おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する 作:親友気取り。
2-1 はやての異変
夏の暑さと蝉の声が鳴りを潜め、日増しに寒さの増す時期になりましたがいかがお過ごしでしょうか。リコです。
最近は妖怪追跡ストーキングキャットも姿を見せないし平和だった。
平和だったって言うとなんかありそうだけど、事実平和だった。
だって何にもなかったんだもん。
借りた未知なる勇者ロボは路線変更なのかコレジャナイロボと化し楽しみにしてた分ガッカリだったり、ヴィータは何かある度にクラリスクレイスの真似をしてきたり。
ああ、あとアレだ。シャマルもメシマズ枠だった。
ヴィータは大雑把な料理で食えなくはない程度だし、家の中で料理できるのがシグナムとはやてしかいないのはバグだと思う。
ザフィーラ? あいつ最近ドッグフードで妥協し始めたから……。
そんなこんなで秋に入り冬も近づいた今日から一泊二日ではやてが入院することとなった。
検査とリハビリを兼ねたもので、今までも時折やってきて馴れたいつものやつらしい。
「お金はちゃんと持っとるな? シグナムも“私がやらねば”って料理の勉強してたしあとはリコちゃんが余計な事をしなければOKや」
「おいおい、オレだって翠屋で修行してるしレベルアップしてるんだぜ?」
厨房には入れてもらってないが。
そんな心配せんでもすぐに帰ってくるんだろ?
アイテムパックにフランカさんの料理あるし一日位は平気さ。
今は入院前の検査を終えて、ロビーではやてと共にシャマル待ちだ。
親戚の判定で通っているシャマルが代理人的なあれで、医者と話をしている所を待っている感じ。
「オレだって家族判定で通りたかった」
「そう言ってる時点でアウトやからな? あと、リコちゃん私と変わらない見た目やし」
「人を外観で判断しちゃいかんと思います」
「いっつも自分はかわいい言うてるくせに何いいよるん?」
「それは事実だから仕方ない」
ちなみに応対したナースは俺の事をはやての友達として判定していた。解せぬ。
「何がいけなかったんだろうな」
やっぱり名前だろうか。
元気よく「はい! リコ・クローチェです!」って答えたのがいけなかったのかも知れない。
八神の名前が入ってないし。
「分かってないからダメなんやと思う。てか、その名前って本名なん?」
「あたぼうよ」
「へー、初めて知ったなぁ」
「この世界に来て初めて名乗ったしな。バイト先でもリコですとしか言ってないし」
「アルバイトするとき履歴書どうしたん?」
「桃子さん……店長がオレに一目惚れだったから出してない。そもそも書いてもないが」
リコは以前から名乗っての通りだけど、クローチェは本当に初めて名乗ったな。
俺の脳内設定だけの存在でゲーム中でも言うことはなく忘れ去ってたが、どうやら我が肉体は覚えていたらしい。
故に、不意打ち名乗りで八神を言えなかった。
ちなみにクローチェはリコの名前と同じくキャラクリ時に外観の参考とした別作品から由来している。ガンスリンガーガールっていう良い漫画なんだけど。
あー、折角なら英雄にちなんでリコ・タイレルをつけておけば良かった。
彼女は過去作のPSOでメッセージパックを足元にばら撒き強制的にプレイヤーへ読ませて足止めをし敵に襲わせるという手の込んだ嫌がらせをしてきたり、ストーリーでは悲しいことになったりと色々印象深いお方だ。
あ、ごめん。やっぱやめといて良かったわ。
どっちのリコだとなったら混乱の元だし。
「これからは八神も混ぜるか。リコ・八神・クローチェ」
「クラリスクレイスちゃんの事言えんくなったなぁ」
「そもそも本名全然言わんしセーフ」
たぶん今後も自己紹介か正式に名乗らにゃならん時にしか出ないだろうが、設定として覚えておこう。履歴書書くときに統一しないと突っ込まれるやも知れないし。
使うかな、今後。翠屋で一生働けばいい気がする。
シャマルが戻ってきた。
何やら浮かない顔をしている。
「言わんでも分かるで。
「そうなのか?」
「……ええ、残念だけど……」
――まじか。
シャマルの反応を見るに、冗談でもなくその通り悪くなっていたのだろう。
「なんで言わなかった」
「だって、リコちゃんもシャマルも、みんな心配するやろ?」
「決まってるだろが。分かってりゃオレだってアンティだのレスタだのパスタだので何とかできないかもっと力入れて試す」
「パスタはいらんで」
あー、ちくしょう。今まで普通に過ごしてたから気が付かなかった。
もうちょっと定期的にアンティかパスタかレスタぶちまけてりゃよかった。クソが。
「リコちゃんストップ。思い詰めたって良い事ないで。あとさりげなくパスタぶちまけんといて」
「だが……。いや、そうだな。シャマル、他の奴らにもすぐ話すのか?」
「私としては、もうちょっと伏せてて欲しいんやけどなぁ……」
「はやてちゃんがそういうなら……」
シャマルの目が一瞬泳いだ。
そういえばシャマルら4人は魔法を使えていた。シャマルもその中では支援――回復にも特化していると聞いたことがある。
俺と同じで、裏でこっそり何か企んでる口か。
はやてがちゃんと言わないなら、俺らもちゃんと言わない。
よって俺達は悪くない。悪いのははやてなんだ!
「……リコちゃん、なんか企んでるやろ」
「べっつにー。決してオラクルの技術を何とかこっちで再現できないかとか考えてないもーん」
「あんな、確かに悪化しとるっぽいんは確かやけど死ぬわけでもないしそこまでせんでもええよ?」
「ふーんだ。オレは義理堅いのさぁ。クラリスクレイスにチョコのお返ししてないけど」
「いやしたれや。と言うか食いたれや」
「だって腐ってんだもん」
「あんたが腐らせたんやろ」
よし、ちょっと落ち着いて冗談も言えた。
いつも通りの俺を思い出し、いつも通りにふるまえ。
俺の求められる姿勢はいつも明るいリコちゃんだ。
俺がくよくよしてたら周りのみんなも不安になっちまう。
「なんか無理しとらん?」
「お前も無理したんだから人の事言えんぞ」
「……せやな」
「まあ言うてオレの知識も殆どないし、オレが主導でできることはない」
あくまで主導でできることは。
――いざとなったら俺も手伝うぜ、魔法とフォトンの共同戦線だ。その時は手伝うぜ。
そんな意思を込めた発言をしつつ隣のシャマルを見たら、目を逸らされた。
え、あれ、伝わってない? というか、そっちにそんな気はない的な?
あれ? 俺、いらない?