おっさんin幼女が魔法少女な世界で暴走する   作:親友気取り。

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エピローグ
青空になる


 闇の書事件、あるいはDF事件から数ヶ月が経ち3月も終わり。

 平穏そのものであり、事件に関わった事のある人物なら口を揃えて12月と比べてあっという間だったと答えるだろう。

 

 日が沈めば天に星がきらめいて、夜を晴らす太陽が街を照らして。

 もう何にも怯える必要もなく、何の心配もなく。

 誰もが平和に過ごせる毎日。

 

 

 

「主はやて、一つ多いです」

「ええのええの。お祝いや」

 

 平和の戻った八神家は大きな変化があった。

 麻痺の原因が取り除かれリハビリも終わり、歩けるようになったはやて。

 そしてその上で新たな住民がひとり加わっていた。

 リインフォースと名を付けられた夜天の魔道書の管制人格である。

 

 闇の書たる所以であった闇の欠片を引き抜かれ、封印プログラムも発動し終え……と言うより再生不可なまでに破壊され、何も封印していない空白の状態となったため夜天の魔道書に戻ることができ彼女は現れる事ができたのだ。

「故障箇所が多く完全に元通りではない」との事だが、それでも過去から続くダークファルスの因縁は全て終わりを告げたのだから管理局としても本人としても充分過ぎる状態ではあった。

 古代ベルカのロストロギアを完全にコントロール下に置いているだけでオーバー過ぎる。

 

「こっちはいいから、シャマルとシグナムに声掛けてきてな」

「承知致しました」

 

 テーブルに用意した食器は7人分。

 大所帯にも見えるが、呼ばれた騎士が揃い「いただきます」と手を合わせたのは5人だけ。

 手を合わせなかったひとりは相変わらず床で伏せている獣形態のザフィーラだが、それでも用意された7人には達しない。

 

「せっかくやからザフィーラもこっちくればええんに」

「……その席は、私の場所ではないので」

 

 そう言って一つぽかんと空いている椅子を示す。

 はやての側面、ヴィータの横。

 いつだって元気でやかましく、そして大切である家族の、今はいない八神家にいた住民がいつも座っていた場所。

 

「……なあはやて」

「なんや」

「なんでリコの所に唐揚げが山積みになってるんだ?」

 

 この場にいなくても扱いは変わらない。

 愛のあるひどさ。

 今でこそヴィータもはやても取り繕えているが、事件の直後はとても酷い状態だった。

 アポストロ・ドラゴン戦での負傷や仕事としての事情聴取等で八神家がアースラへ連行された際にはヴィータは暴れまわろうとしたり、それこそアルカンシェル発射の責任者であるグレアムが現れた時はそのまま殺してしまうのではないのかという勢いすらあった。

 はやても記録や報告等のまとめを見聞きし、リコが完全に居なくなった事を自覚した後には倒れこんでしまった。

 

「帰ってこんバツや。……私はな、いつかひょっこり戻ってくるってずっと思うとるんや」

 

 数か月が経って尚信じ続けるその言葉に、その場にいた騎士達は顔を背けてしまう。

 救って見せると誓い戦った果てに、闇から解放され救われたのは自分達だけであったのだから。

 はやての視線がリビングの隅へ向かう。そこにはリコちゃんコーナーが依然と変わらず存在していた。

 フォトンドロップは無くなりナベリウスパパガイも動作しなくなったため混沌感は薄れているが、事件後に追加された剣と赤い腕輪がその空間を築いた人物を示していた。

 

 クローム・ドラゴン……もといダークファルスが地上のフォトンに纏わる全てを吸い空へ消えた直後に降ってきたふたつのアイテム。

 リコの愛剣ラヴィス=カノンと、以前に誤って落としてしまった時には珍しく取り乱した赤い腕輪。

 

「私にはな、あれが戻ってくるって印に見えるんよ」

 

 席の確保に荷物を置くみたいに、と付け足したがそれにしては物騒な品だ。

 物騒とは言っても、ラヴィス=カノンはフォトンを失っている為武器としては無価値でありただの置物だけれども。

 

「でもよーはやて。もし戻ってきたらぜってー怒るだろ?」

「まずはひっぱたくで。そして道頓堀に投げ込む」

「ひでえ」

 

 ひっぱたくまでは良いが海鳴市からどうして道頓堀まで連れていく必要があるのだろう。

 やるなら臨海公園の方が近い。

 いや、投げ込まないで欲しいが。

 美幼女の不法投棄はおやめください。

 

「主はやて、それは流石に……」

 

 味方宣言をしていたシグナムが止める。

 それにシャマルも合わせて手を挙げた。

 何だかんだ言いつつリコの事が好きなのだ。

 

「そうよはやてちゃん。やるならガンジス川よ」

「あるいはアマゾン川だ」

 

 訂正、やっぱりこいつら嫌いなのかも知れない。

 

「……天の川、ではダメでしょうか」

 

