おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する   作:親友気取り。

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2-19 夜明けを願う“リコ”の嘆き

 深夜の八神家。リビング。

 薄暗闇のソファで寝ている少女、リコを見下ろす影が一つ。

 闇の書の主であるはやてを守護する騎士の将シグナムである。

 

「…………」

「寝ているか」

 

 言葉の通り寝る間も惜しみ魔力の収集を行っているシグナムやその他の騎士達にとって、最も気掛かりなのはその間の主の所在。というよりも孤独である。

 本人がいくら孤独には慣れていると言っても、それが虚勢である事は誰の目に見ても明らかであった。

 

「……お前が居なければ、主はやてをより苦しめる事となっていた」

 

 しかし偶然か運命か。この八神家にはイレギュラー的に本来存在するはずのない、異界からの訪問者がいた。

 この少女がいたおかげで騎士が家を空けている事の増えた現在でも、はやてが孤独に悲しむことを避けられた。

 意味の分からないことを言っていても普段の行動から信頼する人間。

 シグナム達騎士は道化に努め家を明るくするリコの存在にとても感謝をしていた。

 

 ──本人は道化を演じたい訳でもなく、空回りしそんな役回りとなってしまっている事が多いだけなのだけれども。

 そんな勘違いをする理由もリコの性格にあり、家の事を伏せてくれという不自然な頼みもその場では深く掘り下げず、ひとまず聞き入れる姿勢を示したのも評価に繋がっていた。

 

「あと少し、それまで待っていてくれ」

 

 のそりとリコが動いた。

 

「起こしてしまったか。すまない」

 

 ソファから起き上がったリコが、寝ぼけ眼でシグナムをぼーっと見つめている。

 

「……なんのはなし……?」

「私ももう眠る。おやすみ」

「おやすー……」

 

 普段の騒がしさもなく静かなリコの頭を軽く撫でれば、かくんと頷くよう頭が下がる。

 眠ったかと背を向け、立ち去ろうとした瞬間。

 

 

「──おれには、何も救えなかった」

 

 今までに聞いたことのないような声色で、リコが喋った。

 あまりの様子の違いと脈略の無さにシグナムも驚き、振り返り、再び闇の中で起き上がったその顔を見つめてしまう。

 

「そして再び救えずにいようとしてる」

「何を、言っている?」

 

 リコの表情は暗く見えないが、薄く涙が光っているようにも見えた。

 

「おれはもう手遅れだよ。介錯に身を任せる事こそが、万全の夜明けを迎える方法なのかもね」

 

 再びうつらうつらとして、その姿が闇の中へ消えていく。

 

「どういう意味だ。お前は本当に、リコなのか……?」

 

 ソファに沈み消えた影の代わりに腕が真上に伸びて、赤い腕輪を光らせながらじゃあねと手を振った。

 

「そう、おれはリコだよ。さっき言ったこと、目が覚めたらオレに伝えてね」

「っ、待て!」

 

 ぱたりと腕が落ちた。

 今の言葉がなんなのか、何が起こったのか。

 それらの問いを正すために駆け寄りソファで眠っているリコを揺するが、今のやり取りなんてなかったかのように気持ちよく眠り続けている。

 

「……すぴー」

 

 これ以上は意味がない。

 揺すっていた手を離し、今度こそその場を後にする。

 何かが憑りつきリコを自称していても、悪意は感じられなかったし、彼女ならば大丈夫だと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

「おはよございまーーーーす!」

 

 寝起きに元気良しな100点満点挨拶、これ一回やってみたかったんだよね。RTAとかいう苦行はやりたくないけど。

 朝というか寝起きが弱い欠点を抱えているこの我がボディには珍しく、寝起きの半覚醒状態からやっとこれができた。

 

「ん?」

 

 って、またシグナムさんが吾輩を膝枕していらっしゃる。

 くっころ系騎士の風貌ゆえにテンプレ的にかわいいもの好き属性なんかな。昨日もしてくれてたし。

 へへへ、ようやく俺の可愛さに気が付いたか。これからもっとメロメロにしてやるぜ。

 

「リコちゃん珍しく朝から元気やなぁ」

「おうよ。ふぁあ……」

「ダメやん」

 

 起きて伸びて、足を踏み出したらなんか毛むくじゃらのものを踏んだ。

 カーペットにしてはぬくいし、んー?

