ガチャが闇すぎる。病みそうです。
「ふふ、刮目せよ!」
おなじみのイズの店にて。初期装備からユニークシリーズ、アストルフォバージョンへと換装した僕は二人にゲットした装備を予告もなく見せてみる。理沙なんてまん丸に目を見開いて吃驚していた。
「アストルフォもユニーク装備ゲットしたんだね!」
「まぁね」
無邪気に喜んでくれる楓にそう返すと、理沙がペタペタと触ってきた。
「あんたいつの間にこんな装備手に入れたのよ」
「ドッペルゲンガーをクリアして、その先にあったextraクエストをクリアしたらゲットできたんだ」
「昨日の今日じゃない。ねぇ、もしかして……」
「宝具も一つを除いてあるよ。セイバーの時の蛇腹剣もね」
黄金の馬上槍を手元に出し、破却宣言なども見せてみる。
理沙は呆れ返った表情だった。
「んー、ゲームバランス的にいいのかな?」
「破却宣言なんてメイプルの下位互換だしいいんじゃない?」
「まぁ、それもそうか」
魔法も物理も無効化できる楓に比べれば些細なことか、と僕と理沙は目を瞑った。メイプルという無敵を誇る存在に比べれば、このような宝具など無価値に等しい。
「それで今日はどうする?」
気分を変えて、理沙が予定を聞く。
やりたいことがないか。
楓は、んー、と考えながら宙を見つめた。
「じゃあ、もう次の層行ってみない?みんな装備整えたんだし」
「お、いいねー」
僕の提案に理沙が同意した。
楓もまた、反論はないようだった。
◇
そして、やってきたのが第一階層のラストダンジョン。此処を抜けて、ボスを倒せば晴れて第二階層への扉が開く。
石造りの遺跡が入り口となっており、中に入ると少し薄暗く鉱石から出た光が道を照らしていた。パーティーの定石として、盾役の楓を先頭にいつでも飛び出せるよう僕と理沙が背後に控えて進む。途中、猪型のモンスターが飛び出してきた。
「モンスターが出たよ!」
「取り敢えず、先制攻撃いこっか」
まずは、どの程度力が通じるか。
「【ウィンドカッター】!」
「【ファイアーボール】!」
僕と理沙が猪に向けてそれぞれ、風属性、炎属性の魔法を放つ。棒立ちになった猪に飛んだ魔法は何にも邪魔されることなく着弾し、小さな砂煙を巻き起こしたがHPバーは四割程しか削れなかった。
次いで、怒った猪がその場で脚を踏み鳴らし、突進してきた。
「任せて!」
猪の憎悪値を集めた僕と理沙の前に楓が立ちはだかり盾を構える。そこに真っ直ぐ突っ込んで来た猪は盾に衝突するなりポリゴンに変わり虚空に消え去った。
……呆気ない幕切れである。
「……攻撃、じゃないよね」
「猪は楓に任せよっか」
「そうだね」
VIT極振りの大楯使いのモンスター瞬殺に、もうこれ楓一人で攻略できるんじゃない?という疑問の声を押し殺して、僕達は前に進んだ。
しばらく行くと、今度は熊型のモンスターが出てきた。
「お、新手」
「ボス戦の前に肩慣らししておきたいし、ボクとサリーでやろうか」
「頼りにしてるからね」
「当然」
体長は二メートル程度。二足立ちになった熊がその場で爪で引っ掻く動作をする。すると前にいた楓に向かって一直線に斬撃が飛んで来た。
「わわっ!」
慌てて盾で防いだ楓の横を僕と理沙が並走して跳び出す。狭苦しい洞窟の中、僕が装備しているのは蛇腹剣でもある僥倖の拘引網。通常形態のそれを僕は熊とのすれ違い様に振り抜いた。それに合わせて理沙も同様に双剣を熊の脇腹に振り抜く。
「ガアアァァァ!?」
「パワーアタック!」
「マッドザッパー!」
熊が反応して振り向くより早く、二連撃目のスキルが発動する。
熊の図体に十字の傷が刻まれ、反撃する間もなく倒れ伏した。
その後も数回の戦闘を繰り返し、ボス部屋に辿り着いたのは三十分後。重厚な扉で閉ざされた部屋は挑戦者を感知すると一人でに開き始める。誘われるまま奥に僕達は進んだ。
背後で閉まる扉。完全に閉じ込められた。天井が高く、広く、そして奥には神々しい樹木が一本生えている。