 悪ノリしてリインフォースも案を出すが、それはもはや太陽系から追放しようというのか。

 しかし流石にやりすぎと判断されたのか却下された。

 

「リインは知らんと思うけどな、リコちゃんは宇宙でも生身で活動できるんやで。宇宙に放り出した位じゃ意味ない」

 

 意味がないからとかじゃなくて、普通に止めて欲しい。

 

「それを言ったらよ、リコって海底を走り回ってたんじゃなかったか?」

「せやな。そしたら火口にでも入れとく?」

「主はやて。以前に、アークスは好んで溶岩に肩まで浸かるとも話をしていた」

「え、ザフィーラそれ私知らんのやけど」

 

 ウォパルの海底やアムドゥスキアの火山の事だ。

 確かにそれらの例があれば……。

 ……水底も溶岩も、果てには宇宙空間も無敵とかアークスは生物として大丈夫なのだろうか。

 フォトンって便利。

 

 ただし、今やそれらももう存在していないが。

 全てダークファルスと共にアルカンシェルの一撃で消えてしまった。

 

 だから道頓堀もガンジス川もやめてください。

 1000億光年譲って海ならいいよ。

 

 

 

 本人不在にも関わらず食卓は賑やかだ。

 だけど時々、ふと誰かが居ないはずの席に話を振ってしまい沈黙が流れる時がある。

 八神家に増えた家族の一人目にして、自称宇宙人。そして、守護騎士達の名前に乗って守護輝士を勝手に名乗った者。

 

 はやての目の前から消えて数ヶ月経つというのに、今だその存在感は残り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ」

「……リコちゃん、いないのか……」

「はは、ごめんなさいね」

 

 存在感が残っているのは八神家だけではない。

 アルバイト先であった翠屋でも未だにリコ目的の客足はあった。

 どこからか流れたウェイトレス姿のリコの写真を見て遠方から来たという人もいる。

 もの好きというか熱心というかアイドルの追っかけというか、何にせよ世に2人といない美人とはいえ幼女目的で遠征してくるのはどうなんだろう。

 なんにせよこの場にいなくて良かった。

 いて手を出していたら恐らく、以前に心配していた「滅ッ!」になっていただろうから……。

 

「今日もいるわねー」

「リコちゃん、いつ戻ってくるんだろう」

 

 コルトバジュース……ではなく、普通のジュースを飲みながらアリサとすずかは入ってきたリコ目当ての客をながめていた。

 あの夜の戦いの後、リコについては元の世界へ帰ったという事になっている。

 本当の事を知っているのは戦った面々と、アースラのクルーだけ。

 地球にいた知り合いには全て帰ったと説明していた。

 

「あいつがいないと、なんか退屈ね」

「はやてちゃんだってずっと空元気だし……」

「あーもう! 引っ掻き回した癖に無責任なのよ、あいつは!」

 

 やることはしていたので許して欲しい。

 あの活躍がなければ、この地球は滅んでいたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全てはダークファルスのせい、か。私の口添えもあれば文句も出ないだろう』

「ありがとうございます。グレアム提督は、これからどうするおつもりですか?」

『引退を考えているよ。ファンタシースターにこだわる老人はもう、若者の作る未来に必要ない』

「……たまには会いに行きますよ」

『はは、手厳しい……』

「彼女も言っていた通り、大事なのはこれからですよ。グレアム提督はこれからの未来を創る気はないでしょうが、見届ける責任はあります」

『そっくりそのままもう一度言われると、頬が痛むよ』

「思いっきり殴られましたからね……」

 

 腫れた頬をグレアムがさする。

 家族と宇宙を守る為に頼まれたとはいえ知った仲の人物を二度も殺した上、取り乱した残された者を見て一時は銃口を咥える程精神的に追い込まれてしまったが、歯を食いしばれと殴られてからはすっかりおとなしくなった。

 部下の二人、仮面の男……ではなくそれに変装していた使い魔の猫であるリーゼ姉妹もついてることだし悲しませることはしないだろう。

 多少、過去に引きずられる事にはなるだろうけど。

 

 

 闇の書にまつわる事件、シグナムら守護騎士達の起こした襲撃事件に関しては全てダークファルスのせいにされた。

 ロストロギアに封印されていたものが、騎士を操っていたと。そういう事になった。

 

 報告の中にリコ・クローチェの名もある。

 ダークファルス討伐の為に異世界ファンタシースターから現れ、戦い、そして相討ちとなって散った英雄として。

 狙ってそうなったというわけではなく、本局への報告の際に色々と不具合がでないようにしたらこうなってしまったとはクロノの談。

 勲章も何も用意できないのなら、せめて記録に残るようにとも言っていた。

 つまり確信犯だ。ただ、それで丸く収まるのなら仕方もない。

 

 通信も終わり一息ついて、クロノの視線がテーブル上に置かれた冊子に向けられる。

 フェイトも入学した私立聖祥大附属小学校の資料だ。

 