 

「あ、ザフィーラごめん……」

「……問題ない」

 

 犬に徹してる事が多いせいか、最近影が薄くて忘れかけてたよ。

 ごめん。

 

「まだ寝ぼけとるんとちゃう? 顔洗ってき」

「うーっす」

 

 寝起きが良かったのは一瞬だけか。ソファに帰りたい。

 朝ごはんを作ってたはやてに従い、再びあくびをしながら洗面台へ向かって、水で顔をばしゃばしゃ。

 冷たくて気持ちいいというか冷たすぎて息が詰まった。

 今は12月。冷水は凶器と化す。

 

 タオルで顔を拭きつつ鏡を見れば、以前と比べて紫面積の増えた我が頭髪。

 思い返せばこの世界に来た当初は本当に毛先だけだったのに、今や半分近くまで紫に染まってきている。

 本腰入れないとそろそろ間に合わんかも知れんね。

 寝ぐせが途端に気になって直してたらシグナムが来た。

 

「おはよう」

「シグナムおはよ」

 

 起こしちゃったかな。

 俺は顔洗ったしどうぞ。洗面台の前からどいて譲る。

 そのままリビングへ向かおうとしたところで、肩を掴まれた。

 

「どったのさ」

「変な質問かも知れないが、今のお前はリコか?」

「はい?」

 

 どっからどう見てもめちゃんこ可愛いリコ・クローチェちゃん様でございましょうよ。

 

「その物言いはお前だな。安心した」

 

 なにさ、いきなり。

 その質問の意味が分からないよ。

 

「昨日の夜、お前が何を喋ったのか覚えているか?」

 

 シグナムと昨日会ったっけ。

 話がしたかったから待ってたけど、結局遅くまで帰ってこなくて寝落ちしてたんだけど。

 

「……お前から、お前宛てに言伝(ことづて)を頼まれた」

「オレからオレ?」

「ああ」

 

 意味が分からん。

 いいや、とりあえず聞かせてよ。

 

「介錯に身を任せる事が夜明けを迎える方法かも知れないと、そう言っていた」

 

 なにそれ。

 言った覚えないし、言った俺自身が俺に伝言をする状況も……。

 待て、俺が俺に向かって?

 リコが、俺に向かって?

 

「間違いなく“おれはリコだ”と話していた。――その様子だと、心当たりがあるようだな」

「ま、ね」

 

 俺が寝て隙ができた時に、精神体のリコが浮上してきてたのか。

 そして一番フォトンを理解をしている為に見切りをつけて、諦めた発言を残した。ってところかな。

 自分のせいで周りを傷つけるのだけはしたくないのだろう。

 リコの精神体が条件付きとはいえ表に出てくるようになったのがどういう意味を持つのかは分からないけど、今までになかった事だし何かの前兆と受け取ろう。

 メッセージパックを渡しておく。

 

「シグナムさんや。いざとなったらこれを聞いてくれ」

「詳しくは言えないのだな」

「直接言うのは難しいし、オレにしか解決できないと思うから」

 

 たぶん人に直接言うとぶっ倒れると思う。

 

「お前を、リコを信じよう」

「センキュ。つっても、オレはそっちの事情をちょっと詳しく聞きたいけど」

 

 俺だってシグナム達を信じてるけどさ、一応確認だけはさせてくれ。

 

「管理局の人達曰く、闇の書が完成しちゃうとロクな事にはならないらしいんだけど?」

 

 聞けば、目を伏せて逸らされた。

 多少はその危険というか、可能性はちゃんとわかってたらしい。

 

「主はやての麻痺は、闇の書と我々が原因なのだ」

 

 と、言いますと。

 

「……主はやてはまだ幼く、闇の書を所有するだけでも魔力を吸い上げられ身体に支障をきたしていた。それが足の動かない理由だった」

 

 持ってるだけでそれとか完全に呪い装備だなやっぱ。

 でもなんで今になって?

 

「我々ヴォルケンリッターは魔力で構成されたプログラムだ。ただでさえ闇の書だけでも負担になっていたのに、我々4人の存在を維持する為にさらに魔力を使わせ……」

 

 スリップダメージが増し耐えきれなくなって、足の麻痺だけで済まなくなってきたと。

 

「闇の書が完全な状態になれば、主はやては呪いから解放され完治する。もう残りのページも半分を切った、後少しなんだ」

 

 まだ疑問は残るけどまだ黙っていよう。

 完成まで半分残ってるならクロノとユーノの情報を待ってもまだ間に合う。

 

「向こうには言わないでおくよ。その代わり、協力もできなさそうだけど」

「主はやての側にいてくれるだけでも、助かる」

 

 

 オレの方はそのメッセージパックが全て。はやて云々より地球もぶっ飛ぶやべーことになるからいざとなったらよろしくね。

 

 

「相変わらず訳のわからないことを言うな」

「わっ、せっかく整えたのにぐちゃぐちゃにするなよ!」

 

 乱暴に撫でやがって!

 

 一応言うけど、冗談のつもりじゃないからね。

 今後俺に不審な行動が目立ち始めたら渡した順によろしく。ほんとによろしく。

 

 自分でいうのもなんだけど、俺がいなくなったらみんな悲しむだろうし俺もやれることはやるよ。

 ダークファルスという闇を超えて、光に満ちた夜明けを迎えるために。


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