おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する   作:親友気取り。

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これから隔日となります。


2-37 予感

『あー、あー、ごほん。オレはリコ。ご存じアークスのリコ・クローチェ。

 どういう状況かはこれを録音してる時点では分からないけど、それでも残しておく。

 これは証拠だ。オレがまだ、ここにいるという。

 

 ……これ聞いてる頃ならたぶん手遅れ。オレは、オレのままじゃないだろうね。

 浸食されつつあるこんな身体じゃどこまでできるか分かんないけど、やれることはやる。

 ただ、駄目だった場合は、その、引導ってのをさ……頼みたくて……』

 

 

 

『えーっと……前のってどこまで話したんだっけ? まあいいや。

 敵の名前はダークファルス。悪意とか憎悪が意識を持った感じの奴。そいつはまず実体を得ようとして……依り代を探して憑りつく……』

 

 

 

『この肉体は濃いダーカー因子に汚染されて、ダークファルス一歩手前みたいになってる。

 あいつらに有効打を与えられるのは主にフォトンのみ。自害もできないし他にフォトンを扱える者もいない……。ならエミリアさんが用意してくれた棺桶に入って、こっちの世界で唯一消し去れるアルカンシェルを使ってもらって介錯されるしか道はないでしょ? 

 ああ、あと。早めにこれを聞いてくれるならおれを呼ばないようにって伝えておいて。誘われて一緒にヤツも出てきちゃうからさ』

 

 

 

『いいかいシグナム、よく聞いてくれ。このメッセージパックの中には……。

 やべ、台本忘れた。ちょ、ちょっと待って。これなし。えっと、停止停止──』

 

 

 

『ダーカー因子に汚染されたモノの浄化、及びダークファルスと戦う方法かぁ。

 フォトンを纏わせた攻撃を叩きこむってのが定石なんだけど、魔法でもいけるかはだいーぶ怪しいのよねぇ。魔法とフォトンって互換性あるらしいけど、あー、でもそれって昔の設定だっけ……? うーん……』

 

 

 

『今のオレは、だいぶやべーと思う。シグナムがこれを聞いてるのだって、変な挙動してるからだろ? 

 ダークファルスが憑りついて、都合の良いように思考を誘導したり…………行動を…………』

 

 

 

『フォトンは想いを力にする。だから、皆で気合いを込めればおっけー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八神家のリビング。

 病院から一度帰り集った守護騎士は、そこで事前にリコから渡されていた十何通にも貯まったメッセージパックを確認していた。

 はやてが倒れた衝撃以上に様子のおかしいリコを不審に思ったシグナム達は念話で示し合わせて会話を切り上げ、真実を知るためにメッセージパックを開いたのだ。

 以前に「様子のおかしいオレに構うな」と告げられていたせいで不自然な会話となってしまったが、それがどんな結末を生んでしまったのか騎士達は知らない。

 

「あの馬鹿リコ、こんなことやってたのかよ……」

 

 自身にはダークファルスなるモノが憑りついているから思考がおかしくなってしまっている事。

 それを倒す方法を模索はするけど、間に合わなかった場合は後を頼みたいという事。

 聞こえてくる内容は偶に重ねて話すこともあれど、一貫して最悪自身はどうなってもいいという想いが籠っている。

 

「シグナム。すべきことは決まっているな」

 

 拳を握りしめたザフィーラが低く呟いた。

 その言葉にシグナムはしっかりと頷く。

 騎士達の今の目的はただ一つ。それは、ひとり戦い苦しみそして絶望に押しつぶされそうになっているリコを助ける事にあった。

 

 闇の書もその中にある闇の欠片も関係ない。

 今は家族を救いたいというたった一つの想いが、魔力の蒐集という使命を跳ねのけ勝っていた。

 

「ああ。しかし、リコに憑りついていてるダークファルスだったか。奴に有効打を与える方法がリコにしか使えないフォトンとなるとどうしたらいいか……」

「あたし達の魔法じゃ効きにくいってだけじゃねぇの?」

「ヴィータちゃん、そんな単純な相手だったらリコちゃんも悩んでないわ……」

 

 ただ、状況は悪い。

 なんせメッセージ内ではひたすらに「フォトンを武器にすれば戦える」と伝えているのに対し、その方法が一切ないのだ。

 それが単に言い忘れていたのか、それとも知らずの内に話さなくてもいいやとなったのかは分からないが、これでは守護騎士といえど手が出せない。

 ヴィータの指摘もあるが、あくまでフォトンと魔法が互換性があるだけで代用できる訳ではない。

 

 

『うるせぇ!』

 

 

 沈黙が包み込んだリビングに、リコの声が響いた。

 録音されたメッセージパックの音声ではない。部屋の隅、前に置いてそれから放置されていたナベリウスパパガイが空気も読まずに喋っている。

 

『シグナムゥ!』

 

 やかましく。

 

『失礼な。ひとくち飲んでみろよ、おいしいぞー』

 

 空気も読まず。

 

 思わず近くにいたヴィータが、ナベリウスパパガイを殴り飛ばした! 

 

 リコちゃんコーナーと称される混沌の魔窟へ鳥類が止まり木ごと倒れこみ、倒れた先の机に乗っかっていたマターボードやヴィータの描いた似顔絵、フォトンドロップ等をがらがらと崩していく。

 被害は大きいが、沈黙はした。

 

 

「ヴィータ、落ち着け」

「……悪い」

 

 冷静になった所で、どう戦うべきか? 