「あれ、ボスは……?」
そう呟いたのは楓だった。
それに応えるように葉のついた枝がざわざわ揺れる。
風もないのに。
「来るよ、すぐそこにいる」
「気をつけて、メイプル」
僕が黄金の馬上槍を。理沙が双剣を。楓が慌てて盾を構える。
その時、変化が起こった。
葉がざわざわと騒めき、枝が揺れより硬質なものへと変化する。幹は首となり、胴となり、根は完全に四足歩行の動物、鹿のような魔物へと変化した。よく見れば枝には真っ赤な林檎が実っている。
「あの林檎美味しそうだね」
「食べてみる?」
「いや、食べ物じゃないから!」
呑気に食欲を見せる僕と楓に理沙が突っ込む。
楓はヒドラやモンスターを食べた前科あり。
僕は食材になりそうなモンスターを調理したりとか。
きっと僕と楓が特殊なプレイヤーってわけじゃないと思う。
過去を振り返っているとボスが動き出した。地面を踏み鳴らし獣の咆哮を上げる。まるで怒りの声に呼応するかのように、地面から蔓が生え僕達に襲い掛かる。
「よっと」
「わわっ、悪食!」
僕と理沙は緊急回避。楓は盾で蔓を受け止める。
もちろん、悪食の餌食になって消失した。
「ははっ、おもしろーい」
「笑ってないで攻撃行くよ」
蔓による攻撃は地面から生えまくり、襲い掛かってくるが僕と理沙には擦りもしない。すれ違い様に槍で叩くと消失することから蔓にも耐久値があるのだろう。
「【ヒドラ】!」
「「【ファイアーボール】!」」
楓の短刀から三つ首の毒竜が姿を現し、僕と理沙の魔法は二つの炎弾となって飛来する。毒のブレスと炎弾が着弾したのはほぼ同時、と思われたが何か違和感があった。
「え、効いてないよ!」
攻撃による毒の霧、爆炎が晴れた先で鹿の魔物はダメージどころか一ミリもHPバーが減っていない。
「サリー、次は魔法を一人で撃ってくれない?」
「……何か考えがあるの?OK、任された」
僕の提案に反論することもなく理沙が疾駆する。
そして、ボスから二十メートル離れたところで魔法を放つ。
「【ウィンドカッター】!!」
着弾まで1.2.3…。3の手前で風の刃が弾かれた。鹿にも触れず、地面にある緑の魔法陣が輝き、鹿の枝のような角に生えている林檎がより一層赤く光った後で、ちょうど魔法陣の上空にて魔法は弾かれたように見えた。
「ねぇ、さっきのって……」
「林檎が赤く光ったよ!」
戻って来た理沙が確認のために漏らした言葉に被せるように楓が叫んだ。食欲しかないのか君は。
「どうやらあの林檎が攻撃を魔力に変換して吸収しているみたいだね。あの魔法陣はそのための術式とかそういう類。多分、魔法陣の物理的な破壊は出来ないから、あの林檎を落とすんだろうけど……」
「おぉ、さっすが私の彼氏」
「養分を与えて美味しくしようと思います」
「いいね、それ!」
「わー、ブレないなぁ二人とも」
普通にやればあの林檎を攻撃して破壊するなりするんだろうけど、それはつまらないと僕は思った。楓は賛同、理沙はまぁいいけど、と慣れた反応を返した。
「でも、あれが熟したらやばくない?」
「爆発するか、ボスが強化されるかだね」
もちろん、失敗したらどうなるか想像はしている。
「というわけで、ここからはボクのとっておきを見せてあげる」
転身の指輪を嵌めた手を地面に合わせる。
「夢幻召喚(インストール)」
その言葉を合図に魔法陣が指輪から広がった。地面に描かれたローズピンクの魔法陣が光り輝き、全身を包んでいく。光が爆ぜたそのあとで僕の姿は騎士としての格好ではなく、魔法少女めいたゴシック調の衣装に切り替わっていた。ローズピンクのフリフリ衣装はどこからどう見ても魔法少女、僕も深く考えるのはやめた。
「モード・キャスター!」
INT、MP、AGIに割り振った完全魔法形態。つまりは、楓の要塞に合わせた固定砲台のような役割を持ち、更には白兵戦を可能にした僕の新しいモードである。
「【ウォーターボール】!」
一つの祝詞で多重の水球が宙に現れる。
