外小さく感じた。

門を潜る。もう戻れないぞ、と言われた気がしたが無視する。そのままに幾つかの曲がり道を進んで二つしかないアリーナの入口の一つへ辿り着き、そこが最後だと言わんばかりに潜ると闘技場の入口に鉄製の檻が落ちて閉じ込められた。

 

「あ……」

 

理沙ならいきなりのホラーに吃驚しただろうな。

なんてことを考える。

 

鉄製の檻を見つめるのをやめて、僕は前を見た。

地面から滲み出てくる紫に近い黒の闇。

それを見て、確信する。

 

「そう、キミがボクの相手なんだ……」

 

それは人型になった。

それは知っている人の姿をしていた。

それは懐中時計の鏡を見た時、見た顔だった。

でも、闇だ。なんか黒いし髪はローズピンクじゃなくて色薄いし。何より無表情だ。

 

「ドッペルゲンガー、というよりオルタじゃない……?」

 

オルタの定義とは、とか色々考えたが思考は物理的に遮断された。目前に屈み込んだ影、そいつが僕に向かって何の予備動作もなしに剣を振り抜いてきたからだ。無表情で。

 

「おわっ!?」

 

首を逸らして間一髪、紙一重の回避。

追撃を警戒して小さく蹴るように距離を取る。

結果的に追撃は来なかった。

歓迎のまず一発目かそれで他の人は対応できないのか。

そういえば急所に一撃喰らって即死したって報告もあったな。

 

それはそれでありがたい。

 

「あー、これクエスト継続中だからか。ちょっと油断してたな」

 

僕も武器を取る。初期に選んだのは長剣の類。片手持ちで取り回しもきいて、威力もそこそこ出る。まさに僕にうってつけの装備ってやつ。趣味で戦斧も装備すれば、他にも手広くやってきたが小回りの効くものほど使いやすい、短刀の類はリーチの問題だけど。

 

「じゃあ、仕切り直そうか」

 

口元に笑みが浮かぶ。

それに応えるように再度肉薄し、剣を振るってきた。

 

「おっとっと、やっぱりパワーも上か」

 

鍔迫り合うと不利なので受け流し、剣の柄でそのまま相手の顎を打ち抜く。よろめいた隙に一撃入れようと剣を振れば簡単に跳ね除けられてしまう。

 

「まぁ、そうなるよね」

 

相手は人間ではなく、人の皮を被ったナニカ。そこに人間の行動は最低限にしかプログラムされておらず、いうならばあれは怪物の類だ。

 

「ワタシハアナタノカゲ。ソシテ、アナタヨリモスグレタソンザイ」

 

そして、喋るらしい。なんとも芸達者なことで。

 

「確かにそうかもね!」

 

互いに剣をぶつけ合う。隙を見つけて斬れば、躱して斬られ、それを防ぐか避けるの繰り返し。一度でも間違えば一撃でHPはゼロになるだろう。僕のステータスはAGIとSTR特化でソロプレイ向けにしてある。逆に言えばそれ以外はそこそこにしか割り振られておらず、何より僕の攻撃力なら一撃でHPが消し飛ぶ。

 

そして、それは相手も同じこと。

 

勝負は一瞬、一撃で決まる。

だからこそ、一歩間違えば敗北に繋がる。

 

「ソシテ、ワタシハアナタヨリムネガアル!」

 

剣と胴を丸ごと叩き斬るような横薙ぎを影が放った。それに僕は剣を合わせることはせず、数歩後ろに後退することで避けた。心なしか無表情だった影の顔がドヤッとしている。

 

「……いや、ボク男の子だし」

「……対象の性別を確認。システムエラー」

「いやなんでだよ!?」

「設定上は男性を確認。……虚偽申告」

 

きっとこのクエストには相手をスキャンしてコピーするためのプログラムが設定されているのだろう。でも、きっと壊れているに違いない。僕はそう思った。

 

「よく見て!ほら!」

「ウ、ウエヲヌグノハヤメルノデスオリジナル!」

 

メイド服をはだけさせようとすると何故か影に止められた。上乗せしたステータスを存分に使い、がっしりと僕を掴んで離さない。

 

「なんで止めるんだ!」

「アナタガヌグトワタシがハズカシイノデス!」

「訳がわからないよ!」

「ワタシハアナタノコピー。イウナレバ、アナタノハダカハワタシノハダカ!」

 

何故か必死な影、本当によくプログラムされている。まるで本物の人間に寄せて作られたみたいだ。

 

「じゃあ、ボクが男の子だって認めなよ」

「–––システムエラー」

「本当に壊れてるんじゃない?」

「ソ、ソンナハズハ……」

「まぁ、どっちでもいいけど」

 

そんな捨て台詞と共に剣を縋りつく影の背中に刺した。

 

「ア、アァ……」

「ごめんね?」

 

元より光のない瞳から急速に光が消えていく。

その間際、影もまた最後の言葉を口にする。

 

「……ホンモノノカイブツハオマエダッタカ…」

 

人の心はあるのかお前って言われた気がする。最後の言葉を吐き終えると、影は収束し一つの指輪になった。ころんと転がった指輪を拾い上げる。

 

《転身の指輪》効果:設定したステータス、スキルに変更できる。登録できるのは二つまで。

 

「へー、これでアカウントを作り直さなくても色々できるわけだ。二つってことは元のやつも登録しないといけないし、実質ひとつかな」

 

早速、装備してみようか。と思ったその時だった。

 

『《黒い影》をクリア、extraクエスト《英雄の凱旋》が受注可能。YES or NO』

 

新しいクエストが出た。

誰も到達していない、その先へ。

 

「もちろん、ここでやめられるわけないでしょ」

 

《黒い影》への残念さと不完全燃焼、そして期待を抱いて僕はYESをタップした。

 




本来のルートを通っておりません。
メイプルには及ばずとも類友です。

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