 崩れて散らばった小物を拾い集める傍ら、シグナムは何かヒントが無いかと探す。

 

「こんな物を置いておくくらいなら、何かもっと有用な物を残して欲しいものだ」

「リコちゃん、本当に分かりにくいことするから……」

「つぅか、なんでこんなよくわかんねぇ宝石みたいなのいっぱい置いてあるんだよ」

 

 確かにと返し、ザフィーラが意外と大きいナベリウスパパガイを起こす。

 その時、喋り始め特有の機械音がして全員が身構え緊張と沈黙が走る。

 

 だが、それこそが希望のひと声だった。

 

 

 

『フォトンが結晶化した自称珍しい奴。綺麗だろ? 純フォトンだしうまく使えばこの世界でもフォトンエネルギーを使えるかもね』

 

 

 

 鍋パーティーの飾りつけの際に発された言葉。

 それが何を示すのか。

 再び沈黙の訪れたリビングの片隅、全員が床に散らばったフォトンドロップを見る。

 

「シャマル」

 

 懐から出したのはベルカ式のデバイスで用いられる道具であるカートリッジ。

 

「少し加工が必要だけど、これなら……!」

「メッセージの録音といい回りくどいな、あいつは」

「だな。あたしも手伝う」

「至る所に飾られていたな。集めてこよう」

 

 鍋パーティの時に飾った上に、クリスマスの飾り付けとしてもフォトンドロップやそれよりも大きいフォトンクリスタルやスフィアもあった。

 こうなる事を意識していたのかは分からないが、通常のカートリッジと同じようにデバイスで使用すれば一時的とはいえ武器にフォトンを纏わせることができるだろう。

 

「希望が見えたな」

 

 シグナムの呟きに全員が頷き、

 

『全知はオレだ! オレの導き出した解に間違いはない!』

 

 再びやかましく鳴いたナベリウスパパガイは再び殴り飛ばされた。

 台詞を繰り返しているだけでお前は別に全知じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………違う、……違う……! ぁああああ!」

「リコちゃん、落ち着き! リコちゃん!」

 

 その目にもう正気はなかった。

 しかし絶望と闇に飲まれ一時は刃を向けたものの、リコには最後の一押しができずにいた。

 思考は殺せと叫んでいるが、体が命令を拒否しこれ以上動けない。

 

 ついには手に持ったラヴィス=カノンを落として床に刺し、呻き声を上げながら紫に染まった頭を掻きむしる。

 

「止まれ!」

 

 “救い”と称した最悪の一手を踏みとどまったリコを止めたのは、朝に会って以来のクロノであった。

 扉を開けると同時に得意のバインドで暴れる影を拘束し、それがリコだったのは予想外だったようで眉をひそめる。

 

「探すのに手間取った。……色々聞きたいことがあるし、おとなしくしてくれると助かるんだけど」

 

 造作もなくバインドを引きちぎったリコが、赤く染まった瞳で振り返る。

 

「な、なんや、何が起こっとるんや……」

「君が、闇の書の主?」

「せやけど、一体何が起こっとるん」

「……説明は後回しだ」

 

 はやての事はもう眼中になく、床から引き抜き手にした愛剣で斬りかかるリコ。

 とっさにバリアを張って受けようとするが、すぐに破られデバイスでの鍔迫り合いとなった。

 

「ぐ」

 

 重い。細く小さい体躯に見合わぬその力に押し負けそうになる。

 

「リコちゃん! やめて、暴力はやめや! 前に喧嘩したら追い出す言うたよな!」

「……っ!」

 

 その言葉に顔が歪み手が緩む。

 一瞬を逃さずクロノは新しいバインドで捕まえ、窓から小さなリコを投げ捨てる。

 まずは闇の書の主から距離を取らないと巻き込んでしまうと踏んだからだ。

 

 既に病院周辺には結界が張られているので、投げた所で逃げられる訳でもない。

 一息ついたクロノは振り返り、時間もなく端的ではあるもののはやてに説明をする。

 

「闇の書の中に、ダークファルスが……?」

「知っているのか?」

「前にリコちゃんが言うとった。フォトンを光とするなら、反対に闇としてダークファルスがおるって。でも、おかしない? リコちゃんはフォトンを扱うアークスなんやろ?」

「……だが、あの様子は……」

 

 まるで、闇に飲まれている。

 

「よくわからんけど、リコちゃんを助けてください! お願いします!」

「ああ」

 

 闇の書の主が何も知らない少女であることは予想外であったが、今は殺戮に走りそうなリコを止める事が先決であった。

 自身のデバイスである杖のS2Uを握りしめ、リコを追い窓を飛び出す。

 

 外に出たその瞬間に、下方から黒い光を纏ったダブルセイバーを携えたリコが振り回しながら上昇し襲い掛かってくる! 

 

「くっ!」

 

 正面から打ち合えば負ける事は分かった。クロノはトルネードダンスをバリアで逸らして避ける。

 コートダブリスⅮと呼ばれる武器を装備したリコの影は禍々しく歪んで見え、その存在はもはや同一人物であるかすらも疑われるようにすらなっていた。

 髪の毛は紫一色に染まり、バリアジャケットのような黒をベースとした硬質な戦闘衣を身に纏い、殺意に満ち溢れたその姿。

 

 

「あれは、ダークファルスなのか……?」

 

 

 その姿を見て、クロノは疑う心理こそあれ半ば確信してしまった。

 救いたい存在を救うこともできず、手立てもなく、絶望の海に沈みこんだアークスの成れの果て。

 負の感情を溜め込み歪んだフォトンのそれこそが、ダークファルスなのだと。

 病気とは、憑りついたそれのことなのだと。

 

 救援は呼んでいるがいつ来るのかは分からない。

 当たれば死ぬであろう攻撃を躊躇もなく繰り出す、得意のバインドもほぼ通じない相手。

 相性が悪いとしか言えない戦い。

 

「やるしかない……」

 

 杖をしっかりと握りしめ前を見据える。

 それに答えるように、リコも武器を構えた。


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