おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する 作:親友気取り。
良き週末を。
夜の帳が下り、どこまでも澄んでいた青い空はあっけなく闇に包まれた。そんな夜明けを待つ空に吐いて出た白い息が、消えていく希望を表すかのように吸い込まれていく。
……なんて考えて乾いた笑いが出た。
だってまだ吐き消せる程に希望が残ってたなんて、笑えてしょうがないじゃないか。
もうなんにも残ってないのに。
だから手遅れだと、繰り返し警告されたのか。
さっさと介錯を受けていれば、こんな真実を知ることなく終わることができたのだから。
あのやり取りの後、何時間をこの病院裏にあるベンチで過ごしただろう?
朝から昼を過ぎて夜になるまではいたから……半日以上? 時計は一周してないと思うけど。
シグナムら守護騎士の首尾はどうだろうか。
もう残り後ちょっとなんて言ってたし、そろそろ終わるかな。
そしたらどんなになるだろう。まずは八神家が爆発するかな。あるいは、街中にダーカーが大量に溢れるとか。
諦めて脱け殻になった俺はここでこうして何かするわけでもなく、もはやする事もなくぼーっと終焉を見届けようとしている。
あいつらがさっさと闇の書を完成させて、何もかも巻き込んで、近くにいた俺も巻き込まれて死ねばいいんだ。
スタイリッシュ無理心中。
文句なしのバッドエンド。
土手でなのはとフェイトと話をして、カフェっつうか豪邸でアリサとすずかと話をして。
家をクリスマスの装飾で飾り付け、わいわいと思い出を作って。いなくなってもいいように、オラクルに帰るなんて事を言いふらして。
心残りの無いように、俺の事は思い出に生きる一人として薄れ去る存在になるよう仕向けて回ったのに。
ぜーんぶぜんぶ。意味もなし。
なんにも救えない。
たった一人を救うなんて事がいかに難しく、そして夢物語であったか。
「……まだ……」
何をもって救いとするか。
脳裏にふとよぎった自問への答えは、あっけなく。そして、それがあるかと。
ベンチから立ち上がった時、ぱりぱりと至るところから氷が落ちた。
なんだか遺跡から蘇った石像になった気分だ。
これはこれで楽しいけど、蘇ったのは石像じゃなくて悪神なんだよな。
はは、ナイスブラックジョーク。ダークファルスなだけに。
ふらふらと歩みを進めながら廊下を歩き、ほぼ無意識に八神の名札がついた病室の前にたどり着いた。
今の俺はどんな顔をしているだろうか?
きっと、デューマンらしく青白い顔をしているだろう。髪の毛だっててっぺんまで紫に染まって、綺麗な一色染めだ。もしかしたら角も少し伸びてるかも。
はははは、リコちゃん2Pカラーの出来上がりだな。
扉を叩く直前で手が止まり、動悸が激しくなっているのに気が付いた。
視界に入った手も震えてる。
──誰もいないと油断し、扉越しにはやての苦しそうな声を聞いてしまったからだ。身体の異常はもはや、常に深い苦しみを背負わせるほどとなっている。
それが闇の書を所有しているだけで生まれる痛みにしろ、なんにしろ。このままでは苦しみ抜いたあげくに殺されてしまうのだろう。
助けなきゃ。
守護騎士達は俺と同じく思考を誘導をされて、一切の疑い無く闇の書を完成させようとしている。それが主であり家族であるはやてを救うと信じて。
ダークファルスを復活させるという真の目的に気がつけないまま。
あと残り少ないページを埋めて、シグナムら守護騎士が闇の書を完成させてしまうのが先か。
あるいは、俺の中にいるダークファルスが勝利を確信して食い破って出てくるのが先か。
猶予もなく、終わり。誰も救われない。
いずれにせよ、はやての死は避けられず始まり分岐する物語。
助けなきゃ。
前まで考えてた作戦であれば、実行ができれば、本当にそれができていれば、ハッピーエンドだったんだ。
だけどそれが無理だってわかったなら、せめてもの一手がある。
これだって立派な救い。
「……助け、なきゃ……」
嘆きの果てに諦めの境地へと至り、力が抜けて軽いノックの音が出た。
一拍置いてはやての元気に振る舞う声がして、顔も見ていないのにそれが空元気だと確信してしまう。
ぼろぼろと涙が零れるが、それを拭う気にもなれなかった。
「リコちゃん、なんて顔しとるんや……」
「……お似合いだろ……?」
笑顔のはやての姿は、とても痛々しかった。
何もわからない原因不明の麻痺が進行する恐怖。苦しく、死が間近に迫っている恐ろしさ。
それを押し隠し、家族の為に笑顔を作って。
はやてを守る騎士はどこまで行ったんだろうか?
まぁ、今は蒐集が言ってた以上に時間がかかってるみたいだしそれはそれで幸運だと思うんだけど。
だって完成する前にこの答えに至れ、そして騎士がいたら止められるから。
「……ど、どうしたん。なんか変やで、リコちゃんらしくない……」
どうして、ここまで素晴らしい程に健気なはやてがこんな業を背負わなければならないんだ。
きっと本人は真実を知っても、苦しむのが自分で良かったとか言い出すんだろう。
「ほ、ほら、泣かないで笑って! 私はな、笑顔のリコちゃんが一番好きなんや!」
何も知らないはやてがいつもの笑顔で語りかける。
──そうだ、彼女はまだ何も知らないんだ。
何も知らない事こそが、唯一の救いじゃないのか?
そうだ。それこそ救いなんだ。助ける方法なんだ。
ああ、良かった。この事に気が付けて。
今も絶望したままベンチで終焉を待っていたら、最後に残った救いの手段すら投げ捨てる所だった。
助けなきゃ。
「……」
「な、なに? どうしたん?」
この街を、見知らぬ誰かを殺すなんて事をはやては望まない。
自分のせいで誰かが不幸になるなんて、そんな事。
きっとそんなことになれば、安らかに眠るなんてできやしないだろう。
何も知らずみんなに心配され、家族の愛を存分に受けている今が。
今が、一番幸せなんだ。
そうだろう?
「リコ、ちゃん……?」
──ここで死ねば、安らかな終焉を迎えられる。
「……」
手には、愛剣のラヴィス=カノンがしっかりと握られていた。