おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する   作:親友気取り。

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2-38 引き裂かれた心

 コートダブリスⅮを掲げ、跳躍。

 とっさに避けたが、振り下ろされたサプライズダンクはそのまま素早く斬りつけるアクロエフェクトに繋がる。

 

「リコ、正気に戻れ! 話を聞いてくれ!」

 

 バインドで一瞬動きを止めた隙に接近し、デバイスを振りかざす。

 再び鍔迫り合いとなったがそれが目的だ。

 

「手荒だけど!」

『Break Impulse』

 

 手加減できる相手ではないと判断して武器を破壊しようとブレイクインパルスを放とうとするが、それは軽く避けられる。

 文字通り一瞬無敵になるステップ。それをゲームではない現実世界へ持ち込めばどうなるか。

 鍔迫り合いから一転して体をすり抜けるという謎の現象が起き、驚いたクロノの判断が鈍ってしまった。

 その上、クロノを中心にしてステップをしたせいでリコは背後へ回り込む形になる。

 

「しまっ──」

 

 防御は間に合ったが、それはダメージを和らげるだけに過ぎない。

 打ち上げられ、続いて流れるような四連撃を叩きこまれた。

 

「ぐ、まだだ!」

 

 今は使っていないものの、メインの武器はラヴィス=カノンと呼ばれる剣……つまり接近が得意ではないのか? 

 それに、以前空中戦はできないと話をしていた。

 

「卑怯とは言うなよ」

 

 得意のバインドは通じない、接近戦は危険。

 けれど空中戦が苦手と話すなら射程外から撃てばいい。

 その結論に至ったクロノは飛んで距離を取りる。

 

 跳躍力はあるが、充分に高度を取れば問題ない筈だ。

 振り向いた時。

 

 ツインダガーを装備し、重力を無視した跳び蹴りで空中のクロノへ急接近するリコの姿があった。

 

「空戦は苦手だったんじゃないのか……!?」

「……」

 

 デバイスで蹴りを弾くが、ツインマシンガンへ切り替えたリコは射撃を繰り返しながら纏わりつくように接近を続ける。

 リコの持つ武器は一つではない。多種多様の武器、そのPA、そしてテクニック。

 豊富な攻撃手段を持つ上、この世界でアークスの戦闘術をあまり披露していない為に先の読めない攻撃を繰り返されクロノは苦戦していた。

 

「どれも、非殺傷なんてレベルじゃないぞ! 加減してくれ!」

 

 かすめた弾丸が容易に皮膚を引き裂く。

 殺し、殺され。生きるか死ぬか。

 数多の戦場を駆け抜け、数多のエネミーを撃破し、数多の死体の山を築いた攻撃。

 次元犯罪者も非殺傷の攻撃を使うには使うが、ダーカーの殲滅という使命に生まれたアークスとは質が違う。

 

「このっ」

 

 銃口を杖で殴って逸らし、空いた体に蹴りを入れ飛ばしようやく距離が取れた。

 

「スティンガーレイ!」

 

 追撃に魔法を叩きこむ。

 全てがヒットし眼下のアスファルトに小さな影が吸い込まれ消えた。

 油断はせず、さらなる追撃に上がった煙幕の中へ砲撃のブレイズカノンを放り込む。

 

 見た目は華奢だがそれは強さの当てにできない。

 多少オーバー気味でないと鎮圧は不可能と踏んだからこその容赦のなさ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 相手が常識の通用する相手ならば、それで良かっただろう。確実に無力化できている。

 だが、相手はアークスの装備と技能を持ち込んだ存在。

 

「……リコ、冗談は口だけにしてくれないか……?」

 

 煙が晴れ現れたリコは、カタナを装備し青い光を身に纏い、そして無傷であった。

 

「ダメージのひとつもないのは人としてどうなんだ」

 

 悪態をつくのも無理はない。常識が……否、設定が違うのだ。

 カタナコンバット。

 最大20秒無敵になれるという効果を持った、カタナ専用のアクティブスキル。

 一撃と一瞬が重要な戦い方をする魔導士相手には反則に近い。

 

「……」

 

 柄に手を伸ばし追撃に出ようとして、止まった。

 

「なぜ結界内に、民間人が!?」

 

 リコの視線の先には本来いないであろう人影が。

 それは、すずかとアリサ。

 縁があったから導かれてしまったのか、それとも何かの理由か、ただの偶然か。

 運悪く理性を失っているリコの眼前に出てしまった。

 

「君達、早く逃げろ! うわっ!?」

 

 救助に向かおうとしたクロノを黒い手のようなテクニック、イル・メギドが妨害をする。

 

 

「……リ、コ?」

「リコちゃん……?」

 

 魔法もテクニックも、何も分からなくたって今が戦闘中でリコの様子がおかしい事くらいはわかる。

 

「あ、あんたこんな所で、そんな危ないもの持って、何してんのよ!」

 

 動揺し、怯えつつも放たれたアリサの言葉にリコは攻撃ができずにひるむ。

 

「……」

 

 眼前の存在を滅ぼす暴力となっても、友人の言葉は届いていた。

 落としたカタナを拾うことなくラヴィス=カノンを取り出すが、

 

「リコちゃん、人を守るのがアークスじゃないの……?」

 

 すずかの一言で再び止まる。

 

「ぐ、う、ぁああああ!」

 

 暴れたい訳ではない。

 殺して回りたい訳ではない。

 ましてや世界を滅ぼしたい訳ではない。

 

 救いたいという想い。

 

