おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する 作:親友気取り。
「シュワルベフリーゲン!」
鉄球が宙を舞い、クローム・ドラゴンがそれに反応してメギドを放ち迎撃する。
双方がぶつかり合い爆発し、煙幕を掻き消すように巨大な剣が振るわれ、接近したヴィータに襲い掛かる。
「おい貴様! リコを、リコを返せよ!」
すんでを躱して懐に一撃を叩きこむが、左腕で容易に止められる。
どうしてこんな姿なのかはわからないが、グラーフアイゼンの一撃を受け止めたその腕にはいつもリコが身に付けていた赤い腕輪があるのだ。
ダークファルスに負けて死んだわけではない。取り込まれただけ。
こいつをフォトンで浄化すれば、中からリコが出てきて助かる筈だと力を振るう。
「ヴィータ、下がれ!」
咆哮と共に空間にひびが入り黒い塊が出現し襲い掛かる。
シグナムの警告に従って離脱したが、距離が離れるとクローム・ドラゴンが口にエネルギーを貯め始めた。
あれは危険だ。
そう判断したシグナムが入れ替わりに踏み込んで頭部を斬りつける。
高エネルギーの攻撃は防げたが、代わりにぎろりと瞳が仇のようにシグナムを捉えた。
「恨むなよ!」
フォトンカートリッジが消費され、シグナムの剣・レヴァンティンが炎だけではなく光にも包まれる。
「はぁ!」
剣が鞭のように分割され、捕らえるように動く。
シュランゲバイセン・アングリフ。防御を突破する事に長けているこれならとシグナムは選択したが──。
〔…………〕
行動を阻害されたにも関わらず、相手は一切慌てる気配を見せない。
何か罠かとシグナムが疑った瞬間、様子を窺っていたクロノがシグナムをバインドで捕まえ投げ飛ばす。
「くっ」
攻撃を邪魔された訳ではなく、先ほどまでシグナムのいた空間には二体の怪物が来ていたのだ。
どのエネミーともつかない容姿のそれの正体は、リコの所有していたマグ。その成れの果て。
変異してしまったドルフィヌスとシャト。
「こいつらは僕に任せてくれ!」
それほど大きくない。使役獣程度の相手ならフォトンが扱えなくても時間稼ぎはできる。
そう判断したクロノがマグ2体を煽った。
「すぐにこちらも終わらせよう!」
「リコを頼んだ!」
マグを引き付けたクロノから視線を外し、再び黒い塊を出現させ降り注がせたクローム・ドラゴンの懐に潜り込み、一閃。
フォトンを纏った一撃が膨れた青い胴体部を引き裂き血のような黒い体液を噴出させる。
「くっ……!」
宇宙の危機に至る力を持っているようにも見えないまだ不完全なダークファルス。
今はただのエネミーとして顕現しているだけの、まだリコが助かる段階。
──このまま弱点であるフォトンで攻め続ければ、殺してしまうのではないか?
浮かんだ疑問に返す刃がひるみ、止まってしまう。
「シグナム!」
ヴィータの声で我に返り、赤い腕輪の付いた殴りを回避し距離を置く。
中距離では巨大な剣を振るってきたが、よく見れば当たる攻撃ではない。
元より接近戦を得意とするベルカの騎士にとって、大きいだけが取り柄の剣撃など生ぬるい物だ。
大剣と化したラヴィス=カノンを細腕で支え切れていないのか、そもそも動作が緩慢なのもある。
口や周囲の空間から出現させるメギドや黒い塊も予備動作が大きい。
闘牛のようにマグを煽り続けるクロノも、今のクローム・ドラゴンよりも先ほどまで交戦した生身の状態の方が手強かったと感じていた。
当たれば危険であるのは変わりないが、明らかに避けやすい。
「フォトンでぶん殴ればリコは助かる! だろ?」
「すまない、その通りだな」
龍が跳躍し、空を割って足をめり込ませ逆さまに停止する。
何もない空間を足場にするというのは意味分からない能力だが、そうも言っている場合ではない。
先ほどキャンセルされた口からの砲撃を行おうとしている。
今までの攻撃の数々から、その威力がかなりの脅威であることは察しがついていた。
〔…………〕
別々に飛んで逃げ、一歩遅れて2人のいた空間に闇と炎の複合テクニックでありリコの切り札であるフォメルギオンが放たれる。
「油断するな!」
魔導士の常識では放たれた砲撃の向きを変えるなんて事は基本的にできない。
だが相手は違う存在だ。
この世界ではない常識を持っている。
「嘘だろ!?」
ヴィータが驚き、フィアーテを使い逃げる速度を上げる。
フォメルギオンが薙ぎ払うように横へ振るわれた。
すぐ狙われてると判断し魔法を使って正解だ。
恐らくアークスであったとしても、あの攻撃は致命傷になりうる。
だが、それと同時に大きな隙でもあった。
薙ぎ払いという脅威はあるが、砲撃の基本は変わらず固定砲台。
二手に分かれた結果、フォメルギオンの向きから逃れたシグナムが剣を構える。
「行くぞ!」
カートリッジが弾け飛び、再び剣に光が戻った。
「紫電一閃!」
フォトンの光と炎が混じった斬撃が無防備な状態を斬りつける!