イズに作ってもらった禍々しい杖(物理)をボスに向ける。
–––発射用意。
–––ロックオン完了。
–––魔力充填完了。
「フルバースト!!」
そして、ボスが再度地面を踏み鳴らしたのと同時、全ての水球をボスに向けて発射した。
蔓は破壊され、ボスに辿り着いたものの魔法陣に全て阻まれる。その度に林檎が煌々と辺りを照らした。
それだけには止まらず、水球は魔力が続く限り何度でも発射する。時には他の魔法もボスに放ち、それはやはり魔法陣に阻まれ林檎の養分となった。
それが数十分ほど続き、魔力が半分を切った頃。
ついに林檎は真っ赤な輝きを残したまま、鹿の角から落ちていく。
重力に引かれるように、真っ直ぐに。
魔法の打ち出しをやめて、僕は次の魔法を変えた。
「【フレアアクセル】」
ボスが繰り出す蔓を掻い潜り、林檎を受けるとアイテムストレージにしまう。【禁断の果実】を手に入れた。と、表示され思わず僕はなんとも言えない表情をした。
「サリー、メイプル!」
「ん、よし来た」
「いっくよー【ヒドラ】!」
理沙が魔法を、楓が得意の猛毒を放つ。今度は不思議な障壁に阻まれることなくボスに直撃し、大幅にボスの体力を減らした。それ以前に何故か体力が減っていたけれど。
「【インフェルノ】!」
燃えやすい素材には火だろうと僕が炎属性の上位魔法を放つ。その一撃はボスの躰を燃やし、角を燃やし、ついでに角に生えていた葉まで燃やした。残りの青い林檎は焼き林檎である。
「やった?」
「それフラグだから!」
「うえぇ!?ごめん!」
楓が建てたフラグを回収せんとばかりにボスが地面を踏み鳴らす。見れば残っていた魔法陣が輝き、割れると同時にボスの体力を三分の一まで回復させていた。
それだけならばよかったが、悪い予感がした僕と理沙はその場から飛び退く。遅れた楓は地面がいきなり盛り上がるように跳ねたことで弾き飛ばされ、宙に浮くと重力に従って地面に落ちる。
「メイプル!」
理沙が叫んだ。既に楓は地面に叩きつけられて動かない。どうやら【スタン】という状態異常にかかっているようだった。
「ボク達だけでやるよ、サリー」
「そうだね、攻撃パターンも増えたみたいだし一気に終わらせようか」
武器を握り直した理沙と並ぶ。
「エンチャント【アクセル】【フレイム】」
加速、武器に炎属性を付ける魔法だ。
属性的に炎が効きそうな鹿のボス用である。
「【ダブルスラッシュ】!」
二振りの短剣に燃える炎を揺らめかせ、ボス部屋を疾駆すると理沙はボスの目前に跳躍し、強化されたスキルを惜しげもなく解き放った。本来は二連撃のスキルであるが、双剣は一本で二連撃、合計四連撃を放った。その分、威力は下がっているものの、手数により威力は片手持ちの時よりも上がっている。
「夢幻召喚–––ライダー!」
再度、装備とステータスを変更する。いつもの感覚が戻って来たところで、黄金の馬上槍を手にその場を飛び出した。
「超加速–––【触れれば転倒】!」
目にも留まらぬ速さで地を駆け、ボスに肉迫すると槍を突き刺す。股下を潜り抜けて転倒したところに上空へと跳躍、槍をアイテムストレージに仕舞い今度は腰に携帯した蛇腹剣を装備する。
「【僥倖の拘引網】!」
一振りすれば剣が伸び縦横無尽に駆け巡る。四方八方を絶え間なく塞ぎ、ボスを斬り裂いていく刃はHPをみるみるうちに減らし削り切った。
「うわ、えげつな」
ポリゴンとなって四散するボスを見届けながら、理沙は呟く。
「……流石にあれは私も避けれないかな」
いつになく弱気な理沙とハイタッチする。勢い余って抱き合う形になったがそのままぴょんぴょん跳ねた。スタンしていた楓が起き上がるまで、兎のように終わりなく。
転身の指輪の設定。
設定は何度でもできる。ステ振りはレベル分だけポイントが貰えるがスキルは取り直し要注意。一度消せばもう一度取るか五十万払って専用施設で再取得しかない。
つまり、金さえあればいろんな設定が可能。