おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する 作:親友気取り。
はやてが倒れた。
全ての中心に居て、全てから何も関係のないあいつが、苦しんでいる?
なんであいつが苦しまなきゃいけないんだ。
あいつが、何をしたっていうんだ。
ただ闇の書の主になっただけで、どうしてこうなるんだ。
「リコだ、です! リコ・クローチェ! 八神はやては、どこですか!」
受付の紙なんて書き殴り、案内を拒否して廊下を進む。
何も考えられない。まずは、はやての安否の確認をしないと、まずは……。
しばらく歩き、見えた個室の表札は「八神」。躊躇いなく開ける。
そこには見慣れた四人の騎士達と、ベッドの上で泣いているヴィータをあやす“何でもないフリをする”はやての姿があった。
「あぁ……」
「なんやリコちゃん、変な顔して」
平静を装っているけれど、それが空元気な事くらい見ればすぐわかる。
苦しかろうに、今も苦しかろうに、心配かけさせたくないからって……。
なんて痛ましい姿なんだ。なんで、俺はこの苦しみを何ともしてやれないんだ。
解決方はないのに、もう何も思いつかないってのに、最期までそうして笑っているつもりなのか?
何も知らず、自分がただの病気でいつか治ると言い張って。
絶望も知らず。
「リコちゃんもこっちきよ」
そんな慈愛に満ちた甘い誘惑にふらふらと近寄り、ヴィータに変わってはやてに寄る。
命一つも救えない俺にすら、こんなに優しくするはやて。
「まったく、手のかかる妹分やでほんま」
知らない事がいかに不幸であり、幸福な事か。
訳分かんねぇよ。どうしてこうなるんだよ。どうして、はやてばっかりが……。
「リコちゃん?」
「……んだよ……」
「髪の毛てっぺんまで紫色やで」
「金髪のリコちゃんが好きだったか……?」
「綺麗な色しとったんにもったいないなー思って。てか、どうやって色変えとるん?」
「リトマス紙みたいなもんだよ」
「めっちゃ不便そう」
変な色だろう? 負け犬ルーサーな俺にお似合いだよ。
詰みの負け。完封。
俺を生け贄にした希望の一手も虚偽の物で、もはや抵抗する気力もなくなった。
だってもう、いくら考えたってどうせ嘘を吹き込まれるんだろ?
「リコ、少し話がしたい」
「……なんだよシグナム」
「主はやて、少し場を外します」
「そんなかしこまらんでええって。みんなびっくりさせてごめんな、今はもう平気やで」
立ち上がるよりも先に、足の重い俺を引きずるようにシグナムは俺を病室の外へ連れ出した。そしてそのまま、守護騎士勢揃いでぞろぞろと病院を出て人のいない裏手へ。
「何を黙っている」
シグナムだけじゃない。まだ涙目のヴィータも、シャマルも、ザフィーラも、似たような鋭い目で俺を睨んでいる。
連れて行かれた先にあったベンチにだらしなく座って、なんでもないと手を振り──
──頬を叩かれた。
あのシグナムが、感情に身を任せたみたいな事をした。
「お前って奴は……!」
「リコのそんな姿見たくねぇんだよ!」
ヴィータまでも? そんな姿って、どんなよ。
ちょっと頭がリトマス紙になっただけだろ?
「リコちゃん……」
「無理をするな。お前が何を抱え込んでいるのか、話して欲しい」
「お前ら……」
これは、希望なのか?
……。
…………。
そうだ、まだこいつらが味方に付いてくれれば戦える。
諦めた俺の心に、また気合いが戻ってきた。
最後まで諦めず抵抗するのが、アークスだったな。
そうだ、そうだ。冷静になれ。
闇の書が暴走し再び封印をかける時に主と周囲空間を巻き込むとは言われたけど、欠片が主に憑りついて殺すんじゃなくて本の方から殺しに出る挙動な筈だ。
考えろ、考えろ、リコ・クローチェ。
諦めるってのが思考誘導の結果だとすれば、本当は何か隠したい解決策があるって事だろう?
考えろ。考えろ、考えろ。
ダークファルスですら恐れて隠したがる黎明へ至る道筋。何かあるんだろ。
無理だと思うから無理だとどっかで聞いたじゃないか。
時間が足りない。
ユーノやクロノの協力も必要だ。そうだ思い出せ、“英雄は一人じゃない”。
俺が一人で抱え込んで勝とうだなんて、なんでそんな事しようとしたんだ。
まずは完成までを……欠片復活までを少しでも長引かせる。
いくら思考が操られてるったって、それにも限度がある。理性が残っているのだから。
今だって、ちゃんと話が通じてる。俺に味方してくれている。
よし。
まずは、蒐集をいったんやめて貰って──
「──悪いが、その話は聞けない」
…………え……?
「リコが管理局の連中に何を言われたのか知らねぇけどよ、闇の書を一番良く知ってるのはあたしらなんだ。だから、はやてを助けるならあたしらに任せてくれて間違いねぇ」
どう、いうことだ?
「ごめんなさい。最近しっかりお話できてなかったけど、リコちゃんの事も寂しがらせてしまったわ」
違う、違う!
「残りももう数えるほど。済まないが、後少しだけ待っていてくれないか。すぐに終わらせよう」
なんで、ここまで来て?
味方じゃないのか?
あと、残り? を、止まってくれず、埋めようと?
「……いらぬ心配をかけたな。だが、主はやての事は我々に任せてくれて間違いはない」
おい、シグナム……なんで……お前までそっち側なんだよ……。
味方じゃなかったのかよ!
そう問いかけても、他の面々に目伏せをするだけで聞いてはくれない。
それどころか、時間も惜しいと言いたげに背を向けた。
「ははは、あぁ、そうかい……」
そっかぁ……。
去っていく騎士達を見送りながら、寒空を見上げるしかできない。
「…………」
もう俺に出来る事は、ないな。
……。
…………。
……………………。