おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する   作:親友気取り。

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“Can still see the light”

 “家族”とは、一体何なのだろう? 

 その疑問を抱いたのはまだ新米アークスだった頃、先輩であり情報屋を自称する双子姉妹に映画館へ連れて行かれた時の事だ。

 

 研究所時代にレクリエーションの一環でも見た事のあるような、つまらないと言ったら失礼だけどそんな内容のよくある内容の映画。

 

 映画館を出た後に2人はあれが良かったこれが良かったと仲良く話していたけれど、おれは話を振られてもうまくは返せなかった。

 ストーリーも、登場人物の相関図もちゃんと理解している。なのに感想を求められても話が合わない。

 

 ──どうして家族だからや愛というものが不利益な選択をする理由になるのだろうか。

 そう告げた日から後は、双子の情報屋にしばらく付きまとわれる結果となってしまった。

 

 それから時折、家族や愛とはどういうものか考えて、そして自分にはそう言ったモノがいないから分からなかったのだろうと理解した。

 師匠や情報屋、チームの仲間もいるけど家族ではない。マイルームにサポートパートナーもいるけれどあれも家族かと言えば違うだろう。

 

 

 絆? 愛? 家族? それは何? 

 

 愛とは守る力? おれは何を守ればいいの? 

 

 

 ──リコちゃん……! 

 

 

 家族を持てば、理解ができる? 

 何かを守り続ければ、答えが見つかる? 

 

 疑問は晴れないまま深遠なる闇は復活し、アークスの使命のままに戦い、そして最後は敗れて散った。

 おれの放った全力のフォメルギオンとマザーシップを狙った攻撃がぶつかり合って生まれた時空の裂け目に吸い込まれて、身も心も闇に染まって。

 

 おぼろげになって漂っていたおれへ誰かが話しかけた。

 それが誰かなのかは分からなかったけれど、とても優しい声だったのは覚えている。

 家族というものを知りたければ身体を貸して欲しいなんてよくわからない話だったけど、おれはもう死んだようなものだったし良いよと返した。

 

 

 ──リコ! 

 

 

 夢だろうか? そう疑問に思えるほどの平和な日常が流れる。

 勝手に体が動き喋るという奇妙な感覚ではあるけれど、その声が言った通りに家族というものが理解できた。

 一緒に居れば安心のできる、暖かな存在。

 あの映画の言う通りに、自身の命と天秤に賭けられる存在。

 いいや、天秤に賭けても向こうが傾く。それくらい大切な人達。

 ちょっとふざけが過ぎて辛辣にされる事もあるけど、それすら微笑ましく楽しかった。

 

 

 ──おいリコ! おい、貴様ぁ!

 

 

 家族を知ると同時に、幸せな時間を壊すかのように闇が迫っていた。

 そうだ。おれはあの時たっぷりと闇を被っていたんだ。

 絶対にようやく見つけた家族を、この大切な人達を、この世界を守り抜きたい。

 

 

 ──リコちゃん! 

 

 

 けれど、考えれば考える程状況は悪かった。

 身体を動かしている“オレ”の方は思考をうまく逸らされて色々気が付いてないし、この世界にある魔法に関するいざこざも邪魔をする。

 手遅れだと、守る為ならば早く切り上げて介錯を受けるべきだと伝えようとするけど上手く行かない。

 

 

 ──リコ、主はやての手を取れ! 

 

 

 結果は手遅れ。

 この身は闇に染まって、飲み込まれ、もはや造龍のような姿になってしまった。

 けれどだ。

 

 とても、とても運が良かった。

 

 “オレ”の行動はあまり良い方向に進んだとは言えないけれど、それが回り回って転機を生んでくれた。

 フォトンドロップを使うなんて笑える事だけど、彼女達の諦めない一撃一撃がおれの精神を呼び覚まし、闇を祓うまでに至らずとも身体の主導権を少しずつ奪ってこられた。

 家族達を助ける為に、暴れる身体を抑え意識を繋ぎ留めながら準備を進めて。

 そして懐かしい二撃。それが決まり手となって、完全に今は制御できている。

 

 

 ──リコちゃん、一緒に帰るんや! 

 

 

 成り果てた姿が造龍なら、それもダーカー因子だけじゃなくてフォトンすらも食らい尽くせるこの姿ならば。

 あの作戦を実行できる。

 犠牲になるのは、おれだけで充分だ。

 これでようやく全てを丸く解決できる。

 

「リコちゃん! 聞いとるんか!」

 

 はやての手が、皆の声が届く。

 とても暖かくて守るにふさわしい、おれの見つけた家族の答え。

 家族の愛は知った。だけど、そこにいるべきはおれではない。

 その差し伸べる手は、おれへ向けるものではない。

 

〔みんなの知るリコは、ここにはもういないよ〕

 

 必要な犠牲はおれ一人で充分だ。

 その準備は完了している。この世界を、家族を守るために。

 愛するこの世界に、夜明けをもたらすために……! 

