おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する 作:親友気取り。
ファンタシー成分を楽しみに来ている人が多いであろう中、ファンタシー感の薄い日常回です。
抑えた結果にじみ出るリコおっさんの趣味。
水曜日。
カレンダーを見て今日が水曜日だと、そして11時を目前に控えると無性に今日は何しようかと考えを巡らせてしまう。
暇をこじらせてぼーっと考えているのは天気が悪い。二つの意味で。朝から結構な雨で出かける気にもなれないし。
翠屋もこんな天気じゃ手もいらないらしく、むしろ向こうから今日は来なくていいと連絡が来た。
明日から来なくていいの亜種かと思って滅茶苦茶ビビったのは内緒だ。
あー、なんかデジャブ。
遥か昔にも梅雨の水曜日が暇すぎて発狂してたの思い出した。
普段からやってるゲームがメンテでできないと途端に「いつも何してたっけ?」ってなってする事なくならない?
で、暇だからとネットに接続してだらだらと同じページを永遠周回してマラソンしちゃうの。
せっかく思い出せた前世の記憶がこれって寂しいな。
梅雨は憂鬱だ。
惑星ナベリウスの森林エリアも時折スコールにやられる事があるしそこで戦ったリコの記憶もあるが、それはあくまで戦闘中での話であって日常生活では普通の雨程度でもやんなっちゃう。
「リコ、今日は行かねぇのか?」
「雨なら混まんだろうし来なくていいってさ。やっぱやべぇって電話が来たら出撃するが」
ソファでダレてたらヴィータが腹の上に乗った。
別に重いわけでもないしいいんだけどさ。
「何読んでんだ?」
「コミックボンボン」
「なんつぅか、性格もそうだが読むもんも男っぽいよな」
「男っぽいとかヴィータにゃ言われたくねぇな」
「少なくてもあたしは“オレ”とか言わない」
この世界は西暦2005年。つまり前世から見てかなり昔の時間に値する。
一縷の望みをかけて先日入ったバイト代を握りしめ本屋へ走ったが、なんとボンボンが存在していたのだ。
エヴァが放送してないせいでリツコさんネタが通用しなかった世界ではあるが、所々で前世と同じ物があって嬉しい。
なんでボンボンを買ったかって? ロックマンかメダロットがやってないか確かめたかった。
結果はどちらも連載時期を逃していたどころか、どのページの片隅にも名前すら見当たらなかったので存在がないと思われる。かなしい。
「面白いのか?」
腹の上に座ってたヴィータが倒れこんで、雑誌の下から顔を覗かせた。
ぐへへへ、なかなか可愛い事してくれんじゃねぇか。撫でてやる。
「好みの差だから何とも」
この世界にエヴァはないが、代わりに俺の知らない勇者ロボが放送されてたりしたらしい。
一巻がレンタル済みでなければレンタルショップの良い客となっていた。
バイト頑張っていっぱい稼がないと……!
──あれ、俺ってなんでバイトしてたんだっけ。オタクライフをエンジョイする為だっけ。
「ふーん。ロボットはねぇけど戦いなら散々やったしあたしはパスだな」
「“おれ”だってロボも戦いも経験してんだが……。まぁ“俺”の趣味だし」
興味がないのか、覗き込んでいたヴィータは目を閉じて寝る姿勢に入った。
今日行く予定だったゲートボールも雨で中止になって、暇らしいし昼寝か。
寝るのは構わないんだが俺はトイレに行きたくなったらどうしたらいいんだろうか。漏らせと?
肉体年齢的におもらししても言い訳できるけどなんか悔しい。
「──んあ? 寝てたか……」
ボンボン読み終わって、アイテムパックにしまって、ヴィータが寝てるから動けなくて……。
あー、で俺も暇になったからぼーっとしてたら寝てたのか。ヴィータは先に起きたのかもういない。
「お。起きたのか」
「おはようヴィータ。今何時だい?」
「3時。アイス食べる?」
「在庫あったのか。食べる食べる」
そいや他の連中はどこ行ったんだ?
いつもなら大体リビングでくだまいてるはずなのにな。
「はやては部屋で勉強、シャマルはその付き添い。雨がやんだからシグナムは買い物がてらザフィーラの散歩だ」
「大型犬って名目上散歩させないと怪しまれるものなぁ」
「変な文化だよな。首輪と紐付けないといけねぇなんて」
「安全と人の目を気にするメンドイ星さ。オレなんて昼間に外歩いてただけでお巡りさんに学校どうしたの? とかよく言われるんだぜ?」
ちなみに最近は顔なじみになってまたお前かってなってる。
身分証は出してないけど、翠屋で働いているのを見て成年してるまでとはいかないけど小柄ってだけで通った。
見た目幼女なのをもう少し怪しんで良いと思うけど。
「あたしも言われたな、学校はどうしたって」
「ヴィータはオレよりちっこいもんなぁ」
「ちっこい言うな。リコの方がほんのちょっと高いだけだろ」
「137cmなう」
キャラクリした時これ以上下げられなかった。
一応調べたことあるけど、大体10歳女子の平均身長らしい。
今まで幼女を自称してきたけど再認識して少し怖くなってきた。少女に差し掛かってるか?
いんや、パーツは全部幼くしてる。イケルイケル。リコちゃん頑張れ鯖を読め。
10歳を幼女とするかで意見が割れて戦争に発展しなきゃいいけど。
リコにゃんにゃん☆
…………やめておこう。
「はやての妹ではいいと思ってるけど、リコの妹はやだな。あたしの方が落ち着きある」
「残念だったな。近所のおばちゃん曰く我ら三姉妹ははやてが長女でヴィータが末っ子だ」
「はぁ!? なんでだよ」
「そういう所だそういう所。いやぁー、やっぱ子供育てたおばちゃんは分かってんねぇ」
「うぜぇー」
「リコお姉さまとお呼び」
冷凍庫から出したのは普通なカップアイス。冷たくておいしい。
ちなみに俺はチョコミントを。ヴィータはバニラを選択した。
仲良くソファに並んで頂きます。
「……なんかさ、リコはどっちかっていうとお父さんって感じするんだよなぁ」
な、なんだって?
おっさん感にじみ出てた……?
「いや、わりぃ。そういう事じゃなくてな。ただ、一緒に居ると安心するっていうか。頼れるっていうか」
「な、なんだ、びっくりした。加齢臭でもするのかと思った」
さっき寝てた時に密着してたし。
安心してくれるのはいいんだけどなんかアレだな。
今度からもうちょっとお姉さんらしく振舞ってみるか。
「お゛ね゛ぇ゛さ゛ぁ゛ん゛!」
「うるせぇ」
「間違えた。これ言われてる方だ」
しかもこの世界のテレビでニャンちゅう見たことないし通じないし。
踏んだり蹴ったりだよもう。
「ちょっと分けてくれよ」
「いいぜ、代わりにお前のバニラを所望す」
「交換だな」
お互いの手にあるアイスへスプーンを刺し合う。
「あ、リコてめぇ多いぞ!」
「リコの勝ちデース」
「おい貴様!」
「やめろその台詞は謎のトラウマががががが」