おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する 作:親友気取り。
リコちゃんは、優しくて不器用な子。
ちょっと前は変な子だって思ってたけど、今では代わりのいない彼女だけの個性だ。
「ウンガアアアアアアアアア!」
だから、台所で上げるような声じゃない叫びをしているのもリコちゃんならでは。
トマトの返り血なんて意味の分からない単語が飛び出ているのも、きっと不器用極まって指を切っちゃっただけだろう。うん。
「いや主はやて、流石にこれは止めたほうが良くないか……?」
「でもなぁー」
「絶対止めたほうがいいって、よし、あたしだけでも止めてくる」
「待てヴィータ。念のためグラーフアイゼンを持っていけ」
「ああ」
「いや待ちぃ、念のためでなんで鈍器がいるねん」
ヴィータがハンマーを取り出したので流石に止める。
「前々からリコちゃんは料理をしてみたかったみたいなんよ」
「……は? あいつが? ありえねぇー」
「なんで料理したいってだけでそこまで言われるん……?」
「だってリコってやること全部ずれてんじゃん。そもそも料理っていう言葉自体知らなさそう」
「あんな、ふざけてるだけで流石に一般的な事くらい知っとるで」
知ってなきゃヒモとかニートとか容姿に似合わない事を言いながら仕事を探しに出ないと思う。
それに全部ずれてると言うけど、実はリコちゃんは型無しではなくて型破り。
見ていて飽きない。
「この前なんてケーキ買いに行っただけで洋服穴だらけの血だらけにしてた事もあったなぁ」
「いやもう常識云々言ってる場合じゃねぇだろそれ。フォローしてるのかしてねぇのかわからねぇ……」
「ともかく、今回だけはリコちゃんに料理を任せてな」
「……シャマルもいるようだが」
「流石にひとりじゃ危ないやろ? 私が行ったらリコちゃんの料理にならんし、シャマルなら丁度いいって思ってな」
家が揺れた。
「いや待て主はやて。リコの事を姉妹のように想っているのは分かったが、流石に見過ごせないぞ」
台所からドリルのような採掘音とか軽やかな電子音が鳴った。
「あれ、作ってるんはミートソースよな? 私間違って別のメモ渡してないよな?」
でもしばらくして、「大成功です大成功」って聞こえたから平気だと思う。
「んなわけあるかぁぁああ! やっぱりもう耐えられん、ヴィータ、突入準備や。こっちきぃ!」
「おう!」
櫛でヴィータの髪を真っ直ぐにして行く。
これや、この感じ。確かに似とるかも知れん。
準備を整えてリビングへ向かうと、ただ髪をストレートにしただけのヴィータにシグナムが首を傾げた。
「それでどうするのだ?」
「ふふん。ヴィータ、分かっとるな」
「任せろ」
そう。今の姿は前に写真で見せて貰った、リコちゃんが思わずビビるあの姿にした。
その上でお風呂で聞いた台詞も教えたし充分以上や。
「お、おい貴様! 貴様だ貴様!」
「アイエエエエエエエ!?」
「きゃっ」「うわっ」
思わず叫び、そして体は硬直して動けない。
なぜだ、なぜこの場に、なぜ、なぜ……!
震えた手からお玉が落ちる。ついでに膝も崩れる。
地面に着くと同時に全力の土下座。
勢いのあまり散らばった森林トマトの体液が噴水の如く跳ね上がり俺を赤く染めていく。
「そ、そんなにビビるなよ……」
「クラリスクレイス!? ナンデ!?」
「いやあたしだよ、ヴィータだよ」
コワイ!
「すまねぇ、すまなかった。許してくれぇ! な、ほらこの通りだ! 勘弁してくれ、オレが悪かった!
チョコとかいくらでも食うしよ、頭下げろってんならいくらでも下げる!
すまねぇすまねぇすまねぇすまねぇ! だから、命だけは、命だけは助けてくれよぉ!」
勘弁してくれ許してくれ!
殺さないで!
「うわガチ泣きだ!? わ、わりぃやり過ぎた!」
「リコちゃん!?」
次回、ついにパスタが火を吹く!(物理)