 

〔その手を差し伸べる相手は、おれじゃない〕

「リコちゃん、何を言うとるんや!」

〔家族というものをようやく知れた、今までありがとう〕

「リコちゃん!」

〔後は、任せて〕

 

 はやての手を払いのけ、巨体を動かす。

 一度は見えなくなった光。けれど、今なら。

 アポストロ・ドラゴンの能力なら!

 

〔来い!〕

 

 次の瞬間には目の前に闇の書が転送されてくる。

 造龍種の持つ技のひとつである、ダーカーの呼び寄せ。それを応用して闇の欠片を呼び寄せたのだ。

 

 マグを捕食したのと同じように、掴み、そして。

 

 

「闇の書を……いや、欠片を食っている……!?」

 

 

 再封印のシステムも、そしてその根本にいる闇の欠片も。

 愛剣で邪魔する魔法を引き裂いて、食えるものは全部食らい尽くして。

 所詮はフォトンも何も使われてないただの力技の封印。こんな程度のもので、この身体を止められると思ったか。

 抜け殻になった闇の書にはもう用はない。投げ捨てる。

 

 それだけじゃまだ足りない。

 今までこの地上にばら撒いたダーカー因子も、フォトンも何もかも。

 全てを……! 全てを集め、食らい……!

 

〔……グ、ゥゥオオアアアア!〕

 

 闇の書に入っていた闇の欠片から感じられる負の感情。

 封印されてから何百年と積み重なっていたもの。

 恨み、妬み、嘆き、悲しみ。

 

〔…………ッ!〕

 

 ここまで来て、意識が遠のく……?

 闇もフォトンもこの身に全て集められた。後は、後はアルカンシェルのある宇宙まで行けばいいだけなんだ……! 

 

 後……少し……! 

 

 フォトンが意志を力にするなら……我が想いを守れ……! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 投げ捨てられた闇の書……もとい、原因となっていた闇の欠片も封印機能も無くなり夜天の魔導書に戻ったそれがはやての手元に帰ってきた時、アポストロ・ドラゴンもまた姿を変えてしまっていた。

 もはや造形は生物のそれを外れ、怨念が一つの肉塊となり醜い姿を作り上げている。

 リコの住んでいたオラクルにだってこんなグロテスクなエネミーは存在していない。

 例えるならば、その容姿は大いなる陰(アンプラム・アンブラ)に近いものだ。

 

 だが、成れ果ててしまってもなおその内に宿る精神が死ぬことは無かった。

 使命を果たさんと光輝き、全てを包み込んだ塊が空へと昇って行く。

 

「リコちゃん! 戻ってきて、リコちゃん!」

「主はやて、危険です!」

「嫌や! シグナム、放して!」

 

 不具合の原因が取り除かれ夜天の魔導書としての機能を取り戻したデバイスを使い、セットアップを果たしたはやてが追おうとするのをシグナムが止める。

 リコを救いたい気持ちは同じだ。だが、これ以上どうすればいいのかわからない。

 

 だが早く止めないといけない事は分かり──

 

「あ、ああ……」

 

 ──視線の先で星々の輝きに混じり、流星のように一つ光って消えた。

 それが一体何なのか。

 その光が、一体空の果てで何が起こったのか。

 

 誰も答える者はいないが、誰もがそれを確信していた。

 これで戦いは終わる。闇の書に関する長い歴史も、何もかも。

 最小限の犠牲のみで。

 

「主はやて……」

 

 地上へ戻った面々の前に何かが落ちてきた。

 全員がそれを見て息を飲む。

 

「…………っ」

 

 地面を転がって、はやての足元へ。

 

「なのは、あれって……」

「うん……リコちゃんの……」

 

 赤い腕輪(レッドリング)

 リコの手首でいつも光っていた物。

 

「嘘や……こんなん……こんなん嘘やろ……?」

 

 震える手で拾いあげた赤い腕輪は、もう光を発していない。

 一拍を置いて、もう一つ何かが落ちてくる。

 コンクリートの地面へ容易に突き刺さったそれは……

 

「リコの、剣か……っ!」

 

 俯いたシグナムの呟いた通り、それはラヴィス=カノンだった。

 赤い腕輪と同じように光を失い、形成されていた刃が消え持ち手だけとなり地面に転がる。

 

 所有者の消えた二つのアイテムが、その顛末を物語っていた。

 

「おい……なんだよこれ……!」

 

 ヴィータが隣のクロノへ掴みかかる。

 空の果てでリコを消し去ったそれが何なのか、説明されずとも分かった。

 

「アルカンシェルを撃ったのかよ! リコによ! 返せ、リコを返せよ……!」

「……すまない」

「なんだよそれ! くそっ、リコ……リコぉ……」

 

 

 雲一つない空で星はきらめき泣き崩れる彼女達を照らす。

 これから時が経てば日は昇り、より明るくこの街を照らしていくのだろう。

 もう闇に怯える必要はない。

 誰もない八神家のリビングで、マターボードが12個の光を灯していた。


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