「クロノくん、お茶入ったよ」

「ありがとうエイミィ。こっちも報告が終わった所だ」

「これでひと段落ね。──また学校のパンフ見てる。もしかしてクロノくんも地球に残りたいの?」

「確かにフェイトは心配だけど、でも彼女なら大丈夫だろ」

「そっちじゃなくて」

 

 エイミィが視線を向けた先には、『一枚無料』と称して置いていったリコの写真が飾られていた。

 普段の言葉遣いや行動からは想像もつかない完璧なスマイルで、軽く決めたポーズもよく似合っている。

 

「……いつの間に置いていったんだ?」

「クロノくんが寂しがると思って写真貰っておいたの。いいでしょー」

「額に納めているだけなら、本当に顔だけは良いんだけど」

 

 ここまで誰も中身が良いとは言ってくれた試しがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ついに私も、学校に通えるんやなぁ」

「はやてちゃんってずっとお家だったもんね」

 

 4月。

 足も完治し歩けるようになったはやては学校へ来ていた。

 憧れていた、学校での生活。その夢がついに叶ったのだ。

 まだ体力などに心配は残るけれど日常生活に支障はない。

 

「本当はもう一人、学校に通わせたいやつもおるんやけどな」

 

 その呟きに、隣で聞いていたすずかが頷いて返す。

 アリサだけが首を傾げた。

 

「って、リコの事? あいつ学校通える年齢だったの?」

「肉体年齢5歳らしいで」

「よく働いてたわね……」

「というかなんであの容姿で働いてるのに誰も突っ込まへんの?」

 

 親族のなのははともかく、手伝いではなく正式なアルバイトはやっぱおかしい。

 というか履歴書も住所もなかったし。

 もう戻ることは無いので今更である。

 

「あ、はやてちゃーん!」

 

 クラス分けの張り出されているところまで3人で歩くと、先に来ていたなのはとフェイトが手を振った。

 

「みんな一緒だったん?」

「ううん、今探してる所だったの」

「一緒だといいね」

「せっかくやし、揃って同じクラスがいいなぁ」

 

 アリサとフェイトは日本名が並ぶ中目立っていたのですぐに見つかる。ふたりとも同じクラスだった。

 残りのメンバーも五十音順に並ぶ上から一つずつ確認していき、高町と月村が並んでいた。ここまで全員同じクラスだ。

 

「わ、私の名前は……」

 

 残りははやてのみ。

 ここまで来て一人は辛いので、少し焦りつつはやてが慎重に一名ずつ指を差しながら確認していく。

 な行、は行、ま行と進んでついに八神のいるであろうや行へ。

 

「あった! 八神──」

 

 

 

 

 

 八神 リコ

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 八神はやてではなく、そこに書かれていたのはリコの名前であった。

 見間違いじゃないと何度も読み返すも変わらない。

 

 気が付けば、馴れない足で走り出していた。

 

 学校に来るのが楽しみでパンフレットは直前まで読み込んでいた。

 どこにどの教室があるかは把握していたので、案内図を見るまでもなく廊下を駆け抜ける。

 途中で先生に走るなと言われても止まらなかった。

 

「リコちゃん! おるん!?」

 

 辿り着いた教室。

 扉を開けると同時に大きなお声を出したせいで視線を集めてしまったが……。

 

「い、いない……?」

 

 後ろからなのは達4人も追いついたが、教室を見て首を傾げていた。

 まさか、はやてと名前を間違えて書いていた? 

 なぜリコの名前が出たのか等の疑問も浮かばず、顔を伏せたその瞬間。

 

 ここぞとばかりに()()事前に開けておいた窓へ! 

 

 

 

「みんな揃ってるな」

 

 

 ロープを使い上階から窓越しに現れた俺を見て、アリサもすずかも、そしてなのはとフェイトも。

 そして、泣きそうな顔をしているはやても。

 ついでに教室にいた他のクラスメイト達も。

 

 全員が驚きの表情を浮かべている。

 

「絶好のタイミングだったな。とぉっ!」

 

 サッシを蹴り跳躍。空中で足を抱えて一回転し教室に文字通り飛び入る。

 あのロープは後で回収するとして、はやて! 

 

「悪い、待たせちまったな」

「うぅ……! 待たせ過ぎや、ばか!」

 

 感動の再会のあまりに抱き着いてきた。

 っとと、若干はやての方が背ぇ高いな。今まで頭一個下にあったのに。

 もう心配することはない。

 てっぺんから毛の先まで一切曇りのない金髪に戻れた俺は、もうどこにも離れないと誓おう。

 それとはやて! 

 

「ちなみに名簿の所、あ行の最後に“大阪”って書いてあったのあれはやての事だぞ。やったな、皆同じクラスだ」

「なんで私が大阪になっとるんや! 変な登場もするし滅茶苦茶や、滅茶苦茶なばかリコや!」

 

 はっはー! 

 どうよはやて、決まってんだろ? 

 

「キマっとるのは、あんたの頭や!」




終わるまでは終わらないよ!

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