おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する 作:親友気取り。
それと誤字報告と感想、ありがとう!
“アークスと言う恐らく人間、リコという名前の人が店に来たら通報して欲しい”
PT事件も落ち着き日常が戻ってきたある日、学校の昼休みになのはが親友に言われたその言葉は出だしから意味がわからなかった。
アークスって?
というか恐らく?
あと通報ってリコさんは何をしたの?
意味はわからないが、リコという名前に聞き覚えはある。
それはつい一昨日、ショートケーキ二つをわざわざ予約して店へ取りに来て、そして自身へ謎の借り宣言をしていった少女だ。
「あたし達位の見た目で、ショートカットで、毛先だけはなぜか紫。そして男子みたいなオレ口調……リコで間違いないわね」
「わたしもお礼が言いたいから、お願いっ!」
感情的になりやすいアリサは押しぎみに、思慮深いすずかもそれに乗るようにしてなのはに頼み込む。
そこまでされてはなのはも断れない。
その場はまた見かけたら教えるとして、丁度良く今日は翠屋を手伝うことにしていたのでお店へ向かった。
そして、硬直した。
翠屋の制服をごく自然に着こなし接客を行う小さな少女、リコがそこにいたのである!
「いやいや、いやいやいやいや……」
なのはの口から否定の言葉が漏れた。
容姿も声も何もかも知っているリコのものだが、接客の態度に問題はない。むしろ元気良く挨拶をして笑顔を振り撒くその姿は見本にしたいほど。
美少女を体現したかのような見た目と正反対な荒い口調を兼ね備えていた一昨日のリコは一体なんだったのか。
「いらっしゃ……ああ、士郎さんの娘さんか。こんにちは」
「あ、こ、こんにちは……?」
「今日から翠屋でアルバイトをさせて頂くことになったリコです。よろしくお願いしまーす」
困惑しつつなのはも裏手に入り翠屋の制服に着替える。
あれはリコとたまたま同じ見た目をしてリコと同じ名前を持つリコという人物ではないのか?
そうだ、あれは昨日とは違う他人のリコだ。
丁度良く一昨日に同じく応対した父である士郎が来たので、疑問をぶつけてみることにした。
「どうしたんだい、なのは」
「にゃはは……。リコさんって一昨日の人と似てるよねって……」
「似てるというか同じ人だよ。公私混同はせず皿だって舐めますからバイトさせてくださいと言うし、それにちょっと縁と恩があったからね。試しに雇ってみたんだが」
敬語にぎこちなさは混じるがかえってそれが親しみやすく、初日だというのにもう客席から気軽に名前を呼ぶ声もしている。
「いつもよりお客さんが多いんだこれが」
「す、すごいね……」
「ああ、すごい。普段からあそこまで言わずとも柔らかい物腰ならと、親の視点で見てしまうよ」
「わたしは厨房に入った方がいいかな」
「そうだね。桃子と美由希を助けてやってくれ」
「お疲れさまでしたー」
「お疲れさまなの……」
誰もいなくなった翠屋店内で、疲労困憊ななのはがソファで休んでいると着替えたリコが出てきた。
途中からあまりにも人気が過ぎて肉体作業でもある裏方の荷崩しへ回されていたが、その顔に疲れは一切見えていない。
それどころか、自身とは正反対に疲れ果てているなのはを見てびっくりしているようだ。
「クラスレベルにものを言わせた力作業だからそっちより楽だとは思ってたが、なのは先輩がダレる程とは。誰だ、誰が店を繁盛させたんだ、言え!」
「リコちゃんのせいなの!」
思わず声を出して、そして口を手で押さえる。
ほぼ初対面なのに怒鳴ってしまった。
「くぅー! オレのせいか、クッソー!」
「えっ……。お、怒らないの?」
「オレの沸点どんだけ低いと思ってんだよ」
そう言って向かいのソファにリコは座り、突如虚空から光と共にジュースを二つ出した。
「えぇぇえ!?」
「え、何。パイセンどしたの」
「どこから出したの!?」
「アイテムパック」
混乱するなのはをよそに、付属していたストローでジュースを飲んでいくリコ。
「あー、気にすんなよ。オレはほら、宇宙人だから」
「気にするよ! あと宇宙人ってなに!?」
言いながら、脳裏に浮かんだのはPT事件を期に関わりを持つようになった時空管理局。
アイテムパックという技術は聞いたことがなかったが、自身も持つレイジングハートのような例があるので知らないだけで存在しているのだろうかと考えた。
それに宇宙人という自称。
地球からしてみれば地球人以外全てが宇宙人に該当するので、知り合いで言えば地球出身でないフェイトやクロノも言ってしまえば宇宙人だ。
「リコちゃんは、どうして地球にきたの?」
PT事件では戦闘続きで相手と対話し和解する事がなかなか上手くできなかったなのはは、その反省と自分の国語力不足を自覚し慎重に聞いてみた。
「戦いに敗れてオレのいた宇宙が滅びた時に、よう分からんがこの星に投げ出されたのさ」
「宇宙が滅びた……?」
「おおっと、勘違いするなよ? 別に地球を征服して新たな母星にするとかはないから。ごねて人んちのソファを占拠して住み着いてはしてるけど」
「ごねたんだ」
「ノリで行けないかなって思ったけど厳しそうだからごり押した」
「リコちゃんにごり押されたら誰でも敵わないと思うの……」
「今は何だかんだで更に4人増えたから大所帯だぞ」
「なんで増えたの!?」
「モタブから生えてきた」
「意味がわからない……」
頭を抱えつつ、時空管理局とは関係のない人と判断した。
明らかに何か質が違うのだ。
「リコちゃん、明日も来る?」
「シフトならオレが勝手に決めて良いらしいぞ。どして? つか事前に言えば良いとか緩すぎね?」
「アリサちゃんとすずかちゃんが、リコちゃんに会いたいって話をしてたの」
「ほぉん? 知らん奴らだが、このリコ様に謁見したいと言うなら出ざる得ないな」
「えっけん……? よくわからないけど、よろしくね」
「へっ。心当たりは無さそうで、でも二人組となるとバリバリありそうな感じはしないでもなさそうだが任されよ」
「遠回しに言ってるけど心当たりあるんだ」
「まぁ会えばわかるっしょ。あ、はやてからメールだ。ちょっと失礼」
空中に謎の半透明プレートを表示させ、メールと言い張るリコ。
「はよ帰らんと飯抜きらしいのでそろそろお
「現実離れした事いっぱいしてたのに、すごい庶民的なメールなんだね……」
「かつてはアークスでも今はただの美少女ってことさ。じゃ、おつかれさまーっす」
「あ、うん。おつかれさま」
飲み終えたジュースはどこかへ消して立ち上がり帰っていく。
「アークスが何か聞くの忘れてた。
というか、こういうのって管理局に教えた方がいいのかな……?」
残されたなのはは、同じく残されていったもう片方のジュースをぼんやり眺めるのであった。