 深い闇に囚われても、奥底でそれはまだあった。

 想いを捻じ曲げられてしまっても。

 

 はやてに剣を向けた時と同様に、剣先は定まっていなかった。

 殺すことが救いだと思考を支配されていても、実行できるはずがない。

 

「あんたはそんな馬鹿な事するはずないわよ! 馬鹿だけど!」

「リコちゃん、落ち着いて!」

 

 この世界でできた友人の声を聞き理性を取り戻しかけ、それを阻止するかのように闇の勢いの強まったその瞬間、叫び声を上げながら逃げ出した。

 赤黒い光がリコを包み、次の瞬間にはいなくなっている。

 

「君達、無事か!?」

 

 イル・メギドを振り切ったクロノが到着した。

 

「も、もう! いったい何なのよ!」

「空を飛んで……」

「時間がないから短直に言うと、ここは危険だ。今なのはとフェイトが向かっているから、その2人に──」

「待って! 馬鹿リコだけじゃなくてなのはとフェイトも!?」

「アリサちゃん、一回落ち着こう?」

「なんですずかはそんなに落ち着いてるのよ!」

 

 ──だって訳の分からない状況はリコちゃんで慣れてるし。

 そう言おうとして押し込み、元凶であるリコを思案する。

 

「とにかく、ちゃんと説明しなさいよ!」

 

 納得はいっていないようだが、時間もない。

 クロノは空に出て消えたリコの探索を行おうとして、エイミィから通信を受けた。

 その内容は、闇の書の騎士の接近。

 

「こんな時に……っ!」

 

 リコと騎士に繋がりがあるとすれば、当然敵。

 

「管理局!」「おい貴様! きーさーまー!」

 

 見えたシグナムとヴィータの影に武器を向けるが、騎士は戦いに来たのではないと一瞬で察しがついた。

 セットアップは済ませている。武器も携行している。なのに、全く今までの戦意も見受けられずそれどころか道を聞くかのような雰囲気すらあった。

 

「リコを見なかったか」

「あたし位のおっきさで、頭が紫で、頭がおかしいやつ」

「放っておくと危険なんだ。可能であれば教えてくれ、すぐにでも止めたい」

 

 それは、理由は分からずも目的は一致しているという事である。

 一時的な共同戦線とはなるが、強力な戦力が味方に付くのは嬉しい事であった。

 

「……不意打ちとかしないだろうな」

「ベルカの騎士にも誇りがある」

「卑怯な真似はしねぇよ。戦う時は正々堂々だ」

 

 最初のなのはとの戦闘では不意打ちに近かった気もすると言いたいが、フェイトとシグナムの戦闘では確かに正面から戦っていたような……。

 時間もない。何か動きがあればエイミィが教えてくれるだろう。

 クロノは結論を出し、頷く。

 

「分かった。ひとまず君達を信じてみよう。他の騎士は?」

「ザフィーラとシャマルは我らが主にすべての報告と、リコを止める作戦の準備を行っている」

「で、リコどこ行ったんだよ」

「……彼女は……」

 

 その時。

 遠くの方からまるで怪物のような咆哮が響く。

 

『クロノくん! 臨海公園付近に巨大な生命体が発生!』

「発生?」

 

 何か嫌な予感がした。

 続いて送られてきた映像データを恐る恐る確認する。

 

 そこには、白い体躯をした龍がいた。

 

 大きさの割には手足は細く、背部に見える黒い羽根のような部位もまた細い。

 全体的にやせこけた印象を受ける中、胴体のみが青く膨らんでいる。

 

 クロノ達が知る訳もないが、その姿はまさしく造龍クローム・ドラゴンと同一の物であった。

 

「2人とも、少し辛い話になる」

「……まさかとは思うが……」

「その通りだ。リコは、ダークファルスに負けた」

 

 デューマン種の元となったハドレットの因子を受け継いだのか、ダークファルスとなったリコのヒューナル体としてこの世界に現れたクローム・ドラゴン。

 通常個体と違う点を挙げれば今も光を放っている赤い腕輪と、ラヴィス=カノンが変化した剣が握られている所だろう。

 

 映像を見たシグナムとヴィータの2人は、既に手遅れだったと顔をしかめた。

 

「くそっ!」

「私達がもう少し、早くしていれば……!」

 

 あの時、リコの目の前でメッセージを開けば良かったのだろうか。

 それとももっと早くに異常に気が付き聞いておけば。

 

 後悔は募るが、現実は非常にも散々本人の言った“手遅れ”である。

 もしその場で宥める事ができても、フォトンドロップの存在に気が付かずダークファルスをどうにもできないだろう。

 何が最善の道かは誰にもわからない。

 

「君達はリコの仲間なんだろう? 何か、手はないのか」

「ある。ダークファルスと戦う術はフォトンだ。それを、カートリッジという形で一時的ではあるが私達も今は使うことができる」

「攻撃はあたし達に任せてくれ。リコが言うには、フォトンしか通じねぇみてぇだし」

「分かった。遅れてなのは達も到着するから、その時にカートリッジを貸してあげてくれないか」

「高町なんとかの攻撃なら……」

「それにテスタロッサか。心強い」

 

 映像で龍が吠え、少し間を開けてクロノ達の耳にも咆哮が届いた。

 

「行こう」

「……リコを、助けるんだ」

 

 闇の書のいざこざもなく、今はただ目の前で暴れる家族を助ける為に力を振るう。

 シグナムも、ヴィータも、そしてここにはいないがシャマルもザフィーラも。

 

 怪物と成り果て暴走するリコを助ける事は諦めていない。


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