おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する 作:親友気取り。
一時的にフォトンの力を得たと言っても、カートリッジという消耗品を使い一瞬だけ。
相手のHPがゼロになるまで最大12人が何十回とPAやテクニックを放つアークスの戦いと比べてみれば分かる通り、カートリッジ程度の付け焼き刃では状況が良くなるはずもなかった。
アースラ内から確認できる戦況は一切の好転を見せないどころか、むしろカートリッジの残数を気にして節約を始めてすらいる。
急いでモニターを繋いだグレアムとその使い魔であるリーゼ姉妹も、アースラのスタッフと同じくこのままでは負けると踏んでしまっている。
最初にフォトンカートリッジの存在が示された時には希望を見たものの、消耗する一方なのに対し相手はいくら攻撃を加えようが段々と力を増してすらいるようにも見えるのだ。
人間体からクローム・ドラゴン、そしてアポストロ・ドラゴンと進化してきた。
今はまだ本気でないのか、まだ覚醒しきっていないのか。
いずれにせよ、残された道は多くない。
『アルカンシェル、か……』
あの大きさなら、以前にリコが倒せると踏んでいたアルカンシェルで吹き飛ばせる。
周囲の街も巻き込んでしまうだろうが、宇宙の危機と引き換えて街一つで済むのなら安い。
『……責任は、私が取る』
震えを抑えながらグレアムが告げた。
「カートリッジ、ロード!」
なのはのディバインバスターが飛来した黒い塊を粉砕するが、残った数個が襲い掛かる。
「あぶねぇだろうが!」
しかしそれらを逃さずヴィータが殴り落とす。
状況はあまり良くない事は戦いを見ているよりも戦っている面々の方が理解をしていた。
フォトンの使える人間が4人に増えても善戦するどころか苦戦している今は、先ほどまで手加減しているようにも思える程。
砲撃の隙をついて撃退のできたクローム・ドラゴンとは一線を越す猛攻を仕掛けてくる。
「手加減、か」
もし先ほどまでがまだ抑えられている状態で段々と抑えが利かなくなってきているのだとしたら。
なけなしの理性でリコがまだ抗っていた結果としてクローム・ドラゴンの撃退ができたのだとしたら、今の暴れまわる状況は戦況だけでなく助けるという目的でも絶望が覗く。
早く決着を付けたい。
焦り、欲張った踏み込みを自分で戒めシグナムは息を整える。
状況は悪いが、それでも攻撃を続ける内に相手の弱点も見えた。
確かに強力な攻撃を繰り返しているものの、隙がない訳ではない。
むしろよく見れば決まったパターンの攻撃しかない。おかげで慎重に戦えば無傷とまではいかないが致命傷は避けられている。
「残りのカートリッジは幾つだ」
「ひぃふぅみぃ……。そろそろケリ付けねぇときつい」
「そうか」
攪乱に徹しているクロノの疲労も大きい。
仮にカートリッジの残りがあっても、これ以上続ければ事故が起きそこから崩れていくだろう。
リコに決して人殺しはさせたくない。
「シグナム!」
その時、ザフィーラも到着した。
「主はやてとシャマルは?」
「病院を出て今は近くまで来ている。だが、本当にこれでいいのか」
守護騎士達には一つ、策があった。
リコが怪物になってしまった事は想定外ではあったがそれでも作戦は変わらない。
この世界でフォトンを使えるのはリコのみならば、そのリコにフォトンを使わせればいいという話だ。
フォトンカートリッジも効果は一時的にフォトンを纏わせるだけで本職には及ばないことは理解をしている。
ならばそれでダークファルスを叩きつつ全員で声をかけ、リコに気合いを入れさせ呼び起こせばいいと考えたのだ。
最終的な手段が精神によるものな上に情報も少なく成功確率も分からない作戦と呼ぶには脆い物だが、シグナムはそれを採用していた。
フォトンが想いを力にするのなら、リコの想いに賭けてみようと。
メッセージにあった『おれを呼ばないように』とは真逆を行くが、同時に理由としていた“ヤツ”はもう表に出てしまっているのだから構ってもいられない。
「全員聞いてくれ。あの化け物に取り込まれたリコを助ける為に、私達はある作戦を立てた」
攻撃を避けつつ耳を傾ける。
「残りのカートリッジを全て使い総攻撃を仕掛ける。そして奴を消耗させた隙に、主はやてと我々騎士でリコに直接話をつける」
話をつけて、どうにかなるのか?