〔…………〕
衝撃で背部に生えていた細い翼のような部位が破壊され、バランスを崩し海へ落下し大きな水柱を立てる。
その手ごたえにシグナムは油断をしない。
表面に出ていた闇の一部、具現化していたそれを払っただけだと剣を通じて理解していた。
「どうだ?」
「まだだ。油断するな、またさっきのような砲撃を放ってくるかも知れん」
「わかった。あれ食らったらたぶん死ぬ」
「……リコは、いやアークスはとんでもない相手と戦ってたらしいな」
特殊な能力もないまだただのエネミーで括れる相手。
では完全なダークファルスはいったいどうなってしまうのか?
その答えは惑星ほどの大きさや時間を操る、様々なものを複製する等といったものだが、今の相手がそれらを使えなくて本当に良かっただろう。
「ヴィータちゃーん!」
「シグナム!」
小休止の訪れた戦場に、増援が現れた。
なのはとフェイト。ヴィータとシグナムと何度もぶつかり、お互いの実力は知れた仲。
普段であればすぐに敵対していたが、今はそうも言っている場合ではない。
懐から用意しておいたフォトンカートリッジを渡す。
2人は、それを渡されても意味が分からず首を傾げた。
「今戦っているのはダークファルス。フォトンでの攻撃しか通じない敵だ」
「それ使えばあたしらでも少しはフォトンを使える。だから、それであいつをぶん殴って目を覚まさせてやるんだ」
2人はフォトンというものを聞いたことがあった。
というよりも、嫌でもリコから聞いていた。
「あの、リコちゃんは……?」
フォトンを扱うアークス、リコが不在であるという事は。
「あいつは負けて、取り込まれた」
「でもフォトンがあれば、リコのやつを助けられんだよ」
「取り込まれたって……」
「助けるって、どうすれば?」
説明はヴィータに任せ、シグナムはクロノの救援に向かう。
いくらマグが相手とはいえ、連戦で疲労のあったクロノが押され始めていた。
カートリッジは温存したままシグナムが斬りかかるが、その瞬間にマグは向きを変えて海の方へと飛んでいく。
空を切った剣を持ち直しながら振り返れば、主人が消えた辺りの上空を二体のマグがくるくると回っていた。
「なんだ?」
少しして、海面から光としか形容できない小さな光が飛び出る。
小さなそれはふらふらとゆっくり動き、やがてシグナムの元へ辿り着いて、そして。
「消え、た……?」
弾けて消えてしまった。
今の光は一体何だったのか。
全員が疑問を持ったその瞬間、沈黙していた海が突如として光り輝き荒れ始め、漂っていたマグが海面へ吸い込まれるように消えぐちゃぐちゃと捕食する音が鳴り響く。
「嘘だろおい……」
虚空に亀裂を走らせながら足場にし、それは姿を現した。クローム・ドラゴンの面影を残してはいるが白かった体躯は黒く染まっている。
右腕に装備した変異ラヴィス=カノンと左手首の赤い腕輪だけがまだ内部に取り込まれた人物の存在を主張していたが、今までや先程までとは違い微かな光しか発していない。
アポストロ・ドラゴンと呼ばれる、クローム・ドラゴンの強化種。
新しく生えた禍々しい翼を煌めかせながら咆哮し、その姿に戦慄した面々を睨み付ける。
「高町なんとか、逃げても良いんだぜ」
「テスタロッサ、君もだ」
一目であれと戦うのが得策ではないと分かる。
いくら実力はあれど、子供に戦わせる相手ではない。
「絶対に引きません」
「私達は逃げません」
しかし、2人の戦意は揺らがなかった。
「前にリコちゃんは“力なき者の剣となり盾となる”って、教えてくれたから。だから、ここでわたし達が逃げる訳にはいかないの」
「なのはの言う通り。私達が止めなければ、被害が大きくなる」
逃げろと説得する時間もない。
もう一度咆哮を放ったアポストロ・ドラゴンはもう次の攻撃の準備をしている。
「いざとなればアースラに逃げてくれ」
カートリッジを使いフォトンを扱う事ができるのは確かなものの、無いよりかマシ程度の効力しか発揮していないようにクロノは感じていた。
先ほどダウンをとって海に落としたのも不意打ちによるところが大きい。
倒しきれるかどうかは怪しかったが、思っていても口にはしない。
「ぜってー連れて帰る」
「フォトンは想いを力にするらしい。諦めなければ勝機は見える筈だ」
士気を下げれば勝機もより下がる。
……元の勝機がいくつあるか、誰にもわからないが。