クロノも言おうとしたが、自信満々に話すので止められなかった。
「それでリコちゃんが助かるなら!」
「このままじゃジリ貧だし、総攻撃で一気に削り切るのは賛成」
なのはとフェイトも作戦には乗った。
「一瞬なら稼げると思う、僕が奴の動きを阻害するから後は何とかしてくれ!」
「私も加勢するぞ!」
「あたし達もいるよ!」「僕だって!」
ザフィーラと遅れて到着したアルフとユーノのサポート班も加わり、氷結やバインド等全ての力を使って全力で動きを封じていく。
状態異常扱いとされた氷結は嫌がる素振りで返され、バインドもすぐ引きちぎられるが今は攻撃をさせなければいい。
「いくよ、フェイトちゃん!」
「うん、なのは!」
なのはのレイジングハートに大気に散ったフォトンや魔力が集められていく。
フェイトも負けじとチャージ。
大量のカートリッジが消費され宙に舞った。
「スターライトォ……」
「プラズマザンバー……」
拘束が振り切られ、アポストロ・ドラゴンの口から真っ向勝負だと言わんばかりのフォメルギオンが発射される!
『ブレイカァァアアアアアアアアアア!』
金と桜の砲撃と、赤と黒の砲撃がぶつかり合う。
全力同士のぶつかり合い。
その一方で、砲撃により無防備となった背部へ回るシグナムとヴィータ。
フォメルギオンが大きな隙を生むのはクローム・ドラゴンの時に知っていたので、背後から攻撃は卑怯という場合でもなくデバイスを構える。
「ギガントォ……!」
まず動いたのはヴィータ。
グラーフアイゼンがとてつもなく巨大化する。
本来ではここからただ殴りつけるだけであるが、違った。
「なんかこうしろって、フォトンが言うんだよ!」
両手で柄をしっかりと握り、チャージ。
フォトンの感じるままに構えたそれは……
「轟天爆砕! ヘヴィィイイ、ハンマァアアアア!」
アークスのテクターがウォンドを使い発することのできるPA、リコの得意技であるヘヴィーハンマーであった。
巨大な鉄槌が、インパクトと同時に大爆発を起こしアポストロ・ドラゴンへダメージを与えると同時に吹き飛ばす!
体勢が崩れてフォメルギオンが逸れたことで、さらにそこへスターライトブレイカーとプラズマザンバーブレイカーが容赦なく襲いかかった。
「私も続こう。シュトルムフォルケン!」
殴り飛ばされて光に飲み込まれた事には同情するものの、剣と柄を合体し弓へ変形させ容赦なく光の矢を構える。
ヴィータと同じくフォトンから何かを感じ取ったのだろう。
一瞬の貯め。そして、
「翔けよ隼! ラストネメシス!」
ブレイバーのパレットボウ用PA、ラストネメシス。それは、アークス時代にリコが師匠によく見せて貰っていたもの。
〔…………グ……〕
続けざまに攻撃を食らったもののアポストロ・ドラゴンの姿は健在であり普通に起き上がって見せた。
しかし今の攻撃に思うことがあったのか、うなり声をあげながら頭を抱えその場で暴れ始める。
「シャマル!」
やがて動作の止まった、今この瞬間。
「……見つけた!」
待機していたシャマルが旅の鏡を使いアポストロ・ドラゴンからリコを見つけ出し、空間を繋げる。
「リコちゃん、掴まり!」
腕を伸ばしたのは、シャマルと共に来ていたはやてであった。
「みんなで一緒に帰るんや!」